【6225】株式会社エコム 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月13日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社エコムはものづくりを楽しむことを理念として、カーボンニュートラルとDXで社会に貢献しています。

代表取締役の高梨 智志氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社エコムを一言で言うと

「カーボンニュートラルに挑戦することを企業ミッションとして、自らの成長と地方創生に貢献する企業」です。

エコムの沿革

株式会社エコム代表取締役 高梨 智志氏

創業の経緯

当社は今年で創業40周年を迎えました。

歴史としては長いですが、私が社長に就任したのは2009年のことなので、二代目となります。

創業の経緯をお話ししますと、初代の創業者は地元のガス会社に勤めていましたが、退職後に独立し、当社の前身となる「株式会社正英バンズ」を設立しました。

当時、ガスの販売とともに、ガスを使用するための設備を販売するのが、一つのビジネスモデルでした。

現在でもガス会社が給湯器を販売することがありますが、創業者も「工業炉」と呼ばれるガス設備を販売しながらガスを供給するモデルでビジネスを行っていました。

しかし、創業当初は設備も工場もなく、従業員もいない状況からスタートということで、唯一の資産とも言える工具箱を手に、メンテナンス業務から事業を始めたと聞いております。

このメンテナンス業務が、現在の保守サービス事業へとつながっています。

産業システム事業への拡大、上場

創業以来、保守サービスを続けてきたことで、お客様との信頼関係が構築されました。

そして、設備を修理して「助かったよ、ありがとう」といった感謝の言葉をいただく中で、「機械も作ってみないか」といった提案をいただくことが増えました。

その結果、当社は自社で製造工場を持つようになり、工業炉などの製造も手掛けるようになりました。

これがメーカーとしての機能を持つきっかけとなり、現在の産業システム事業へとつながっています。

そして昨年、2023年3月に私が社長に就任した時に目標としていた上場を果たしました。

上場にはメリットもデメリットもあると理解していましたが、少子高齢化や技能継承、事業継承といった課題がある中で、地方の中小製造業が生き残るためには、上場会社として信用力と知名度を上げることも必要ではないかと考えました。

そして、上場後は新卒採用の応募が増えたことや、金融機関との信頼関係の構築、自治体との関係性が広がるなど、非常にポジティブに捉えています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

エコムの事業概要と特徴

概要

当社の事業は産業システム事業と保守サービス事業の2つです。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

産業システム事業では「熱処理」を行う工業炉をオーダーメイドで設計、製造しています。

工業炉には、金属を溶解する「溶解炉」、塗装を乾燥する「乾燥炉」、樹脂を硬化する「硬化炉」などがありますが、どれも車やスマートフォンの部品を作るために利用されており、ものづくりには欠かせません。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

保守サービス事業では当社の祖業のビジネスでもあり、全国の工業炉のメンテナンスを請け負っています。

事業における優位性

保守サービスによる安定的な収益基盤

当社の保守サービス事業には、他社製品のメンテナンスも手がけられるという特徴があります。

これは、創業当初に自社製品がなかったため、他メーカーの設備をメンテナンスせざるを得なかったという背景から強みへと変わっていきました。

一般的に、企業が規模を拡大すると自社製品の製造に注力し、保守業務に手が回らない傾向がありますが、当社は創業時からの信念を守り続け、保守サービス事業に注力してきました。

この実績が事業の基盤となり、現在では売上の約3割、利益の約半分を生み出す重要な柱となっています。

結果として、2024年7月期の売上高は約8億1,000万円に達し、会社全体の利益を支える中核事業へと成長しました。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

保守サービス事業を紐解くと、大きく3つに分けられます。

まず1つ目は、創業当初から取り組んできた点検ビジネスです。

たとえば、年に1回の定期点検を行うもので、これは乾燥炉の場合には労働安全衛生法に基づき義務付けられています。

ガスバーナなどの設備点検を通じて爆発事故などを未然に防ぐことが目的です。

この点検業務が、いわゆるストック型ビジネスの中核を担っています。

多くのお客様から「毎年エコムさんにお願いしたい」とご依頼をいただいており、特に人手不足の影響で社内の点検業務をアウトソーシングする企業が増えています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

2つ目は、アライアンス事業です。

たとえば、関西電力さんやノリタケさんとの提携が挙げられます。

関西電力さんとは、省エネソリューションを共同で提案したり、ノリタケさんとは保守サービス業務を当社が担う形で協力しています。

このように、保守サービス事業と言ってもさまざまな形でビジネスを展開しており、非常に安定した収益基盤として当社を支えています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

3つ目は、改造工事です。

保守サービスの一環として、工場で使用される工業炉などの改造を手掛けています。

工業炉は通常10年から30年程度使用される設備ですが、新規の更新にはコストや減価償却の問題などさまざまな課題が発生します。

そのため、既存設備の省エネルギー化、運用効率の向上というニーズがあり、当社は排熱を回収する仕組みの追加、断熱性能の強化、燃料をガスから電気に転換することでCO2削減を図る、などさまざまな選択肢があります。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

このように、保守サービス事業と言ってもさまざまな形でビジネスを展開しており、非常に安定した収益基盤として当社を支えています。

カーボンニュートラルの高まりと産業システム事業

当社のミッションは、単なる売上拡大ではなく、事業が持続的かつ定性的に成長できるか否かが大切で、その中でも「カーボンニュートラル」というテーマが重要です。

現在、日本では2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにするという目標が掲げられています。

これは日本だけでなく、世界全体が取り組むべき課題です。

特に日本国内では、CO2排出量の約30%が工場から発生しており、そのうち40%が当社が製造する加熱設備や工業炉から排出されています。

つまり、日本全体の約14〜15%にあたります。

こうした背景の中、当社は省エネルギー、省スペース、省時間を実現するためのノウハウと技術を駆使し、お客様に最適なソリューションを提供しています。

これが当社の大きな強みです。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

ヒートトライアルを中心とした顧客深耕

カーボンニュートラルへの取り組みをさらに加速させるため、上場時の資金調達を活用して設立した「ヒートスクエア」内に「エコムテクニカルセンター」という専用のテストセンターを運営しています。

この施設では、さまざまな加熱試験が可能であり、具体的な省エネ提案を行うためのデータや技術を提供しており、主要顧客はトヨタ自動車といった、誰もが名前を知る超大企業ばかりです。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

大企業の技術者、例えば生産技術や設計に携わる専門家たちと対等に議論し、試験や顧客の課題に対しての改善を進めており、こうした環境での経験と実績は、他社と差別化できる大きなポイントだと考えています。

当社のサポートの基、ヒートトライアルで良い結果を出し、信頼を獲得することで受注につなげられるというビジネスモデルを構築しています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

他社はお客様からの仕様書に基づいて製品を作ることがほとんどですが、当社はその仕様書の作成段階からお客様と一緒に取り組むことが可能です。

また、地域性も影響しているのですが、たとえば浜松周辺では自動車関連のお客様が多く、結果的に自動車業界からの引合い案件が多くなっています。

自動車業界で近年盛り上がりを見せているCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric:コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)ですが、各自動車メーカーは特にEV車の電池やモーター関連の開発に大きな投資をしています。

電池やモーターの製造工程については、当社もさまざまな企業とテストを重ねており、今後の成長を語る上でも重要なセグメントであると捉えています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

このように、開発工程から生産工程に至るまで幅広くお客様との関係性を深めることで、取引が継続するという非常に安定的なビジネスモデルとなっています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

エコムの成長戦略

追い風のマーケットへの成長投資

産業システム事業は、カーボンニュートラルの追い風を受けて非常に有利な状況にあります。

現在、エネルギー効率を高め、省エネルギーを実現することが企業に求められる中で、当社の技術が強みを発揮しており、かつては生産性の向上、つまり短時間で効率的に生産することが重視されていましたが、今ではカーボンニュートラルもセットで考えられるようになりました。

この分野では、当社が他社に比べて大きなアドバンテージを持っていると考えています。

現在、当社の受注の約8割はヒートトライアル(加熱テスト)から始まっており、案件獲得のための大切なチャネルとなっています。

当初は1台のテスト機から始め、約10年ほどかけて地道にテスト機を増強してきました。(現在12台)

長期的な成長を見据えると、継続的に設備投資を行う必要があり、その一環として今期は約3,000万円を投じて新しいテスト装置を導入する予定です。

今後も当社の強みを活かしたオーガニック成長への投資は進めていきますが、製造業では10%〜20%の成長率の中で急成長を実現するのは難しいため、加えて事業譲渡やM&Aなど、シナジーのある企業があれば積極的に取り入れていく方針です。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

投資家の皆様の中には、「IPO=グロース市場」というイメージを持たれる方も多く、その中でも当社はIPOを名証メイン市場で行ったことから、「成長率が低いのではないか」「もっと高い成長を目指すべきではないか」という意見もしばしばいただきます。

しかし、当社は安定成長を重視しており、しっかりと利益を積み上げ、株主の皆様に還元することを大切にしています。

具体的には、配当性向を徐々に引き上げるとともに、長期的かつ安定的な増配を目指しています。

長期的に安定的な成長を実現し、キャピタルゲインと配当を両立していく銘柄として評価していただきたいと考えています。

株式会社エコム 2025年7月期 第1四半期決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社では株主様向けに株主総会時に工場見学を実施しており、当社のリアルが分かるということもあり、非常に好評です。

多くの参加者の方からは、地方製造業のイメージと全く違って驚いたとのご感想をいただく事がほとんどです。

今後も株主の皆様と直接対話し、ご意見をいただきながら、エコムという銘柄をしっかりご理解いただきたいと考えています。

投資を通じて当社に関心を持っていただき、株主総会でも多くのご意見をお寄せいただきながら、ご評価していただけると大変嬉しいです。

株式会社エコム

本社所在地:〒434-0041 浜松市浜名区平口5277-1

設立:1985年8月17日

資本金:131百万円(2024年12月末時点)

上場市場:名証メイン市場(2023年3月31日上場)

証券コード:6225

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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