【3392】デリカフーズホールディングス株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年8月20日に実施したIRインタビューをもとにしております。

デリカフーズホールディングス株式会社は「野菜の未来を変える。野菜で未来を変える。」をパーパスに掲げ、農業と食の未来を支え、人々の生活を豊かにする会社です。

代表取締役社長の大﨑 善保氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

デリカフーズホールディングス株式会社を一言で言うと

農業と食の未来を支える野菜の総合加工メーカーとして、社会に必要不可欠な企業です。

デリカフーズホールディングスの沿革

デリカフーズホールディングス株式会社代表取締役社長 大﨑 善保氏

創業の経緯

当社は、日本における外食産業がまだ黎明期にあった1979年に創業しました。

現在のような外食チェーンはほとんどなく、多くの飲食店が個人経営の小規模なものばかりでした。

そうしたなか、創業者である舘本(現 取締役会長)はアメリカでのチェーンストアの成功に着目し、日本でもいずれ同様の展開が進むと予測しました。

後に、チェーンストアの多くでカット野菜が広く利用されていることを知り、日本でも積極的にカット野菜を取り入れるべきだと考えました。

そして、舘本は鮮度を保ちながら美味しい野菜を届けることに強くこだわり、カット野菜の製造販売から事業をスタートさせました。

当時は野菜を常温のトラックで配送するスタイルが主流でした。

一方、当社はチルドの配送トラックを導入し、徹底した温度管理と鮮度管理を行うことで、業界内で独自の地位を確立しました。

そして、大手外食チェーンの創業期から取引を始め、日本の外食業界におけるチェーンストアの成長とともに当社も拠点を増やしながら事業を拡大してきました。

これが、現在のデリカフーズグループの基盤となるビジネスモデルの始まりです。

コールドチェーンの確立

私は2009年に東京デリカフーズ株式会社(現・デリカフーズ株式会社)の取締役社長を拝命しました。

当時、当社の売上は180億円〜200億円の間で横ばいになっており、業界柄、利益率も高くないことから大規模な投資を行う余裕はありませんでした。

一方、食の安全がますます重視され、コールドチェーンと呼ばれる、生産から輸送、消費の過程で途切れることなく低温度に保つ物流が重要視され始めました。

私はそのような中、当社も業界の近代化に向けた一歩を踏み出す必要があると考え、大規模な設備投資計画を立案しました。

その設備投資計画は、東京に完全なコールドチェーンを取り入れた最先端の新施設を建設する計画で、売上200億円にも満たない企業が30億円の設備投資を行う、という大胆な挑戦でした。

業界では類を見ないFS(Fresh&Speedy)モデルを確立させ、全国各地に広がるコールドチェーンの物流網を構築するという、この決断が当社の成長戦略の大きな転換点となりました。

当社はこの独自のビジネスモデルを磨き続け、現在では30,000店舗以上にカット野菜などを納品する売上高530億円の企業へと成長しました。

デリカフーズホールディングスの事業概要と特徴

概要

当社は、全国規模で展開する外食産業や中食産業の大手チェーン店向けにカット野菜を中心とした青果物などをお届けしています。

当社の強力なコールドチェーンを通じて全国どこでも同じ品質・規格の商品を製造・販売できる安定的な供給力および安全衛生品質を備え、高く評価いただいております。

デリカフーズグループ会社案内 より引用

事業における優位性

全国にFSモデルを展開

2010年に導入したFSモデルは、当社の事業における重要な柱です。

これは、野菜の加工から配送に至るまで、すべてのプロセスを5℃帯のコールドチェーンで管理する製造・物流拠点の仕組みです。一般的にコールドチェーンと言われていても部分的に温度が上がることが多く、完全なコールドチェーンの実現は難易度が高いのが実情です。

当社は、加工施設や仕分けセンター、配送トラックまで徹底した温度管理を行っています。

こうした当社の最新鋭の製造・物流拠点は現在、関東、東海、近畿、九州、東北、北海道など全国の地区に広がっています。

各施設では高度な安全管理基準が求められるISO22000等の認証を取得しており、これも他社が追随できないほどの圧倒的な優位性となっています。

多大な投資が必要となるため参入障壁は高く、青果物というハンドリングの難しい商材を扱うこともあり、大手商社などであっても今から同じ仕組みを始めることはなかなか難しいと思われます。

青果に特化した多様な商品群と研究データ

当社の展開する商品にはカット野菜を中心に、青果物に特化した多様なラインナップがあります。

デリカフーズグループでは約6割の原料を全国の契約産地より調達していますが、そのこだわりの野菜を、ホール野菜・カット野菜のみならず、真空加熱・冷凍・ミールキットなどさまざまな形に加工することで、より付加価値の高い商品を生み出しています。

このような青果物の多様な加工と流通量の拡大を通じ、フードロスの削減や産地の支援など、広く社会にも貢献しております。

また、研究開発部門において長年蓄積してきた野菜に関するデータや分析力は当社の強みです。

毎日届く野菜を分析し、どの産地の野菜が最も美味しく、栄養価が高いかを把握し、過去から蓄積してきた40,000を超える野菜のビッグデータを構築しています。

ここで、野菜に関するデータや分析力を活かした事例を一つご紹介します。

当社は、ある中食チェーンとの取引の中で、かぼちゃの煮付け用の材料として、カットしたかぼちゃとタレを供給していました。

ある時、「かぼちゃの煮付けの味が美味しくなくなった」とのクレームが届いたため、その原因を分析したところ、かぼちゃの産地変更が影響していることが判明しました。

先方からの要望で産地変更を行いましたが、タレは同様のものを使っていたことから、味がマッチしなくなったためかぼちゃの煮付けの味が落ちてしまった、という結論に至りました。

当社は、このような情報をいち早く察知できるような体制を整え、味の評価や産地データとの関係性を紐解きながら情報提供を行い、顧客への提供価値を高めています。

また、生産者とのつながりを意識する企業に対しては、生産者とのマッチングを行うなど、分析したデータをさまざまな面で活用しています。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

デリカフーズホールディングスの成長戦略

長期ビジョン

日本の農業の現状の課題として、担い手不足や廃業による生産者の減少が挙げられます。

当社としては、そうした課題に対して、青果物の流通量拡大を通じて農家の不安定な収入の改善を図り、生産者の減少を食い止めたいと考えています。

最近では、多くの農家が「次に大きな被害があったらやめる」と口にしており、壊れた設備を修理したい、借金をしてでもハウスを建てて農業を続けたい等の意欲が次第に失われています。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

そこで当社は、例えば「今年は台風で不作だったけど、来年も契約があるので安心して栽培を続けてください」というメッセージとして複数年の長期契約を結んでいます。

また、当社の商品は見た目にこだわらないカット野菜であるためフードロスの削減に貢献し、農家がより多くの野菜を生産できると考えています。

この他にも農家の方々の負担軽減の観点から、パッケージや箱詰め作業を我々の流通過程で対応する仕組みなども提案していきたいと考えています。

このように、当社は農家と共に事業を拡大すると同時に、10年後、20年後を見据えた社会的課題の解決を図ってまいります。

野菜の総合加工メーカーとしての地位を確立することを当社の目標として、SDGsへの貢献を進めながら、持続可能な農業の実現に向けてさまざまな取り組みを進めていきます。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

各種ポートフォリオの変革

これまでの中期経営計画では、FSモデルの全国展開による生産能力の増強に重点を置いてきましたが、今後は投資した最新施設をいかにして利益に結びつけるかが重要な課題となります。

そのため、新たな「第五次中期経営計画」では、事業・顧客・商品の3つのポートフォリオの変革に取り組みます。

まず、事業ポートフォリオの変革においては物流事業の強化に力を入れていきます。

2014年に物流子会社のエフエスロジスティックス(株)を設立し、それまで外部に委託していた物流業務を自社で行うことで、サービスの質を向上させました。

また、一昨年から先行して車両やドライバーの確保を進めてきた結果、物流の「2024年問題」というリスクをチャンスに変え、グループ外との取引も拡大しています。

今後は同社をさらに活用し、深刻化する物流難に対して、積載効率の向上や共同配送の実践、新拠点からの多品目配送ネットワークの構築、企業間連携によるリードタイムの短縮などを行い、収益性の高い物流事業を目指します。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

次に顧客ポートフォリオの変革として、「第四次中期経営計画」で重点を置いてきた取引業種のバランス適正化に引き続き取り組んでいきます。

具体的には、外食産業の中でも人の流れや経済動向の変化の影響を受けにくいファストフード向け、高い成長が期待できる中食・給食向け、そしてコロナ禍に対応するため新たに参入したコンシューマー向けの販売に引き続き注力します。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

商品ポートフォリオの変革においては、従来からの主要事業であるカット野菜、ホール野菜主体の構成比から、成長性・収益性がともに高い新規分野の売上比率を高め、より加工度の高い商品へ注力することで利益率の向上を図っていきます。

その鍵を握るのが、ミールキット事業の楽彩(株)とたれ・ドレッシングなどの食品加工製造業のデリカフーズ長崎(株)、そして今期より新設された食品事業部です。

今後は高付加価値品の開発・製造・販売を強化することで、生鮮青果物の流通のみに依存しない青果物の総合加工メーカーとしてのポジション確立を目指します。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

青果物サプライチェーンの構造変革

調達面でも、10年後、20年後といった中長期的な目線で変革を継続的に進めてまいります。

足元では国内自給率が低下しており、輸入に依存している野菜が多くなりつつあることが大きな社会課題となっています。

そこで、まずは輸入依存度の高い青果物に対して、国産化を図ります。

具体的には中国からの輸入が多い玉ねぎ、長ネギ、人参などを国内生産にシフトしていきます。

また、長期保存技術を活かした貯蔵集出荷拠点を設置することでサプライチェーンを強化していきたいと考えています。

なお、こうした取り組みについて、当社単独での対応には必ずしもこだわらず、さまざまな企業とのアライアンスについても検討の選択肢としております。

デリカフーズホールディングス株式会社 2025年3月期~2027年3月期 第五次中期経営計画 より引用

注目していただきたいポイント

当社は「食」を支える社会的なインフラとして必要不可欠な企業です。

カット野菜の製造は24時間365日稼働する必要があり、持続可能なビジネスであることが大切です。

仮に一つでも施設が止まれば、外食産業や中食産業の多くの店舗が営業できなくなるほど、当社のシェアと影響力は大きくなっています。

当社の事業基盤が社会インフラとして生活を支え、今後の持続可能な成長を実現することにご注目いただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

私たちは、「今やれば儲かる」という短期的なものだけではなく、10年後、20年後も続く事業であるか、という長期的な目線でビジネスをとらえています。

そして、持続可能な農業の実現に向けて、事業の革新を進め、成長を続けることで、社会課題の解決に貢献していく所存です。

日本の農業と食の未来を支えるため、私たちはこれからも全力を尽くしていきますので、今後も長期的な視点でご支援のほどよろしくお願いいたします。

デリカフーズホールディングス株式会社

本社所在地:〒121-0073 東京都足立区六町4−12−12

設立:2003年4月1日(創業:1979年10月6日)

資本金:17億7,236万円(2024年3月末時点)

上場市場:東証スタンダード市場(2005年12月6日上場)

証券コード:3392

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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