※本コラムは2024年11月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ククレブ・アドバイザーズ株式会社は、コンパクトタイプのCRE(企業不動産)にフォーカスし、資産の有効活用などのソリューションを提供しながら企業価値の向上をお手伝いする「企業価値創造ソリューションカンパニー」です。
代表取締役の宮寺 之裕氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
ククレブ・アドバイザーズ株式会社を一言で言うと
企業価値創造ソリューションカンパニーです。
ククレブ・アドバイザーズの沿革
創業の経緯
当社のビジネスは、企業不動産、いわゆるCRE(Corporate Real Estate)を取り扱う事業です。
私は以前からこの分野に深く関わっており、前職ではJ-REIT(日本版不動産投資信託)の運用会社に勤務していました。
そこでの業務内容は、企業に提案して不動産を取得し、取得した不動産にそのまま賃貸で入居していただくというセール&リースバックの形で、企業の資金調達を支援するというものです。
リース料がJ-REITの配当原資になるため、こうした仕組みを活用しながらファンド組成をしていました。
J-REITの資産運用会社では、企業不動産を取得する特有の営業手法として、企業が公表する中期経営計画(以下中計)や有価証券報告書(以下有報)を個別に読み込んだうえで、「この会社に提案できるのでは?」と判断し、アプローチをかけていました。
しかし、年間で約600社、3年で約2,000社近くの中計を読み込むのは多くの時間と労力がかかり、非効率と感じていた私は「不動産を売却する可能性がある企業」を効率よく見つけるシステムを作りたいとずっと考えていました。
2019年頃、AI技術が進化し、資料収集や文字起こしが自動化できるようになってきたタイミングで、AI関連の展示会に行き、私の考えているシステムが作れないか相談したところ、システム化が実現可能であることが判明したので、すぐに開発のための資金調達に向けて動き始めました。
また、企業からのCREに関する相談においては、必ずしも金額的に規模の大きい物件ばかりではなく、小規模なものも含まれることが多かったのですが、J-REITにおけるCREの営業手法では、企業側にとって相談ニーズの多い小規模物件の相談に応じることができずに、大規模な物件ばかりを狙うものが多く、そこに矛盾を感じていました。
このような問題もAIを活用したシステムがあれば、自社で小規模物件も扱えるプラットフォームを作れるだろうと考え、2019年に当社を設立しました。
追い風のマーケットとサービスの普及
起業後、中計や有報のデータをAIが自動で読み込んで解析するシステムの開発を始め、2020年2月には、他社にも販売可能な状態となり、サブスクリプションサービスとして「CCReB AI」をリリースしました。
同時期に新型コロナウイルスの影響によりリモートワークが普及し、DX化が注目を浴びたことで、当社のサービスが業務効率化に役立つとして大手企業を中心に導入が進んでいきました。
コロナ禍がなければ、DX化の流れは加速しなかったと考えているので、当社にとっては追い風でした。
私が前職で行っていた、開示資料のポイントを押さえて具体的な提案を行う営業手法は非効率的ですが、それでも作業を効率的に行えるのであれば最も理想的な営業手法だと考えています。
それは大手不動産会社の法人営業の方々も同じような考えで、「このツールを導入すれば、もっと効率的に営業できますよ」と案内したところ、スムーズにご導入いただくことができました。
前職での経験が長かったこともあり、大手不動産会社の多くに知人やリレーションがあり、実際にリース会社や銀行、証券、不動産会社などの関係者は長年一緒に仕事をしていたメンバーでもあったので、こうした人脈が創業初期の大きなアドバンテージになりました。
さらに、2023年3月に東証が企業に対して資本コストを意識した経営を求めるようになり、不動産の有効活用が重要視されるようになったことも大きな転機でした。
当社のシステムは、企業に対して「遊休不動産を活用しましょう」と提案する際に経営課題を可視化するとともに、「具体的にこのようなテナントの賃貸ニーズ、購入ニーズがある」という形で提示できるため、不動産業界で幅広く導入が進んでいます。
ククレブ・アドバイザーズの事業概要と特徴
概要
当社は「CRE」に関してワンストップでソリューションを提供する事業を行っており、その中でも当社の社名「CCReB(Compact CRE for ReBorn)」の由来にもなっているコンパクトサイズのCRE(企業不動産)にフォーカスしています。
ここでの「コンパクト」は金額規模で概ね20億円以下の不動産を指します。(以下コンパクトCRE)
また、社名にある「for ReBorn」は、既存の建物や資産を壊して新しいものを建てるのではなく、今ある建物のリノベーションや居抜き物件の活用など、既存のストックを大切にする発想です。
現在では建築資材が高騰し、新しい建物を建てるのが難しい状況もあり、リノベーションや既存物件の活用が一層注目されています。
このような考えのもと、たとえば、ある企業が使っていない工場を撤退したいと考えている場合、それをそのまま活用したいニーズを持つ別の企業につなぐビジネスモデルを構築しています。
事業における優位性
参入障壁の高さ
当社は、コンパクトCREにフォーカスして事業を展開しておりますが、コンパクトCREのマーケットは、大手不動産会社が投資効率の悪さなどからあまり積極的に取り扱わない領域と考えており、そうした企業不動産が世の中には数多く存在しています。
また、当社のマッチングシステムに関しては、BtoBの不動産領域で当社のようなマッチングプラットフォームを真剣に運営している企業はほとんどありません。
BtoC、中でも住宅分野では多くのサービスが開発されていますが、企業不動産の情報を活用したマッチングについては少数で、当社のように膨大なデータをしっかりと集めている企業はありません。
当社は、潜在ストック量に比べ情報流通量の少ないコンパクトCREにフォーカスして、AIによる解析やマッチングシステムなどの独自の不動産テックシステムを活用しながら、企業に対してソリューションを提供しております。
コンパクトCREを取扱うには、専門知識やノウハウも必要となることから、不動産会社によるコンパクトCREの領域への参入障壁は高いものであると考えています。
独自の不動産テック
コンパクトCREについては手間と時間などの労力がかかるため、従来のように人力で対応しようとすると非効率であり、かつ、ビジネスを維持していくのは難しいと思います。
そのため当社では、不動産テックを活用してデジタル化と効率化を図り、企業の課題に対してソリューションを提供しています。
また、自社開発の不動産テックをサブスクリプション形式で外部にも提供し、私たち自身もユーザーとして活用しています。
このように、プラットフォームを運営しながらお客様同士をマッチングさせる形でビジネスを展開しています。
現在の主力製品は2つあり、1つ目は「CCReB AI」です。
企業が公開する資料を読み込み、解析して「この会社は保有不動産を売却する可能性がある」「この会社は保有不動産で課題を抱えている」といった情報を可視化するツールです。
2つ目は「CCReB CREMa」というマッチングシステムで、企業の出店や不動産の有効活用に関するニーズをもとに、売り手や買い手、貸し手や借り手を自動的にマッチングします。
これにより、人の経験や勘ではなく、システムがニーズを的確に結びつける仕組みを提供しています。
現在、社員はわずか13人ほどしかいませんが、人力に頼らない効率化を徹底しているため、少数精鋭でも事業運営が可能になっています。
スピーディーな案件組成を実現
当社では案件が半年から1年程度で組成に至ることが多く、一般的なCRE案件と比べて短期間で組成されることが多いです。
従来の営業手法では不動産の有効活用についての提案を行う場合、提案段階に至るまでの準備にかなりの時間を要します。
ターゲット企業を選定する段階だけでも1年ほどかかることがあり、その企業にどのように提案するかを検討するのに1カ月、さらに提案後のフィードバックや課題解決に3カ月以上かかる場合もあります。
こうしたプロセスを経ても最終的に実現しない案件も少なくありません。
一方で、当社では案件を絞り込むプロセスを効率化しており、「この土地にこうした用途で利用したい顧客がいる」という具体的な提案を最初から行うことで、スムーズに案件を進めることが可能です。
その結果、「まさにこれを探していた」と企業に納得していただければ、社内での承認も速く進みます。
当社のシステムを通じて半年程度で案件を組成することができる理由はここにあります。
非公開データの活用と秘匿性の担保
当社のマッチングシステム上のデータベースには企業から非公開情報やあまり表に出ない情報もご提供いただいています。
ただし、全ての情報を公開してしまうと、マッチングシステム上で他社に戦略を知られてしまう可能性があるため、情報の秘匿性を担保する仕組みを設けています。
たとえば、家探しでは「〇〇駅から徒歩何分」といった具体的な条件を提示しますが、企業の土地探しでは「高速道路の〇〇インターから5キロ圏内であれば良い」といった条件であることが多く、企業側も「〇〇市で5,000坪の工業用地を探している」といった形で登録するため、情報の公開範囲が限定的で、機密性を保ちながらニーズをマッチングすることができています。
従来であれば企業が雑談程度に話した「この地域に出店したい」などの情報もメモに残していたとしても、引き出しに眠ってしまいがちです。
そうした情報をシステムに登録しておけば自動的にマッチングが発生し、マッチした際には具体的な土地の情報を引き出して利用できるため、革新的なサービスだと考えています。
ククレブ・アドバイザーズの成長戦略
事業環境は追い風
日本国内では企業が保有する不動産のストックだけでも520兆円にのぼり、そのうち上場企業が保有する分だけでも140兆円を超えています。
当社は上場企業だけでなく、非上場企業を含めた幅広い企業を対象とし、これらのストックを効果的に利用するソリューションでアプローチしていけば、CREの市場としての可能性は大きく広がっていくと考えています。
CRE提案ノウハウのDX化
現在、分析業務のDX化はある程度進んでおり、提案業務についても、社内インフラとして「この会社にはこう提案すればいい」というアドバイスを返してくれるBoTのようなシステムを構築しています。
これまで人が多くの時間を費やしていた業務の重要な部分をDX化することで、営業活動のうち人で対応する部分に集中させ、一方で、DXを進めていくためのテクノロジーをさらに磨き上げていくことが戦略の一つです。
今後は、さまざまな企業が発行する書類を取り込み、解析する仕組みを拡充していきます。
現在は中期経営計画や有価証券報告書を中心に取り組んでいますが、今後はサステナビリティレポートやESGレポートなど他の書類にも対応を広げる予定です。
これらを解析する仕組みをさらに進化させ、SaaSとして外販するとともに、当社自身のインフラもバージョンアップしていきます。
この結果、少人数での事業運営を実現しており、社員全員がマルチプレイヤーとして、マッチング業務や不動産テックの営業、仲介、ファンド組成、コンサルティングなど幅広い業務に対応できる体制を構築しています。
そして、当社のインフラを活用すれば、初心者でもある程度コンサルティング業務がこなせるようになる仕組みが整っているため、上場を機に採用を強化し、フロントで営業をおこなっていく社員を増やしていく予定です。
現在、社員数は13人でそのうち5人が営業担当ですが、3年で営業担当を3倍に増やし、売上を拡大していくことを目標としています。営業活動に重点を置き、SaaSの販売や企業への提案活動を強化していきたいと考えています。
マッチングシステムユーザー数の推移と潜在案件数の拡大
もう一つの戦略は、マッチングシステムの「漁場」をさらに広げていくことです。
特に地方銀行(以下地銀)を中心としたネットワーク拡大に注力しています。
地銀だけでなく、リース会社や金融機関とも連携を深めることで、さらに多くの情報を収集する仕組みを構築していきます。
足元では他の金融機関や既存のパートナー経由で「こうした商品がありますよ」というような紹介で認知が広まっており、当社のサービス価値を実感していただきながら着実に導入されています。
現在、登録数は約5,000件ですが、3年以内に倍以上の1万件を目指しています。
特に地銀へのシステム導入が進めば、一気に増加する可能性もあります。
地銀などの金融機関との取引において情報管理の難しさなどに疑問を持たれる方もいるかと思いますが、当社の「CCReB CREMa」には「クレマプラス」と「マッチングボックス」の2つのタイプを用意しています。
まず「クレマプラス」は登録いただいている会員同士で物件情報を共有できる仕組みです。
そして上位サービスとして自社の情報に限定した専用マッチング環境をご用意する「マッチングボックス」も提供しています。
これは自社のネットワーク内で運用されるため情報が外部に流出することを防ぎ、設計上は自社内でマッチングが成立しなかった場合にボタン一つで当社のネットワークと連携できるようにしており、各社の独自性を尊重しつつ、より広いネットワークへの接続も可能にしています。
このように、サービスメニューをニーズごとに分けて提供しており、情報を多く抱え、有効活用ができていない地銀などの金融機関への開拓を積極的に進めています。
株主還元について
当社は株主還元を重視し、創業以来、配当を継続的に行っており、グロース市場に上場している企業の中では珍しく初年度から配当を出しています。
今後も利益が出る限り、株主還元をしっかりと続けていきたいと考えています。
ただし、当社は現在成長段階にあるので、成長投資をしつつ、余剰分を配当として株主の皆様に還元していく方針です。
バランスを保ちながら、事業の成長と株主還元を両立させることを目指しています。
注目していただきたいポイント
私たちは「テックカンパニー」として、企業不動産を商材として取り扱いながら、独自のビジネスモデルを展開しています。
このモデルは従来の純粋な不動産業とは一線を画し、さまざまな業種の企業に対し、コンパクトCREのソリューション提供を通じて新たな価値を提供しています。
現在、企業不動産の有効活用ニーズが高まっていますが、これは東証からの要請などを背景とした市場環境の変化によるものです。
この流れはここ数年でさらに加速しており、今後ますます注目されていくことが予想されます。
このような事業環境において、当社は事業を展開しやすいポジションにあると自負しています。
また、当社のお客様は不動産業界に留まらず、コンサルタントやシンクタンクといった幅広い業種の方々も含まれています。
たとえば、従来は膨大な時間を要していた資料収集や分析のプロセスにおいて、当社のシステムは「このキーワードが含まれる中期経営計画はどの程度あるのか」といった情報を瞬時に提供できるため、幅広くご活用いただいています。
ぜひ当社が「テックカンパニー」として事業領域を拡大し、成長を続けていく姿を見守っていただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
今回、上場を果たした当社は、企業の課題解決に向けた取り組みを通じて、株主の皆様へ利益を還元することが重要な使命であると考えています。
利益をしっかりと出しながら、投資家の皆様とのコミュニケーションを大切にし、透明性の高い経営と長期的な成長を目指していきます。
成長マーケットであるCRE領域におけるプラットフォーマーとして、そして企業価値を創出するソリューションカンパニーとして着実な成長を実現していきますので、ご支援いただければと思います。
ククレブ・アドバイザーズ株式会社
本社所在地:〒101-0047 東京都千代田区内神田一丁目14番8号 KANDA SQUARE GATE 8F
設立:2019年7月4日
資本金:9億5936万350円※資本準備金を含む(2024年11月28日時点)
上場市場:東証グロース市場(2024年11月28日上場)
証券コード:276A