※本コラムは2024年12月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。
プレシジョン・システム・サイエンス株式会社は「高度な自動化技術」と「汎用性の高い核酸抽出プラットフォーム」を提供し、検査の品質向上と標準化に貢献しています。
代表取締役社長の杉山 悠氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
プレシジョン・システム・サイエンス株式会社を一言で言うと
「誰でも簡単に扱える自動化技術を通じて、遺伝子検査をはじめとする幅広いバイオヘルスケア分野に対応できる汎用性の高いプラットフォームを提供する企業」です。
プレシジョン・システム・サイエンスの沿革
創業の経緯
プレシジョン・システム・サイエンス株式会社(以下、PSS)は臨床検査ラボ向けの理化学機器の保守メンテナンスを目的として、1985年に東京都板橋区に設立いたしました。
前社長の田島は元々、現在のアドバンテック東洋株式会社(当時は東洋濾紙)で営業を担当しており、臨床検査用自動化機器やそのアフターメンテナンスなどを扱う専門的な営業を行っていました。
その頃、検査センターは非常に少なく、株式会社エスアールエルのような大手は数えるほどしか存在しない時代でした。
田島は、そうした大手検査センター向けに、特注の臨床検査用自動化装置を卸していました。
当然、検査センターのラボでは臨床検査用自動化装置を日々使用する中でメンテナンスが必要となりますので、そのメンテナンスを専門に行う会社の設立が必要だという考えの下、仲間内で会社を立ち上げたのが創業のきっかけだったと聞いております。
独自技術の開発
当社はラボ保守業務を通じて、煩雑な手作業による検査に関するお客様のご苦労を伺う機会が多くあり、検査工程の自動化を機器で支援するご提案を進める中で、少しずつ実績とノウハウを蓄積していきました。
そしてベンチャースピリットに溢れる田島主導の下、顧客に新しいアイデアやユニークな自動化システムを積極的に提案し続け、この取り組みが大手製薬・診断薬メーカーの注目を集め、免疫検査や遺伝子検査向け機器の開発に着手するきっかけとなりました。
また、大きな転機となったのは検査の前処理の自動化に適した革新的な磁性粒子制御技術「Magtration1テクノロジー」の発明です。
この技術を応用したシンプルな核酸抽出機器の開発に成功したことで、世界の大手診断薬メーカーとの提携が次々と実現し、IPOや事業拡大の重要な転機となりました。
さらに、近年では自社製核酸抽出試薬の開発にも成功し、PSSの核酸抽出プラットフォーム(機器、試薬、専用消耗品を含む)は、フランスのELITech社(Bruker Corporationのグループ企業)をはじめとする多数のグローバルな診断薬メーカーに、遺伝子検査の前処理法として採用されてきました。
このプラットフォームは、名実ともにPSSのコアコンピタンスとして、現在まで当社事業の基盤を支えています。
コロナ禍と遺伝子検査業界
コロナウイルスの蔓延は遺伝子検査業界全体を大きく変化させました。
私もお客様とお話しする中で、ワールドワイドで多くの情報を耳にしますが、特に印象的なのは、遺伝子検査事業そのものの規模が、コロナによって爆発的に拡大したことです。
遺伝子検査の歴史はまだ40年程度と比較的浅いのですが、それまでの累計検査数をはるかに超える規模の検査が、コロナ禍で一気に行われました。
PCR検査(遺伝子を増幅して感染症の有無を調べる検査)が、短期間で一般的な用語となったのは、まさにコロナがきっかけです。
PCR技術自体は、コロナ以前から感染症検査などに使用されており、インフルエンザやB型・C型肝炎といった主要な感染症の検査でも用いられてきました。
その特徴は、高い正確性と短時間で結果が得られる迅速性です。
しかし、コロナ禍以前は、この業界は大手企業が独占的に市場を掌握しており、医療機関側が選べる選択肢は非常に限られていました。
しかし、コロナによる市場拡大で、供給不足に陥る大手企業が現れ、新規参入者が増加したことで市場競争が活発化し、ユーザーが製品を選べる環境が整いつつあります。
また、コロナ検査用の機器は、呼吸器感染症や性感染症など幅広い用途に対応可能なプラットフォームに進化しており、ユーザーが用途に応じて柔軟に検査機器を活用できるようになっています。
そのような中で、汎用性の高さを誇る検査機器を提供し、検査薬業界のプラットフォーマーとしてのポジションを確立しています。
代表就任の経緯
PSSは、新型コロナウイルス向けPCR検査需要の増加により、2021年度は過去最大の増収を達成しました。
しかし、新型コロナウイルスの収束に伴う急激な需要減少により、2023年〜2024年度は2期連続で大幅な赤字を計上し、一時はGC注記を記載するほど厳しい状況に直面しました。
このような状況の中、当社最大のパートナーであるELITech社とのOEM製品の長期供給契約を締結したことで、製造販売を中心とした、事業再生の道筋が見えて参りました。
これを契機に、前社長の田島は、成長戦略として注力してきた研究開発事業とコア事業である製造販売事業を分割して最適化を図る決断を下しました。
そして田島はPSSの研究開発拠点である子会社UBRをMBOによりスピンアウトし、研究開発事業に専念する道を選択しました。
一方、PSSのコア事業である製造販売事業は私が引き継ぎました。
私はPSSの営業責任者として長年にわたりELITech社とのビジネスを担当しており、今回の長期供給契約の締結を含め、深い信頼関係を築いてきた実績が評価され、新生PSSのリーダーに任命していただきました。
プレシジョン・システム・サイエンスの事業概要と特徴
概要
PSSのビジネスモデルは、ODM・OEM製品の受託製造事業と自社ブランド製品の製造販売事業の2つに分かれます。
これらに共通して注力しているのが、「自社製核酸抽出プラットフォームの提供」です。
このプラットフォームを利用するパートナー企業が増えることで、機器に付随する核酸抽出試薬や専用消耗品の使用量が増加し、ストック型のビジネスモデルが強化される仕組みとなっています。
さらに、大館の自社工場で製造する核酸抽出試薬の使用量が増えることで、工場稼働率が向上し、製造コストが削減されるため、利益率の向上が期待できます。
事業における優位性
高い技術力
PSSの核酸抽出試薬および自動化技術は、多様な検体(全血、血清、血漿、唾液など)から、手軽かつ、短時間、低コストで高品質な核酸を抽出できることが特長です。
この技術は、多くのパートナー企業や顧客から高い評価を得ています。
核酸を抽出する方法はいくつかありますが、当社の方法は「磁性粒子法」と呼ばれるもので、特殊な磁性体ビーズ(マグネティックビーズ)に検体中の核酸を吸着させ、それを洗浄・精製することで綺麗な核酸を取り出します。
Magtrationテクノロジーと呼んでいるこの技術は、自動化を前提とした技術であり、当社の競争力の源泉となっています。
プラットフォーマーとしてのユニークなポジション
PSSは、競合の多い診断薬開発ではなく、核酸抽出および遺伝子検査の自動化に特化したプラットフォームを開発・提供しています。
この独自のビジネスモデルにより、パートナー企業の研究・製造・維持コストを大幅に削減し、競争力の向上を支援しています。
核酸抽出から遺伝子増幅、結果分析までを統合した完全自動化システムを提供していますが、機器、消耗品、ソフトウェアを一貫して自社で設計・製造できるため、検査薬の上市後も迅速かつ高品質なサービスを提供し、顧客満足度と信頼性の向上に寄与しています。
プレシジョン・システム・サイエンスの成長戦略
事業再生フェーズ
2024年9月30日に開示した中期経営計画のとおり、2027年までの3年間は「事業再生フェーズ」として、受注した製品の製造・供給や受託中のOEM製品開発の計画達成をプライオリティとしています。
これにより、年平均約10%の売上成長を目指すと同時に、大館工場を中心とした子会社再編や抜本的なコスト削減を通じて営業利益率を5%以上に引き上げ、期間内での黒字化を必達目標としています。
以前の経営体制では、ベンチャースピリットが非常に強く、研究開発への投資が多岐にわたっていました。
常に5〜6件のテーマに取り組んでいる中で、そのうちどれが事業化できるかは不透明で、その結果、事業化の見込みが立たないプロジェクトにリソースが分散してしまい、安定した経営と言えるものではなかったと反省しています。
そこで、現在は「選択と集中」を重視し、収益化が見込める事業にのみ投資する方針に切り替えています。
中でも重要なのは、新型コロナウイルス対策として補助金を活用し設立した大館工場を最大限に稼働させることです。
コロナ禍の特需に対応するために政府の補助金も活用しながら建設しましたが、アフターコロナの現状では活用しきれていない製造設備もあります。
そこで、フル稼働させるためにも他社との連携を積極的に検討しています。
この工場は核酸抽出プラットフォームの製造に特化しているため、どのように他社とシナジーを生み出しながら、コストの安定化と収益性向上を実現していくかが課題です。
新市場への参入
中期経営計画に則り、選択と集中を進めていますが、将来的に大きな成長が見込まれる分野や、他社がまだ参入していない新しい領域に絞って取り組んでいきます。
そこで、5〜10年後の中長期的な成長戦略として、遺伝子検査以外の新しい市場への参入を進めています。
そして、その一環として糖鎖を用いたバイオマーカーの開発と事業化に取り組んでいます。
DNA(遺伝子)やタンパク質に続く、生命を支える重要な分子である糖鎖は、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たしており、多様な診断項目への応用が期待されています。
しかし、糖鎖は構造が複雑かつ多様で取り扱いが難しいため、検査に適した簡便なシステムの開発が求められています。
これに対して、PSSは独自の自動化技術であるBIST®2テクノロジーを応用することで、複雑な糖鎖構造を簡易操作で迅速に安定して解析することが可能です。
具体的な検査項目として、IgA腎症を始めとする、腎臓病をターゲットとしており、尿検体を用いた身体への負担が少ない非侵襲性の検査を実現し、病気の早期発見に寄与することを目指します。
注目していただきたいポイント
PSSは、新型コロナウイルスの影響で広く名前が知られるようになりましたが、一部の新しい投資家からは「コロナ検査等の診断薬メーカー」と誤解されることもあります。
しかし、当社の本質的な強みは、「高度な自動化技術」と「汎用性の高い核酸抽出プラットフォームの提供」にあります。
このプラットフォームは、感染症のみならず、がんや遺伝性疾患、家畜・環境検査、法医学など幅広い遺伝子検査に応用されており、アフターコロナの環境においても、提携パートナーの増加を通じて持続的な成長を見込んでいます。
投資家の皆様にPSSの価値をより深くご理解いただけるよう、IR活動の充実を図り、当社の長期的な価値創造に共感していただけるよう努めてまいります。
投資家の皆様へメッセージ
PSSは当年で40期を迎え、日本のバイオベンチャーとしては古参となりました。
この節目の年に、創業社長である田島氏を始めとする、前任の常勤役員6名の総退陣との大きな決断により、世代交代を行いました。
3名の新任役員による新体制にて、心機一転、短期間での事業再生と業績向上による株主還元の実現と、新たな成長戦略による継続的な企業価値と株価向上に努めて参ります。
プレシジョン・システム・サイエンス株式会社
本社所在地:〒271-0064 千葉県松戸市上本郷88番地
設立:1985年7月17日
資本金:100百万円(2024年6月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2001年2月28日上場)
証券コード:7707