【3917】株式会社アイリッジ 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年10月8日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社アイリッジは「開発力」と「ビジネス創出力」に強みを持ち、アプリ開発のみならず企業の新規事業開発やマーケティングなどを含むDX領域にまで事業領域を拡大しています。

代表取締役社長の小田 健太郎氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社アイリッジを一言で言うと

「開発力」と「ビジネス創出力」 で企業の課題と向き合い解決するパートナーです。 

アイリッジの沿革

株式会社アイリッジ代表取締役社長 小田 健太郎氏

創業の経緯

2008年、まさにスマートフォンが世の中に登場し始めた前後で設立された会社です。

私は、新卒でNTTデータへ入社、その後ボストン・コンサルティング・グループへと転職し、それぞれでITと事業開発についての業界知識とノウハウを習得していました。

父親が起業家ということもあり、自分もいずれは会社を立ち上げたいと思っていましたので、この2社での経験の掛け合わせで起業をしようと考えたことがきっかけです。

特に、ボストン・コンサルティング・グループでは、ガラケー・モバイルインターネットの全盛期に事業開発に携わっていましたが、そこに外部環境の変化が重なり、「IT × モバイルインターネットビジネスで起業しよう」と決めました。

また、当時の日本ではまだスマートフォンに対する企業側の注目度も低く、スタートアップならではの施策として、「大企業がいないところで先行優位性を取りに行こう」という戦略もありました。

スマートフォンの大きな特徴の一つに位置情報の取得があります。

そこで、画面にプッシュ通知を出すことをコア機能とし、位置情報を掛け合わせてクーポンを配信するというマーケティング支援を、大企業向けに開始いたしました。

これが現在の主力ビジネスであるマーケティング支援ツール「FANSHIP」の始まりです。

受託開発とソリューション提供の両輪展開へ

2011年頃からはスマートフォンの認知度が向上し、企業側もその重要性を高く評価するようになっていました。

そこで、企業向けアプリの受託開発も本格的に事業としてスタートさせることとなり、以降この2軸で成長を続けてきました。

アプリ向けのマーケティングSaaSツールの提供から、アプリ本体の開発へと事業領域を拡大させたことは、振り返りますと当社の転換点であったとも言えます。

繰り返しになりますが、スマートフォンが徐々に世間から注目され始め、企業側も「消費者向けのマーケティング手法や接点として必要である」と認知し始めたタイミングがまさに2011年から2012年頃のことです。

この時点で、すでに当社は創業当時から先行的に積み上げてきた実績と経験を持ち合わせておりました。

以後、上場を果たした2015年までの急激な成長を牽引したのも、創業当時からこの両軸からなるアプリビジネス事業をしっかりと育ててきたからこそだと認識しています。

Tech&Innovation partnerへ

尚、現在の事業領域は、アプリ開発に留まらず、アプリの運用・グロース支援やアプリを用いた新規事業開発支援、あるいはフィンテック事業やビジネスプロデュース事業などアプリ以外のDX領域にまで拡大しています。

2024年春には、2027年までの3カ年を対象とした中期経営計画を公表いたしました。

2027年とその先の長期の成長を見据え、顧客企業のTech&Innovation partnerとして成長を加速させるべく、さらなる事業領域の拡張を進めており、今もまさに新たな転換点の最中にあると考えております。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

アイリッジの事業概要と特徴

概要

当社の事業は、アプリビジネス事業とビジネスプロデュース事業、そしてフィンテック事業の3つのセグメントから成り立っており、当社およびグループ会社3社が一体となってサービスを提供しています。

その競争力の源泉は、強みである「開発力」「ビジネス創出力」「顧客基盤」からもたらされています。

各強みについては後ほど詳しくご説明します。

また、業績面での特徴としては、「FANSHIP」や「APPBOX」、アプリの保守運用、準委任型の契約による継続的な開発、ビジネスコンサルティングといったストック収益が年間を通じて売上計上されています。

一方で、請負契約型のアプリ開発やクリエイティブ制作、プロモーション支援などはフロー収益で、かつ、予算規模の大きな一部の案件に係る売上は、顧客企業の予算執行のタイミングが年度末に偏重している影響を受けるため、例年、下期偏重の業績となる傾向があります。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

長年積み上げてきた「開発力」

「開発力」として、アプリ開発における、最先端のニーズに対応可能な受託開発(オーダーメイドで企画・開発する、スクラッチ開発)に強みを持っています。

また、開発後にその効果を最大限に向上させていくことも当社の提供価値です。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

そこで、アプリに組み込むマーケティングツール「FANSHIP」を一緒に提供し、ユーザーのアプリ内での動向を可視化することで、より効率的なマーケティング施策の運営を可能にしています。

さらに、2023年4月から提供を開始しているアプリビジネスプラットフォーム「APPBOX」を「FANSHIP」の後継ソリューションとして展開を進めています。

「APPBOX」ではアプリビジネスにおいて使われる機能をあらかじめモジュール化して、必要な機能を組み合わせることでアプリ開発の効率化を実現し、また、既に運用中のアプリに対してもモジュールを組み込むことで機能拡張を、あるいはマーケティングツールとしての支援まで可能にしています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

このように受託開発とソリューションの両輪を伸ばして事業成長を続けている会社はなかなか少ないと認識しています。

また、受託開発において各業界の大手企業が求める最先端のニーズと常に向き合い続けているからこそ、ソリューションとして落とし込む際にも質の高いものを提供できており、ここにも両輪を兼ね備えるがゆえのメリットが生まれています。

統合マーケティング支援による「ビジネス創出力」

次に「ビジネス創出力」についてですが、マーケティング支援の領域をより広範にカバーしていこうという戦略のもと、2018年に株式会社Qoilが当社のグループに参画しています。

昨今では店舗・インターネット上の双方でスマートフォンアプリが重要な顧客接点となっていますが、企業視点では、マーケティング施策はアプリの分野だけではありません。

同社が加わることで店舗などリアル側の企画や制作といった領域を含め、販促支援をよりトータルでサポートする体制が構築できています。

また、2024年4月からは新たにビジネスプロデュース本部を設置し、施策の実行支援だけではなく、バリューチェーンのより上流から顧客企業の課題と向き合い、ビジネスの戦略立案をはじめとした統合マーケティング支援を提供しています。

このような取り組みの積み重ねがアイリッジの「ビジネス創出力」の源泉となっています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

強固な「顧客基盤」

当社は⼩売・鉄道・⾦融業界等の⼤企業を中⼼に強固な「顧客基盤」を築いています。

また繰り返しとなりますが、当社のように「開発力」と「ビジネス創出力」を併せ持つ企業は、業界内でも稀有な存在です。

「競合するのではないか」と考えられがちな大手SIerは企業の基幹システムなど大規模なシステム開発を中心に取り組んでいますので、スマホアプリ開発領域を得意とする当社とは別の領域であり、競合することはほぼありません。

また、現在のアプリ開発案件は概ね数百万円〜数億円の規模感となっています。

その中でも、当社は規模の大きなアプリの開発を得意としており、その結果、各業界における大企業との取引を実現してきました。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

例えば、ファミリーマートに提供したアプリ「ファミペイアプリ」では、当社が開発支援を行い、「FANSHIP」が導入されているバーコード決済機能付きアプリとなっています。

「ファミペイアプリ」ではクーポン利用・ファミペイ決済・ポイント付与/利用がバーコードのスキャン1回で完結するというもので、顧客企業がアプリを通じて実現したい世界を、当社が積み上げてきた「開発力」で支援しています。

また、2024年2月にJR西日本とデータ分析およびDX支援領域における更なるビジネス拡大に向けて業務提携契約を締結しました。

このように、当社は各業界の大手企業との良好な関係を築き上げており、この強固な「顧客基盤」は当社が今後成長していくための支えとなっています。

事実として、当社プロダクト導入アプリのMAU約9,000万という実績がこの強みを裏付けています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

アイリッジの成長戦略

アプリビジネス事業の継続成長

引き続きアプリビジネス事業の継続成長を進めていきます。

具体的には、アプリ開発とその効果の最大化を追求し、業界ごとのノウハウをしっかりと蓄積していきます。

特にアプリ開発は、小売店や商業施設、鉄道、金融機関などで、リアルでもお客様に商品を購入していただくためにはどの様な仕様にしていくべきか、という視点が必要です。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

また、IT人材の需給バランスの崩れから他社も含め優秀な人材の採用競争が激しくなっています。

その中で当社は、拠点がなくともフルリモートで働くことのできる体制を整えることで、地方採用を強化し、採用の対象者を拡大させてきました。

今後は、M&Aの活用を含めて優秀なIT人材の確保を進めることで、体制面からも当社のプロフェッショナルサービスを一層拡大させていきます。

さらに、消費者だけではなく、店舗や顧客情報の管理を行うことができる、スタッフ専用の情報端末(従業員向けアプリ)へのビジネスを拡大していきます。

クライアント企業への支援を一層強化するため、例えば消費者の店内行動をデータ化するといった業務システムに近い分野にも裾野を広げていきます。

当社のクライアント企業は、消費者とリアルな接点を持っているからこそ、まだDX化の余地が多く残されていると考えています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

DX領域への展開

アプリ以外のDX領域への展開も当社の成長戦略の1つです。

アプリビジネスで得られた強固な顧客基盤を活かし、各業界に応じたアプリ関連以外のデジタル領域へ進出していきます。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

その一環として、今春、資本業務提携を実施しましたディップ株式会社と共同でEX(Employee Experience:従業員が働くことによって得られる体験価値)-DX領域における新たなサービスを2024年秋より提供開始を予定しております。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

ビジネスプロデュース事業領域への進出

また、2024年4月1日からビジネスプロデュース本部を設立し、新たな事業軸となる「ビジネスプロデュース支援」の体制を強化しています。

ビジネスプロデュース事業では、マーケティングに関するコミュニケーションデザインやセールスプロモーション(ブランドデザイン、店頭什器製作などのクリエイティブ等)による実行支援で培ってきた強みを活かした展開を考えています。

具体的には、顧客企業の戦略立案からデジタルとリアルを統合した施策の企画・実行を支援するプロデュース部を中心とした社内体制の強化を進めることで、一層の顧客価値の拡大を図ります。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

フィンテック事業の成長加速

新規事業として取り組んでいるのがフィンテック事業(デジタル地域通貨事業)です。

特定の地域でご利用いただけるスマートフォン専用のデジタル通貨で、サービス開始依頼、順調に推移してきました。

直近では、コロナ禍を契機に地方経済の活性化がより謳われるようになり、導入が進んできました。

代表的な導入事例としては、岐阜県飛騨市、高山市、白川村の地域で使用可能な「さるぼぼコイン」です。

このアプリは岐阜県飛騨市、高山市、白川村の地域で使用可能で、市民への災害情報のプッシュ配信機能など、決済機能(キャッシュレス機能)以外のサービスも兼ね備えたアプリです。

そのため、2017年のリリース以来、地域住民をはじめとした多くの方にダウンロードいただいております。

このような革新的なサービスの提供による成功事例は業界内で広がっており、多くの自治体とのプロジェクトが増えています。

現在、アプリユーザーである住民との接点となる決済アプリの特長を活かして、プレミアム付商品券事業や、福祉・地域活性のポイント事業、ふるさと納税、税公金納付などの行政DXのインフラとしての機能を拡張していくことで、さらなる成長加速を図っています。

そして、デジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」の提供を通じて、地域経済の活性化や行政DXの支援を行っています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

まずは日本全国、どこでも当社が支援するデジタル通貨が使われている状態を目指していきます。

我々の一番の目的は「特定のエリアにおいて、この通貨が循環を続けることで、その先にある地域活性化支援に繋げること」です。

この成し遂げたい目的のために、まずは経済振興をサポートする自治体の数を増やしていきたいと考えています。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

2024年から2027年までの3カ年においては「開発力」と「ビジネス創出力」という我々の強みを活かした顧客企業のTech & Innovation Partnerへ成長していきます。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

アプリビジネス事業、ビジネスプロデュース事業は、既存の対象市場のみでも顧客基盤の拡大余地は十分にあります。

また、企業のDX需要の高まりにより今後さらなる市場規模の拡大が見込まれております。

そして新規事業として取り組んでいるフィンテック事業は、成長性が高く、地域活性化や経済活動の活発化に寄与する社会貢献の高いビジネスです。

具体的な業績目標は、2027年3月期に売上高82億円、調整後営業利益5億円以上をオーガニック成長のみで達成するとともに、新規事業の成長やM&Aによる売上・利益のさらなる積み上げを目指すものとしております。

ぜひ当社の取り組みに興味を持っていただき、強みを活かした成長戦略にご注目ください。

株式会社アイリッジ 2025年3月期 第1四半期決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は、これまで企業向けスマホアプリ開発企業として成長してきました。

ここからは、従来のアプリビジネス事業における成長に加えて、ビジネスプロデュース事業での成長も加速していきます。

今春に資本業務提携を行ったディップ社とは、今年度中に提供開始予定としている新サービスに向けて水面下での取り組みが進んでおります。

当社は、さらに拡大していく市場の中で、引き続き事業領域を拡張しながら成長を続けていきます。

また、ビジネスの観点でも、フロー収益により強固な顧客基盤を形成しつつ、継続取引によるストック収益をしっかりと積み上げていくモデルを作っています。

ぜひ魅力的な企業として、ご興味を持っていただければ嬉しいです。

株式会社アイリッジ

本社所在地:〒106-0041 東京都港区麻布台1-11-9 BPRプレイス神谷町10F

設立:2008年8月29日

資本金:1,207百万円(2024年3月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2015年7月16日上場)

証券コード:3917

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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