【4235】ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年6月5日に実施したIRインタビューをもとにしております。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社は日本国内で高品質の湿式ポリウレタンレザーを製造し、欧米顧客を中心に海外で販売をしています。

代表取締役社長の吉村 昇氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社を一言で言うと

人々に快適さを提供するために、世界中に高品質な合成皮革製品を届ける会社です。 

ウルトラファブリックス・ホールディングスの沿革

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社代表取締役社長 吉村 昇氏

創業の経緯

当社の前身となる第一化成は1966年に合成皮革の製造販売を目的として設立されました。

当初は塩化ビニールレザーと乾式ポリウレタンレザーを製造していましたが、高価格帯向けに湿式ポリウレタンレザーを開発、革ジャンやゴルフグローブなど人が身に付ける製品に使われていました。

当社製品は製造に手間がかかるため高価格帯ですが、その品質を評価していただき、ゴルフ用品メーカーのフットジョイ様とは30年以上の長い付き合いがあります。

北米への進出

Ultrafabrics Inc.(以下ウルトラファブリックス)は、1999年に当社取締役のクレイ・ローゼンバーグとダニエル・ベッカー-プリマックによって設立されました。

現在はウルトラファブリックスが第一化成の製品を北米や欧州で販売をしていますが、1999年まではSprings Industries, Inc.(以下スプリングス)という商社が販売していました。

スプリングスでクレイとダニエルは合成皮革部門を担当していましたが、会社の方針で合成皮革事業から撤退するということで、第一化成の支援を受けながらウルトラファブリックスとして独立しました。

そして第一化成から北米での専売権を与えられ、高単価のポリウレタンレザーを販売する会社として成長していきました。

北米ではコンシューマー向けの販売ではなく、付加価値が求められる産業用資材に特化し、家具・自動車・航空機などの分野で事業を展開してきました。

2015年にはウルトラファブリックスを通じた販売は第一化成の全売上の8割以上を占め、北米市場での成功に続き、欧州市場にも進出しました。

事業統合

私は元々銀行に勤めており、ファイナンスの知識を活かして第一化成とウルトラファブリックスの経営を統合するために2016年に当社に参画しました。

そして2017年2月に第一化成がウルトラファブリックスを完全子会社化し、10月にはウルトラファブリックス・ホールディングスを純粋持株会社としてホールディングス化を行いました。

このホールディングス化により製造会社と販売会社を同列の子会社として位置付け、円滑にビジネスが行える体制を整備しました。

経営統合後、第一化成の生産ラインが老朽化していたため、2017年から2018年にかけて設備投資を行い、生産キャパシティを増強しました。

コロナ禍の経済停滞の影響で2020年12月期には業績は停滞しましたが、経済が正常化するとともに2023年12月期にかけては売上を倍増させ、純利益も20億円を超えるまでに成長させることができました。

ウルトラファブリックス・ホールディングスの事業概要と特徴

概要

当社は湿式ポリウレタンレザーの専業メーカーです。

素材となるポリウレタンは日本のパートナー企業と共同開発しています。

湿式ポリウレタンレザーは、基布という生地の上に湿式ポリウレタンの多孔質層/湿式層、その上に色や柄を表現するフィルム層、さらにその上に防汚機能などの様々な機能を持つ表皮層を重ねた四層構造が基本です。

柔らかな風合いを実現することで、主に家具・航空機のシート・高級車のシートなどハイエンドな製品に使われています。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

事業における優位性

合成皮革市場とプレミアム市場

合成皮革や塩化ビニールなど、いわゆるSynthetic Leatherのマーケットは年間7〜8%成長しています。

バブル期には日本でも合成皮革が広く使われていましたが、安価ではあるものの粗悪な合成皮革が輸入されてきた経緯もあり、良くないイメージを抱かれている方は少なくないと思います。

しかし世界的にはサステナビリティの観点から本革からSynthetic製品に徐々に移行しており、ポリウレタンレザーや塩化ビニルなど、コーティングされた生地を使用する企業が増えています。

2022年の時点で合成皮革市場は全世界で13兆円規模でしたが、2031年には26兆円に達すると予測されています。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

また、合成皮革として一般的に広く使われている乾式ポリウレタンレザーは当社の製品のような多孔質層/湿式層がなく、生地の上に直接フィルム層を貼り、その上に表皮層を載せた三層構造です。

乾式ポリウレタンレザーは薄くても、硬く強度に優れ、コストも安いため、合成皮革市場では湿式ポリウレタンレザーに比べて圧倒的に多く使われています。

そのような中、当社はプレミア市場を主戦場としています。

湿式ポリウレタンレザーは大規模な設備が必要、製造工程も長いため、価格は高くなるものの、デザイン性・サステナビリティ・高品質を追求することで製品力に磨きをかけています。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

Sustainability & High Performance Products

当社の湿式ポリウレタンレザーは北米に拠点を置くウルトラファブリックスが販売しています。

戦略としてターゲットを1つの産業に絞り、各マーケットを深耕しながら事業を展開してきました。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

まず初めに家具分野でのシェアを獲得しました。

家具用途で採用されるためには、製品の種類や耐久性が必要です。

当社の家具用の製品は非常に多くのデザインとカラーバリエーションを誇ります。

1つのコレクションに対して20種類以上の色を揃えており、お客様からのご要望に沿ってカスタマイズ可能な点が評価されています。

主に高級家具に使用されるため、安定した品質や色・デザインの多様性が重要で、当社の直接的なお客様となる欧米のデザイナーからの高い品質要求に応えることができていることも特徴です。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

次に、自動車用途では耐久性に加えて防汚性も求められます。

ただし家具用とは使用される環境が異なるので、求められる耐久性は異なります。

自動車メーカーのシートに採用されるためには2万回以上の乗降試験に耐えうる強度が必要です。

また、長時間搭乗する際にシートにデニムの色移りがしてしまわないような防汚性も必要です。

航空機用途では難燃性と軽量化が必要です。

難燃性に関しては、単なる燃えにくさだけではなく、燃焼時の温度上昇や煙の発生を抑える必要もあります。

そして航空機の総重量をできるだけ軽くして燃料コストを抑えるために、軽量化もポイントになります。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

このように湿式ポリウレタンレザーという単一製品ながらも、様々な業界で高度なニーズに応え続けてきたことで、他の合成皮革メーカーとは異なる特殊な製品力とポジショニングを築き上げています。

製造と販売の分業化

当社は2017年にホールディングス化し、製造を第一化成が、販売をウルトラファブリックスが行う体制を整備しました。

しばしば「良い製品を作れば売れる」と主張する会社もありますが、当社は異なります。

私たちは、お客様のニーズを正確に理解し、「実際に製品として使ってもらえるかどうか」という観点に基づいて製品を改良・開発していくことが重要だと考えています。

特に海外市場では現地のテイストや販売網に合わせた調整が必要なため、現地での販売ノウハウを持つ必要があります。

当社はウルトラファブリックスを子会社に持っているため、特に欧米顧客の適切なニーズを汲み取って製造・販売することが可能です。

また、製造においてはパートナー企業との密なコミュニケーションが必要だと考えています。

当社は湿式ポリウレタンレザーを手がけていますが、その素材を作る樹脂メーカーは日本企業です。

素材の製造を委託するだけでは、実際の製品に使用する際にうまく機能せず、求められるクオリティに達していないという場合も少なくありません。

他社はコストを抑えるため、海外から素材を安価に仕入れています。

しかし当社は高品質な製品や、バイオやリサイクル性を重視したサステナブルな製品を作っています。

日本国内であれば共同開発を行うことができ、コミュニケーションも容易です。

また製品に実際に使えるかどうかをすぐに確かめることができます。

そのため少し高いコストを支払っても、日本国内の素材メーカーと共同開発することが大切です。

このようにして他社には再現できないような高品質な製品を安定供給できる体制を築き上げています。

この製造と販売を分業させ、同列の子会社として扱うことで独立した体制を築き、高い専門性を保ったまま事業を展開していることが当社の競争力の源泉となっています。

ウルトラファブリックス・ホールディングスの成長戦略

売上収益源の多様化・分散

現在の売上のほとんどは北米ですが、今後は欧州向けにも注力することで販売網を拡大させていきたいと考えています。

また売上の半数弱は自動車向け製品です。

今後は事業ポートフォリオを分散させ、家具用では住宅向けにも注力することで、特定の顧客に依存している状況から脱却を目指します。

今後も各業界でのシェアを伸ばし、当社の技術力と販売力を高めながら新たな産業にも展開していく方針です。

サステナブルなブランドとして確立

今後、バイオ製品やリサイクル製品の開発・製造に注力し、サステナブルなブランドとしてのポジションを確立していきます。

私たちのお客様である北米・欧州のハイブランドのデザイナーは「サステナビリティ・ストーリー」を重視しています。

サステナブル・ストーリーとは、単に製品がサステナブルなだけでなく、「製造体制がサステナブルかどうか」「持続可能な会社かどうか」などの本質的な問いです。

これは日本では普及していませんが、欧米のエンドユーザー(消費者)が製品を購入する際の判断基準として重視されています。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

そこで、当社はサステナブルな製品の開発とともに、サステナブルなサプライチェーンを構築するため、製造設備に対するサステナブル投資を行っています。

まず、サステナブルな製品の開発では「Volar Bio」という製品を開発しました。

この製品には植物由来原料を29%含むポリウレタン樹脂を使用し、国内でも類を見ないバイオプリファードプログラムの認定を取得しました。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

また、サステナブルな工場にするための設備投資を行っています。

当社は埼玉県行田市と群馬県邑楽町に製造工場を持っていますが、主に行田工場における設備の老朽化対策として群馬県千代田町に新工場を建設中です。

千代田工場では建物の電力を太陽光パネルでまかない、水使用量の60%を再利用するシステムを導入しました。

さらに岩谷産業様の技術を用いて、燃料の25%を水素に切り替えました。

国内では2社目の導入ということですが、将来的には全ての燃料を水素でまかなう予定です。

そして地下水などの未利用の熱源を活用して、工場内の空調として利用することで無駄な電力消費を抑えることができるようにしています。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社 2023年度 通期決算説明会資料 より引用

今後サステナブルへの投資はコストではなくプレミアムとして扱われていくため、最前線にいる私たちにとっては必要な投資だと考えています。

注目していただきたいポイント

中長期的な成長イメージとしてはSynthetic Leatherのマーケットは今後も成長が見込まれます。

またサステナビリティの観点でも、デザイナーや消費者は価格だけでなく、高級感やプレミアム感を重視しています。

当社はデザインや触り心地、機能性に加えて、サステナビリティを付加することでプレミアム性を維持していく方針です。

今後もサステナブルな製品とプロセスを通じて、グローバル市場での競争力を強化し、プレミアム市場でのポジションを確立していきます。

ぜひ当社のサステナブルな取り組みと事業の成長にご注目いただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

当社の目標は、日本で培われた技術を用いて高品質な製品を世界中に届け、成長を遂げることです。

主に世界に向けて販売していますが、マクロ経済的にも日本のエネルギー・食料品の輸入依存を補うための外貨獲得に貢献できるビジネスだと信じています。

そして当社の使命は、製品そのものの品質だけでなく、使用する素材や製造プロセスにおけるサステナビリティを追求することだと考えています。

投資家の皆様には、当社が提供する価値と社会的貢献性を理解いただき、安心して投資できる企業として評価していただきたいと願っています。

そして持続可能な成長を目指し、投資家の皆様にとって信頼できる企業となることをお約束します。

皆様の温かいご支援をお待ちしております。

ウルトラファブリックス・ホールディングス株式会社

本社所在地:〒192-0046 東京都八王子市明神町 3-20-6 八王子ファーストスクエア6F

設立:1966年1月12日

資本金:23億6345万円(2023年12月末時点)

上場市場:東証スタンダード市場(2003年2月27日上場)

証券コード:4235

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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