※本コラムは2024年10月10日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ファーストアカウンティング株式会社は独自開発した生成AIを活用し、経理業務の効率化・自動化を推進しています。
代表取締役社長の森 啓太郎氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
ファーストアカウンティング株式会社を一言で言うと
「サブスクリプション型で下振れなく成長を目指す会社」です。
ファーストアカウンティングの沿革
創業の経緯
前職は食品系のECの代表を務めていました。
食品メーカーや農家さんとの請求書のやり取りをする中で、中小企業間の取引には多くの課題があると感じていました。
月初になると「入金はまだですか」という問い合わせが頻繁に発生し、その原因となるのは請求書の送付忘れや紛失、口座番号の誤りなど、書類によるやりとりに起因するものでした。
この問題を解決するため、請求書のやり取りを電子化できないかと考え、会計ベンダーやERPベンダーに相談しましたが、どこも「対応は難しい」との回答ばかりでした。
日本国内には30社以上の会計ベンダーが存在し、請求書のフォーマットも業種や業態によって異なるため、既存のOCR技術では対応できず、その開発も困難だと言われました。
その課題に対して、自分で解決するしかないと考え始めた矢先、ちょうどTeslaやGoogleがAIを活用した自動運転技術で注目を集めていたことに気付きました。
そこで、AIを請求書の読み取りに応用できるのではないかと考えた私は、2016年に当社を設立し、全ての私財をAI開発に注ぎ込むことを決意しました。
エンタープライズ領域へ
創業当初は、中小企業向けにサービスを提供していましたが、日本郵便の入札案件をきっかけにエンタープライズ領域(大企業)に本格的に進出しました。
日本郵便には会計センターという部署があり、そこで請求書処理の効率化を図るためにOCR技術を使った自動化のための入札が行われました。
大規模な入札案件であったため、日本国内の主要なOCRベンダーが多く参加しましたが、最も高い精度を示したOCRは当社が開発したものでした。
この評価を受け、当社の技術が大企業にも十分に通用することが実証されたため、大企業向けの市場にも参入しました。
エンタープライズ領域では自動化ソリューションのニーズが高く、経理業務を自動化するソリューションビジネスが急拡大し、一気に業績を伸ばしました。
現在、売上の約3割は会計ベンダーやERPベンダー経由ですが、残りの約7割は大企業との直接取引によるもので、当社の強固な顧客基盤となっています。
ファーストアカウンティングの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスモデルには大きく分けて3つの柱があります。
1つ目は、経理業務を支援するAIモジュール「Robota」シリーズです。
AIを活用したOCR技術により、領収書や請求書を高精度で読み取る機能や、台紙からの切り取りといった前処理、さらに仕訳や確認作業など、経理業務の効率化に寄与するさまざまな機能を備えています。
この「Robota」を企業の経理部門向けにモジュール化して提供することで、従来の手動入力に伴うミスや作業コストを大幅に削減し、業務の効率化を実現しています。
2つ目は、請求処理プラットフォーム「Remota」です。
このプラットフォームは、経理業務の効率化とリモート対応を可能にする直感的なUI(User Interface)を備えており、メールで受信したPDFファイルを自動処理する機能や、ERPとのAPI連携、CSV出力など、多彩な機能を提供しています。
3つ目は、電子請求書サービス「Peppol」です。
当社の技術は、国内26社に上る会計ベンダーの基盤として採用されており、電子請求書の発行および処理において「Peppol」が中核的な役割を果たしています。
ビジネスフローとしては、会計ベンダーにOEM提供するケースと、大企業のERPシステムに直接組み込むケースの2種類があります。
収益モデルはサブスクリプション型を採用しており、ストック型収益が全体の8割以上を占めています。
この安定した収益基盤により、持続的な成長を実現しています。
事業における優位性
AIプロダクトの自社内開発体制
当社の強みの1つは、AIプロダクトの自社開発体制です。
創業当初から、外部の技術に依存せず、独自にAI技術の研究開発を進めてきました。
特に、経理処理に特化したAIの開発では、業界特有の複雑なルールや慣習に対応する必要があり、一般的なAI技術では十分に対応できません。
当社では、ラージランゲージモデル(LLM)や自然言語処理(NLP)を駆使し、日本語の文脈や文法に対応した生成AIを開発しています。
これにより、請求書や領収書などの帳票類を高精度で読み取り、分類や仕訳を自動的に処理することが可能です。
さらに、当社の生成AIは日本語だけでなく英語にも対応しており、グローバル市場でも活用できるよう設計されています。
加えて、海外においても技術力が高く評価されており、生成AIに関連する5本の論文が国際的に採択されています。
パートナーセールス体制
強力なパートナーセールス体制も当社の大きな強みです。
私たちは自社で新規案件を開拓するだけでなく、戦略的にパートナー企業と提携し、広範なネットワークを活用して事業を拡大しています。
特に、アクセンチュアやアビーム、デロイトといった大手コンサルティングファームや、NTTデータ、SCSKといった大手SIerと連携しています。
このような大手企業とのパートナーシップは、一般的なSaaSベンダーでは珍しく、当社がエンタープライズ領域に進出するための強力な支えとなっています。
特に、ERPなどの大規模プロジェクトにおいては、導入時のコンサルティングが不可欠であり、こうしたパートナー企業を通じて当社のソリューションを紹介いただくことで、顧客の経理業務の効率化に貢献しています。
経理帳票のアナログとデジタルの両面に対応
経理業務において、アナログとデジタルの両方に対応できる点は、他社には容易に真似できない当社の大きな差別化ポイントです。
AIを活用したOCR(光学文字認識)技術を用いて、紙の帳票をデジタル化する「Robota・Remota」を提供する一方で、電子請求書の標準フォーマット「Peppol」にも対応したソリューションを提供しています。
企業の経理業務におけるDXは現在進行中で、今後はデジタル化された帳票とアナログ帳票が共存する時代が続くと考えています。
その中で、当社が両方のソリューションを提供できることは、他社に対する大きなアドバンテージとなります。
このハイブリッドな体制こそが、今後の当社の事業成長を支える要素だと考えています。
ファーストアカウンティングの成長戦略
市場環境
当社を取り巻く環境の中で、エンタープライズ領域をSAM(サービス対応市場)と捉えていますが、会計関連ビジネス全体をTAM(総潜在市場)として見ると、その規模は4.5兆円にも及ぶ巨大なマーケットです。
インボイス制度の導入により、中小企業にも適格請求書の発行や処理が求められるようになりました。
しかし、当社の売上の7割以上はエンタープライズ領域に依存しており、大企業ではすでに適格請求書発行事業者としての管理が徹底されているため、インボイス制度による影響は限定的です。
それでも、大企業においては経理人材の確保が困難であり、経理業務の効率化に対するニーズは依然として高い状況が続いています。
AIを活用した経理業務の効率化は、今後ますます重要なテーマとなり、競争が激化すると予想されます。
そのような中、当社は早期から技術開発を進めてきたため、他社に対する優位性を持っていると考えています。
生成AIの研究とサービス化
生成AIの研究とサービス化に関して、当社では短期的には既存サービスの高付加価値化、中期的には生成AIに関連する研究開発、そして長期的には生成AIによる意思決定支援を目指し、最終的には経理業務をすべてAIに任せられるような世界観を描いています。
当社としては、優秀な経理人材には戦略的な財務などの高度な業務を担当させ、単純な経費処理や雑務はAIに任せるべきだと考えています。
現在、成功している企業の多くはすでにAIを効果的に活用しており、このブレイクスルーを支援することが、当社の使命であると捉えています。
その一環として、2024年1月からは高性能サーバー「NVIDIA DGX H100」を複数台導入し、ラージランゲージモデルの研究を一層推進しています。
現在、日本語と英語の両方に対応した生成AIの開発に成功しており、特に英語のモデルは日本語よりも高精度な結果を実現しています。
請求書送付サービスの開発
「Peppol」を活用し、当社は請求書送付サービスの開発に成功しました。
これまで「Peppol」は主に請求書を受け取る側に焦点を当てていましたが、今後は請求書を送る側にも対応できるよう、新たな機能を開発しました。
現在、企業間での請求書授受におけるPOC(Proof of Concept)を実施中です。
例えば、大企業が取引先に大量の請求書を発行する際、従来の紙ベースの請求書では処理に多くの時間とコストがかかっていました。
この電子化サービスが実現すれば、企業間取引がよりスムーズに進行し、結果として支払いサイクルの短縮やキャッシュフローの改善が期待され、更なる価値提供に繋がると考えています。
海外展開
私たちは、日本企業だけをターゲットにしているわけではなく、海外市場にも目を向けています。
市場調査の結果、海外でも当社のサービスに対するニーズが非常に高いことが確認されており、経理業務に関する課題はどの国でも共通しています。
そのため、当社の生成AIや電子請求書ソリューションは、海外市場でも十分に通用すると考えています。
現在、当社のエンジニアの半数は英語を使用できる人材であり、海外事業拠点の立ち上げに向けて、複数の国でグローバル人材を積極的に採用しています。
今後、具体的な展開地域や販売戦略については順次公表していく予定ですが、グローバル展開を成功させるために、基盤をさらに強固にしていきたいと考えています。
注目していただきたいポイント
当社の安定した事業基盤と、AI技術を活用した成長性にぜひご注目いただきたいと思います。
私自身、長年にわたり個人投資家としての経験を積んできた中で、成長企業を選ぶ際に最も重要だと感じているのは、”業績が下振れしないこと”と”成長分野かどうか”です。
業績については、当社の売上の8割以上はストック型の収益であり、景気の影響を受けにくい構造を持っています。
特に、大手企業を中心に顧客基盤を構築しているため、顧客の倒産リスクが低く、安定した収益を確保できる点が当社の強みです。
さらに、成長していくという観点では当社にはAI技術を中心とした革新力があります。
現在、AI技術は産業革命と同様に新たな産業を生み出しており、当社はその一端を担っています。
すでに、AIを活用した経理業務の自動化において確かな実績を残しており、今後さらにこの技術を進化させることで、市場の成長をリードできると自負しています。
また、当社は四半期ごとに業績報告を動画で公開し、透明性の高い情報開示に努めています。
株主総会でも投資家の皆様からの質問を積極的に受け付け、対話を大切にしています。
このような透明性の高さも、投資家の皆様が安心して当社とお付き合いいただけるポイントであると考えています。
投資家の皆様へメッセージ
当社の強みは、安定したサブスクリプション型の収益モデルと、生成AIを自社開発し、業務自動化の分野で実現しているイノベーションです。
これにより、日本企業の生産性向上に貢献し、ひいては日本全体の経済成長に寄与していきたいと考えています。
また、当社のビジネスは、単に利益を追求するだけでなく、地球環境にも貢献しています。
請求書の電子化を進めることで、紙の使用や郵送に伴うCO2排出の削減に繋がるからです。
また、現在の配当性向は10%ほどですが、まだまだ成長余地は大きく、今後もリターンをお返しできると確信しています。
私たちは、こうした成長のビジョンに共感し、社会貢献に関心を持つ投資家の皆様に、ぜひ当社への投資を検討していただきたいと思っています。
ファーストアカウンティング株式会社
本社所在地:〒105-0011 東京都港区芝公園2-4-1芝パークビルA館・3階
設立:2016年6月3日
資本金:354百万円(2023年12月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2023年9月22日上場)
証券コード:5588