※本コラムは2025年2月3日に実施したIRインタビューをもとにしております。
AeroEdge株式会社は成長産業に軸足を置き、確かな技術力で「ゼロからイチを創る」会社です。
代表取締役社長兼執行役員CEOの森西 淳氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
AeroEdge株式会社を一言で言うと
「ゼロからイチを創る」会社です。
AeroEdgeの沿革

創業の経緯
AeroEdgeは、栃木県足利市にある老舗中小企業「菊地歯車」からスピンアウトする形で、2015年に誕生しました。
きっかけは、2013年11月にフランスのSafran Aircraft Engines社(以下、SAFRAN)と締結した直接取引契約です。
中小型機向け次世代航空機エンジン「LEAP(リープ)」のチタンアルミ製タービンブレードを量産供給するという、菊地歯車にとっても新たな挑戦となるプロジェクトでした。
このビジネスを本格的に展開し、成長のチャンスを最大限に活かしていくため、私たちは新会社として独立する道を選びました。
どうして私たちがそうしたのか、その経緯についてお話しします。
菊地歯車での航空宇宙分野の開拓
私は1990年代半ばに菊地歯車へ入社し、製造業の現場に携わってきました。
当時、国内市場では大手メーカーが新興国へ製造拠点を移し、海外現地調達が進む流れが加速していました。
それに伴い、日本国内の市場は徐々に縮小し、中小企業が生き残るためには、これまでのやり方に固執せず、新たな道を模索する必要があると感じていました。
菊地歯車の主力事業である建設機械や油圧機器の分野は、かつて高いシェアを誇っていましたが、その後は自動車部品の供給が中心となり、さらに自動車業界でも現地調達が進んでいきました。
私は30代前半から中期経営計画の策定に関わるようになり、「このままで本当に会社は成長し続けられるのか?」という疑問を抱くようになりました。
しかし、現場と経営陣の間には危機感のギャップがあり、なかなか大きな変革に踏み出せない状況でした。
その中で、私は新たな成長分野として「航空宇宙・ロボット・医療・エネルギー」に注目しました。
自動車や建設機械の市場と比較して、菊地歯車の技術や設備を活かして成長することができるのは航空宇宙分野だと確信したのです。
そこで、社内の投資計画を見直し、サプライチェーンの強化、協力工場との連携、新規顧客の開拓などを進め、海外市場へと視野を広げることにしました。
2005年頃から海外営業を本格化し、2010年代に入るとSAFRANとの関係構築を進めていきました。
そして、2013年11月には、LEAPエンジン向けのチタンアルミブレード供給契約を締結し、新たなビジネスが本格的にスタートしました。
なぜスピンアウトしたのか
AeroEdgeは、SAFRANとの契約と部品製造のビジネスを引き継ぐ形で、菊地歯車からスピンアウトしました。
「なぜ、母体となった菊地歯車の中で事業を続けなかったのか?」と聞かれることがよくあります。
その理由は、菊地歯車が歯車製造という専門性の高い分野で安定したビジネスを築いていたからです。
菊地歯車は、旋盤やマシニングといった工作機械の部品を製造する100%受注型のメーカーとして安定した地位を確立していました。
歯車製造は決して市場規模の大きなビジネスではありませんが、その技術が必要とされる場面では確固たる存在感を持っています。
こうした背景から、菊地歯車としては、為替など大きなリスクを含んでいるLEAPエンジンのプロジェクトに挑戦するメリットが低いと判断をしていました。
しかしながら、私は異なる考えを持っていました。
「このビジネスには、リスクを取るだけの価値がある」と確信していたからです。
そこで、「新会社を設立し、リスクヘッジをしながら成長を目指す」というプランを提案しました。
その結果、2015年9月にAeroEdgeを立ち上げることになりました。

長期契約の締結と上場
2016年、SAFRANとLEAPエンジン向けのタービンブレードについて長期量産契約を締結しました。
これは、AeroEdgeにとって大きなターニングポイントとなりました。
その後、2018年と2020年には、第三者割当増資を実施し、投資家の皆様から資金を調達することができました。
もちろん、計画がすべて順調に進んだわけではありません。
ボーイングの飛行停止や新型コロナウイルスの感染拡大といった想定外の出来事にも直面しました。
それでも、LEAPエンジンのプロジェクトが成功すれば、当社の成長は確実だという強い信念を持ち続けていました。
そして2023年7月、AeroEdgeは東証グロース市場への上場を果たしました。
2024年8月には、SAFRANとの契約を更新し、供給期間を2034年12月末まで延長することが決まりました。
また、シンジケートローンを活用したリファイナンスも実施し、長期的な成長を支える財務基盤を整えています。
これからも、AeroEdgeはさらなる成長を目指し、挑戦を続けていきます。

AeroEdgeの事業概要と特徴
概要
当社は、航空機エンジン部品の製造・販売を中心に、自動車や鉄道、ガスタービンなどの部品製造、さらにはエンジニアリングサービスの提供まで幅広く手がけています。
中でも主力製品となっているのが、SAFRANのLEAPエンジン向けのチタンアルミブレードです。
この製品については、長期量産契約を締結しており、安定的な供給を続けています。

事業における優位性
なぜSAFRANをターゲットにしたのか
航空分野で海外における知名度を高め、信頼を得るためには、3つの要素が欠かせません。
それは「民間航空機での実績」「ミリタリー(軍事用航空機)での実績」「MRO(補修)事業での実績」です。
この3つがバランスよく揃っていなければ、業界内で存在感を示すことは難しく、展示会や航空ショーに出展しても注目すらされません。
しかし、当時の菊地歯車はこの3つの実績がほとんどなく、航空分野において会社名をアピールするのは非常に難しい状況でした。
そこで考えたのが、菊地歯車が持つ「歯車技術」と「ブレード加工技術」を最大限に活用し、これらの技術を必要としている企業を狙い撃ちする戦略です。
マーケティングリサーチを重ねた結果、最も親和性が高かったのがSAFRANでした。
単に「どの企業でもいいから取引したい」という発想ではなく、「SAFRANのプロジェクトにフォーカスして営業をかけることが最も成功への近道だ」と判断しました。
実際、航空エンジンのOEMは、アメリカのGE、プラット&ホイットニー、イギリスのロールスロイス、そしてフランスのSAFRAN、アメリカのハネウェルなど、限られた企業が市場の70%以上を占めています。
GEやプラット&ホイットニー、ロールスロイスなどは、すでに日本企業と取引の実績がありましたが、SAFRANはヘリコプターエンジン関連の部品を除いて、日本企業とほとんど取引をしていませんでした。
だからこそ、私たちが参入する余地があると考えました。
市場におけるポジションや技術的な強みを分析し、SAFRANとの取引を実現するためのアプローチを進めていったのです。

なぜLEAPエンジンを選んだのか
私たちがターゲットとした中小型機向け次世代航空機エンジン「LEAP」は、SAFRANが2008年に発表したプロジェクトです。
これは、世界で最も売れているエンジン「CFM56」の後継機であり、エアバスA320シリーズやボーイング737といった世界的なベストセラー機に搭載される予定でした。
対照的に、大型機の市場は不安定な側面があります。
たとえば、エアバスA380は2021年の引き渡し分で生産が終了し、ボーイング777(トリプルセブン)も2020年代半ばには新型機種へ移行する予定でした。
大型機に搭載されるエンジンは、モデルチェンジのサイクルが短く、製造できる期間が限られているのです。

こうした市場動向を分析し、私たちは「今後数十年にわたって安定した需要が見込めるナローボディ機向けの部品に特化しよう」と決めました。
ナローボディ機とは、座席数100〜200席前後、機内通路が1本の中小型機で、エアバスA320シリーズやボーイング737シリーズが代表的なモデルです。
自動車でたとえるならば、プリウスやフィットのような機種にあたります。
市場が10倍、30倍と成長していく中で、特別仕様のような高度な技術が求められる分野ではなく、長期的に安定した供給が可能な分野にフォーカスするべきだと考えました。
そして、選んだのが「チタンアルミブレード」の製造です。
ヨーロッパには、チタンアルミの加工技術を持つプレイヤーがいませんでした。
過去に民間航空機でチタンアルミを搭載したエンジンはGEのものだけで、その部品を製造していたのも米国のサプライヤーだけでした。
ヨーロッパの企業が新しい素材を採用するリスクを抱える可能性は低いと考え、チタンアルミ加工に特化することで競争優位性を確立しました。
結果として、高い加工技術と量産体制を整えたことで、SAFRANとの長期契約を実現することができました。
もし、この素材に特化せず、一般的な部品製造を目指していたら、このマーケットで勝負することは難しかったかもしれません。
航空分野に参入するにあたり、綿密なマーケティングリサーチを行い、自社の強みを最大限に活かせる分野を選んだことが、成功につながったと考えています。

高い参入障壁・加工技術と量産技術
チタンアルミを扱うことができる企業は、世界でも限られています。
その理由のひとつが「市場の流通性」です。
チタンアルミは、一般的な素材ではなく、使用される箇所も限定的で、高コストな素材であるため、扱える企業はほとんどありません。
もうひとつの理由は、「航空業界の認証制度」です。
航空業界では、認証を取得していない企業から部品を調達することはできませんし、認証を持たない企業が製造しても意味がありません。
この厳格な基準があるため、「作れるから作る」「できるからやる」という考え方は通用しないのです。
航空機の安全性がどれほど厳しく管理されているかは、飛行機事故を考えればよくわかります。
ジェット機は推進力に依存して飛ぶ乗り物であり、エンジンが停止すれば、セスナ機やプロペラ機のように滑空することはほぼ不可能です。
万が一の事故が発生すれば、多くの人命を奪うことになりかねません。
そのため、航空業界では部品の品質や安全基準に関して徹底的な管理が求められます。

当社は、こうした厳しい基準をクリアし、高い参入障壁を乗り越えて、航空業界でのポジションを確立しました。
これは、長年にわたる技術開発と品質管理の積み重ねによるものであり、私たちが自信を持って提供できる価値のひとつです。

AeroEdgeの成長戦略
安定成長と新規案件の獲得
LEAPエンジンは、今後も世界中で大量に生産されていく予定です。
すでにエアバスA320neoファミリー、ボーイング737MAX、そして中国のCOMAC C919にも搭載されており、その需要は今後も拡大すると見込まれています。
A320neoファミリー、ボーイング737MAXともに、現在受注残(バックログ)が13年以上積み上がっています。
「今注文しても、納品は13年後でも問題ない」と言われるほどの大ヒット機種です。
航空業界の中で、これほど長期間にわたってバックログが積まれている機体は他にありません。
この状況を踏まえると、私たちがナローボディ機に特化したのは、安定的に受注を確保し、持続的な成長を見込める最適な戦略だったと言えます。

さらに、チタンアルミブレードの原材料調達については、SAFRANが直接管理している点も当社にとって大きな強みです。
先ほどもお話ししましたが、チタンアルミは非常に希少な材料であり、加工できる企業は世界的に見てもごくわずかしかありません。
そのため、SAFRANが調達コストを負担し、原材料の供給をコントロールする形で進めています。
これにより、私たちは安定した供給体制を維持しながら、加工技術と量産体制に集中できる環境を整えています。

また、SAFRANとの契約はLEAPエンジンのビジネスだけに限定されているわけではありません。
私たちは、契約の中に柔軟性を持たせ、他の案件への展開が可能な形で締結しました。
今後もAeroEdgeの技術力を活かし、新たなプロジェクトへと広げていく余地をしっかりと確保しています。

MRO市場への参入
MRO事業は、航空業界において非常に大きな可能性を秘めた分野です。
エレベーターやカラープリンターなどの保守契約が安定的な収益を生み出すのと同じように、航空業界でもエアラインは機体を長期間運用するためにメンテナンスを行い、部品の修理や交換を繰り返します。
MRO事業は、このメンテナンス市場で利益を生み出すビジネスモデルです。
たとえば、私たちがSAFRANやGE、トヨタ、ホンダといったメーカーに納品する際の部品価格を「10」とすると、MRO市場ではエアラインや自動車整備工場がその部品を調達する際の価格は「50」や「100」に跳ね上がることも珍しくありません。
つまり、MRO市場に参入できれば、私たちが製造した部品をより高い価格で販売するチャンスが生まれます。
これは、今後の成長戦略において非常に重要な要素です。
しかし、MRO市場に参入するには、単なる部品製造とは異なり、さらに厳しい認証を取得する必要があります。
航空業界は国際的な規制が厳しく、グローバルに展開するためには、日本国内だけでなく、アメリカ(FAA)、ヨーロッパ(EASA)、中国、インドなど、主要な市場ごとの認証を取得しなければなりません。
しかし、各国の航空規制当局は基本的に自国の企業を優先するスタンスを取っており、海外企業は認証待ちの列に並ぶことになります。
自国企業には「ファストパス」が与えられる一方で、海外企業は後回しにされるのが現実です。
この状況を打破する方法は二つあります。
ひとつは、エアラインからの要請を得ることです。
たとえば、エンドユーザーであるエアラインが「AeroEdgeで修理をしてほしい」とアメリカのFAAなどに要請を出せば、認証プロセスが優先される可能性があります。
エアライン側の強い要望があることで、規制当局も認証手続きを前倒しするケースがあるため、このアプローチは有効な手段のひとつとして考えられています。
もうひとつは、AeroEdgeにしか修理できない技術を開発することです。
特殊な部品や修理技術を確立し、「この部品の修理はAeroEdgeでなければ対応できない」という状況を作ることで、メーカーやエアラインが早急な認証を求めるレターを送る可能性が高まります。
他の企業では代替が利かない技術を持つことで、市場におけるポジションを確立し、認証プロセスを短縮できる可能性があるのです。
現在、私たちは後者の戦略を採用しています。
他社では対応できない修理技術を開発し、それを武器に市場へ参入することで、競争を勝ち抜いていこうと考えています。
単に認証を待つのではなく、当社にしかできない技術を持つことが、MRO市場での成長につながると確信しています。

注目していただきたいポイント
業界全体を見渡すと、AeroEdgeは中長期的に確実な成長を遂げると確信しています。
ただ、投資家の皆様の目には、現状とのギャップがあるように映るかもしれません。
たとえば、ボーイングでのストライキなど短期的な課題は確かに存在します。
しかし、3年後、5年後といったスパンで見れば、航空業界は間違いなく成長していくと考えています。
AeroEdgeの立ち位置として特にお伝えしたいのは、「グローバルニッチ」であることです。
私たちは、ピンポイントでターゲットを定め、他社では対応できない領域に事業を集中させています。
これは、LEAPエンジン事業だけでなく、新たな成長産業でも同様です。
単なるアイデアや思いつきではなく、それを着実に形にしていく力があるのが当社の強みです。
特に注目していただきたいのは、私たちの事業は一過性の「打ち上げ花火」ではなく、長期的に拡大し、継続していけるものであるという点です。
航空業界は、持続可能な事業基盤があるからこそ成長を続けられる業界であり、私たちのビジネスモデルも同じ考え方に基づいています。
また、投資家の方の中には、AeroEdgeを「単なる部品加工の下請け」と捉えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、航空業界のサプライチェーンは独特で、一般的な製造業とは異なる構造を持っています。
たとえば、日本国内の大手重工業も、当社と同じようにGEやロールス・ロイス、SAFRANといった大手メーカーから受注を受けています。
つまり、AeroEdgeは彼らと同じ「Tier 1(ティアワン)」に位置しており、単なる下請けではなく、業界の最前線で事業を展開している企業です。
そして、AeroEdgeの最大の強みは「人」にあります。
社員一人ひとりの力量や志の高さこそ、私たちの財産です。
彼らの仕事ぶりを見ていると、「ゼロからイチを創る」という経営理念に共感し、それを実現しようと努力しているのが伝わってきます。
経営陣だけではなく、会社全体がこの理念を共有しているからこそ、新しい技術が磨かれ、次のビジネスチャンスにつながっていくのです。

投資家の皆様へメッセージ
私たちAeroEdgeの成長は、まさにこれからが本番です。
短期的に衰退や縮小が見込まれるマーケットや、数年で終わってしまうような事業には一切手を出していません。
私たちが取り組んでいるのは、30年、50年先まで続く長期的なビジネスです。
そして、その先行開発も、将来性のある技術を追求することに重きを置いています。
創業から10年、上場してまだ2年と若い会社ですが、私たちが挑戦しているビジネスそのものが、まだ新しい分野なのです。
これから成長し、業界を牽引していく企業として、ぜひ期待を寄せていただければと思います。
現時点では、「本当にこの事業は成功するのか」「うまくいくのか」と不安に思われる方もいるかもしれません。
しかし、私たちは常に「成長する事業」「必要とされる技術」を見極め、時間が経つほどに市場が拡大し、企業価値が高まる事業に取り組んでいます。
今日よりも明日、明日よりも来年、そして5年後、10年後、AeroEdgeの成長がどのように進んでいくのか、その未来を一緒に見届けていただければ幸いです。
AeroEdge株式会社
本社所在地:〒329-4213 栃木県足利市寺岡町482-6
設立:2015年9月16日
資本金:482百万円(2024年4月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2023年7月4日上場)
証券コード:7409