【4667】アイサンテクノロジー株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月8日に実施したIRインタビューをもとにしております。

アイサンテクノロジー株式会社は、少人数ながら卓越した測量技術を支援するソフトウェアを中心としたソリューションの創造と開発を強みとするプロフェッショナル集団として、「山椒は小粒でもピリリと辛い」を地で行く企業です。

代表取締役社長の加藤 淳氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

アイサンテクノロジー株式会社を一言で言うと

測量技術を支援するソフトウェアを中心としたソリューションの創造と開発を強みとするプロフェッショナル集団です。

アイサンテクノロジーの沿革

アイサンテクノロジー株式会社代表取締役社長 加藤 淳氏

創業の経緯

当社は1970年に創業しました。創業者が当時勤務していた自動車会社から独立し、事務機器(OA機器)を販売する商社を立ち上げたのが始まりです。

その頃、シャープのプログラム電卓が登場し、当社もシャープの商品を扱うようになりました。

このプログラム電卓を、測量会社や不動産登記を代理申請する土地家屋調査士の方々に販売していた過程で、測量の現場と触れ合う機会を得ました。

現場の方々から、「測量で取得した距離や角度のデータを用いて座標や位置情報を計算できないか」という要望を受けたことをきっかけに、1977年に測量計算システム「ABS」を発売しました。

そして、測量のお仕事を効率化するソフトウェア開発・販売へと事業を拡大しました。

測量業界でのポジション確立

1980年代後半から1990年代初頭にかけて、日本ではNECのPC-98シリーズや「一太郎」「花子」といったソフトウェアが普及し、PCが黎明期から普及期へと移行しました。

この流れに乗り、当社も1983年に簡易CADシステム「FINE-PLOT」を、翌1984年には測量CADシステム「WING」を発売しました。

当時、測量業務の最終成果物である図面作成は手書きが主流で、多大な時間と労力がかかっていました。

しかし、当社が開発したCADシステムにより、PCでの図面編集や、自動製図機(プロッター)での出力が可能になり、作業効率が飛躍的に向上しました。

これにより、測量業界で広く支持されるようになりました。

さらに、当社はプロッターのOEM提供を受け、自社ブランドとして販売、サポートを行いました。

その結果、業界でのシェアを獲得するとともに、測量・不動産登記に係る製品、サービスで事業を拡大し、1997年4月9日には株式を店頭登録することに成功しました。

自動運転への拡大

順調に業績を伸ばしていましたが、バブル経済崩壊後、2000年代の建設業界における構造改革に伴う市場環境の変化は当社にも影響を及ぼしました。

2000年には希望退職を募り、社員数を半分に減らすという苦しい経験もしました。

しかし、2003年には三菱電機から第三者割当出資を受け、資本提携を結んで新たなスタートを切りました。

2008年には、三菱電機が開発した高精度地図データ生成システム「モービルマッピングシステム(MMS)」の国内代理店を開始するとともに、当社保有の初号機を2009年3月に導入しました。

その後、2013年10月に「ITS世界会議 東京2013」に出展し、最先端位置情報技術として、MMSを出展したところ、自動車業界において自動運転の研究に携わる企業から注目され、「このデータを使って自動運転のシミュレーションや地図データを作れないか」という相談を受けるようになりました。

当社は、高精度な位置情報計算技術や解析ソフトウェアの開発に強みを持っており、これらを組み合わせることで自動運転向け地図データの作成に挑戦しました。

2016年には、国内企業から日本全国の高速道路約3万キロの地図データ作成を依頼され、本格的にモビリティ領域に参入しました。

さらに、自動運転の社会実装を加速させるため、2023年には三菱商事と共同で「A-Drive株式会社」を設立しました。

この新会社は順調に成長を続け、計画以上の成果を上げています。

アイサンテクノロジー株式会社 2025年3月期 中間決算説明会 より引用

アイサンテクノロジーの事業概要と特徴

概要

当社は、公共セグメント事業とモビリティセグメント事業を2本柱として展開しています。

まず、公共セグメント事業では、測量会社、建設コンサルタント業、土地家屋調査士など、測量業界で活躍する方々に対し、

北海道から沖縄まで日本全国を市場としており、お客様の測量現場での「測る」に始まり、オフィスでの「観測したデータの処理、計算、図面作成」を行い、納品するための「成果品」作成までを一気通貫で支援しています。

自社独自の測量に係る知見、ノウハウを活かしたソフトウェアの開発、販売の提供を中心に、スイスに本社を在するライカジオシステムズ製の高精度で信頼性の高い測量計測機器の販売とお客様の業務の効率化を実現すべくトータルでソリューション提供を行っております。

次に、モビリティセグメント事業では、近年急成長している自動運転関連のソリューションを高精度三次元地図を中心に様々な商材、サービスを提供しています。

主な顧客は、自動車業界や地図関連企業で、各社と連携しながら成長分野として事業を展開しています。

アイサンテクノロジー株式会社 2025年3月期 中間決算説明会 より引用

事業における優位性

高精度な測量技術と顧客との密接な関係性

測量という分野では、国家資格である測量士や測量士補の資格を持ち、測量計測機器を用意すれば、ある程度の位置情報を取得することが可能です。

現在では、GNSSを活用してアンテナを設置すれば、地球規模での座標を即座に取得できる時代となっています。

しかし、測量は国防や国土形成と密接に関わる分野であり、非常に高い精度が求められます。

そのため、位置情報の把握や計算は厳格なルールの下で運用されており、容易に対応できるものではありません。

当社は、この厳しい要件に対応しながら、50年以上にわたりソフトウェアを改良し続けてきました。

測量業務には、非常に複雑で手間のかかる処理が伴います。

たとえば、10メートル四方の土地の面積を計算する際、三角形に分割して計算すると99.99平米と微妙な誤差が生じることがあります。

このような誤差も、正確に処理し根拠を示すことが求められます。

こうした高度な対応が必要な分野であるため、参入障壁は非常に高く、これまで大手企業が参入を試みた例もありますが、その多くが撤退を余儀なくされました。

当社が今日まで事業を継続できているのは、粘り強いソフトウェア開発と、顧客の顕在的・潜在的なニーズを正確に製品に反映してきた成果です。

当社は、全国に約8,000件の顧客ネットワークを持ち、代理店として直接顧客と向き合う中で吸い上げたニーズを製品やサービスに反映しています。

この継続的な取り組みが、当社の技術力を高める原動力となり、競争力を支えています。

アイサンテクノロジー株式会社 より提供

アイサンテクノロジーの成長戦略

公共セグメントの戦略

公共セグメントにおいては、新たな道路や空港やダムの建設といった大規模インフラ整備が少ない現在、戦後80年をかけて整備された社会インフラの効率的なメンテナンスによる維持が重要な課題となっています。

この分野には政府から予算が十分に充てられており、安定した成長が期待されます。

また、不動産分野では、所有者不明の土地や空き家の増加が大きな問題となっています。

当社は測量技術を活かし、このような課題に対して新たな解決策を提案することで、新たな売上の創出が可能になると考えています。

さらに、少子高齢化はどの業界においても深刻な課題です。

測量業界においても後継者不足や若年層の人材確保が困難な状況が続いていますが、測量という業務そのものが無くなることはありません。

当社では、ソフトウェア提供にとどまらず、新しい計測機器との融合を図ったハイブリッドなソリューションを提案し、顧客の業務効率化に貢献していきます。

自動運転の社会実装に向けて

当社は、自動運転関連ソリューションの提供を通じて、社会実装の推進に取り組んでいます。

経済産業省と国土交通省が掲げる「RoAD to the L4」では、2025年度までに50カ所、2027年度までに100カ所以上での自動運転移動サービスの実現が目標とされています。

アイサンテクノロジー株式会社 2025年3月期 中間決算説明会 より引用

人口減少に伴い、地方では交通手段の減少が進み、交通課題の解決が喫緊の課題となっています。

これに対応するため、自治体を巻き込んだ自動運転の実証実験が2023年度から活発化しており、当社はグループ会社のA-Driveとともに2023年度は15カ所、2024年度には25カ所で実証実験を行っています。

その他地域でも高精度三次元地図の提供を行っているケースもあります。

この流れは今後も拡大し、2027年頃には商用自動運転サービスが本格的に始まると見込んでいます。

アイサンテクノロジー株式会社 2025年3月期 中間決算説明会 より引用

ただし、自動運転という分野は非常に大きなマーケットであり、1社単独で全てを賄うことはできません。

そのため、通信・保険・車両など各分野に強みを持つ企業との協業が不可欠です。

当社は、自動運転用の高精度地図データを作成するという強みを活かし、グループ会社「A-Drive」を中心に、幅広い事業展開を進めています。

たとえば、ヤマハ発動機が提供するグリーンスローモビリティ(GSM)を導入している施設内で、自動運転による移動サービスを展開する計画も進行中です。

このように、当社は他社との協業を通じて「面白い技術を持つ会社」として評価されることを目指し、PRや営業活動の強化を進めています。

人的資本への投資

現在の中期経営計画では、前回の計画での反省を踏まえ、初年度から人材投資に積極的に取り組み、計画を前倒しして進めています。

人材の確保と教育に大規模な投資を行っており、これまでにない規模の取り組みとなっています。

特に営業職とエンジニア職の拡充に注力しており、営業職については経験値の積み重ねが重要であるため、キャリア採用を強化しています。

その結果、優秀な人材が集まり、当社の成長を大きく支えています。

また、2020年に政府が働き方改革を発表して以降、コロナ禍を契機にテレワークの普及など働き方の変革が進みました。

当社では、それ以前から柔軟な制度づくりに取り組んでおり、社員が両親の介護やお子さんの育児をしながら働けるコアタイムのないスーパーフレックス制度や自宅などでも業務を可能とするテレワーク制度を導入するなど、働きやすい職場環境の整備を進めてきました。

さらに、少子高齢化を見据え、2020年には定年制度を65歳から70歳に引き上げ、シニア人材がより活躍できる環境を整備しています。

当社は、社員一人ひとりを大切にし、今後も働きやすい環境づくりを進めてまいります。

アイサンテクノロジー株式会社 中期経営計画(2025年3⽉期〜2027年3⽉期) より引用

注目していただきたいポイント

アイサンテクノロジーは、「実直さ」を信条とし、自社で製品を開発し、自社で販売するという「独立独歩」の精神を大切にしています。

この精神を保ちながら、当社は自動運転のような大きく魅力的な市場にも果敢に挑戦してきました。

その結果、多くのパートナー企業から信頼を得て、強固な協力体制を築いています。

このことが、当社の「実直さ」を証明していると考えています。

一方で、測量という分野は非常に専門的であり、個人投資家の皆様には少し分かりづらい部分があるかもしれません。

しかし、測量という仕事は社会を支える基盤技術であり、決して無くなることのない重要な分野です。

AIやテクノロジーが進化したとしても、どのように測定し、どのデータを処理するかといった判断には、人間の専門知識や経験が必要です。

たとえば、能登の震災の際にも、最初に現地で行われたのは測量でした。

現地の状況を測定し、図面を作成することで、車が通れるルートや避難経路を確保するためのベースとなる地図が完成します。

このように、測量は社会インフラを支える最初の技術であり、なくてはならないものです。

当社は、このように社会を支える技術を提供する会社として、皆様のお役に立てることを誇りに思っています。この点をご理解いただけると幸いです。

アイサンテクノロジー株式会社 2025年3月期 中間決算説明会 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は1997年4月に株式公開を果たし、現在まで約30年間、上場企業として活動を続けてまいりました。

近年では、個人投資家の皆様に当社をより知っていただくための取り組みを、小規模ながらも積極的に進めています。

その一環として、2024年には名古屋証券取引所への重複上場を実現しました。

当社は、測量分野で培った技術を基盤に、自動運転をはじめとする新しい分野にも果敢に挑戦しています。

今後も、社会に貢献する技術を開発し続け、成長を目指してまいります。

ぜひ、当社の取り組みをご評価いただき、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。

アイサンテクノロジー株式会社

本社所在地:〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦三丁目7番14号 ATビル

設立:1970年8月12日

資本金:19億2,251万円(2024年4月1日時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1997年4月9日上場)

     名証メイン市場(2024年10月23日上場)

証券コード:4667

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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