【4428】株式会社シノプス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年4月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社シノプスは需要予測型自動発注サービスのsinops(シノプス)シリーズを展開し、世界中の無駄を10%削減する会社です。

代表取締役社長の南谷 洋志氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社シノプスを一言で言うと

”世界中の無駄を10%削減する”会社です。 

シノプスの沿革

株式会社シノプス代表取締役社長 南谷 洋志氏

創業の経緯

私は幼い頃から起業したいと考えており、まずは新卒で商社に入社し3年9ヶ月働きました。

その後、電子部品メーカーで6年間働き、サラリーマンとして10年ほど働いていた時、ある画像処理ソフトの開発の会社から、「会社の全発注を君に任せるから独立しないか」という誘いを受けました。

そして、その電子部品メーカーからのバックアップもあり、株式会社リンクとして1987年10月に創業しました。

当初は、画像処理ハードウェアを設計・製造・デザイン・テストを外注するファブレスの形態で事業を始め、その電子部品メーカーに8年ほど製品を納品していました。

しかし創業から4〜5年経ち、その電子部品メーカーの業績が低迷したため、何か新しい事業ができないか、と模索していました。

そのような中で、サプライチェーンが抱えていた在庫管理の課題に着目しました。

そこで、1週間〜1ヶ月先の需要予測を行い、必要な分だけを発注するシステムを開発すれば、在庫の管理が容易になるのではないかと考えました。

そして、1996年10月に物流最適化システム「S-PLAN21」の販売を開始し、翌年10月には卸売業向け在庫最適化システム「Zaiko-21」の販売を開始しました。

小売業向けに事業拡大

その後、大手商社からの依頼で2006年3月に卸売業者向けだったシステムを改良して、小売業向け自動発注システム「sinops-R4」の販売を開始しました。

さらに、2009年10月には日配品に対応した自動発注システム「sinops-R5」の販売を開始しました。

日配とは乳製品や豆腐、納豆など小売店に毎日配達される商品ですが、賞味期限も1週間と短く、期限の3〜4日前になると値引きシールが貼られ、最悪のケースでは廃棄されてしまうような商品です。

そのほかの商品に関しては、大手SIerなどが自動発注システムを作っていましたが、このカテゴリーは非常に難易度が高いこともあり、どの企業も手を出していませんでした。

そこで、需要予測に強みを持つ当社に白羽の矢が立ちました。

ロイヤリティの高いユーザーからの後押しや支援を受けながら、1年間の歳月をかけて開発に成功し、日配の在庫最適化を実現しました。

そして、大手スーパーのダイエーやユニーなどを含む上場企業との取引が始まりました。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

パッケージ販売からSaaSモデルへ

2020年6月に「sinops-CLOUD」サービスを開始しました。

このサービスはSaaS型のビジネスモデルで、現在はストック売上が全体の7割を占めています。

また、2022年1月には伊藤忠商事と業務提携契約を締結し、2023年12月より伊藤忠商事の顧客基盤と当社の技術力を活用し、「DeCM-PF」サービスを開始しました。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

シノプスの事業概要と特徴

概要

sinopsは“1つ売れたら1つ発注する” といった「セルワンバイワン」システムではなく、過去の販売などの実績などから需要を予測し、発注を行う「需要予測型」の自動発注サービスです。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

販売実績・販売価格・天候などのデータをAIで分析し、需要予測・自動発注サービスを提供しています。

このAIは単なるディープラーニングではなく、20年以上にわたる失敗と成功の積み重ねてきたノウハウが基盤となっています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このサービスを活用することで、小売業の需要予測に基づいて在庫を最適化し、ロス削減・売上利益向上・人手不足解消に貢献しています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

契約形態は、SaaS型とパッケージ型の2パターンで提供しています。

SaaS型のsinops-CLOUDでは、基幹システムと直接データ連携する必要がほぼなく、規模の小さな小売店でも導入されています。また、アップデートを常に重ねているため、追加された新機能をいち早く使用可能です。

パッケージ型では保守契約を結び、顧客の要望に沿って定期的にアップデートを行います。

事業における優位性

確実に導入効果を出す3ステップ

当社のsinopsを導入する際には、営業部隊が顧客ニーズをしっかりとヒアリングします。

営業は保守サポートのチームで数年間経験を積み、顧客からの質問に対して即答できるような人材が担当しています。

まず、ヒアリングした内容からどのような削減効果があるのかを顧客に提示します。

そして、ご契約いただける場合は、サービスの契約内容に基づいて導入支援を数ヶ月〜1年間かけて行います。

この顧客と半永久的にお付き合いをしていくためにも、sinopsの導入に関わる全てを顧客に寄り添いながら支援し、高いロイヤリティの顧客を生み出しています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

SaaSモデルへ移行

先ほども少しお話ししましたが、2020年6月よりsinopsシリーズをクラウド化させてビジネスモデルの転換を行いました。

これにより、継続的にストック収入を積み上げることができるようになり、安定的な収益源の確保に繋がっています。

もちろん全ての顧客がsinops-CLOUDを導入しているわけではなく、状況に合わせての契約です。

また、SaaS型を提供し始めたことで、売上400億円以上の小売業というターゲットの閾値はどんどん下がってきています。

まず一店舗で導入してみて、良い結果が出れば別の店舗でも採用するという流れが増えています。

そのため、対象の企業数は拡大しており、ビジネスモデルをSaaS型に切り替えた成果が出始めています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

需要予測専業 × 食品スーパー

賞味期限が短い惣菜・日配食品といったカテゴリでの需要予測・自動発注サービスの豊富な導入実績があり、食品スーパーでは全カテゴリの対応が可能です。

また、先ほどもお話ししましたが、SaaS型がメインとなったことで導入ハードルは下がり、短期間・低コストで実装できるようになりました。

また当社のロジックは独自の技術が用いられているため、他社に模倣される心配はありません。

実際に多くのスタートアップがAI自動発注に挑戦しても、数年で大きな成果を出せることは少なく、撤退していることがほとんどです。

このように、当社は業界内で独自のポジションを築いており、2023年12月時点の契約社数は113社、小売業だけで97社と伸ばしています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

シノプスの成長戦略

中長期成長に向けて、コア技術を活用した事業領域拡大

「DeCM-PF」の構築

当社の事業拡大の戦略は3つあります。

まず1つ目は、伊藤忠商事と共同で取り組んでいるDeCM-PFの構築です。

サプライチェーン全体の効率化を目指し、需要予測に基づいて物流の最適化を図っています。

具体的には、「この便にはこれくらいの商品をこの数だけ積めば積載効率が良い」といったデータを活用し、2024年問題における物流におけるトラック不足に役立つと考えています。

このプラットフォームは、小売・卸売業に始まり、製造業や包装資材業といった幅広いバリューチェーン全体に派生できると考えています。

最終的には日々の需要予測に基づいて、バリューチェーンの川上に最適な情報を伝播させることを目指します。

足元では、伊藤忠商事と協力することで日本国内の食品市場全体にアプローチできると考えており、最優先に取り組んでいます。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

人時改善サービスの展開

2つ目の戦略は人時改善サービスです。

これまではモノの最適化に重点を置いてきましたが、今後はヒトの最適化に取り組んでいきます。

例えば、需要予測データを活用して、週末やイベント時の来客数を予測し、レジのシフト計画を立てる等、効率的な人員配置を実現します。

このヒトを最適化する市場は、モノの最適化する市場の2倍以上の規模が見込まれ、新たな収益の柱になると期待しています。

既にsinopsを導入している顧客は113社おり、新たなサービスとしてクロスセルさせていくことで事業を拡大させていきます。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

他業態向けDeCMの拡大

3つ目の戦略は、他業種への展開です。

ただし、これは他の戦略が軌道に乗った後に注力して取り組む方針です。

既に当社の積み上げてきたロジックや導入実績を活用することで、優位性を持った展開が可能だと考えています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

既存クラウドサービスで年20~25%の売上成長を維持

当社のターゲットは売上400億円以上の企業です。

なぜ400億円かというと、この規模の企業においてはIT化が進み、レジデータを全店舗でリアルタイムに管理できるからです。

このデータを活用して、当社のサービスを導入しています。

現在、この規模の企業は国内に約300社あり、そのうちの38.5%にシェアを持っています。

弊社のサービスはパッケージではなくSaaS型で提供し、1店舗当たり平均で3.9サービスを導入しています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

さらに、顧客ニーズに基づいた新サービスの開発と提供を続けており、今後数年でサービス内容をさらに拡充する見込みです。

これからも多くの追加サービスを提供していくため、成長の余地は十分にあると考えています。

株式会社シノプス 2024年2月21日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

当社はARRで年率20〜25%の成長を目指しつつ、着実に売上を伸ばしていきます。

よく投資家の皆様から、「シノプスの製品を使えばもっと急成長できるのではないか」と言われます。

もちろん積極的な投資を行うことで、年間40%の成長を達成することは可能かもしれません。

しかし急成長が続くとは限らず、次の年には成長率が10%に落ちることも考えられ、社内の人員体制や経営資金の配分に大きな影響を及ぼすと考えています。

そこで、我々はあえて20%程度の成長を継続することに意味があると考えています。これからも”着実に”業績を伸ばしていくので、この持続可能な成長に注目していただきたいです。

投資家の皆様へメッセージ

先ほどお話しした成長戦略は、シノプスが着実に事業を伸ばしていくための戦略です。

ぜひ我々の理念や想いに共感していただき、独自的なポジションを築いている当社の成長性に期待していただければと思います。

今後も投資家の皆様には安定したリターンをお返ししていきますので、長期的にご支援いただけると嬉しいです。

株式会社シノプス

本社所在地:〒560-0082 大阪府豊中市新千里東町1丁目5番3号 千里朝日阪急ビル 16階

設立:1987年10月2日

資本金:428,174,298円(2024年4月アクセス時点)

上場市場:東証グロース市場(2018年12月25日上場)

証券コード:4428

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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