【4265】Institution for a Global Society株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月9日に実施したIRインタビューをもとにしております。

Institution for a Global Society株式会社は「バイアスなき評価」を提供し、誰しもが平等な教育機会を享受し、活躍できる世界を創ります。

代表取締役会長CEOの福原 正大氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社Institution for a Global Societyを一言で言うと

「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人を、つくる」会社です。

Institution for a Global Societyの沿革

株式会社Institution for a Global Society代表取締役会長CEO 福原 正大氏

創業の経緯

私は長年、金融業界においてグローバルな環境の中で仕事をしてきました。

その中で痛感したのは、日本人が非常に高い能力を持ちながらも、世界的な視点で見ると日本の存在感が徐々に薄れているという現実でした。

そしてこの課題の本質は、日本の教育にあるのではないかと考え、日本の教育や人材育成の在り方に変革を起こしたいという強い思いから、2010年に当社を設立しました。

GROWの開発と研究資金の調達

金融業界に携わる中で、私はブラックロックにおいてクオンツ(定量分析)の業務を担当していました。

この経験を通じて、日本の教育や人材分野でのデータ分析のレベルが低いことに気づき、ファイナンシャルエンジニアリングの手法を人材開発に応用すれば、新たな可能性を生み出せるのではないかと考えました。

この考えを基に東京大学と共同研究を開始し、人材開発モデル「GROW」を開発し、2016年にはローンチに成功しました。

同年、朝日新聞社と業務提携を結び、利用者拡大に向けた展開を進めました。

研究資金の調達も進み、東京大学エッジキャピタルや東京理科大学ベンチャーキャピタルから3.5億円、みやこキャピタル(京都大学のベンチャーキャピタル)や慶應イノベーション・イニシアティブから2.5億円を調達し、累計6億円を達成しました。

BtoBへの方向転換

研究開発は順調に進んでいましたが、当初想定していたプラットフォーム型のサービスはビジネスとして十分に成功せず、方向性を転換しました。

そこから、BtoB向けサービスとして展開することにしました。

最初の顧客となったのは、全日空(ANA)や三菱商事といった、学生に人気の高い大手企業でした。

たとえば、ANAでは2万人以上の応募者からわずか50人を選抜する必要がありましたが、GROWの導入によってこのプロセスを効率化することができました。

また、三菱商事では新卒採用において全応募者をスクリーニングし、記念受験を含む膨大な応募者の中から優秀な人材を見極める手法として活用されました。

この2社との取引が大きな転換点となり、GROWの利用者は2016年末から2017年初頭にかけて数百人規模から一気に3万人規模へと拡大しました。

また、AIを採用活動に活用する取り組みは非常に珍しく、2017年8月にはハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディとして取り上げられました。

さらに、同年、NHKの番組でGROWが紹介され、一気に注目を集め、利用者数がさらに増加していきました。

近年ではグローバルのネットワークを活用して、国際的な取り組みにも挑戦しており、成長を続けています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

Institution for a Global Societyの事業概要と特徴

概要

当社のGROWシリーズは、すべての人が平等に教育機会や活躍の場を見つけることができる世界を目指し、「バイアスなき評価」を採用しています。

この理念に基づいたサービス開発を行い、子どもから社会人まで、すべてのステージで個人の可能性を最大化するための仕組みを提供しています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

事業としては大きく3つの分野に分かれていますが、将来的にはこれらをすべて統合することを目指しています。

その最終目標は、子どもの頃から蓄積されたデータを本人が自ら管理し、必要に応じて活用できる仕組みを構築することです。

この仕組みを通じて、当社のビジョンである「誰もが平等に教育や活躍の場を得られる社会」を実現します。

まず、教育事業では「Ai GROW」や「GROW Academy」を通じ、小学生から大学生に至るまで幅広い層の学生にサービスを提供しています。

これらのサービスを通じて、多くの教育データが蓄積されており、それが将来の個別化された学習支援や評価の基盤となっています。

現状の収益モデルは、国や自治体、教育機関が費用を負担する形を採用しており、利用者である学生は無償でサービスを利用することが可能です。

次に、HR事業では、「GROW360」や「DxGROW」といったサービスを提供しています。これらは一般企業に導入され、採用活動や人事評価などに活用されています。

企業が費用を負担するモデルのため、個人が直接GROWの利用料を支払う必要はありません。

これらのサービスは、企業の人材育成や採用活動の中で「公平かつバイアスのない評価」を実現しており、より適切な人材マッチングを可能にしています。

そして、将来のすべてのサービス統合を支える要素として、暗号資産を活用したプラットフォーム/Web3事業も展開しています。

この事業では「ソウルバウンドトークン(SBT)」や「ノンファンジブルトークン(NFT)」を活用し、教育資金の問題を解消する新たな仕組みを開発しています。

これにより、資金的に制約を受けてしまう人でも教育を受けられる環境を構築することを目指しています。

さらに、当社のサービスは、教育事業からHR事業まで、一貫した評価軸でつながっています。

この評価データは個人が自らの実績として管理できる仕組みとなっており、2023年10月にリリースした「ONGAESHI」プロジェクトによって実現しました。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

360度評価を支える「バイアスなき評価」

当社のGROWシリーズが教育業界やHR業界で広く採用されている背景には、「評価バイアスを補正するAI技術に関する特許」の取得が大きく寄与しています。

この技術は、評価の信頼性や評価者の特性(甘い・辛いなど)を考慮し、AIがバイアスを補正することで、より公平で正確な評価を実現するものです。

360度評価の前提条件は、「他者からの評価が正確であること」です。

しかし現実には、上司を評価する部下による忖度や部下を評価する上司の個人的な好みや偏見、同僚間の競争心や友好関係による影響などさまざまなバイアスが存在します。

特に、大規模な組織では評価の歪みが発生しやすく、これが能力評価の信頼性を損なう要因となっています。

一方で、当社が開発した技術は、AIを活用してこうしたバイアスを補正し、公平で正確な評価を可能にするものです。

この技術により、評価の公平性と正確性を高め、組織内での適切な人材評価を実現しています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

さらに、この技術は教育現場でも活用されており、友人同士の評価において生じやすいバイアスを補正することも可能です。

そのため、すでに44都道府県の学校で導入されており、年間十数万人の学生が利用しています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

当社が保有する「バイアスを補正する技術」の特許は、他社による模倣が不可能な唯一無二のものであり、当社の大きな差別化要因となっています。

この技術は、HR分野においては大手コンサルティングファームにはない強みを提供しており、特に人事評価の精度を高める場面での優位性は圧倒的だと自負しています。

数々の研究実績と広範なネットワーク

これまで当社では、産学連携を通じて人材評価や教育分野における数多くの研究を行い、さまざまなサービスを開発してきました。

その中でも、「人的資本理論の実証化研究会」を一橋大学大学院と共同で主催し、人的資本が企業価値にどのように影響を与えるかを実証的に分析しています。

2022年度の研究成果では、上場企業32社を対象に、人的資本(企業内人材の能力)を定量化し、分析を実施しました。

その結果、特に管理職の能力が企業価値(株式時価総額)を左右する可能性が示唆されました。

さらに2023年度の研究成果では、部長職のイノベーション力が、企業のKGIやKPI達成に大きく寄与することを発見しました。

これらの成果は、人的資本の重要性を改めて浮き彫りにするもので、今後さらに当社の必要性が高まると考えています。

また、当社は国内のみならず海外にも幅広いネットワークを有しています。

当社は国内外で広範なネットワークを有しており、それが研究とサービス開発を支える重要な要素となっています。

国内では、出資者であった東京大学、京都大学、慶應義塾大学、東京理科大学といった主要な大学との強固な連携を構築しベンチャー企業として活動しています。

また、私は一橋大学や慶應義塾大学で教鞭を取る立場を活かし、アカデミアでのネットワークを通じた実証実験や共同研究を進めています。

さらに、学会や国際的なカンファレンスを通じて、海外の研究機関や専門家とも積極的に連携を図っています。

当社のユニークな立ち位置を生かしたネットワークはビジネスを拡大する上で非常に役立っています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

Institution for a Global Societyの成長戦略

市場環境と「ONGAESHI」プロジェクトの推進

当社はGROWシリーズを教育事業やHR事業で展開していますが、そこで得られたデータを個人に還元する仕組みはまだ十分に整備されていません。

これを解決するため、私たちは「ONGAESHI」という教育プラットフォームを通じて、データの個人還元を実現したいと考えています。

ヨーロッパではGDPR(一般データ保護規則)の施行により、個人が請求すれば企業が自身のデータを統合し、ダウンロード可能にすることが義務付けられています。

EUでは国境を超えた転職が一般的であり、フランスやドイツといった各国で異なる教育制度や大学の仕組みに対応するため、個人が自分のデータを管理できる仕組みが求められています。

一方で、日本ではこのような法整備がまだ進んでおらず、データ管理や活用の課題が残っています。

特に、教育事業では学校が、HR事業では企業が費用を負担するため、データ還元の仕組みをどう個人に連動させるかが大きな課題です。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

教育プラットフォーム「ONGAESHI」における収益化

「ONGAESHI」の収益化は中長期的な視点で捉えていますが、現時点で3つの収益モデルを想定しております。

まず、採用成功時の成功報酬型の収益モデルです。

「ONGAESHI」を通じた採用が成功した場合、採用企業からの成功報酬が発生します。

また、リクルーティングエージェントの成果報酬から当社が収益を得る仕組みも含まれています。

2つ目がNFT販売による収益モデルです。

「ONGAESHI」内ではNFTがエコシステムの中核を担っており、その売上が重要な収益源となります。

個人の学びや成果に関連したNFTが販売されることで、新しい価値を創出します。

そして3つ目が、IEOによってトークン価値が向上することで得られるストック収益です。

発行したNFTを「IEO(Initial Exchange Offering_トークンの取引所への上場)」することで、トークンの価値向上を図ります。

トークンの価値が高まることで、エコシステム全体の成長が促進される仕組みです。

このように、「ONGAESHI」はデータ還元を軸に、多様なキャッシュポイントを持つビジネスモデルを構築しています。

個人のデータ管理と活用を進めることで、教育やキャリア形成における新しい可能性を創出し、将来的には大きなビジネスへと成長すると期待しています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

グローバルサウスへの取り組み

2024年より、ヤマハと協業し、インド・デリー州の公立小学校10校でリコーダーを活用した授業を実施するとともに、「Ai GROW」を用いて、2024年7月から12月の授業期間を通じて非認知能力の変化を測定しています。

非認知能力とは、学業成績や社会性、自己制御力といった、長期的な成長に大きく寄与するスキルを指します。

これをデータとして分析することで、教育の効果を科学的に評価し、より良いカリキュラム開発につなげています。

また、2024年9月より「Ai GROW」を活用してアジア開発銀行(ADB)や東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)とともに進めているのが、STEM教育プロジェクトです。

このプロジェクトでは、カンボジアの中学校3校、高等学校3校に「Ai GROW」を導入し、現地での教育支援を行っています。

STEM(科学、技術、工学、数学)教育は、急速に発展する社会において重要性が高まっている分野です。

これらのプロジェクトを通じて、グローバルサウス地域の教育環境を改善し、未来を担う人材の育成を目指しています。

そして、2024年12月、当社は「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択されました。

このプロジェクトでは、企業から若年層への教育投資を「インパクト投資」と位置づけ、持続可能な社会のエコシステム構築を目指しています。

対象国にはインドを選定し、新たな人材育成基盤の実現可能性について調査を進めています。

インドはその膨大な人口規模から、教育の重要性が高い地域です。

このように、当社は現地での教育展開に注力し、この取り組みを通じて、世界中の教育現場に大きく影響を与えていきたいと考えています。

多様な国々でプロジェクトが広がることで、当社の事業成長にも寄与すると期待しています。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

「ONGAESHI」の成長性とトークン経済の可能性に期待していただきたいです。

当社が展開する教育プラットフォーム「ONGAESHI」は、NFTやWeb3、IEOといった先進的な技術やスキームを活用しています。

しかし、これらはまだ一般には広く認知されておらず、訴求が難しい領域であると認識しています。

「ONGAESHI」の成功報酬モデルは、採用活動が成功した場合に報酬を得る仕組みです。一見すると人材紹介業に似ていますが、根本的には異なります。

また、NFTについても「なぜNFTを売っているのか」というご質問を多くいただきますが、これはトークン経済圏の中核を担う要素だからです。

将来的には、NFTの販売数の増加がエコシステム全体の成長を支えていきます。

当社の提供する学びやキャリア形成に関連する価値を可視化したデータをNFTとして販売することで、教育とトークン経済のシナジーを生み出していきたいと考えています。

「ONGAESHI」を通じたトークン経済圏の形成に際して、「本源的価値がないのではないか」という議論も生まれるかもしれません。

アメリカなどでは広く認知されている暗号通貨イーサリアムは「本源的価値がない」と言われることもありますが、それは大きな誤解です。

すでにイーサリアムは多くの企業で利用されており、ブロックチェーンやセキュリティトークンを正常に機能させるための重要なインフラとなっています。

そのため、イーサリアムの価値に疑問を浮かべるとするのであれば、「電気に価値がない」と言うのと同様に、インフラそのものが持つ価値を過小評価しているとも言えます。

そのような中で、私たちも教育・人材開発を支えるトークンを開発しています。

そして、そのトークンが経済圏全体に外部経済性をもたらし、トークンの価値が上昇することでエコシステム全体が成長していく仕組みを構築中です。

2026年度中にはIEOを通じてトークンを発行する計画を立てており、これまで当社が築いてきた価値がそのトークンに反映されるとともに、私たちのエコシステム全体の成長をさらに後押しすると考えています。

このトークンの価値を多くの方に理解していただければ、「ONGAESHI」を中心とするエコシステムが成長し、当社全体の価値向上につながるはずです。

Institution for a Global Society株式会社 2025年3月期 第2四半期決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

私たちは、教育や人材領域において、日本だけでなく世界に対して確実に貢献できる企業であると信じています。

その理由をお伝えするためには、まず日本の教育システムについて触れる必要があります。

日本の教育は、東京大学を頂点とした偏差値による序列化、記憶力や分析力に基づくヒエラルキーを基本としています。

この仕組みの中で、「良い大学に進学し、良い会社に就職する」という単純なモデルが長年維持されてきました。

しかし、このモデルではダイバーシティ(多様性)が育まれず、時代にそぐわない社会構造となりつつあります。

この状況を変えるためには、「良い会社」の評価基準を多様化し、それを起点に大学や親御さんの考え方、さらには大学入試そのものを改革していく必要があります。

そのような中で私たちは、まず「評価」を多様化することで、より良い社会の実現を目指しています。

その一環として進めているのが、教育プラットフォーム「ONGAESHI」です。

具体的には、「ONGAESHI」を通じて、経済格差によって生まれる教育格差を解消し、誰もが平等に学び、成長できる仕組みを提供します。

この取り組みは、格差を是正し、持続可能な社会の実現に寄与するものです。

私たちは営利企業でありながらも、「格差なき社会をつくる」という明確な使命を持っています。

この使命は社員一人ひとりに深く浸透しており、それが少人数で効率的に事業を運営できている理由の一つです。

私たちの描く未来や考え方に共感していただける投資家の皆様からのご支援を、心からお待ちしています。

Institution for a Global Society株式会社

本社所在地:〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南1-11-2 4F

設立:2010年5月18日

資本金:50百万円(2024年9月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2021年12月29日上場)

証券コード:4265

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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