※本コラムは2024年10月2日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社L is Bは”立って働く人・企業”に最適化する、現場向けのDXプラットフォーマーです。
代表取締役社長CEOの横井 太輔氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社L is Bを一言で言うと
現場向けのDXプラットフォーマーです。
L is Bの沿革
創業経緯
私は株式会社ジャストシステムというソフトウェア会社で営業や商品企画、さらには新規事業の立ち上げなどに携わっていました。
ジャストシステムは、日本語解析や、かな漢字変換技術に強みを持つ会社で、言語処理技術を活用した製品開発を手掛けていました。
私は新たな市場を開拓する経験を積みながら、いずれは自分で事業を立ち上げたいという想いを持つようになりました。
そして、2010年にタブレットやスマートフォンといった新しいデバイスが台頭し、このイノベーションは大きなビジネスチャンスだと感じ、ジャストシステムのエンジニアと共に当社を立ち上げました。
創業時はTwitter(現在はX)のテキストを解析し、自動的にイラストに変換する「Feel on!」というアプリ開発とその運用が主なビジネスでした。
当時、Twitterには多くのサードパーティー製のアプリがあり、「Feel on!」はスマートフォン普及率がまだ低い時期にも関わらず50万ダウンロードを超える大ヒットアプリとなりました。
しかし、2011年にTwitter社がAPIの仕様を変更し、サードパーティーアプリを一斉に排除する動きがあったため、私たちの事業も一時的に停滞を余儀なくされました。
そして、次のステップに進むべく、受託開発の道を模索し始めました。
受託開発と「direct」の開発
受託開発を進めている中で、ある大手企業から依頼を受けたプロジェクトがきっかけで「direct(ダイレクト)」が誕生しました。
その企業はスマートフォンを社員に配布したものの、現場の従業員はメールや電話、ゲームにしか使っていないという状況でした。
これではスマートフォンを有効活用しきれていないということで、私たちは現場向けに特化した業務支援ツール開発に着手しました。
こうして生まれたのが「direct」です。
現場では、デスクで座って作業することがほとんどないため、PCではなくスマートフォンなどのモバイルデバイスを活用した方が業務の効率化に役立ちます。
実際、「direct」を導入した企業からは、業務の効率化だけでなく、現場のコミュニケーションが格段に向上したというフィードバックを多くいただいています。
そのような現場に特化したアプリ開発が功を奏し、ドン・キホーテや竹中工務店など、大手企業での全社導入が着実に進み、近年では現場仕事におけるコミュニケーションが必要となる建設業界での採用が急増しています。
2024年3月に上場
「direct」は大手企業を中心にエンタープライズの会社が採用しているため、長期的な関係を構築していくためには上場企業としての信用や信頼感が重要だと考えました。
また、上場によって採用力が向上し、優秀なエンジニアの安定に確保できるという期待もありました。
IT業界ではエンジニアの採用競争が激化していますが、上場しているかどうかが採用の決め手となることも多く、結果として2024年度は半期決算のタイミングで目標以上の優秀なエンジニアを採用することができました。
L is Bの事業概要と特徴
概要
当社の主要サービスである「direct」は、現場向けに特化したコミュニケーションプラットフォームです。
このツールは、特に建設業界で広く活用されています。
売上の6割は建設業界ですが、残りの4割は鉄道業界やアパレル業界、流通業界など様々な業界からの売上です。
「direct」の仕組みは、元請企業が契約して利用を始め、その後、招待を受けた協力会社や現場の作業員が使用する形で広がっていきます。
その招待されたユーザー数に応じて従量課金されるため、ユーザー数が増えれば増えるほど売上を積み上げることが可能な仕組みとなっています。
事業における優位性
現場のコミュニケーション”インターフェース”としての普及
「direct」の最大の特徴は、現場に特化したインターフェースにあります。
建設現場、鉄道、物流、電力といった多様な業界において、デスクに座って業務をこなす人よりも、現場を歩き回りながら業務を進める人々のためのツールに仕上がっています。
これまで、デスクワーク用のツールは多く提供されていましたが、現場のニーズに応じたツールはありませんでした。
そのため、「direct」は、スマートフォンやタブレット上で簡単に操作できるインターフェースを備え、現場の作業員がスムーズに使えることを念頭に設計されています。
そして、ただ単にメッセージを送るだけでなく、業務指示や進捗管理、トラブルの報告など、あらゆる業務プロセスをデジタル化し、リアルタイムで共有することが可能です。
また、建設業界特有の多重下請け構造を考慮し、元請企業が契約者となり、複数の協力会社に提供することで、不用意に協力会社間でのつながりを作ることなく、同一のシステムで情報を共有できるという点が大きな強みです。
この強みを支えているのは「direct GuestMode(ダイレクトゲストモード)」というユニークな機能です。
外部の協力会社間での情報共有は価格や契約条件といったセンシティブな情報が不適切に漏洩する可能性があり、元請け企業にとっては高いリスクです。
また、現場の情報が想定されていない形で伝わってしまった場合、事故の発生につながる可能性もあります。
そのため、アカウントを持っていれば誰とでもコミュニケーションを取れてしまう一般的なチャットアプリは使用できません。
しかし、「direct GuestMode」では協力会社などの社外メンバーを「ゲスト」として「direct」に招待して情報共有することが可能です。
ゲスト同士はお互いの存在が見えないため、元請け企業からの必要な情報のみを受け取ります。
これは、多重下請け構造を取る建設業界において、情報共有の安全を図るための有効な機能として、特に評価いただいております。
チャットボット・連携アプリ群による”現場業務のDX”
「direct」のもう一つの強みは、チャットボットや連携アプリ群を活用して、現場業務のDXを推進できることです。
建設業界向けのアプリとして、設計図面の共有や管理を行う「スパイダープラス」などを含む様々なツールがあります。
「direct」はあくまで現場DXを支える”コミュニケーションプラットフォーム”です。
自社開発した新たなツールについては「direct Apps」として、様々な現場アプリを2022年4月からリリースし続けています。
また、他社サービスとの連携も積極的に行っており、各社のアプリケーションからの通知を「direct」が受け取っています。
顧客要望を迅速にサービス化する”社内開発体制”
「direct」は、すべて自社開発しており、当社は顧客の要望を迅速に反映できる強力な社内開発体制を有します。
当社が採用している「9週間ルール」は、9週間ごとに新機能を実装し、顧客の要望をシステムに反映する開発サイクルです。
常に顧客の最新のニーズに応じた機能を提供し続け、サービスの進化を止めることなく続けてきました。
当初は「6週間ルール」でしたが、顧客の要望や機能の複雑化に伴い、テストや品質管理の時間を十分に確保するために9週間に延長されました。
さらに、エンジニアには「価値ある1週間」として、9週間のうちの1週間を自由に使える期間を設けています。
この期間を活用してエンジニアたちは新しい技術を学ぶ、インスピレーションを得る、リフレッシュする、など各自に任せていますが、彼らが高いパフォーマンスを発揮できるような環境を整えています。
このように社員を大切にし、社内で開発できる環境を整えていることが、顧客ニーズに応える高品質なサービスの継続的な提供を可能にしています。
L is Bの成長戦略
セールス戦略
現在、「direct」は建設業界を中心に強固なポジションを確立しており、日本国内のトップゼネコン20社のうち19社が導入しています。
さらに、残る1社についてもトライアルを開始しており、今後は日本の建設業界全体に「direct」が浸透する見込みです。
ただ、建設業界は一言で片付けることができないほど裾野が広く、建築、土木、内装工事、設備工事というように多岐にわたります。
そのため、ゼネコンのうち建築、土木などの全領域で「direct」が導入されているのは、トップゼネコンのうち6社しかありません。
そのため、残りの14社だけでもかなりのマーケットが残っています。
建設業界のマーケットは50兆円の市場と言われていますが、そのうちのIT投資が仮に1%だとしても5,000億円規模と巨大な市場が広がっています。
また、建設業界のみならず様々な”現場”に関わる分野に進出しております。
鉄道業界においてはJR西日本では全社導入されており、JR東海でも導入が決まっています。
さらに、電力会社やアパレル、流通業者など「立って働く人」がいる業界への導入が進んでおり、今後もさらに多くの分野に広げていけると期待しています。
サービス戦略
私たちは今後も「9週間ルール」による定期的なアップデートを重ね、現場のニーズを取り込みながらサービスの改善に努めます。
一方で、アプリの改善だけではなく新サービスの開発にも注力しています。
具体的には現場で蓄積される膨大なデータを活用した新たなソリューションの開発です。
「direct」には、日々の業務の進行状況や作業指示、トラブル報告といったデータが蓄積されています。
このデータと生成AIを用いて、現場の生産性をさらに高めるために、ベテランの現場監督が行っている判断や指示を新入社員でも簡単に参照できるようなシステムを開発中です。
また、熟練者のノウハウを次世代に引き継ぐための「ナレッジ動画」の提供も開始しています。
現場では技術者の高齢化が進む中、ベテランの技術者が持つノウハウや知識を動画形式で保存し、若手社員が動画で学べるようにする「ナレッジ動画」を提供することで、技術継承の課題を解決していきたいと考えています。
注目していただきたいポイント
今後の日本において、少子高齢化に伴う労働人口の減少は避けることのできない課題です。
特に、建設業界や現場での労働者不足は深刻化しており、その影響はあらゆる産業に波及すると予想されています。
こうした状況下で、私たちが提供する「direct」のような現場業務を効率化し、DXを進めるツールはますます重要な役割を果たすと考えています。
また、日本国内だけでなく、同様の労働力不足に直面している海外の市場でも、私たちのサービスが必要とされるはずです。
建設業界や製造業、物流業界など、多くの現場が存在する国々に向け、将来的には海外展開もしていきたいです。
また、私たちは決して「direct」単体のサービスにこだわっているわけではありません。
現場の課題を解消する、現場の生産性を高めるための「現場DX」にこだわり、新たなサービスを次々に開発していきたいと考えています。
例えば、自治体向けにトラストバンクが提供している「LoGoチャット」は当社がOEMで開発したものです。
さらに、2021年にリリースした「しんきんdirect」は信用金庫と取引先のオンラインでのコミュニケーション手段を実現するサービスですが、この開発にも当社が関わっています。
このように、当社は単なるSaaSベンダーではなく、現場DXを進めるプラットフォーマーとしてご注目いただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
「direct」はおかげさまで10周年を迎え、これまでに大きな事故や情報漏洩もなく、安定して運営してまいりました。
私たちは、品質にこだわり、真摯にサービスを作り上げてきた結果、お客様からの信頼を築くことができました。
特に、建設業界をはじめとする現場でのコミュニケーションに不可欠なツールとして、多くの企業にご利用いただいています。
現場DXをターゲットにしたユニークな会社として注目していただき、当社の成長に期待していただけると嬉しいです。
投資家の皆様には、ぜひ長期的なご支援をお願い申し上げます。
株式会社L is B
本社所在地:〒101-0032 東京都千代田区岩本町三丁目11番11号 プルータスビル2F
設立:2010年9月29日
資本金:629,867,008円(2024年10月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2024年3月26日上場)
証券コード:145A