【8566】リコーリース株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。

リコーリース株式会社は私達らしい金融・サービスで豊かな未来への架け橋となることを目指し、環境やガバナンスといった社会的責任にも真摯に取り組んでいます。

代表取締役 社長執行役員の中村 徳晴氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社リコーリースを一言で言うと

リースや金融・サービスを通じ、お客様の設備投資のハードルを下げる会社です。

リコーリースの沿革

リコーリース株式会社代表取締役 社長執行役員 中村 徳晴氏

創業の経緯

当社は1976年に、リコーの子会社「リコークレジット」として設立されました。

1960年代後半から1970年代にかけて、日本ではリース事業が新しい資金調達の手法として発展し、多くのリース会社が誕生しました。

その多くは、船舶や工場設備といった大型資産を対象としたリースを手掛けていました。

一方で、コピー機はそれらに比べるとはるかに低価格帯の製品ですが、それでも中小企業が導入するには高価な製品でした。

より多くの企業に導入していただくためには、専業のリース会社が必要だという考えから、リコー製品の販売支援を目的に設立されました。

上場

1996年1月には東証二部へ上場しました。

当時はバブル崩壊後の景気低迷期であり、上場に向けたハードルは決して低くありませんでした。

リコー製品のリースのみを扱う会社のままでは、上場審査を通過するのが難しいとされ、リコー製品以外も相応に取り扱う、独立した事業体としての成長が求められました。

その課題を乗り越えるため、リコー製品以外の取り扱いを積極的に拡充し、事業ポートフォリオを多様化していきました。

新体制へ

2020年4月、リコーは当社の株式の一部をみずほリースへ譲渡しました。

これにより、当社はリコーの連結子会社ではなくなり、新たな経営体制へと移行しました。

これを機に、私はプロパー(自社出身)の社長として初めて選任され、新たなスタートを切ることになりました。

連結子会社であった頃から、ガバナンスはしっかりと行っていましたが、独立した立場となったことで、より自由度の高い経営が可能になりました。

今まで以上に自主性を重視し、新たな視点や戦略を取り入れながら、さらなる成長を目指しています。

私たちは、これからも時代の変化を見据えながら、お客様の期待を超えるサービスを提供し続け、金融とサービスを通じて企業の発展を支え、より豊かな未来を創造していくことが、使命だと考えています。

リコーリース 統合報告書 2024 より引用

リコーリースの事業概要と特徴

概要

当社の事業についてご紹介する前に、まず「リース」についてご説明します。

リースは、自動車を購入する際によく利用されているローンと似た仕組みです。

たとえば、ローンを利用して個人がディーラーから自動車を購入する場合、ローン会社が購入代金を個人に融資するのと共に所有権を留保し、車検証上の所有者をローン会社とします。

支払いが完了すると所有権留保が解除される、これが所謂マイカーローンと呼ばれる方法になります。

一方、リースは法人のお客様が設備投資を行う際に、リース会社がその設備を代わりに購入し、月々のリース料でお貸しする形をとっています。

リース期間が終了しても設備の所有権がリース会社に留まり、設備の廃棄処理までリース会社が対応するという特徴を持っています。

また、リースは設備を利用されるお客様とリース会社が直接商談を行うことが一般的です。

それに対し、当社の特徴であるベンダーリースは設備の販売会社を通じてお客様とのリース商談を行っています。

これは個人がディーラー(=販売会社)から自動車を購入する場合に、ディーラーの提携ローンを紹介され、提携ローンを利用することに似ています。

お客様との商談や条件交渉は、広い営業網を持った販売会社が代行することで、多くのお客様に当社のリースを提供することが可能となります。

このリコーグループのなかでつくられた仕組みを、他の分野にも広げてきたことで、現在では約6,000社の販売会社と取引があり、その先にあるお客様は約40万社に至っています。

当社が構築するベンダーリースは、販売会社および機器を利用されるお客様の双方にとって使いやすい仕組みとなっています。

リコーリース 統合報告書 2024 より引用

さらに、当社はノンバンクとして、リース以外にもさまざまな金融・サービスを提供しています。

医療分野では、クリニック運営に必要な機器のリース提供に加えて、開業医向けの融資や情報提供も行っています。

環境エネルギー分野では、太陽光発電所へのファイナンス提供や、自らが発電事業者となり売電事業の展開も行っています。

近年では、自動引き落とし機能を活用した決済サービスにも注力しています。

たとえば、フィットネスクラブの会員料金の自動引き落とし機能を提供し、当社が集金を代行するサービスです。

また、少額与信に強みを持つ当社の審査能力を活かし、法人向けに売掛債権保証サービスも提供を開始しました。

当社の保有している40万社のお客様との取引データを活用し、お客様とその先の取引先における未回収リスクを当社が保証します。

このように、当社は従来のリース事業を基盤としながら、事業領域を広げ、少しずつ進化を続けています。

リコーリース 統合報告書 2024 より引用

事業における優位性

ビジネスモデルを支えるコアコンピタンス

当社は、少額案件を大量に扱うことができる仕組みを長年にわたって構築してきました。

同業他社の多くが手間やコストの問題から敬遠してきた分野ですが、地道に取り組み続けることで、独自の審査機能や回収機能を確立し、強みとしています。

特に、少額案件の審査をいかに効率的に行うかという点では、AIやスコアリングモデルを駆使し、高い技術力を持っています。

また、回収面においても、現在約40万社のお客様からリース料を請求・回収するためのシステムを構築しており、大量のトランザクションを円滑に処理できる体制を整えています。

業務改善能力も当社の強みの一つです。

最初は非効率な業務であっても、標準化を進め、最終的にはシステムに落とし込むことで「仕組み化」する力を持っています。

メーカー系の企業としての背景を持つ当社では、メーカーによく見られる継続的な改善活動が文化として根付いています。

小さな不具合であっても「なぜ発生したのか?」を徹底的に追及し、再発防止策を講じるプロセスが習慣化していることが特徴です。

このような地道な取り組みは目立つものではありませんが、他社にはない当社独自の強みであると考えています。

リース販売を実現する三つの営業スタイル

当社の営業スタイルは、大きく三つに分かれています。

一つ目は、「ベンダーリース」と呼ばれる形態です。

たとえば、リコー製品の販売会社や販売店などに、販売活動の一環としてリース提案をお願いしています。

具体的には、販売会社が機器の購入を提案する際に「お支払い方法はどのようにされますか?提携リースをご利用になりますか?一括で購入されますか?金融機関からの融資をご利用されますか?」といった形で、リース契約をお客様に提案していただく仕組みです。

二つ目は、法人のお客様に対して直接ご提案を行う、一般的な営業スタイルです。

当社の担当社員が直接訪問させていただき、お客様のニーズに寄り添いながら最適な金融・サービスを提供しています。

三つ目は、ウェブを活用した営業です。

ウェブサイトを活用し、お客様がオンライン上でスムーズに契約できる仕組みを整えています。

これら三つの営業スタイルを柔軟に使い分けながら、お客様のニーズに最適な方法で金融・サービスを提供しています。

リコーリース 統合報告書 2024 より引用

リコーリースの成長戦略

成熟した市場環境での戦い方

近年の市場環境として、金利の上昇が挙げられます。

短期的には一定の影響があると考えていますが、金利が上昇する際にはお客様にその背景を丁寧に説明し、合意のもとで契約金利を適切に引き上げていく方針です。

一方で、設備投資そのものは企業にとって不可欠であり、むしろ機器や設備の高度化が進んでいます。

最近ではAIを搭載したパソコンが登場し、単価が上昇しています。

機器の価格が上がることで、お客様が当社のリースを利用する機会が増え、結果としてビジネスチャンスが拡大しています。

自動車市場においても同様の傾向が見られます。

かつては100万円以下で購入できた軽自動車も、現在では200万円近い価格になっています。

このような環境下では、一括での現金購入が難しくなり、リースやローンの需要が高まると予想されます。

こうしたビジネスチャンスをしっかりと捉え、的確に対応していくことが重要です。

リース市場全体としては成熟しているものの、その中でどのような付加価値を提供できるかが競争のポイントになります。

単なるリースにとどまらず、決済サービスや売掛債権保証サービス、太陽光発電所へのファイナンス提供など、事業を多角的に展開することで、新たな成長の機会を生み出せると考えています。

中長期的な戦略について

2025年3月期は、2023年度〜2025年度中期経営計画の2年目にあたります。

折り返し地点を過ぎ、最終フェーズへと差し掛かる重要な時期です。

当社の事業は幅広く分散されているため安定性が高く、業績の進捗も順調に推移しています。

当社の事業展開の特徴は、急激な成長や大きな変動を見込むものではなく、着実な成長を積み重ねることにあります。

今回の中期経営計画の鍵となるのが、「変異」という考え方です。

これは、細胞が少しずつ変化していくように、事業の方向性や取り組みを段階的に進化させるというものです。

リスクを伴う大規模な新規事業への参入ではなく、既存の事業基盤を活かしながら小さな変化を積み重ね、着実な成長を実現することを目指しています。

一度の変化が成功しなくても、改善を加えながら次のステップへとつなげることで、長期的な成長につなげていく戦略です。

このように地道な取り組みを続けることが当社の特徴であり、今後もこの方針を維持しながら、これまで培ったノウハウを活かせる分野での事業展開を進めていきます。

また、2027年度にはリース会計の変更が予定されています。

過去のリース会計基準の変更時には、大手企業がリースの活用をやめるなど、リース市場全体が9兆円規模から5兆円規模へと縮小した経緯があります。

今回も一定の影響が予想されますが、当社のお客様の多くは中小企業であり、且つ中小企業については新リース会計基準が適用されないため、影響は比較的小さいと見込んでいます。

加えて、人財への投資も積極的に進めており、システム投資についても早い段階から取り組んできたことで、成果が現れ始めています。

新たな取り組みを進める上で人件費の増加は避けられませんが、計画的に対応してきたことが功を奏し、業務の効率化が進んでいます。

今後は、これまでの投資の成果を最大限に活かし、持続可能な経営の実現を目指していきます。

新たな挑戦と社内基盤のさらなる強化を進め、安定した成長を続けながら、お客様にとってより価値のあるサービスを提供し続けていきます。

リコーリース 統合報告書 2024 より引用

注目していただきたいポイント

当社は、成熟した市場環境の中で、堅実な経営を続けている企業です。

そのため、短期間で大きなキャピタルゲインを狙うような投資を検討されている方にとっては、当社は必ずしも最適な銘柄ではないかもしれません。

配当の累進性を意識し、堅実に配当金額を上げている点が当社の特徴の一つです。

これまで、当社は2000年の株式分割による実質増配を含め29期連続増配を実現してきました。

配当性向においては、本中期経営計画で40%以上、更に2030年には50%程度としています。

2025年3月期においては、中間期において期末配当の引き上げを決定し、早めにお知らせしました。

こうした積極的な株主還元を通じて、投資家の皆様にご満足いただける水準の配当を維持・向上させていく方針です。

資本政策においては、自社株買いと配当という選択肢があります。

自社株買いを排除しているわけではありませんが、流動性の観点から、配当による還元が最適な手段であると判断しています。

そのため、安定した配当を継続することで、安心して投資いただける企業であり続けたいと考えています。

投資家の皆様へメッセージ

当社は、社内を見渡しても非常に真面目で堅実な企業文化を持つ会社です。

環境問題やガバナンスの強化など、企業が果たすべき社会的責任に真摯に取り組んでおり、その姿勢が自然と会社全体に根付いています。

特に、取締役会の運営においては、ガバナンスの強化を重視しています。

独立役員が過半数を占めており、さらに取締役全体の約3割が女性であることから、多様性と透明性を確保した経営体制を構築しています。

これにより、健全な意思決定が行われる環境が整えられています。

今後も、安定した業績成長を続け、投資家の皆様に安心して保有していただける企業を目指してまいります。

株主還元の充実に努めるとともに、皆様のご期待に応えられるよう一層の努力を重ねてまいります。

リコーリース株式会社

本社所在地:〒105-7119 東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター19階

設立:1976年12月21日

資本金:78億9,686万円(2024年9月末時点)

上場市場:東証プライム市場(1996年1月30日上場)

証券コード:8566

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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