【4463】日華化学株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。

日華化学株式会社は「Activate Your Life」をパーパスに掲げ、界面カガクのチカラで様々な社会課題を解決し、より豊かな暮らしや輝く未来に貢献していきます。

代表取締役 社長執行役員 CEOの江守 康昌氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

日華化学株式会社を一言で言うと

界面カガクのチカラで社会課題を解決し、人々の暮らしを活性化していく会社です。 

日華化学の沿革

日華化学株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 江守 康昌氏

創業の経緯

当社は1938年創業、1941年創立の福井県に本社を置く化学メーカーです。

福井県は繊維産業が非常に盛んな地域であり、当社はその繊維産業に必要な工程、たとえば洗浄、染色、柔軟、撥水加工などで使用される薬剤を一括して提供する事業を開始しました。

その後、繊維産業が次第に海外へ移行する流れに合わせて、当社も海外展開を進め、事業を拡大してきました。

国内の繊維産業は減少傾向にありますが、素材の高度化や用途拡大で付加価値は増大しています。

海外では依然として繊維需要が増加しており、当社もこれらの成長を取り込んでいます。

化粧品事業へ進出と更なる成長に向けて

1981年にデミ化粧品事業部(現:デミ コスメティクス)を設立し、ヘアケア化粧品分野に進出しました。

これは、当社の事業拡大における大きな転機だったと考えています。

衣類などに使われるウールはタンパク質でできた繊維であり、実は髪の毛も同じくタンパク質繊維です。

当社は創業時から、ウールなどの繊維を傷めずに洗浄・染色する技術を磨き続けており、このノウハウを応用して髪の毛に優しいヘアケア製品を開発しました。

当社の化粧品事業では、当社の技術力を理解いただけるプロである美容師の方々に使っていただき、また美容師さんを通じてサロンに来店されるお客様にヘアケア製品を販売しています。

現在、シャンプー、トリートメント、スタイリング剤、ヘアカラーなどのヘアケア製品を美容室向けに提供しており、業界内で確固たるポジションを築いています。

市場シェアはまだ5%前後であるため、成長の余地は大きいと考えています。

国内の化粧品市場は徐々に縮小傾向にある一方で、高級ヘアケア市場は着実に拡大している状況です。

当社は強みである研究開発力を活かし、お客様の髪質に寄り添ったケアを提供することで、さらなる成長を目指しています。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

日華化学の事業概要と特徴

概要

当社は80年以上の歴史の中で培ってきた「界面(カイメン)カガク」の技術を基盤としたビジネスを展開しています。

この界面カガクの技術は、市販の洗剤やボディソープなどに活用されているものと基本的には同様のものです。

汚れを落としたり、繊維を柔らかく仕上げたりする技術を応用し、当社では化学品事業と化粧品事業という2つのセグメントで事業を展開しています。

化学品事業で展開している製品は、繊維、金属、紙パルプ、業務用クリーニング、樹脂、メディカル、電子材料などのニッチな分野に特化したものです。

特に電子材料分野においては、子会社において半導体のインゴット(基板材料)を切断する際に使用される潤滑剤を製造・販売しており、この分野ではシェアNo.1を誇る製品を提供しています。

通常、製品開発といえばラボ(研究室)で研究開発を行い、その成果をそのままお客様に届けるイメージが一般的かもしれません。

しかし実際のところ、現場で使われる設備や原材料、環境条件などが違うと、ラボで確認した効果が十分に現場で発揮されません。

同じ製品を使っていても、お客様ごとの現場にはそれぞれ固有の課題が存在しているため、それらをキャッチアップする必要があるのです。

そこで私たちは、ラボだけで開発を完結させず、研究員が実際にお客様の現場へ足を運び、使用状況を直接確かめています。

このように、当社は技術力を活かしてお客様のご要望に寄り添った製品づくりを行い、皆さまの暮らしに欠かせない化学品をお届けしています。

化粧品事業では、ヘアケア剤やスタイリング剤、ヘアカラー剤、パーマ剤といった、美容室向けの専門的な製品を展開しています。

先ほどもお話ししたように、これらはプロフェッショナルな方々のニーズに特化した製品です。

業界内で高い評価と信頼をいただいております。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

事業における優位性

界面カガクの洗練された技術力

当社の界面カガク技術は、さまざまな場面で活用されています。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

たとえば、新聞紙のリサイクル工程です。

新聞紙は100%リサイクルで成り立っていますが、その過程で「脱墨加工」と呼ばれる、紙に含まれるインクを取り除く工程があります。

当社はこの工程で使用される製品において、シェアは業界No.1です。

新聞紙をリサイクル回収する際には、広告紙などが混入することが多くありますが、当社の触媒における特許技術を用いて、普通では取り除けないUVインクなどを完全に分散させることが可能です。

結果として、業界からの高い評価につながっています。

あまり認知されていないとは思いますが、当社の界面カガク技術は、皆様が日常的に着用されている衣服にも広く使われています。

たとえば、繊維加工の仕上げ工程で使用される抗菌防臭剤です。

当社は時代に先駆けて、この分野で「ニッカノン」という繊維加工用抗菌防臭剤を開発し、長年にわたって販売してきました。

この製品は、汗による菌の繁殖を抑え、ニオイを防ぐ効果があり、肌着などの抗ウイルス・抗菌消臭加工に利用されています。

その技術力の高さから、多くのアパレル業界との取引を実現しています。

このように、当社の界面カガク技術は非常にニッチな分野でありながら、新聞リサイクルや衣服の繊維加工など、さまざまな分野で活躍し、皆様の生活を支えている重要な技術です。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

参入障壁の高さと市場の拡張性

当社が創業以来取り組んできた産業用界面活性剤の分野は、参入障壁が非常に高い業界であると認識しています。

さらに、この分野は「斜陽産業」と見なされがちであるため、新規参入を試みる企業が少ないのが実情です。

しかし、当社ではこの分野を決して「斜陽産業」とは捉えていません。

繊維の用途はますます広がっており、たとえば自動車関連、不織布、合成皮革、スエード調の素材など、産業資材としてさまざまな分野で活用されています。

これらの素材を生産する際には、当社のウレタン技術や表面加工技術が不可欠です。

一見すると、アパレル産業が海外に流出しているように思われますが、高付加価値の産業資材や製品は依然として国内に残っており、その需要は年々高まっています。

当社はこうした市場での拡張性を見据え、さらなる成長を目指しています。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

NICCAイノベーションセンター

2017年に開設した「NICCAイノベーションセンター(以下NIC)」は、当社にとってオープンイノベーションの研究開発拠点です。

NICは新規のお客様との取引開始や研究開発に役立つだけでなく、当社技術の新たな可能性を引き出す重要な役割を果たしています。

当社の技術は、時に想定外の形で活用されることもあります。

当社だけでは気づけないアイデアや可能性をお客様が見出し、新たな価値を生む事例も少なくありません。

たとえば、アートネイチャー様のウィッグ製造では、ポリウレタン製の土台に人工の毛髪を1本1本結びつける工程がありますが、根元部分となるその結び目が目立ちやすいという課題がありました。

そこで当社の技術が活用されました。

当社には、染色やプリントが施されたポリエステル布地から水を使わずに染料を簡単に除去し、再度染色やプリントを可能にする「ネオクロマト加工」という技術があります。

この技術を応用し、1〜3mmの範囲で色を抜くことで、結び目が目立たなくなる「ネイティブフロント加工」が開発されました。

これにより、生え際が自然に見えるようになり、この技術を用いた製品「レクア ファントム」が2023年から販売開始されています。

もちろん、持ち込まれた全てのアイデアが成功するわけではありません。

しかし、多様なテーマに取り組む中で思いがけないヒット商品が生まれることもあります。

このように、NICはオープンイノベーションの場として、新たなアイデアを形にする重要な役割を担っていると考えています。

日華化学株式会社 より提供

日華化学の成長戦略

EHDに注力した新製品の開発

当社の成長戦略では、「EHD」(環境・健康・デジタル)の3分野に特化した新製品を展開することで、売上と利益を積み上げていくことを目指しています。

EHDに注力することで、社会課題の解決に貢献すると同時に、高付加価値を生み出すことが可能となり、結果的に利益率が高まっています。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

たとえば、先ほどご紹介した半導体用の潤滑剤は、お客様が使用した後に回収し、蒸留処理を行って再び製品化する完全リサイクル型の製品です。

この仕組みにより、お客様にとってはゼロエミッションを達成でき、当社にとっては原材料コストを削減することができる、まさにWin-Winな製品であると考えています。

これはEHDの「E(環境)」と「D(デジタル)」を組み合わせた製品の一例です。

また、化粧品事業では、リサイクル素材のボトル容器を採用したり、ヘアカラー製品のキャップを従来品の半分のプラスチック量とし小型化するなど、環境に配慮した取り組みを行っています。

これらもEHD戦略を反映した取り組みです。

このEHD戦略は、研究開発型の企業である当社だからこそ実現できるものです。

数年前からEHD製品の比率を高める取り組みを進めており、2024年12月期末時点で化学品事業の44%を占めています。

2025年には50%、2035年までには100%に引き上げる計画を進めており、さらなる成長を目指しています。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

新工場の稼働

現在、2027年の竣工に向けて建設を進めている福井工場は、最新鋭の機械や効率的な物流システムを導入した、まさに「夢の工場」と呼べる画期的な施設です。

現行の工場は1985年に建設し、2000年に改修・増築したもので、老朽化と共に空間的余裕が少ない事から、自動化設備を導入することが難しい状態となっています。

倉庫が隣の敷地にあるため、原料や資材の運搬に手間がかかり、非常に非効率です。

加えて、工場が街中にあるため、稼働時間が制限されるなど、生産性が大きく制約されています。

これらの課題を解決するために、新工場の建設に着手しました。

新工場では24時間稼働が可能で、自動化された生産ラインを導入することで、生産力は高まると考えています。

最新の物流システムを備え、原料・資材の管理から製品の出荷までを自動化することで、効率的な在庫・受け渡し体制を構築する予定です。

初期段階では減価償却費がかさむため、短期的には収益に影響が出る可能性があります。

しかし、EBITDA(税引前利益+減価償却費)は増加し、その後も伸ばしていくことができると考えています。

この設備投資は2035年を見据えた中長期戦略の一環であり、今着手すべき重要な施策です。

工場建設に向けた取り組みは現在順調に進んでおり、将来の事業成長を支える基盤となることを目指しています。

日華化学株式会社 2024年12月期 通期決算補足説明資料 より引用

人材への投資

研究開発では人の力が極めて重要です。

当社では働きやすい環境の整備や人材育成に積極的に取り組んでいます。

NICは、化学品と化粧品の研究者が同じ空間で研究するというユニークな研究開発拠点です。

このような環境により、異なる分野の知見が融合し、新しい価値を生み出す土壌となっています。

実際にNICでは、外部のお客様が頻繁に訪れ、活発な共同研究を行われています。

研究者同士や外部パートナーとの交流やアイデア交換が自然に生まれる環境を整えることは大切です。

当社は化学品・化粧品といった事業セグメントにこだわらず、イノーべティブな空間を目指しています。

さらに、手作業などの非効率な業務は積極的にDX化を進め、研究者が効率よく研究開発に集中できる体制づくりを整備しています。

たとえば、フォーミュレーション(製品配合設計)の作業では、コンピューターでシミュレーションを実施し、その結果を基に試作品を製造しています。

ただ、製品の最終評価は人の手による確認が不可欠です。

具体的には、試作品が毛髪に与える影響を細かく検証しています。

引張強度が向上するか、一度洗った後の感触はどうか、抜け毛の本数に変化があるかなど、研究者が入念に確認を行うのです。

こうした緻密な評価作業には機械では代替できない専門的な知識と経験が求められます。

当社は今後も研究人員の確保とDXの進化を両立させ、新たな価値を生み出す製品開発を進めてまいります。

日華化学株式会社 中期経営計画「INNOVATION25」(2023~2025)説明資料資料 より引用

注目していただきたいポイント

当社は、「EHD」に特化した製品群の開発に注力しています。

中でも「D(デジタル)」分野の半導体関連製品、「H(健康)」分野の高級ヘアケア製品が特に大きく成長しています。

当社は創業以来、「訳あり製品」の開発を大切にしてきました。

当社が目指すのは、安価な大量生産品ではなく、たとえば「髪の毛の強度向上」といった科学的根拠に基づく明確な付加価値を提供する製品です。

具体例としては、ニトリ様、帝人フロンティア様と提携して開発したソファ素材「Nシールドファブリック」があります。

この素材は犬などの引っかき傷に強く、ケチャップなどをこぼしても簡単に拭き取れる優れた機能性を持ち、2024年にはグッドデザイン賞を受賞しました。

日華化学株式会社 2024年12月期 通期決算補足説明資料 より引用

今後も特許により保護された独自技術を活かし、お客様と密接に連携しながら製品や技術を共創してまいります。

こうした製品づくりは一定の時間を要しますが、他社には模倣が難しく、独自の競争力を維持できる分野です。

また、繊維産業がアジアやインド、北アフリカなどに広がっていることから、グローバルな事業展開に取り組んでいます。

これからも「EHD」製品の開発を進め、「量より質」を追求する経営への転換を図り、さらなる成長を目指してまいります。

投資家の皆様へメッセージ

現在(2024年12月時点)、当社のPBR(株価純資産倍率)は0.5〜0.6と非常に低い水準です。

その主たる要因は「ROEを安定的かつ十分に高めきれていないことにある」と 認識しています。

昨夏公表した中長期グループ成長シナリオにおいて、2035年までに目指す姿として、売上・利益面での成長に加え、「ROE=安定的に10%以上」を重点目標に設定しました。

また、当社の事業内容が株主や投資家の皆様に十分に伝わっていないことも要因の一つと認識しています。

そのため、事業内容や成長戦略についての理解を深めていただくべく、IR活動をさらに強化していく方針です。

その一環として、2025年2月にはIRサイトをリニューアルいたしましたので、ぜひご覧ください。

さらには、これまで内部留保を意識してまいりましたが、株主還元をより重視する方針に転換しました。

新たな配当方針では、累進配当を基本とし、DOE(株主資本配当率)を3%を目安として拡充することで、安定的かつ成長性のある配当を目指します。

今後も株価向上を意識した経営を一層推進し、皆様のご期待に応えていく考えです。

当社の今後の成長にぜひご期待いただき、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。

日華化学株式会社

本社所在地:〒910-8670 福井県福井市文京4丁目23番1号

設立:1941年9月15日

資本金:2,898,540,000円(2024年12月末時点)

上場市場:東証スタンダード市場、名証プレミア市場(1993年9月10日上場)

証券コード:4463

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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