【2164】株式会社地域新聞社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年11月5日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社地域新聞社は170万世帯を対象にフリーペーパーを提供し、そのアセットを活用してさまざまな事業展開を見据えています。

代表取締役社長の細谷 佳津年氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社地域新聞社を一言で言うと

地域と地域、人と人をつなぎ、温かい地域社会を創り出す会社です。 

地域新聞社の沿革

株式会社地域新聞社代表取締役社長 細谷 佳津年氏

創業の経緯

当社の創業は1984年です。

創業者である近間が、八千代市の花見川団地という場所で、フリーペーパーを軸に夫婦で始めた事業だと聞いております。

創業当初は資金繰りが大変で、営業も集金も原稿作成も全て近間が担当していたそうです。

数万部の発行から始まったフリーペーパー事業でしたが、徐々に発行部数も増え、一時は200万世帯をカバーするまでに成長しました。

上場の経緯

フリーペーパー事業は順調に黒字化していき、2007年10月には大証ヘラクレス(現 東証グロース)に上場しました。

当時、千葉県の特定の地域情報を提供するという限られた範囲のビジネスで、本当に上場する意義はあるのかという議論もあったようです。

これは私の解釈ではありますが、「自分がリタイアする時には、別の誰かに会社を売るのではなく、従業員や地域の皆さんに引き継ぎたい」という想いで、上場を選択したのだと推察しています。

M&Aの失敗とパンデミックによる赤字転落

2014年に中日新聞社から東京新聞ショッパー社を買収し、発行エリアを東京、神奈川、埼玉まで広げていきました。

しかし、地域性の違いもあり、この買収は結果的にうまくいかず、コロナ禍の煽りも受けて2021年に解散することとなりました。

また、2020年から始まったコロナ禍は当社にとって厳しいものでした。

広告やイベントが軒並み止まり、創業以来経験したことのないような業績不振に陥り、大幅な赤字を計上しました。

また、一時は債務超過寸前となり、2020年頃から監査法人からGC注記が付けられる事態となりました。

経営改革

私は元々は社外取締役を務めていたのですが、2024年2月より当社代表取締役社長に就任しました。

そして、上場している意義や千葉という地域に限定していることの意味を改めて問い直し、脆弱な財務体質を単なるフリーペーパー事業の営業努力だけで挽回するのは難しいと判断しました。

現在はフリーペーパー事業を基盤に、当社のアセットを活用した新しいビジネス展開を模索しています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

地域新聞社の事業概要と特徴

概要

当社の売上の約4分の3はフリーペーパー事業から得ています。

フリーペーパー事業全体を俯瞰すると、新聞広告と折り込みチラシを中心としたビジネスで、収益源は主に2つです。

1つ目は、毎週1回発行しているフリーペーパーに広告を掲載していただくことで得られる広告料収入で、月間約7,000万円ほどの収益があります。

2つ目は、新聞と一緒に折り込まれるチラシによる収益です。

また、最近特に成長しているのが求人広告事業です。

求人ニーズが非常に高まっている中で、人材募集に特化したペーパーや求人広告の収入が急増しています。

この分野は、ここ数年で急成長を遂げており、当社の重要な収益源の1つとなっています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

事業における優位性

9つのアセット

社内の意識も含めて、「フリーペーパーの会社」というスタンスでいる限り、強みを見出すのは難しく、市場の成長性もなかなか見込めない業界です。

しかしながら、フリーペーパー事業自体は現在に至るまでしっかりと黒字を維持してきました。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

そのような中、私が外部とは言え当社との関係性を持ち始めた頃から「素晴らしい」と気づいた点は、このフリーペーパー事業を40年間継続してきたことで社内に構築された、財務情報には反映されていない隠れたアセットとも言うべきインフラや、獲得した無形資産の数々です。

これらのアセットが、フリーペーパー以外の分野にも十分に活用可能であることは、経営や投資の経験に照らし合わせるまでもなく、すぐ直感的に理解しました。

たとえば、当社は毎週1回発行しているフリーペーパーを約170万世帯に配布しています。

ほとんどのフリーペーパー会社は月に1回の発行ペースです。

また、業界内の大手でも月間600万〜700万部の配布というように、当社が170万部を毎月4回配布、つまり月間に配布する量と大差ありません。

このように、ラストワンマイルで手配りによる配布が可能なインフラを持っている会社は他には無く、当社の大きな強みとなっています。

それを可能にしているのが、「ポスメイト」という約2,500⼈の業務委託パートナーが分業で170万世帯にフリーペーパーを届けてくれる仕組みです。

新しいエリアで同様の仕組みを1から構築することは困難ですが、当社はこの仕組みを40年間維持し、確固たる事業基盤を構築してきました。

これらは当社の9つのアセットの中でもほんの一例ですが、唯一無二にして模倣困難なアセットとして、大きなアドバンテージになっています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

地域新聞社の成長戦略

現状と今後の方向性

当社は成長していくための取り組みとしてアライアンスとアドバイザリーボードを活用した戦略を進めています。

もし既存事業のフリーペーパー事業を拡大させるのであれば、対応エリアを広げていく必要があります。

ただし、そのためには競合するフリーペーパー会社と対峙する必要があり、エリア拡大にはリソースを投入してじわじわと領地を広げるか、他社を買収する以外に方法はありません。

実際、日本全国のフリーペーパー会社を買収するというのは現実的ではなく、戦国時代の天下統一のような話になります。

そこで、当社はむしろ自社のアセットを他社に活用してもらい、お互いの強みを活かすアライアンスを中心とした、追加投資の少ない新規事業の立ち上げを目指すというマインドセットに切り替えています。

そこでキーとなる考え方が、9つのアセットを活用することです。そのために、それらのアセットを維持・強化することが大前提となっています。

これらのアセットは、フリーペーパー事業を続けてきたからこそ築けたものであり、もしフリーペーパー事業をやめてしまうと、それらのアセットも失われてしまいます。

そのため、フリーペーパー事業は、単に利益を稼いだり企業価値を高めたりするためのものではありません。

事業を続けることでアセットの維持と強化につながり、さらにそのアセットを活用して新しいビジネスを展開していく、そのように考えています。

コア事業を担う社員の重要性や役割については、社内でもしっかりと認識されていると思います。

一部の社員はアライアンスを通じて他社と交渉したり、新規事業を考えたりする役割を担っていますが、全体の約8割の社員は従来と同じ業務に従事しています。

アセットの価値を再定義したことで社員のやりがいという点では変化があり、事業戦略の方向性を変えることでのチャレンジが社員のエンゲージメントを高めているのかもしれません。

たとえば、これまでは営業会社として売上至上主義という考え方が強く、2,500人規模の「ポスメイト」の存在についてはあまり注目されていませんでした。

しかし、改めてこの配布網は非常に貴重な財産であり、しっかりと守り育てていくべきものだという方針が共有され、管理の負担は依然として大きいものの、「当社のコア事業を支える大切な基盤であり、今後のアライアンス展開にも可能性を秘めた重要なアセットである」という認識が広がっていると思います。

11月に実施したエンゲージメントサーベイによると、平均よりも23ptほど高いという結果が出ています。

アライアンス戦略

アライアンス戦略については、戦術レベルでは3〜4つほどの案を考えており、それを1つのカテゴリーとしてまとめています。

まず、他社と提携して取り組む事例についてお話しします。

たとえば、株式会社ツナググループ・ホールディングス(以下ツナググループ) さんは求人サイトを運営している会社ですが、首都圏を中心に、ウェブプラットフォームを通じて求人情報と求職者のマッチングを行っています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

すでに千葉エリアで約6,000〜7,000件の求人情報を確保しており、そこに1万人単位の求職者が訪れています。

ただ、現在ツナググループさんは大企業の人事部門全体の業務を受託して、調理人や洗い場スタッフなど、常に発生する求人をまとめて支援する事業に注力しています。

そのため、千葉県における営業部隊を大規模に配置するのは非効率だということで、当社との連携が実現しました。

当社は千葉県内に5つの支社を持ち、営業スタッフが日常的に広告のニーズを拾い上げています。

その営業活動の延長として求人情報の収集も可能な体制が整っているため、ツナググループさんとの共同で販売する形で提携しています。

この提携により、ツナググループさんは新たに営業リソースを割く必要がなくなり、当社は彼らの持つ求人プラットフォームを活用できるようになりました。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

このようなアライアンス事例は求人分野だけにとどまりません。

たとえば、現在進行中の話として、SDGsやESGに関する取り組みがあります。

近年、上場企業だけでなく中小企業にもSDGsへの対応を求める動きが高まっていますが、千葉県内を中心とした累計8万社のクライアントの多くが「何をどう進めればいいかわからない」という課題に直面しています。

また、SDGsやESGの取り組みを提案したいと考えている会社は効率的にアプローチする手段を持っておらず大きな課題を抱えています。

そこで当社の企画力や提案力、オペレーション力を活かすことで、クライアントである8万社にアプローチし、SDGs関連の提案をスムーズに進めることが可能になります。

このように、当社の高いポテンシャルを持つアセットを活用し、他社とのアライアンスを一つ一つ実現していくことで、将来的に多様な収益源が生まれると考えています。

この成長を見込んだ際に、今の株価にどのように反映させるかを個人版グロース投資家とも言うべき皆様に訴求していきたいと考えています。

アドバイザリーボード

当社では外部協力者の方々に無償でご協力いただく取り組みとして「アドバイザリーボード」があり、非常に著名で実績のある方々に参画いただくことに成功しました。

たとえば、生成AIの分野における大学との産学連携の共同研究、ディスクロージャーの強化、エンゲージメントを高める人的資本経営の実践、さらに危機管理に関する専門知識を持つ方々など、多岐にわたる専門家が当社に関わっています。

具体的な例を挙げると、高柳浩教授ははこだて未来大学のAI分野の専門家で、国内各大学のAI研究室間のネットワークを活用したコーディネートを行う立場にあります。

当社がAIをどのように活用すればよいかをスコーピングし、最適な大学の研究室を紹介していただく役割を担っています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

宮下修さんは戦略的ディスクロージャーの専門家で、花王で日本初のEVA(経済付加価値)指標の導入を牽引した方です。

企業価値向上に関する研究を長年続けており、大学選手権でも入賞実績があるほどです。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

また、若月貴子さんは、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンを業績不振からV字回復させた際の立役者で、従業員のエンゲージメント向上において高い評価を受けており、彼女の指導力は、現場から経営層まで幅広く知られているところです。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

さらに、危機管理の専門家として、フジテレビで放送された「リスクの神様」というドラマの実体験のモデルとなった白井邦芳さんや、マーケティング分野ではP&Gのグローバルマネージャーとして欧州赴任を果たした著名なマーケターの桐原大輔さんに参加いただいています。

このような方々の具体的な提案を通じて、当社の戦略策定やその実現を目指しています。

ただ、不都合なことに当社の足元の体力では十分な報酬をお支払いできないため、アドバイザリーボードの皆様は無報酬で協力してくださっています。その代わり、インセンティブとして新株予約権を発行しています。

新株予約権は当社の時価総額が数倍にならなければ価値をもたらさない仕組みになっており、協力者の方々も「一緒に時価総額を上げていこう」という共通の目標に向かって取り組んでいただいております。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

WEB版港町構築プロジェクトの推進

当社はデータの宝庫とも言える存在です。

読者データや取引データを豊富に保有しています。

それらを一か所に集約し、AIを活用して新しいマーケティング提案の材料とする取り組みが、この「WEB版港町構築プロジェクト」です。

このような戦略をしっかりと訴求することで、現在の時価総額は12億円ですが、再評価される可能性が大いにあると考えています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

企業価値向上への取り組み 

GCC9BOX ™ という手法を用いて、アライアンスによってどれだけ収益が上がり、それが時価総額にどのような影響を与えるのかを分析しました。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

そして売上高を分解し、具体的な数字を弾き出し、それを棒グラフの形式で示している図も作成しています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

また、PL(損益計算書)上で本業の営業利益をしっかりと示すことで、投資家の皆様に「わずかな利益が出ています」と伝えるのではなく、「本業でしっかり利益を上げつつ、先行投資に資金を投入しています」と伝えていきたいと考えています。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

現在、こうしたデータを基に、将来の価値を現在の株価に織り込んでいただけるよう働きかけているところです。

株式会社地域新聞社 2024年8月期 決算補足説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

当社には9つのアセットが揃っており、それらは高い競争優位性、模倣困難性、そして希少性を持つものです。

これらのアセットは、企業によって部分的に活用することも可能で、アライアンスを積極的に展開することで、当社の無限の可能性を引き出すことができると考えています。

新たな事業展開を行う中、特にお伝えしたいのは、PBR(株価純資産倍率)へのアプローチです。

現在の純資産は6億円で、時価総額は10億〜12億円程度となっています。

しかし、当社が目指すべき真の企業価値は、最低でも40億円です。

今後1年10か月の間に、当社のアセットにしっかりと光を当て、その価値を再評価していただけるよう努めていきます。

たとえば、2500人規模の「ポスメイト」を他社に譲渡すると仮定した場合、170万世帯をカバーするラストワンマイルの配送網もセットで提供されるため、非常に高い価値が付くはずです。

このように、現時点においてさえ、当社のアセットが正しく評価されれば、バリュー投資家的な皆様にとっては魅力的な企業に映ると期待しています。

投資家の皆様へメッセージ

当社の価値をきちんと再定義するために、さまざまな取り組みを進めています。

この再定義が進むことで、上場維持基準の達成はもちろんのこと、現在のレベルにとどまらない価値を持つ会社であることをご理解いただけたかと思います。

今後も当社が持つアセットに光を当て、そのポテンシャルをお伝えし、さらにはアライアンスの可能性を示していきたいと考えています。

これからの当社の成長にぜひご注目いただき、ご支援いただけると幸いです。

株式会社地域新聞社

本社所在地:〒276-0020 千葉県八千代市勝田台北1-11-16 VH勝田台ビル5F

設立:1984年8月28日

資本金:3億6,000万8,193円(2024年8月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2007年10月31日上場)

証券コード:2164

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

目次