※本コラムは2024年5月10日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社雨風太陽は全国の生産者を媒介に、都市と地方をつなぐことで地域を持続可能にし、将来にわたって活力ある日本社会を残したいと願う会社です。
代表取締役の高橋 博之氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社雨風太陽を一言で言うと
都市と地方をかきまぜる会社です。
雨風太陽の沿革
創業経緯
東日本大震災が創業のきっかけです。
3.11がなければ、この会社は存在していなかったと思います。
当時、私は岩手県議会議員として震災復興に取り組み、知事選にも立候補しましたが、当選しませんでした。
自然災害は社会の弱点を突き、さまざまな問題が一気に浮き彫りになります。
しかし目の前の社会課題は待ってくれません。
私は「次の選挙まで4年も待てない」と思い、ビジネスを通じて社会課題を解決しようと考えました。
そして2013年5月にNPO法人東北開墾を立ち上げました。
東北食べる通信を創刊
震災時、岩手県の中でも特に高齢化が進んだ地域が被災しました。
そのため単に復興をするだけでは、元の過疎地域に戻るだけです。
そこで「創造的復興」を行いたいと考え、都市と地方の分断に焦点を当てました。
コスト削減と大量生産が優先される中、一次産業が買い叩かれている現状を見て疑問を感じていました。
生産者から消費者までのバリューチェーンが間延びしていること、消費者から生産者が見えないことが課題だと考えました。
そのような中、被災地でのボランティア活動を通じて生産者の姿を直接見た人々が、彼らの価値を再認識し、生産物の価値が上がっていく瞬間を目の当たりにしました。
例えば漁師の下でボランティア活動をしていた人々が、漁師の話を聞き、実際に仕事を手伝い、最終的には魚をその漁師の言い値で直接購入したいという話にまで発展していました。
そのように生産者のライフストーリーが生産物に新たな価値を与えるということに可能性を見出し、「東北食べる通信」を創刊しました。
これは月に1回、東北各地の生産者を1人ずつクローズアップした情報誌と、彼らの生産・採取した食べ物をセットでお届けするサービスです。
徐々に雑誌の購読者も増えていきました。
ポケットマルシェのリリース
東北食べる通信では月に1人の生産者しか紹介できず、私たちがミッションに掲げている「都市と地方をかきまぜる」を達成するためにはスピードを加速させる必要があると考えていました。
そこで目をつけたのがPC・スマートフォンの普及です。
北海道から沖縄までのすべての生産者がインターネットを通じて、自ら価格設定し、その理由やフィロソフィーを発信できれば、東北食べる通信のコンセプトを保ったままスケールしていけるのではないかと考えました。
これが「ポケットマルシェ(以下ポケマル)」サービスのアイデアです。
そしてNPOの運営だけでは資金が不足するため、2015年に株式会社を設立しました。
サービスの拡大とインパクトIPO
2020年のコロナ禍では、ポケマルは登録生産者数と登録ユーザー数を大幅に増やしました。
飲食店への出荷が困難になった生産者が、消費者に対して直接販売可能なサービスとして認知を拡大したことや、ステイホーム期間中で家で食事をする機会が増えた消費者が品質の高い食材や、生産者の顔が見える食材を求めており、両者のニーズが合致したということなどが理由です。
また、ポケマルをグロースさせていくとともに、全国の生産者ネットワークを活用して、企業・自治体向けサービスや個人向け旅行関連サービスを始めました。
そして、経済性と社会性の両方を追求するインパクトIPOとして2023年12月に東証グロース市場に上場を果たしました。
開かれた市場で経済性と社会性を達成しなければならないというプレッシャーを感じながら事業を拡大していくことが、社会へのインパクトを最速で最大化する道だと考えています。
これまでこの考えは綺麗事だと言われてきましたが、当社はこの両方を実現するために日々活動しています。
雨風太陽の事業概要と特徴
概要
当社の事業は3本柱で成り立っています。
まず個人向け食品関連サービスです。
主力は生産者が自らの生産物を直接消費者に販売するプラットフォームポケットマルシェです。
これに加えて、食べる通信や、食材の定期便を行うサブスクリプションサービスの企画・開発・運営も行っています。
サービス全体を通して生産者と消費者が強い結びつきで繋がることができるような仕組みづくりを心掛けています。
次に個人向け旅行関連サービスです。
主に「ポケマルおやこ地方留学」というプログラムを展開しています。
当社の8,200名以上の生産者ネットワークを活かし、日本全国の生産者のもとでの体験サービスを提供しています。
都市に住む家族が1週間地方に滞在し、両親はワーケーション、子供は自然体験をするというプログラムです。
都市で得難い教育的価値を提供していることもあり、ユーザーからは非常に喜ばれているサービスとなっています。
このサービスは2022年から開始し、2024年の夏休みには全国12カ所で実施予定です。
さらにインバウンド需要にも対応し、日本を愛する訪日外国人向けのサービスも提供しています。
最後に企業・自治体向けサービスです。
現在、地方は過疎高齢化を中心として、多くの課題を抱えています。
当社は各地方に根ざした生産者ネットワークを活用して、関係人口の創出を中心として課題解決に挑み、地方の持続可能性に貢献していきます。
事業における優位性
8,200 名超の生産者ネットワーク
生産者は毎日自然を相手に仕事をしているため、これまで農協や漁協に生産物を一括して出荷するだけで、後は彼らが販売してくれるという方法に慣れてしまっています。
そのため当初、生産者はスマホアプリで野菜や魚の写真を撮って売るという新しい仕組みには懐疑的で、「そんなうまい話があるのか」と警戒していました。
そこで私は、この10年間で全国47都道府県を8周し、生産者と直接会って話をしてポケマルを知っていただくための活動を行いました。
なぜ直販が必要なのか、ポケマルで何ができるのか等を地道に説明し、時には生産者とお酒を酌み交わすこともありました。
この8,200名以上の生産者ネットワークは単なる定量的な数字ではなく、地道に足で稼いで関係性を築き上げたものだということが大きな強みです。
そのためポケマルおやこ地方留学のサービス開始時にも、各地の生産者は非常に協力的ですし、私が現地に訪問した際には車で迎えにきていただいたこともあります。
この強固なネットワークは一朝一夕で築き上げてきたものではなく、長年の関係性作りで作り上げてきたというのは、高い参入障壁でもあります。
ポケットマルシェの競争力
ポケマルはオンラインで直接生産者と消費者を繋ぎ、スマホで完結する産直プラットフォームです。
まずポケマルをリリースする際に、ヤマト運輸と提携しシステムを連携させました。
ポケマル上で注文が入ると、配送情報がヤマト運輸のシステムに送信され、生産者の最寄りのヤマト運輸から、印字された状態の伝票が生産者のもとに届く、というものです。
そして生産者は梱包済みのダンボールに伝票を貼ってドライバーに渡すだけで、翌日または翌々日にはお客様のもとへ商品が届けられます。
このシステムを構築したことで、生産者はスマホ一台で作業を完結することができます。
また、スーパーに卸すような大規模流通の場合、規格と安定供給が求められますが、ポケマルでは規格外の生産物でも訳あり商品として販売ができるほか、少ロットからの販売も可能です。
そして継続的に購入するユーザーの購入サイクルが早く、商品購入経験ユーザーの約8%が毎月購入しています。
このような日常的に使っていただけることも強みとなっています。
さらに旬の食材を求める消費者は、年間を通じて様々な食材名から自然にポケマルに辿り着きます。
このように季節に応じてポケマルに出品される生産物も変化するため、オーガニックな検索で新規ユーザーが自然に増えている点も強みです。
これは、生産者の目線に立ちながら旬の価値を重要視するポケマルならではの強みだと思います。
私たちは、生産者と消費者が直接繋がることを大切にしています。
FAQでも「問題が起きた場合は双方で解決する」と明記していますが、双方向の関係性を当事者間で築き上げることが前提です。
サービスリリース当初はこの少し尖ったルールに懐疑的な意見もありましたが、実際には生産者と消費者の長期的な関係性の構築に役立っています。
雨風太陽の成長戦略
私たちの目指すものとインパクト指標
当社は、3つの独自のインパクト指標を掲げています。
まず生産者と消費者との「顔の見える取引」にかかる流通総額です。
主にポケマルや食品関連サービスのユーザーが増えることで伸びていきます。
次に生産者と消費者のコミュニケーション数です。
こちらはポケマル上でメッセージを相互に送ることができるため、ユーザーが活発に取引を行うことで伸びていきます。
最後にポケマルおやこ地方留学等を通して、都市住民が生産現場で過ごした延べ日数です。
この3つを追求することで、2050年までに日本の人口が1億人を切ると予測される中、2,000万人の関係人口が都市と地方を行き来する社会を目指しています。
このような社会になれば、地方も持続可能になるはずです。
私たちは美味しい食材を提供する生産者を守り、子供たちが自然体験をする機会を増やし、都市の豊かさと地方の豊かさが共存する社会を作り上げたいと考えています。
ポケマルおやこ留学とインバウンドへの施策
サマーキャンプ等で1週間の親子プログラムは世の中にほとんど無いため、ポケマルおやこ地方留学のニーズは非常に高く人気があるサービスです。
2022年度からは高校生の学習指導要領が改訂され、総合的な探究の時間という科目が追加されました。
ポケマルおやこ地方留学並びに当社のサービスはその科目の受け入れ先として注目を集めています。
現在日本には1,700以上の自治体がありますが、ポケマルの生産者がいる地域は85%を超えています。
このポケマルが持つ8,200名の生産者ネットワークを活用して旅行サービスの開催箇所を増やし、全国に拡大していく方針です。
人材の強化と官民一体の事業提案
現政権が掲げる「新しい資本主義1」は、社会課題を成長のエンジンにするという考え方です。
地方は課題が山積みで、行政だけでは解決できないほどの問題も多くあります。
そこに私たちのような民間のスタートアップが入り込み、社会課題の解決をビジネスにすることで、日本全体の経済活動を活発にさせることができると思っています。
そこで2024年は自治体に営業する人材を増やしながら営業力を強化し、地方の実情に沿ったソリューションを提供していきます。
そのためにも霞が関を辞めて転身した元官僚や、公務員向けの仕事をしていた方々を多く採用しています。
地方創生はこれからも続く重要なテーマです。
今後も社会課題の解決に貢献できる人材を集め、成長していくことが大切だと考えています。
注目していただきたいポイント
全国に8,200名を超える強固な生産者ネットワークを持っていることが、当社の強固なアセットです。
先ほどもお話ししましたが、私が自らの足で稼いで築き上げてきた強い結びつきは、個人向け食品関連サービス、個人向け旅行関連サービス、企業・自治体向けサービスをマネタイズ化する上で非常に役立っています。
多くの方々が地方が持続可能でいてほしいと願っているはずですが、人材不足にも悩まされている行政だけでは解決できず、年々過疎化が続いているというのが現状です。
当社は生産者と消費者の繋がりを活用して、子供や孫の時代まで地域が元気でいられる社会を築いていきたいと考えています。
今後の事業の展開にご注目いただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
今、世界ではESG投資やインパクト投資が主流となっていますが、日本ではまだまだ発展途上です。
理想はあれど中々実現していない経済性と社会性を両立させる社会を実現するためには、誰かが先導して道を切り拓く必要があります。
当社はこれからそのパイオニアとして日本の未来をビジネスの力で変えていきます。
もし共感していただける投資家の皆様には是非とも仲間になっていただき、ご支援いただけると嬉しいです。
一緒に社会課題に取り組んでいきましょう。
本社所在地:〒025-0092 岩手県花巻市大通一丁目1番43-2花巻駅構内
設立:2015年2月10日
資本金:6億2585万円(2024年5月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2023年12月18日上場)
証券コード:5616
- 「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした考え方。
出典:内閣官房 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版 ↩︎