※本コラムは2024年9月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ラクスル株式会社は「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」のビジョンのもと、テクノロジーで社会や産業の仕組みをアップデートし、社会に貢献してきた会社です。
代表取締役社長 グループCEOの永見 世央氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針「End-to-endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォーム」について伺いました。
ラクスル株式会社を一言で言うと
End-to-endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォームを目指す会社です。
ラクスルの沿革
創業の経緯
当社は現会長の松本が2009年に設立しました。
松本は前職の戦略コンサルティング会社においてコスト削減プロジェクトを手掛けた際、最も大きな削減効果をもたらしたのが印刷費であることに気づきました。
そこで松本は印刷業界にはまだ解決すべき課題が存在し、業界全体を変革できるのではないかと考え、起業に至りました。
当初は、印刷会社の比較サイトの運営が主なビジネスでした。
プラットフォーム化と他業界への進出
2013年に印刷・集客支援のプラットフォーム「ラクスル」を開始しました。
これは顧客から印刷を受注し、パートナーの印刷会社に製造を委託し、製品を発送するというシェアリング型のビジネスです。
日本の印刷業の平均的な機械工場の稼働率は5割ぐらいと言われています。
そこで、既存の取引先であった印刷会社に当社のプラットフォームに参加してもらい、ラクスルを活用して非稼働時間を減らすことで、売上・利益の最大化を図るというビジネスで、このおかげで事業は急速に拡大しました。
その後、印刷物のみならずBtoB向けの商材をM&Aなどを通じて増やしていきました。
そして、2015年12月には物流業界向けのマッチングプラットフォーム「ハコベル」を開始しました。
現在はセイノーホールディングス(株)とのJVとなり出資比率は下がっていますが、様々な業界のプレイヤーとパートナーシップを結びながら事業を拡大させています。
また、2020年にはマーケティングプラットフォームとして「ノバセル」を開始し、広告業界へも参入しました。
代表の交代と方針転換
私は当社の成長期である2010年にCFOとして参画しました。
そして、2023年8月に創業者の松本からバトンを引き継ぎ、代表に就任しました。
そして1年を経て、2025年7月期より中小企業の経営課題を解決するため、トランザクション・ソフトウェア・ファイナンスという3つ領域に着目した新たな方針を打ち出しました。
後ほど、成長戦略の中で詳しくお話ししますが、今後は中小企業における「ヒト・モノ・カネ」に対しての新サービスの提供やプロダクトの開発を進めてまいります。
ラクスルの事業概要と特徴
概要
2024年7月期までのセグメントでお話しすると、ラクスル事業・ノバセル事業・その他事業の3つの事業があります。
まず祖業のラクスル事業についてご説明いたします。
ユーザーは主に法人と個人で、特に中小企業の顧客がほとんどです。
「ラクスル」というウェブサイトを通じて、紙の印刷に限らず、BtoB商材を販売しています。
テレビCMやデジタルマーケティングを通じて当社を知っていただき、ECをはじめとする様々なサービスを提供しています。
また、大規模な工場や大量の在庫を保有せず、パートナー企業に製造を委託し、その製品をECサイトを通じて直接顧客にお届けします。
パートナーであるサプライヤーは100社以上にのぼり、2024年7月期ではラクスルの登録ユーザー数は約270万人に達しました。
次に、ノバセル事業についてご説明します。
こちらは広告代理店として、テレビCMやタクシー広告、WEB動画などの動画広告市場における調査・企画〜制作〜放映〜分析まで一気通貫で行うことができるサービスです。
単にテレビCMの動画制作や放映を行うだけでは、一般的な広告代理店との差別化が難しいため、当社ではテレビCMの効果を効率的に分析・モニタリングできるソフトウェアを提供しています。
実際、広告代理店とは競合することなく当社の統合的なサービスが評価されており、顧客に伴走する企業として長期的な関係構築を実現しています。
(2025年7月期第1四半期以降はラクスル事業は調達プラットフォーム事業、ノバセル事業とペライチを合わせてマーケティングプラットフォーム事業、その他事業の3つに再編)
事業における優位性
中小企業の顧客基盤
当社サービスのユーザーの9割以上が中小企業です。
ユーザーに対しては定期的にアンケートやヒアリングを行っています。
2024年7月期に実施した調査結果では、高い認知度と中小企業を支援しているイメージがあることが分かりました。
また、印刷に限らず、他の物品もラクスルで購入したいと考えているユーザーが多数いることが分かっています。
当社は国内の中小企業が重要であると考えている経営課題に対して、もう一段深掘りを行い、マーケティング、財務・決済、組織・従業員という3つを導き出しました。
今後の展開にはなりますが、これら3つの課題に着目しながら、中小企業の顧客への多様なサービスを展開していくことで、さらに企業価値を高めることができるはずです。
蓄積可能なデータ群
当社はラクスル事業を通じて従業員台帳、顧客台帳、購買データを蓄積することが可能です。
例えば、当社のサービスには名刺を作成するサービスがあり、これにより依頼主の企業の従業員データが自然と集まります。
また、「ペライチ」では簡単にホームページを作成できるサービスを提供しているため、顧客の先にいるエンドユーザーのデータ、すなわち顧客台帳や購買データを蓄積することが可能です。
このようなデータ群は、当社が今後成長する上で大切な資産として優位性の1つとなっています。
連続的なM&A実行能力
当社のM&Aについてご説明いたします。
私たちは主に周辺領域への進出を中心に進めています。
印刷物の提供にとどまることなく、ダンボールやハンコなどを取り扱うチャネルを獲得してきました。
基本的には供給側を持たない方針ですが、一部では所有することで、価格競争力や品揃えの強化といった観点からサプライチェーンの強化も実施しています。
周辺領域へのM&Aが最も多い事例ですが、サプライチェーンの強化や新規ビジネスモデルの獲得も少しずつ進めています。
PMI(Post-Merger Integration)の方針についてもお話しさせていただきます。
M&Aをして終わりではなく、グループインしていただいた後には、その事業を成長させることが重要です。
私たちはそのような「Buy & Build」という考え方を重視した戦略を採用しています。
過去には、1社あたり約10名の人材を送り込んだこともあり、必要に応じて、実務部隊や経営に近い人材を送っています。
また、社内の次世代リーダーとなる人材に、M&A先に派遣して経験を積んで貰っています。
このように、買収先の事業を伴走して成長させる「Buy & Build」で効果的なM&Aの実績を積み上げています。
ラクスルの成長戦略
End-to-endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォームへ
今後、トランザクション、ソフトウェア、ファイナンスの3領域に着目したサービス提供を進めてまいります。
トランザクションが「モノ」、ソフトウェアが「ヒト」、ファイナンスが「カネ」というように、「ヒト・モノ・カネ」の経営課題を一気通貫で解決する中小企業向けのテクノロジープラットフォームになりたいと考えています。
また、すべてのサービスを「ラクスルID」に統一することで、ユーザーが一元的に管理・利用しやすくなるようにしていきます。
多くの中小企業ではCRMが導入されていないことが多く、少人数運営がほとんどであるため、満足なマーケティング活動ができていません。
ラクスルIDに統一することで、すでにECサイトを利用いただいている方の経営課題にアプローチすることができると考えています。
例えば、当社はマーケティングを支援するソフトウェアの提供(今後提供予定)を通じて、ウェブサイトの提供や印刷物の提供、メール配信などの多様な集客手段を提供することが可能です。
結果としてクロスセルにつながるため、当社にも新たなマネタイズの機会が生まれます。
このように多角的に中小企業の経営課題をサポートし、DXを推進する存在としてアプローチしていくことが今後の新たな方向性です。
トランザクション領域
印刷ECサイトから派生し、すでに印刷以外のカスタマイズ品、ノベルティやダンボール、アパレル、ユニフォーム、ハンコといった商材にまで拡大しています。
また直近では、通常のカスタマイズ品ではない店舗用品や包装資材の取り扱いも始め、多様なBtoBの商材をECで提供できる体制を構築しています。
カスタマイズが必要な領域では、デザインを無料で提供する、カスタマーサポートを充実させるといった機能を提供し、顧客満足度を高めています。
一方で、資材などのノンカスタマイズ品と呼ばれるような商材は差別化が難しいため、まとめ買いによるディスカウントなどのサービスも検討しています。
このように、BtoB領域におけるECプラットフォームとして多様な商材を扱い、顧客への提供価値を高めていく方針です。
ファイナンス領域
現在、住信SBIネット銀行と中小企業・サプライヤー向けの金融サービスの提供に向けて協議を開始しています。
なぜ我々がこの分野に進出するかと申しますと、グループの2025年7月期見込での売上入金が約600億円、サプライヤーへの原価支払いが約400億円、合計で約1,000億円の取扱高が見込まれており、これを活用した独自の展開が可能だと考えているからです。
協議段階であるため詳細はお話しすることはできませんが、まずは決済関連のサービスの提供を行っていきます。
また、サプライヤーからは資金調達のニーズも伺っているので、これらのニーズに応えることができるよう、準備を進めています。
ファイナンス領域に関しては、既存の事業とは全く異なる新規領域ではなく、当社のBtoB向けEC事業を基盤とした事業開発です。
BtoC向けのECサイトで成功している楽天やAmazon、Yahoo!といった企業がクレジットカード事業などの金融サービスを展開しているように、当社はその中小企業版を目指しています。
BtoB領域における商取引をEC化する中で、ファイナンス機能を提供できれば、さらなるシナジーを生み出せるのではないかと期待しています。
ソフトウェア領域
中小企業の顧客向けに2024年6月に出張動画、ウェブ広告、SNS運用の機能を備えたソフトウェアの提供を開始しています。
そして2024年9月にはβ版として、新たにCRM機能をリリースしました。
このように顧客がラクスルに預けている顧客情報やコンテンツ、商圏のデータを統合的に管理・活用できるソフトウェアの開発を進めています。
システム開発においては内製で対応できるように日本とベトナムに開発チームを構えており、迅速な新サービスの開発が可能です。
自社でシステム開発を行い、アップデートを重ねながら、最終的には、デジタルにおける集客も当社が全面的にサポートすることで、印刷物でのアナログなマーケティング手法と合わせて、顧客へ多様なソリューションを提供できると考えています。
注目していただきたいポイント
まず、今後は中小企業向けのプラットフォームとして成長していく点にご注目いただきたいです。
トランザクション、ファイナンス、ソフトウェアの3つのサービスがすべて統合され、ラクスルIDで一元管理される世界観を持っています。
当社が持続的に成長できるかどうかについては、以下の4つの要素を挙げています。
1.レガシーで市場規模の大きい業界に挑戦し、デジタル化を進展させていること。
2.中小企業における当社の認知度が高く、それをレバレッジとして活用できること。
3.複数の事業を統合するテクノロジー基盤とデータを活用できること。
4.内製による事業立ち上げだけでなく、周辺領域でのM&Aを推進し、連続的な成長を遂げていること。
これらの結果として、過去のトラックレコードを見ていただいてもわかる通り、業績は継続的に伸びており、堅調な成長を遂げています。
2025年7月期の予想では、売上高を610億円〜630億円、EBITDAを55億円〜60億円と見込んでおります。
これは新規のM&Aを行わない前提での数値であり、さらなる上振れの可能性もございます。
定性的なビジョンだけでなく、業績面でも着実な成長を遂げていることをご理解いただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
昨年、私が代表となり、今期からは新たな方針を打ち出しました。
今後のラクスルは「End-to-endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォーム」として、成長していきたいと考えております。
「ヒト・モノ・カネ」に着目した多様なサービスを提供し、皆様のご期待にお応えできるよう努力してまいります。
引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。
ラクスル株式会社
本社所在地:〒141-0021 東京都品川区上大崎二丁目24番9号 アイケイビル1階
設立:2009年9月1日
資本金:27億9877万2917円(2024年7月31日時点)
上場市場:東証プライム市場(2018年5月31日上場)
証券コード:4384