※本コラムは2024年11月11日に実施したIRインタビューをもとにしております。
イチカワ株式会社は「事業は人なり而して人の和なり より良い品をより安くより多く」を企業理念に社会とともに成長する企業です。
代表取締役社長の矢崎 孝信氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
イチカワ株式会社を一言で言うと
プレスパートの総合ソリューションカンパニーです。
イチカワの沿革
創業の経緯
当社の創業には「紙」の歴史が大きく関わっています。
歴史を振り返ると、江戸時代までは和紙が主流でしたが、産業革命を経て、海外から製紙技術が日本に伝わりました。
製紙の際には必ず脱水工程があり、「フエルト」という製品が不可欠です。
当初は輸入品で賄っていましたが、紙の需要も伸びており、国産のフエルトを製造する必要性の高まりから、1918年に当社の前身である「東京毛布株式会社」が設立されました。
その後、1942年に日本フエルト株式会社に吸収合併され、市川工場として操業しておりましたが、1949年に企業再建整備法により日本フエルト株式会社から分離、「市川毛織株式会社」が設立されました。
こちらが創業の経緯となります。
抄紙プレスパートの総合ソリューションカンパニーへ
設立後しばらくは、羊毛素材を用いた「織フエルト」が主流でした。
当時、耐久性に課題を抱えていた織フエルトですが、数々の独自技術の開発により、耐久性が大幅に向上、以降、数々の特許にも結びついていきました。
また、「技術のイチカワ」のブランドを確立するとともに成長を続け、1951年に東京証券取引所に株式を上場、一部上場企業としての歩みを始めました。
1960年代に入ると抄紙機(しょうしき)の大型化が急速に進み、大型で耐久性の高いフエルトの需要の高まりから、織フエルトとは全く構造が異なる「ニードルフエルト」の開発が始まりました。
その後、生産が本格化し、抄紙用フエルトは、織フエルトからニードルフエルトへと急速に転換が進みました。
1970年代に入ると、今日の礎となる脱水性に優れた様々なフエルト製品が開発され、現在もあらゆる抄紙機に対応できるフエルトの開発、製造を続けております。
このような技術革新に対して、技術を磨きながら、成長を実現してきました。
創業当初は「市川毛織」という社名でしたが、2005年に世界を意識して、カタカナの「イチカワ」に商号変更いたしました。
イチカワの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスは、合成紙を除くほぼすべての紙製品に関わっています。
たとえば、カタログやコピー用紙、新聞紙、雑誌、教科書、紙幣、カレンダー、段ボール、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど、あらゆる紙の製造工程でフエルトが必要となります。
技術的で細かい話になりますが、紙製品の製造工程は大きく3つのセクションに分かれています。
まず、紙の原料であるパルプ等の繊維を大量の水に溶かします。
次に「ワイヤーパート」で大きな金網に原料を薄く広げ、「プレスパート」でしめっている紙から水分を搾り取ります。
最後に「ドライヤーパート」で乾燥させて紙が出来上がります。
当社はこの「プレスパート」に特化した製品を製造しており、高い技術力と製品力を持っております。
プレスパートでは、抄紙用フエルト、シュープレス用ベルト、トランスファー用ベルトの3つの製品が使用されており、これらの製品を製造、販売しております。
また、近年では当社のこれまでの技術的なノウハウを活かして、プリント基板や電子部品の高温・高圧プレス成形時に使用される高機能繊維製品として、工業用フエルトの製造・販売も行っております。
事業における優位性
プレスパート専門企業
紙の品質を決定づける重要なプレスパートにおいて、使用される全用具を製造・販売しているのは世界で7社中3社のみです。
そして、国内では当社のみとなっております。
当社はプレスパート専門企業として、日本国内の紙の生産量に比例して成長してきました。
実際、高度経済成長期には紙の生産量が急増し、当社もそれに対応するための技術力を磨き上げ、世界にも通用する品質を追求してきました。
そして、成長していく中で製品の取捨選択を徹底的に行い、特に「シュープレス用ベルト」と「トランスファー用ベルト」の開発に注力し、高い品質から世界各国のお客様に選ばれております。
この2つの製品については、おそらく世界トップメーカーとして認識されており、シュープレス用ベルトは世界第2位、トランスファー用ベルトは世界第1位のマーケットシェアを誇ります。
また、国内では抄紙用フエルトにおいて約4割のシェアを持っており、当社の品質の高さから今後もシェアを伸ばすことのできる分野だと考えております。
グローバル展開
当社は日本国内の市場とともに成長を続けてきましたが、国内市場だけでは限界があるため、世界へと進出しています。
その最初の一歩が1950年代後半の台湾への輸出です。
現在は全世界に製品を納入できる体制を築いており、海外売上比率は約60%と、海外比率が年々増加しております。
約30社の販売代理店を通じて、45カ国以上、約470工場との取引実績があり、グローバル展開を加速しております。
このように、創業当初からグローバル展開を進めており、現地のパートナー企業との連携は強固なものとなっています。
北米はアメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカはドイツ、東南アジアはタイ、中国は中国本土といった形で、それぞれの地域をカバーしており、主要地域ごとに拠点を構えた販売ネットワークを有しています。
そして、当社の海外売上のほとんどがローカル企業からのものです。
私自身、アメリカで10年、ヨーロッパで12年駐在し、多くのノウハウを蓄積してきました。
現地の人材を採用し、現地の代理店と協力して販売する必要があり、当社の販売ノウハウは、おそらく業界内でもトップレベルではないかと自負しております。
イチカワの成長戦略
既存事業の戦略
今後、マーケット環境として成長性の高い海外市場に注力していきたいと考えています。
ただ、国内の紙・板紙の生産量は減少傾向にありますが、それでも日本は世界第3位の生産国です。
現在、当社の国内シェアは約4割ですが、5割まで拡大できると考えています。
同業他社と当社による寡占市場ではありますが、まだ当社にシェア拡大の余地があると見ており、地番を固めながらシェアを伸ばしていきたいです。
ここまでが国内の戦略です。
次に、海外の戦略についてお話しします。
まず、抄紙用フエルトの世界シェアは現在4%程度ですが、シュープレス用ベルトについては約30%を占めています。
シュープレス用ベルトで築いた営業基盤を活用しながら、今後は抄紙用フエルトのシェアを伸ばすための販売強化を進めていきたいと考えています。
その際、課題となるのが為替です。
現在は円安が追い風となっておりますが、円高に転じた場合でも収益を確保できる基盤を整えるための戦略を練っています。
現時点では詳細を開示することはできませんが、場合によっては海外での生産も検討しています。
輸送費、労務費、材料調達費など様々な面で、いかに「地産地消」ができるかどうか、という面も考慮しながら進めていきたいと考えています。
また、それに伴うM&Aも視野に入れており、より効率的な製造体制を模索しています。
新事業の戦略
工業用事業に関しては、国内・海外の比率はおおよそ半分ずつで展開していく計画です。
ただし、成長ポテンシャルで見ると、大きく成長するのは海外です。
たとえば、携帯電話やパソコンの製造のほとんどは、台湾や中国が中心であるため、耐熱緩衝材などは海外での売上が拡大していくと考えています。
販売体制も新事業に応じた体制づくりを心がけており、現地の販売代理店と協力しながらローカル企業に対して積極的に営業を推進する方針です。
注目していただきたいポイント
当社はこれまで配当性向について、利益の30%以上という目標を掲げてきましたが、今後は従来の考え方にとらわれず、柔軟に検討していきたいと考えており、投資家の皆様にもっとインパクトのあるメッセージを届けられないかと模索しているところです。
ただし、どれだけ綺麗事を並べても、収益をしっかりと出さなければ意味がありません。
これまでの製紙業界は、売上を確保すれば自然と収益を得られるという構造でした。
しかし、これからは利益を基盤とし、そこから逆算して収益を確保しながら、トップラインを上げていくという戦略を進めていきます。
「いくらの利益を出すためにどうするべきか」をしっかりと社員に浸透させるための取り組みも進めていく予定です。
近年、ROEやPBRといった指標が非常に重視されている今、当社もこれらに応えるために、2025年4月からスタートする中期経営計画に向けてさまざまな施策を準備しています。
投資家の皆様にとって魅力的な企業となれるよう努力してまいりますので、今後の当社の方針や成長戦略にご注目いただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、社員のレベルが非常に高い会社です。
これまでは内需向けに成長してきた会社でしたが、これからはグローバルに目を向けてさらなる成長を実現していきたいと考えています。
日本で鍛えられた高い技術を活かして、グローバル市場にも積極的に挑戦していきます。
ぜひ当社の挑戦に興味を持っていただき、温かいご支援をいただければと思います。
イチカワ株式会社
本社所在地:〒113-8442 東京都文京区本郷2丁目14番15号
設立:1949年11月21日
資本金:35.9億円(2024年11月アクセス時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1951年5月7日上場)
証券コード:3513