※本コラムは2024年5月20日に実施したIRインタビューをもとにしております。
バルテス・ホールディングス株式会社はソフトウェアテスト業界におけるプラットフォーマーとして、品質を守り、高めることでよりよい世界をつくる会社です。
代表取締役会長兼社長の田中 真史氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
バルテス・ホールディングス株式会社を一言で言うと
堅実にコツコツと実績を積み上げていくソフトウェアテストの専門集団です。
バルテス・ホールディングスの沿革
創業経緯
もともと私は関西でソフトウェア開発の会社を経営していました。
20代で起業して15年近くソフトウェア業界に携わっていましたが、ソフトウェアの品質問題に課題を感じていました。
そこでバルテスを2004年4月に創業しました。
一般的にエンジニアはテストを好まない傾向があり、テスト手法や品質維持についての勉強や技術研鑽が疎かになりがちでした。
この状況を改善するためには、テストに特化したプロ集団が必要だと考えたことが創業のきっかけです。
ソフトウェアテスト事業の拡大
最初はSES(システムエンジニアリングサービス)で、パナソニックやシャープ、京セラ等の大企業に人材を派遣するモデルでスタートしました。
初期の段階ではテスト設計や上流工程の仕事を行うために、社内メンバーを集めて勉強会を開催してナレッジの蓄積を行っていました。
当時、新しく創出した業界でもあったのでテスト専門の人材はおらず、高スキルのエンジニアを育成することが大切だと考え、教育に力を入れていました。
その後、ある会社の品質管理担当者から「うちのエンジニアにもテストに関する教育をしてほしい」という依頼を受け、教育教材を作成しました。
これが今のバルカレ事業の始まりです。
リーマンショックと事業多角化
2008年のリーマンショックが大きな転換点でした。
それまでは売上が倍増する勢いで成長していましたが、リーマンショック前後で状況が一変しました。
当時は製造業の組み込み系機器のテストが中心でしたが、不況により製造業の需要が急減しました。
そこで当時伸びていたインターネット系の企業との取引を増やし、業界問わず顧客を獲得し、事業の多角化に成功しました。
そして積極的に仕事を取りに行くスタイルで、エンタープライズ系の大型システムの案件も受注していきました。
そして2019年5月30日には東証マザーズ市場(現 東証グロース市場)に上場し、令和初のIPO企業となりました。
バルテス・ホールディングスの事業概要と特徴
概要
当社はソフトウェアテストを軸に様々な業種・業態の顧客と取引をさせていただいています。
もちろん金融業界では特有のルールや規制はありますが、ソフトウェアテストのベースとなる技術はどの業界に対しても共通しており、幅広いポートフォリオを実現しています。
事業における優位性
高スキルのテスト専門エンジニアとエンタープライズ領域へのナレッジ
後ほどご紹介しますが、当社には専門教育を受けたソフトウェアテストエンジニアが500名超います。
またエンタープライズ領域は案件規模が大きく、契約期間も長いため、単価が高いことが特徴です。
そこで大企業向けの専門部署を設置して専門的なナレッジを蓄積しています。
潜在市場は非常に大きいものの、高度な技術が求められるため参入障壁が高く、価格競争に巻き込まれることが少ないことも優位性の1つです。
バルゼミと早期人材育成
教育への注力は、創業以来の一貫した方針です。
採用については、未経験者も積極的に行っており、例えばこれらの社員には、2ヶ月間の実践型の研修カリキュラムを提供しています。
さらに経験者採用でも、当社独自のテストメソッドを学んでいただき、1ヶ月程度の研修を行います。
これは、経験者も長年のノウハウで体系化された当社の考え方やフローを学んでもらうことで、組織的に安定したサービスの提供を実現しています。
このような徹底した教育体制を基にテスト専門のエンジニアを早期育成できるサイクルを確立させています。
また我々の業界はブルーオーシャンと呼ばれておりましたが、最近では新規参入企業が増えてきている現状もあり、業界としてのサービス品質の低下が危ぶまれています。
その課題を解決するためにも、当社がリーディングカンパニーとしてしっかりとした教育コンテンツを提供し、業界全体をボトムアップしていかなければならないと考えています。
上流工程からソフトウェア品質向上支援サービスを提供
当社グループにはソフトウェア開発も行っている事業会社もあり、開発プロセスの全工程でソフトウェアの品質を向上させるためのサービスを提供することができます。
また、上流工程と呼ばれる、システムの企画の段階からどういった品質であるべきかを総合的に提案することで、結果手戻り等を減らし、顧客のコスト削減などにも寄与しています。
テスト自動化・管理ツールを自社開発
テストを行う上で、生産性をより高めるため、「テスト自動化」を検討、実施する現場がこの数年でかなり増えてきました。
テスト自動化を導入するにあたり、これまでは海外製のツールを検討されることが多かったのですが、高価なものも多いため、当社が作った低価格かつ現場が必要と思う自動化ツールを提供し、取引を増やしています。
足元では社内外問わず多くの自動化の依頼を受けており、自前で開発した自動化ツールを持っているソフトウェアテスト会社は数えるほどしかありません。
また、テストを自動化するためには自動化しやすい部分や自動化した方がメリットのある部分を見極めるためのノウハウが必要です。
全てのフローを自動化できるわけではありません。
もしテスト工程を理解せずに全てを自動化した場合には、かえって莫大なコストがかかってしまうことも多いのです。
そのような背景もあり、自動化そのものは技術的に難しいものではありませんが、ツール開発の際には適切に工程フェーズを切り分けて考えることが重要です。
当社のようにソフトウェアテストにノウハウを持って、自動化ツールが開発できる会社は非常に少ないはずです。
サイバーセキュリティサービスの拡充
これまで1,000件以上の脆弱性診断の実績があり、当社の品質向上サービスと合わせたセキュリティに関するトータルソリューションを提供可能です。
主にホワイトハッカーとツールを組み合わせたバルテス独自の診断方法でリーズナブルに提供しています。
この脆弱性診断は、人間で言えば健康診断のように定期的に行う必要があるため、当社のサービスを定期的に利用していただいて安定的な事業へと成長しています。
バルテス・ホールディングスの成長戦略
ソフトウェアテスト戦略
エンタープライズ市場での取引は長期的に安定した関係を築けるため、非常に重要な戦略です。
もちろんインターネット系の企業も成長していきますが、大企業のソフトウェアテストについては未開拓領域が多いことがポイントです。
今後も高い専門性が求められるので、それぞれの業界に固有のノウハウ蓄積と専門知識を有する人材の獲得を通して事業基盤を強化し、成長戦略を進めていきたいと考えています。
ツール戦略
ツール事業はサブスクリプションモデルで提供することで、継続的な収益基盤を築き、利益率を向上させていきます。
テスト自動化ツールは2019年の上場後に注力した分野ですが、さらにナレッジを蓄積して顧客自身がWEB上でテストを完了させることができるノータッチモデルの開発を進めていきます。
そして今後は、テストエンジニア、QAエンジニアだけが使うのではなく、全てのITエンジニアにとって必須であるツールを目指し、各ツールの連携によるホールプロダクトを目指しています。
バルカレ戦略
教育事業のバルカレでは、企業向け講座・オープン講座・eラーニングを通じて品質教育サービスを提供しています。
特にeラーニング講座ではサブスクリプション型のコンテンツを展開し、認証制度を設けることでソフトウェアテスト業界の底上げを図っていきます。
唯一無二の教育プラットフォームであるバルカレでソフトウェアテスト分野の品質向上に貢献していくのが基本的な姿です。
セキュリティ戦略
サイバーセキュリティ分野には大きな成長余地があります。
有名無名に関わらず、サイバー攻撃による情報漏えいが昨今でもニュースになっており、各社のサイバーセキュリティ対策が不十分である中、よりセキュリティ意識が高まっていくと睨んでおり、今後の成長が期待できます。
そのような中で個人情報の漏洩、サイト改ざん、不正なログイン等に対して複合的なサービスとして提供することで市場シェアを獲得していきたいと考えています。
開発事業戦略
システムに関する顧客課題解決のために、総合的なソリューションを提供することを目標に、現在積極的にM&Aを行い、事業の再編とともに成長を目指しています。
先ほどもお話ししましたが、これらM&Aで拡大していく様々な開発サービスや製品に、当社が強みとする品質向上に関する知見を加えることで、より高品質なソリューションを提供することが可能になると考えております。
これにより業界内でのプラットフォーム構築を目指しながら、グループ間連携を強化しつつ好循環を実現するホールディングス体制を築いていきます。
注目していただきたいポイント
現在、当社の成長可能性に対して市場の評価は低めだと感じています。
一度上がりすぎた期待値に対して、業績の下方修正を行ったことが悪いイメージを残してしまっているのかもしれません。
そのため、今回の中期経営計画は保守的な見通しを立てました。
しかし当社が属するソフトウェアテスト業界の伸びしろは非常に大きいです。
これまで当社は事業基盤の強化を行い、プロジェクトマネジメント(PM)人材の確保も順調に進んでいるので、今後の成長に注目していただきたいです。
あくまでも社内でのスローガンとしてですが、創業30周年を迎える10年後の目標としては売上高1,000億円を掲げています。
この目標は開示しておらず、現状株主の皆様にお約束するものではありませんが、市場環境や業界の成長性を考慮すると、十分に実現可能な目標だと考えています。
今後も堅実に成長を続け、さらなる飛躍を目指していきます。
投資家の皆様へメッセージ
ソフトウェアテスト業界は周辺領域を含め、無限の可能性があります。
世間ではブルーオーシャンと言われていますが、当社はさらに上のエメラルドオーシャンだと思っています。
投資家の皆様には、この澄んだ業界に期待をして応援していただきたいです。
本社所在地:〒550-0011 大阪市西区阿波座1-3-15 関電不動産西本町ビル8F
設立:2004年4月19日
資本金:9,000万円(2024年6月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2019年5月30日上場)
証券コード:4442