【7962】株式会社キングジム 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年5月14日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社キングジムは「テプラ」や「キングファイル」のような独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する会社です。

代表取締役社長 兼 CEOの宮本 彰氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社キングジムを一言で言うと

「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」会社です。 

キングジムの沿革

株式会社キングジム代表取締役社長 兼 CEO 宮本 彰氏

創業経緯

当社の創業は1927年に遡ります。

私の祖父である宮本英太郎は和歌山県で材木商を営んでいましたが、名簿作成を依頼された際にもっと便利なものが作れないかと考え、人名簿や印鑑簿といった画期的な製品を開発しました。

祖父はその後も多くの発明を行い、いわゆる町の発明家のような存在でした。

その孫の私は社長としては4代目にあたります。

テプラの発売

私がプロジェクトリーダーを努めた「テプラ」を発売したのが1988年で大きな事業の転換点となりました。

それまでは1964年に発売された「キングファイル」が主力製品でした。

当時、キングファイル等のファイルバインダーの売れ行きは非常に良かったものの、いずれペーパーレスの時代が来ると感じていた私は危機感を持っていました。

そこで「電子機器を敵に回すのではなく、味方にすればいいのでは」という発想から「テプラ」を開発しました。

当時、電子機器への投資はファイルバインダーに比べて桁違いに大きく、非常に大きな賭けでしたが、この「テプラ」が当社の事業の柱となりました。

インテリアライフスタイル事業の拡大

長年、キングファイルの売上は順調に伸びていましたが、予測通りペーパーレス化が進み、少しずつ売上が減少していました。

当初は「テプラ」の売上でカバーしていましたが、限界があると感じ、持続的な成長が見込めなかったため新たな事業領域を探していました。

そして生活雑貨など成長余地のある分野に進出し、インテリアライフスタイル事業を始めました。

2014年1月に家具のEC販売を行う株式会社ぼん家具を、2021年11月には生活家電や雑貨の企画、販売を行うライフオンプロダクツ株式会社をM&Aするなどし、本格参入しました。

このように家具や調理器具等の生活雑貨を取り扱う優良企業をグループにジョインさせ、当社の販売網を活用しながら着々と売上を伸ばしています。

株式会社キングジム 統合報告書 2023 より引用

キングジムの事業概要と特徴

概要

当社の事業は2つのセグメントで分けられます。

まず文具事務用品事業です。

当社が開発・製造した文具用品や電子機器をオフィス向け、個人向けに販売しています。

かつては卸売での販売が大半でしたが、現在では約半分がオフィス通販などを通じたネット・通信販売に移行しています。

また顧客層は事務用品を扱うため法人が多いですが、個人向けにも幅広い年齢層をターゲットに商品を展開しています。

次にインテリアライフスタイル事業です。

主にキッチン家電、生活家電、生活雑貨、家具、アーティシャルフラワー等を各グループ会社で開発・製造して販売しています。

各グループ会社毎に販売体制は異なり、中間業者を介しているところもあれば、株式会社ぼん家具のように実店舗は持たずに完全にECのみでの販売を行っている場合もあります。

事業における優位性

柔軟な開発体制と独創的で多彩な商品群

当社の経営理念は「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」です。

これまで築き上げてきたさまざまな経営資源を活用し、多彩な商品群を生み出し続けてきました。

株式会社キングジム 統合報告書 2023 より引用

例えばパイプ式ファイル「キングファイル」は、日本のオフィスのスタンダードとなったロングセラーの商品です。

また、ファイルのタイトル表示を作るという発想から開発されたラベルライター「テプラ」は進化を続け、今日では様々な場面で活用されています。

これらのヒット商品を生み出してきたノウハウを元に積極的な製品開発を行っており、

テキスト入力に特化したデジタルメモ「ポメラ」や、感染対策用品の自動アルコールディスペンサー「テッテ」などを生み出しています。

多様な販売チャネル

文具事務用品の国内市場は、少子化やデジタル化の進展もあり需要は頭打ちです。

さらにコロナ禍を経て、世の中の購買行動は変化しています。

そのような中で、当社は従来の文具事務用品の販売網だけでなく、家電量販店やECを活用した多様な販売チャネルを持っています。

そして広報活動においてはSNSを積極的に活用し、X(旧 Twitter)のフォロワー数は45万人超で、エンドユーザーと直接コミュニケーションをする機会を設けています。

株式会社キングジム 統合報告書 2023 より引用

事業領域拡大とグループ経営推進

近年は、インテリアライフスタイル事業にも注力しています。

当社がコロナ禍でも売上を維持できたのは、巣ごもり生活で家具の需要が急増したことも大きな理由の一つです。

さらに近年では「お一人様家具」が注目されていますが、転勤を伴う引っ越しが多く、一人暮らしの人が増えているため、手軽にECで購入できる「ぼん家具」の需要が高まっています。

また、キッチン家電では「ラドンナ」や「ライフオンプロダクツ」のトースターやコーヒーメーカーといった低価格の調理家電が人気です。

このように新たに事業領域を拡大し、グループ経営を通じてM&Aした企業の強みを引き出すことができているのは当社の強みだと考えています。

株式会社キングジム 2024年6月期第2四半期 決算説明会資料 より引用

キングジムの成長戦略

M&Aの加速

特定の分野に固執せず、幅広い視野で可能性を探っています。

もちろん文具でも将来性があれば取り組み、周辺領域の製品についても視野に入れています。

独自のプロダクトを持つ企業がターゲットですが、時代背景や環境を考えながら総合的に判断して進めています。

株式会社キングジム 2024年6月期第2四半期 決算説明会資料 より引用

海外工場の有効活用

インドネシア・ベトナム・マレーシアの海外3工場は、キングファイルの製造工場です。

しかしファイル市場が縮小しているため、空きスペースを有効活用していきます。

まずインドネシアでは豊富な木材を活かして木製家具を製造し、家具事業の内製化を図っています。

次にベトナムでは中国が近く部品調達が容易なため、キッチン用品を製造しています。

最後にマレーシアでは鉄製品の加工が得意なので、UFOキャッチャーの機械を製造して現地の企業へ販売しています。

このように地域の特性を活かしながら、海外の生産体制を有効活用しています。

株式会社キングジム 2024年6月期第2四半期 決算説明会資料 より引用

将来性のある製品群

日々を楽しむ文房具「HITOTOKI」の成長性に期待しています。

特にマスキングテープのKITTAは幅広い年代の女性に人気があり、多くのデザイナーとコラボレーションした商品を展開しています。

直近では2024年4月にポップアップイベントを行いましたが、長蛇の列となり、入場までにお時間をいただくなど大きな反響がありました。

グループ会社が取り扱う製品にも将来性のある商品が多くあります。

例えばアスカ商会のアーティフィシャルフラワーですが、既にアメリカでは専門店が多く出るほどまでに市場が成長しており、日本でも今後拡大していくと考えています。

このようにグループ全体で新製品の開発・販促を進め、事業を拡大させていきます。

注目していただきたいポイント

為替相場の影響で当社の業績が大きく変動することにご注目いただきたいです。

売上は伸びているものの、利益が下がっているのは為替の影響が大きいです。

ほとんどの製品を海外から輸入しているため円安は大きな問題で、やむなく値上げを実施させていただくことで対応しております。

また株主優待についても強化し、投資家の皆様にご満足いただけるような内容ですので、是非ご注目いただければと思います。

従来は特定の商品をお渡しするものでしたが、2022年からはキングジムのECサイトを通じてお好きな優待品を選んでいただけるサービスに変更しました。

現在は300株保有すれば、6,000円分のクーポンが付与されます。

投資家の皆様へメッセージ

現在は円安に耐える時期と考えていますが、財務的には体力も十分にあります。

グループ全体では着実に成長しているため、利益が低水準にとどまっているのは一時的な問題だとお考えいただければと思います。

当社は、常に新しい挑戦を続ける企業です。

私の座右の銘は「ファーストペンギン」ですが、他の誰よりも大きな成果を得るため、常に最初に飛び込み、世の中にないものを創り続けたいと考えています。

皆様の期待に応えられるよう新たな価値を提供し続けてまいりますので、引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。

株式会社キングジム

本社所在地:〒101-0031 東京都千代田区東神田二丁目10番18号

設立:1948年8月31日

資本金:19億7869万円(2023年6月時点)

上場市場:東証プライム市場(1987年2月26日上場)

証券コード:7962

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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