【9600】株式会社アイネット 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年11月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社アイネットはシステムの企画開発からデータセンター・クラウドサービスの提供、受託計算、さらにはその後の業務BPOサービスまでをワンストップで提供しています。

代表取締役兼社長執行役員の佐伯 友道氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社アイネットを一言で言うと

情報技術で新しい仕組みや価値を創造し、豊かで幸せな社会の実現に貢献する会社です。 

アイネットの沿革

株式会社アイネット代表取締役兼社長執行役員 佐伯 友道氏

創業の経緯

当社の前身となる株式会社フジコンサルトは1971年に創業者である池田典義によって設立されました。

それまで池田はモービル石油の営業職として、ガソリンスタンド(以下SS)向けにガソリンを卸していました。

SSの現場では煩雑な業務管理事務に苦労していると感じ、効率化するためのシステムを提供する形で事業をスタートしました。

当時は、システムの構築が中心で現在のようなデータセンターは保有しておらず、他社のホストコンピューターを夜間に借りてデータ処理を行う形でサービスを提供していました。

これは技術的には非常に制約がある中での工夫でした。

石油流通業界でのポジションを確立

1983年に石油販売業総合オンラインシステム(SS-TOLS)を開発し、ガソリンの元売り会社と連携して全国規模でシステムを導入することに成功しました。

給油機に内蔵された紙テープのデータを回収し、それを読み込んで給油データを処理する仕組みを作り上げ、カセットテープを利用したり、オンライン化を進めたりと進化を遂げ、最終的には電話回線を利用したデータ通信(1200bps)によるシステムを構築しました。

このようにして石油流通に特化したシステム開発を続け、全ての元売り会社と関わりを持つようになりました。

近年は電気自動車の普及や若者の車離れなどによりSSが減少傾向にあるため、全国のSSもピーク時の半数以下となっていますが、約3割のシェアを誇る取引先は当社の安定的な顧客基盤となっています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

データセンタービジネスへの転換

当社は1998年に自社データセンター「第1データセンター第Ⅰ期棟」を稼働させ、石油流通業界の成長鈍化を予期しながら、受託計算やシステム開発だけでなく、自社データセンターを活用した新たなビジネスモデルへと転換しました。

情報処理サービスの下流の分野では、プリント・メーリングサービスやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業を展開してきました。

顧客は石油流通業界だけでなく、自治体の納税通知書やクレジットカード会社の請求書など、大量印刷・発送業務を必要とする多様な業界に広がっています。

さらに、2001年と2006年にシステム会社との大規模なM&Aを経て、事業領域の拡大と事業基盤の強化を実現し、現在では約1,000名規模の企業へと成長しました。

システム開発の各事業部はそれぞれの強みを生かし、金融業界をはじめ、流通業界やセキュリティ、宇宙事業といった多岐にわたる分野で活躍しています。

このような多角的な事業展開を通じ、さらなる成長を目指しています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

アイネットの事業概要と特徴

概要

当社は、データセンターを中心に、ITに関する上流から下流工程まで、セキュリティレベルの高いサービスを提供しています。

まず情報処理サービスでは、データセンターサービスやクラウドサービス、BPOサービスを提供し、業務効率化・最適化を支援しており、祖業であるSS事業のサポートも担っています。

次にシステム開発サービスでは、業務システムや組込みソフトの開発等を行い、当社の高い技術力を武器に多様な業種・業態の顧客のニーズに応えています。

そしてシステム機器販売では、POSやサーバー、ネットワーク機器などの販売を通じて、顧客のITインフラの整備をサポートしています。

事業における優位性

自社データセンターを軸としたストックビジネス

当社の大きな強みは、自社でデータセンターを保有していることです。

このデータセンターを基盤に、コロケーションやクラウドサービス、業界特化型のシステム開発、さらにはBPOサービスなど、幅広い支援を提供しています。

当社の顧客は大企業から中小企業まで多岐にわたります。

特に、自社サーバーを持たない中小企業に対しては、クラウドサービスや業務システムを一括で提供し、手厚いサポートを行っています。

一方、大企業からは「クラウド環境を丸ごと借りたい」「データセンター内の専用フロアやスペースを利用したい」といったニーズが寄せられ、それらに対しても柔軟かつ的確に対応しています。

このように、顧客の多様なニーズに応じたサービスを展開することで、データセンターの利便性を最大限に活かしたビジネスモデルを構築しています。

ワンストップサービス

当社は、データセンター・クラウドサービス、システム開発・保守・運用に加え、プリント・メーリング等の業務を支援するBPOサービスやIT機器の販売まで、幅広い顧客ニーズに対応可能です。

近年、自治体との取引が増加している背景には、当社のBPOサービスが決め手となっている点があります。

多くの自治体で人手不足が深刻化している一方で、通知書等の書類発送業務を支援する業者は減少傾向にあります。

当社のデータセンターは、システム管理や顧客管理システムを自社内に整備し、データ入力から印刷、郵便物の発送まで、完全なワンストップサービスを提供しています。

その点は当社の大きな特徴であり、他社との差別化に繋がっています。

安定した顧客基盤

当社は幅広い業種・業界と取引を行っており、各社との安定した取引関係を背景に、強固な顧客基盤を築いています。

特に、50年以上にわたり石油流通業界に特化したサービスを開発し、これまでに20を超えるシステムを提供してきました。

システムの継続的なアップデートを通じて、お客様のニーズに応え続けてきた結果、高い信頼を獲得し、安定した受注へと繋がっています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

アイネットの成長戦略

DX化による追い風

現在、社会はデジタルシフトが進む一方で、デジタルとアナログの狭間にある過渡期を迎えています。

産業革命以降280年続いた工業化社会が、本格的にデジタル化社会へと移行する大きな転換期です。

人口減少が続く時代に生き残り、成長を遂げるためには「サービス」が鍵となります。

業務効率化を加速させるDXが生活、企業経営、事務作業のすべてに深く入り込み、仕事の進め方そのものを大きく変えていくことが必須です。

当社は、このような変化に対応したサービスを提供することで、さらなる成長が可能であると考えています。どのようなサービスであってもクラウド環境が不可欠であり、当社の強みであるBPOサービスと組み合わせた形で提供していくことで、自治体を含む幅広い顧客層へのアプローチが可能だと期待しています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

「3本の矢」の推進

当社の今後の成長戦略として、「システムのサービス化」「戦略的協業の強化」「新規事業の取り組み」の3つの施策を掲げています。

1つ目の「システムのサービス化」は、当社が開発したシステムが特定の業界に特化している強みを活かし、3年後、5年後を見据えて先行開発しているシステムを月額課金のSaaSモデルへと転換し、ストック型ビジネスを展開する戦略です。

具体的には、無担保ローンシステムのSaaS化製品「LOAN RANGER® UC」や、消費財卸売業界向けのSaaS型システム「SupplyLinker®」などをリリースしており、これらを通じてストックビジネスを拡大しています。

2つ目の「戦略的協業の強化」では、当社のクラウド上に協業先のサービスを構築し、利用を促進する戦略を進めています。

一例として、2023年11月にはクラウドベースで経営管理ソフトを提供するプライマル株式会社と資本業務提携を行い、当社クラウド環境にサービスを構築しました。このような協業を通じて、サービスの相乗効果を生み出し、顧客基盤を広げています。

3つ目の「新規事業の取り組み」は、特にスタートアップ企業に注目した取り組みです。

新たな技術やサービスに投資し、資金面だけでなく事業拡大に向けた業務支援を行い、共に成長していくことを目指しています。

自社でサービスを開発し、他社と連携し、さらにスタートアップ企業と協業する、この3本の矢を柱に、当社は持続的な成長を目指しています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

注目していただきたいポイント

まずお伝えしたいのは、「地域に必要とされる会社になりたい」という思いです。

当社グループでは、45名の障がい者の方々と共に働いており、5年前に公益法人化した財団では、昨年、32団体に総額903万円の寄付を行いました。

こうした社会貢献活動を毎年少しずつでも継続的に拡大していきたいと考えています。

もう一つのテーマは、「社員一人ひとりが自分の役割や存在意義を実感しながら、自由に提案できる会社でありたい」ということです。

この考え方は、当社の経営理念である「情報技術で新しい仕組みや価値を創造し、豊かで幸せな社会の実現に貢献する」とも深く結びついています。

事業戦略としては、データセンターを中心に展開する方針を維持しつつ、宇宙分野の事業拡大も視野に入れています。

現在、当社のデータセンターにはパラボラアンテナを設置し、衛星からの電波を受信して解析する新たな取り組みを進めています。

こうした挑戦を通じて、高度な技術が必要とされる新しい分野への展開を模索しています。

また、今後は人月単位の受託開発ビジネスモデルから脱却し、ストック型ビジネスの割合を増やすことで、安定した収益基盤の確立を目指しています。

これらのテーマと戦略を軸に、地域に愛され、社員が誇りを持てる会社として成長していきたいと考えています。

株式会社アイネット 統合報告書 2024 より引用

投資家の皆様へメッセージ

私自身、横浜の伊勢佐木町で生まれ育った生粋の浜っ子です。

創業者もまた、横浜に深い愛着を持ち、地域への恩返しを大切にしてきました。

この想いを引き継ぎ、当社は「横浜発」のクラウドサービスを展開する会社として、世界へ発信していくという夢を抱いています。

これまでお話しした通り、当社の取り組みが実を結べば、私たちが描く「面白い未来」が現実になると信じています。

横浜の地から、グローバルに挑戦する企業として成長を続けていきたいと考えています。

今後も変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

株式会社アイネット

本社所在地:〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい5-1-2 横浜シンフォステージ ウエストタワー13階

設立:1971年4月22日

資本金:3,203,992千円(2024年11月アクセス時点)

上場市場:東証プライム市場(1997月9年18日上場)

証券コード:9600

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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