※本コラムは2024年12月12日に実施したIRインタビューをもとにしております。
東海ソフト株式会社は急速に進化する技術革新に対応し「日本の製造業をITで支える」企業です。
代表取締役会長 CEOの伊藤 秀和氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
東海ソフト株式会社を一言で言うと
「日本の製造業をITで支える」企業です。
東海ソフトの沿革
創業の経緯
当社は1970年に設立されました。
IT企業としては比較的歴史の長い部類に入ると思います。
創業については、創業者である故・水谷が日立製作所を退職し、「これからはITの時代だ」と一念発起して立ち上げたと聞いております。
当時、中部地区にはIT企業が少なく、設立当初は日立製作所から多くの仕事をいただき、業績を着実に伸ばすことができました。
この日立製作所、日立グループとの取引は現在も続いており、売上の約20%を占めるほどです。
設立当初は、主に日立製作所様向けの業務系ソフトウェア、例えば製造管理や在庫管理といった分野の開発を手掛けていました。
FAと公共事業への拡大
創業者の水谷はエンジニア気質だったこともあり、苦労することもあったようですが、IT企業として業績を伸ばし続けていました。
そのような中、中部地区が製造業の集積地であることに着目し、1980年前後からFA(Factory Automation:ファクトリー・オートメーション)分野に進出しました。
この決断が功を奏し、新卒採用を定期的に行いながら業績が上向き始めました。
そして、1980年代には名古屋地区を中心にFA分野を拡大し、さらなる成長を目指して他地域への進出も開始しました。
その際に東京支店を設立し、日立製作所の紹介により、公共事業の案件を受注することができました。
この結果、FAと公共事業という2つの柱を確立し、成長を加速させました。
バブルの崩壊
1990年代のバブル崩壊は当社にとって大きな危機でした。
一時的に業績が低迷しましたが、その後の回復期に、大口顧客であった富士電機から「設計部門の業務を一括で任せたい」という依頼をいただきました。
この依頼を契機に三重支店を設立し、富士電機との取引を拡大することができました。
さらに、2000年代に入ると、製造業の技術が機械からコンピューター制御へと進化していきました。
これに対応する形で、トヨタ向け事業を開始し、組み込みシステム(エンベデッドシステム)分野に本格的に参入しました。
これにより、当社の現在の主要事業である組込み関連事業、製造・流通及び業務システム関連事業、金融・公共関連事業が確立されました。
リーマンショックからの回復
3つ目の転換点はリーマンショック後のことで、ちょうどこの頃に私が社長に就任しました。
FA分野のオーダーメイド事業だけでは限界があると考え、パッケージメーカーとの提携を進めると同時に、自社でニッチなパッケージソフトを開発しました。
この2つを事業の両輪として成長を図り、その結果、2019年には上場を果たすことができました。
東海ソフトの事業概要と特徴
概要
当社は組込み関連事業、製造・流通及び業務システム関連事業、金融・公共関連事業の3つのセグメントで事業を展開しています。
まず、組込み関連事業についてお話しします。
現在では「組込み」という枠組みをあまり意識していませんが、製品開発における直受け案件が多いのが特徴です。
次に、製造・流通及び業務システム関連事業についてです。
この分野では、エンドユーザーである製造業のクライアントとの直接取引が基本で、工場の自動化を実現するFAや省人化・効率化を実現する業務システムの開発を行っています。
先ほども触れましたが、当社はパッケージメーカーと連携し、製品販売はパッケージメーカーが担当し、その後のカスタマイズや納品などは当社が行うという体制を構築しています。
こうした分業体制により、Win-Winの関係を築くことができています。
最後に、金融・公共関連事業です。
この分野では、主に日立グループとの取引が中心です。
公共システムのプロジェクトは非常に規模が大きく、1件あたり数百億円規模になることもあります。
小規模なプロジェクトでも数十億円に達するため、当社の規模では直接受注することはできません。
そのため、日立製作所からの依頼を受ける形で参画しています。
また、営業面でも日立様はこの分野で非常に強いポジションを確立されており、売上の約半分は日立製作所経由の案件となっています。
残りの50%についても、日立系列からの受注で、主に2〜3社との取引があります。
事業における優位性
製造業の現場を支えるIT
当社の競争力の源泉は、特に利益率の高いFA分野と業務系・生産管理分野です。
この領域には、大手Sier(システムインテグレーター)があまり参入してきません。
工場の機械と接続して情報を集める、いわゆるIoTの仕組みを構築するのは、Sierさんにとっては得意分野ではないのです。
当社は独立系のソフトウェアハウスとして、どんなメーカーの機械やコンピュータ、センサーとも接続してきた実績があります。
そのため、IoT技術そのものは、当社にとって新しいものではなく、以前から取り組んできた得意分野です。
Sierは収集したデータを活用して大規模なシステムを展開するのが得意ですが、当社はそのデータをつなぎ合わせる部分に強みがあります。
また、FA分野では、キーエンスや安川電機のような大手は自社のハードウェアを主軸としていますが、当社はメーカーを問わず接続できるツールを持っています。
この点が当社の競争力の核となっています。
さらに、生産管理や在庫管理、原価管理、ERPといった上位層の業務システムでは、パッケージメーカーと組んで展開しており、下層から上層まで一貫して対応できることが大きな強みです。
このような総合力が、現在の成功につながっているのだと考えています。
バランスの取れた事業ポートフォリオ
当社が3つの事業分野を持っていることも大きな強みです。
景気が良い時には、製造業は設備投資を活発化させるため、産業系のFAや生産管理分野が大きく伸びます。
一方で、不況時には製造業の設備投資が縮小するため、これらの分野が落ち込みます。
しかし、不況になると国が公共システムに対する投資を増やすため、公共事業が成長します。
このようにバランスが取れているため、リーマンショックの際も、公共系の受注を増やすことでなんとか乗り切ることができました。
また、製品開発や組込み系の事業は、製造業の先行開発案件が多く、安定性があります。
こうして3つの柱をバランス良く維持してきたことが、当社の安定性やリスクの低さにつながっていると考えています。
東海ソフトの成長戦略
追い風の市場環境
現在、DX化が進展する中で、当社の引き合いは非常に高く、数多くの案件をいただいております。
公共系ではコロナ禍をきっかけに、日本の公共ITシステムの脆弱性が浮き彫りになり、デジタル庁が設立されるなど、大規模な改革が進められています。
その影響もあり、当社へのDX関連の依頼は増えています。
また、製造業では省人化や省エネルギーのためのDXが継続的に推進されており、相変わらず需要があります。
さらに、自動販売機や車、家電といった分野でも、スマート〇〇というように、すべてが上位システムと接続されています。
特に車に関しては「コネクテッドカー」(つながる車)が非常に注目されており、この分野での案件は増えています。
現状、3つの事業分野全てでDX関連の仕事が多く、非常にありがたい状況ではありますが、すべての依頼を受け切れるかどうかについては未だ課題があります。
今後の見通しと人的資本投資
自動車・製造業・公共・金融など各方面からの案件は安定的に受注しており、中でも公共系の案件については今後もなくなることはないと考えています。
また、自動車の分野では「つながる車」によって開発規模が現在の100倍から200倍に拡大すると言われています。
そして、製造業については今のうちにエンドユーザーとの関係を深め、保守業務も含めて包括的に対応できるクライアントを増やしておく必要があります。
現在はDX化が盛り上がりを見せていますが、今の勢いのまま続くとは思えません。
したがって、ここ数年、特に今後5年程度が正念場だと考えています。
そのような中、当社では人材の確保のみならずリスキリング(学び直し)も重要だと考えています。
おかげさまで上場後は採用活動が強化され、以前よりも新卒採用・中途採用ともに安定的に人材を確保しています。
そのような中で、現在「人材不足」と言われておりますが、実際には「スキル不足」の方が本質的な問題だと感じています。
システムの規模や複雑さが10年前や20年前と比べて格段に増していますし、セキュリティ面への配慮も不可欠です。
こうした背景から、社員のスキルアップが急務だと考えています。
分野ごとに必要なスキルが異なり、使用するプログラミング言語も異なるため、適切な人材を育成するには難易度も伴いますが、いわゆる「マルチスキル化」、つまり複数の分野で活躍できるスキルを身につけてもらうことを目指して、さまざまな取り組みを進めています。
そのような優秀な人材を育成することで、自動車や公共系システムでの品質管理の経験がFA分野に生かされるなど、分野を超えた知識やスキルの共有が進むはずです。
その逆もまた然りで、FA分野の顧客ニーズへの対応におけるノウハウが自動車や公共系のプロジェクトに生かされることもあるはずです。
社員一人ひとりのスキルを底上げすることで、組織全体の力を強化していく方針です。
M&Aや投資方針について
今回M&Aで迎え入れたAJ・Flat社は、派遣型のSES企業でしたが、当社のような請負型のIT企業でも、たとえばですが医療分野に強みを持つ企業などあれば、積極的にそういった新たな分野にも事業を拡充していきたいと考えています。
また、エリア拡大を見越したM&Aも考えています。
今回のAJ・Flat社は名古屋のみならず、東京にも一定数の人員を配置していますが、より多くの人材が必要だと考えています。
東京エリアでは日立製作所からの公共系案件が非常に大規模で、品質管理が重要視されるため、もう一社、ある程度の規模を持つ子会社をM&Aで迎え入れることを目指しています。
また、特殊な技術を持つ企業、AIやそれに付随した新たな技術を有する企業のM&Aも検討していますが、AIベンチャーではM&A後に人材が離脱してしまうリスクもあるため、慎重に動いています。
まずはAJ・Flat社のPMIを着実に実行して、社内体制の整備をしたいと考えています。
注目していただきたいポイント
投資家の皆様からは、自動車関連ビジネス、中でも自動運転技術などについて関心を寄せていただくことが多いようです。
この分野は当社の製品開発系事業として売上全体の約4割を占めており、確かに大きな柱の一つです。
自動車関連の開発については、自動車メーカー様が自社でプロジェクトを主導することが多く、外部企業に全工程を委託するケースはほとんどありません。
大手自動車メーカーの意識としては、安全性が直接関わってくる分野なので、重要な部分は自社でコントロールするという傾向があります。
そのため、この分野では当社が全面的に主導する機会は限られています。
そのような中、当社の真の強みが発揮されているのはFA分野や業務系システム分野におけるシステム開発です。
この分野では、システムの上流工程から下流工程まで、一貫したサポートが可能で、当社が主導してシステム開発を担っています。
また、FA分野は比較的高単価な案件が多く、IT企業としての利益率向上に大きく寄与する重要な事業領域です。
この分野に特化したソフトウェア系IT企業は少ないため、競争環境も比較的有利であり、当社の優位性をさらに強化できると確信しています。
特に、製造業におけるシステム開発の全プロセスを担える点で、他のIT企業との差別化が明確化されており、当社の成長を支えるコア分野として、引き続き注力していきたいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
現在(2024年12月時点)、当社の株価は堅調に推移しており、配当性向も30%を超え、配当利回りも約3.9%と、まずまずの水準にあると考えています。
当社の規模を考えれば、株主の皆様に向けた利益還元策は順調だと自負しております。
そのような中、皆様から「中期経営計画を早く提示してほしい」というご要望を多くいただいております。
昨年、新社長が就任し、現在その中期経営計画を策定中です。
加えて、AJ・Flat社をM&Aした影響も反映させる必要があるため、慎重に計画を練っています。
お待たせして申し訳ございませんが、早急に中期成長戦略をお示しする予定です。
この中期経営計画では、業績見通しに加え、今後10年の成長戦略や配当方針についても具体的にご説明する予定です。
これまでに成長カーブを見ていただければ分かる通り、上場後も着実に成長を続けており、「上場ゴール」ではないことを実感いただいていると思います。
安定性と成長の両立を目指して歩み続け、株主価値の最大化に向けて全力を尽くし、持続可能な成長を追求してまいります。
東海ソフト株式会社
本社所在地:〒453-0014 愛知県名古屋市中村区則武二丁目16番1号
設立:1970年5月30日
資本金:8億2,658万円(2024年12月アクセス時点)
上場市場:東証スタンダード市場、名証プレミア市場(2019年2月27日上場)
証券コード:4430