※本コラムは2024年10月4日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社は、未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術とバイオ技術を活用した研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献していきます。
代表取締役の大畑 恭宏氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社を一言で言うと
「ヘルスケア・イノベーションの黒子」です。
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズの沿革

創業の経緯
当社は2003年に設立されました。
2001年に慶應義塾大学の先端生命科学研究所が山形県鶴岡市に誘致され、その際、当研究所の富田教授と曽我教授が当社の創業者となりました。
当社は慶應義塾大学発の第一号ベンチャー企業として誕生し、メタボロミクス、すなわち”代謝を網羅的に把握する“という研究領域にて、メタボローム解析を得意としてきました。
このメタボロミクスやメタボローム解析については、あまり耳慣れない言葉だと思いますので、これからご説明させていただきます。
メタボロミクスとメタボローム解析
「メタボリック・シンドローム」という言葉がありますが、これは健康な人に比べて代謝に問題があるため、脂肪を効果的に分解できず皮下脂肪が蓄積してしまう状態を指します。
メタボロミクスは、この”メタボ”の部分に関連しており、代謝を網羅的に解析することで生命現象を明らかにしようというものです。
代謝とは、生体内での化学反応を指し、エネルギーの生成や細胞の形成、不純物の分解・排出といった役割を担っています。
例えば、アルコールの代謝を例に考えてみましょう。
ビールを飲んだ際、適量であれば気分が良くなる程度ですが、飲みすぎると二日酔いになり頭痛などの症状が出ます。
この頭痛は、アルコールに含まれるエタノールが代謝されて変化したアセトアルデヒドによって引き起こされます。
さらに代謝が進むとアセトアルデヒドは酢酸に変化し、徐々に頭痛は解消されていきます。
このように、体内では様々な酵素が働き、代謝が起きています。
この代謝によって引き起こされる物質を網羅的に解析し、バイオマーカー探索や薬の作用機序解明など、顧客の研究開発支援を行っているのが当社です。
上場と事業再編
2012年にはアメリカに子会社を設立し、2013年12月に東証マザーズ市場(現 東証グロース市場)に上場しました。
上場前に当社はうつ病のバイオマーカーを発見したため、”うつ病の診断薬”の開発を目的に、創薬ベンチャーのようなビジネスモデルでの成長を期待され、上場を果たしました。
バイオマーカーとは、疾患の有無や病状の変化、治療の効果の目安となる指標です。
例えば、健康診断で尿酸値が高いと診断された場合には、それが痛風の兆候だとして、医師から飲酒抑制をアドバイスされるなど、注意を受けます。
この場合は尿酸値がバイオマーカーとしての役割を果たしています。
当社はメタボローム解析で、様々な業界に対して、このバイオマーカー探索を支援してきました。
しかし、当社の発見したうつ病のバイオマーカーは尿酸値のようにシンプルな指標ではなく、さらに測定自体が非常に複雑であったこともあり、検査に高額な費用がかかるものでした。
そのため、一般的な健康診断に導入することは叶わず、実用化までには至りませんでした。
そこで、従来のような創薬ベンチャーのようなビジネスモデルでは安定的な成長ができず、事業として成り立たないと考え、2020年以降に事業の方向転換を図ることとなりました。
私がCFOとして入社したのは2020年7月で、その方向転換から1年ほど経過したタイミングでした。
2020年から2022年にかけては不採算事業の撤退など、選択と集中を行い、結果として利益体質へと生まれ変わらせることができました。
2023年以降は、さらなる課題である安定的に二桁成長を達成できる体質に変えることを目標に、事業基盤の強化と成長事業の選定を行ってきました。
そのような中、2024年7月からは私が社長に就任し、さらなる成長に向けた取り組みを行っています。

ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスは主に3つの領域に分かれています。

まず1つ目は、創業以来続けてきたバイオマーカー探索や作用機序解明です。
主に医薬・創薬関連、食品・化粧品関連など様々な業界で活用され、バランスの良い顧客ポートフォリオを構築しています。

市場調査によれば、メタボロミクスの市場規模は2030年までに5700万ドル(約70億円)に達し、CAGR(年平均成長率)は12%を超えるとされています。

2つ目は、昨年から取り組んでいる機能性素材開発支援です。

機能性表示食品は、事業者が科学的根拠を基に商品パッケージに機能性関与成分を示すことで、その食品の機能性を示すことが可能です。
例えば、GABA(ギャバ)などの成分が注目され、GABAを含む機能性表示食品は「ストレスを低減する」というような効果が期待されるものとして広く販売されています。
このように、メーカーにとっては、機能性表示食品はマーケティング上での差別化や高付加価値化に繋がるため、科学的根拠となる機能性関与成分の探索ニーズが高まっています。
しかし、機能性関与成分を探索するステップは煩雑で、検出や特定が完了するまでには時間がかかってしまいます。
そこで、当社の機能性関与成分探索パッケージでは、ある食品に対して含まれている成分を一斉に分析し、どのような機能性関与成分成分が含まれているのかを調べることを可能にしています。
機能性表示食品の市場は年々拡大しており、2023年には約7000億円規模に達し、2024年にはさらに拡大していくとされる成長市場です。

3つ目が”バイオものづくり”における生産性向上支援です。
例えば、ユーグレナさんがミドリムシを利用して飛行機の燃料を生産しようとしているように、微生物や動植物の細胞に遺伝子組み換えを施し、様々な物質を生産しようとする取り組みがバイオものづくりです。
近年では、抗体医薬の製造において微生物に抗体を作らせるという事例もあり、バイオものづくりは資源の無い日本においては、安全保障の観点からも大きく発展していくと考えています。
そこで、当社では生産性の高い微生物を選定し、培養液の最適化や培養条件の最適化など、生産性を高めるための支援を行うべく研究開発を進めています。
グローバルでは市場規模は200兆円〜400兆円になると予想されていますが、日本政府も日本企業全体で100兆円規模の市場創出を行う計画を掲げており、これからが期待される分野です。

事業における優位性
分析技術
当社の競争優位性のひとつは、世界最高水準の高感度網羅解析技術です。
メタボローム解析の分析方法には3種類あり、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)、液体クロマトグラフィー(Liquid Chromatograph:LC)、キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis:CE)に分けられます。
各手法によって測定できる物質が異なりますが、当社は水溶性分析を得意とするCEを主体として、脂溶性を得意とするLCと統合した解析手法による高い網羅性を実現しています。
また特許技術でもある「イオン源アダプタ」の導入により超高感度なメタボローム解析を実現し、これまで解析が難しいとされてきたような物質の測定も可能にしています。
この網羅性は世界的にも評価されており、当社の高い分析技術によって実現されています。

広範な顧客基盤と解析ノウハウ
当社は業界問わず様々なプロジェクトに携わり、顧客の要望に応えてきました。
メタボローム解析を行うためには測定器の購入など多額の投資が必要です。
また、測定する前処理や管理などの専門性の高いノウハウを持った人材が必要です。
一企業が、ある物質を測定するために、大規模な投資を行い、測定のための人材を確保することは難しいため、アウトソーシングのニーズが非常に高い分野です。
また、これまで多種多様なプロジェクトで解析ノウハウを培ってきました。
鶴岡本社には総額10億円以上の測定機器とメタボローム解析に特化した研究員が多数所属しているため、あらゆる需要に対応することが可能です。
この豊富な経験とキャパシティにより新たな取引に繋がり、当社の持続可能な成長を支えています。

ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズの成長戦略
機能性素材開発包括支援サービスの拡販
近年、食品業界では機能性表示食品の開発ニーズが高まっています。
そして、機能性関与成分の探索需要は、研究開発に大規模な投資が困難な中堅・中小企業にあると考えています。
例えば、生鮮食材である”ナス”にも機能性表示食品として認められた事例があり、食品だけではなく食材にも適用できる可能性があります。
当社は地域商社との協業を通じて、これまで機能性表示食品として注目されてこなかったような食品や食材を発掘することで、地域活性化へも貢献できると考えています。

革新的な新サービス導入
当社がこれまで取り組んできたのは主に代謝に関わる成分である低分子化合物の解析でした。
代謝を引き起こす酵素(タンパク質)に影響を与えるペプチドホルモンは中分子化合物に分類されますが、これまで中分子化合物を個別に分析する技術しかなく、それらを網羅的に解析する技術はありませんでした。
そこで、当社は中分子化合物を網羅的に解析する新たなサービスを開発しました。
この結果、メタボロミクスで獲得したデータと中分子化合物を解析したデータを組み合わせ、体内で何が起きているのか、どのように変動しているのかをより詳細に把握できるようになります。
次のステップとしては、新たなバイオマーカー探索支援も視野に入れており、新たな価値提供ができると考えています。

海外事業強化
アメリカ子会社のメガファーマへの売上が成長しています。
アメリカは日本に比べて市場規模が大きく、魅力的な市場です。
しかし、既にメガファーマとは当社と同業種の大手企業が取引を行っており、その牙城を崩すのにはアメリカに進出した2012年から10年ほどかかりました。
専門性が高い分野であるため、代理店ビジネスが成立せず、外部パートナーを介さずに直接開拓し、少しずつ市場に食い込むことができました。
今後はさらなる拡大に向けて当社の技術力を武器に営業強化と販促強化を図り、市場成長とともに売上を伸ばしていきたいと考えています。

新規事業創造
当社は新規事業として、バイオものづくりの生産性向上サービスを提供すべく、開発を推進しています。
仮にバイオものづくりの技術が開発されたとしても、生産コストが高すぎると実用化できません。
そのため、バイオものづくりがこれから発展していくためには、その生産コストを下げていく必要性があります。
今後、当社のメタボロミクスによる代謝分析やシミュレーションを行い、生産性を高めるサービスを提供していきます。
バイオものづくり市場の発展に貢献し、当社サービスの提供価値を高めながら収益化を実現したいと考えています。

注目していただきたいポイント
当社は11期連続で増収を達成し、安定的に配当を実施しており、バイオベンチャーとしては非常に珍しい存在です。
数字面で見ると、ROEは15%前後、配当性向は30%強を維持しており、一定の成長性と収益性があると認識しています。
2020年6月期から2023年6月期までは、安定的な利益を確保しつつ、財務体質の強化と株主還元の開始を目標にしてきました。
振り返ると、これは経営基盤の整備に注力した時期でした。
2024年6月期からは、当社の成長基盤を構築するフェーズに入ったと考えています。
これまで、事業の方向性が変化してきましたが、どの事業分野で大きな成長を遂げるかを見極める時期と考えています。
少なくとも今後3年間は2026年以降の成長に向けた準備期間として位置付けており、実際に新たな事業に向けた成長投資に舵を切っているのは昨年からです。
当社のビジネスモデルの特性上、投資の成果が出るまでに相応の時間がかかりますが、安定的に収益を上げながら着実に成長しています。
戦略的な投資で中長期的に成長できる会社であること、そして株主還元についてもしっかりと考えている会社であることにご注目いただければと存じます。

投資家の皆様へメッセージ
当社の事業内容は、専門性が高くなじみにくい部分もあるかと思いますが、今後の成長に向けて様々な取り組みを進めております。
ぜひ当社に興味を持っていただき、長期的な視点で成長を期待して見守っていただければ幸いです。
これからも企業価値の向上に努めてまいりますので、引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
本社所在地:〒997-0052 山形県鶴岡市覚岸寺水上246-2
設立:2003年7月1日
資本金:1,487百万円(2024年10月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2013年12月24日上場)
証券コード:6090