※本コラムは2025年2月27日に実施したIRインタビューをもとにしております。
メディア総研株式会社は理工系人材に特化した就職支援を展開しています。
代表取締役社長の田中 浩二氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
メディア総研株式会社を一言で言うと
「理工系人材の就職のあり方を変える」会社です。
メディア総研の沿革

創業の経緯
私は約32年前、「毎日コミュニケーションズ」(現 マイナビ)に新卒入社し数年間勤めた後、独立して事業を立ち上げました。
しかし、当初から就職情報を扱っていたわけではありません。
起業した時期がバブル崩壊のタイミングで、就職市場が冷え込んでいたため、最初は進学情報の事業からスタートしました。
当時は全国で専門学校が次々と設立され、進学先としての選択肢が広がっていた時期でした。
そこで、専門学校の学生募集を支援する事業をスタートし、紙媒体を使った進学支援に取り組んでいました。
一方で、バブル崩壊の影響により、企業は採用にかけるコストを抑える傾向にありました。
そのため、就職支援の市場はまだ大きくはなかったのです。
そのような状況の中、1990年後半に福岡商工会議所の合同企業説明会や企業ガイドブック制作の受託をきっかけに、企業と求職者をつなぐための取り組みをはじめました。
試行錯誤の中で生まれた転機
創業当初から2013年頃までは、採用・就職支援支援はもちろん、携帯電話の販売代理店業務や海外留学支援など、様々な分野に挑戦しましたが、なかなか大きなブレイクスルーを生み出せずにいました。
そのような中、2009年に「高専生1のための合同会社説明会」を初めて開催したことが、今のメディア総研の主力事業につながる大きな転機となりました。
(※)高専生=高等専門学校生のこと。中学卒業後、5年間の一貫教育を行う高等教育機関。
高専生向け就職支援事業への展開
高専生の就職市場は、当時ほとんど確立されていませんでした。
現在もその傾向が強いですが、全国に国立高専が51校、公立・私立を併せると58校あるにもかかわらず、就職先の大半は大企業に偏っています。
約9割の学生がいわゆる大手企業に就職し、残り1割が公務員等になるという構造で、中小企業の採用市場にはほとんど出てこなかったのです。
一方で、理工系新卒採用をおこなう企業の中には、高専卒の技術力の高い人材を求める声がありました。
しかし、彼らにリーチする手段がないため、採用することが難しい状況でした。
そこで、「この分野に特化した就職支援ができれば、新たな市場を生み出せるのではないか」と考えました。
もちろん、当時は「本当にビジネスとして成り立つのか?」と疑問視する声が社内でもありました。
それでも、高専生と企業をつなぐ新たな仕組みを作ることに可能性を感じ、事業を本格化しました。
しばらくすると他社も高専事業に参入しましたが、当社のように全国規模で合同企業説明会を展開する競合は現在ありません。
全国展開と上場
2015年には全国規模で高専生向けの就職イベントが開催できるようになり、全国を7つのブロック(北海道、東北、関東、東海・北陸、京阪神、中国・四国、九州)に分け、それぞれの地域に根ざした支援を行うことで、全国的なネットワークを確立しました。
この取り組みが功を奏し、高専市場で大きなシェアを占めるに至りました。
その後、2021年に東証マザーズ(現:グロース市場)および福証Q-Boardに上場し、現在も高専生に特化したサービスを複数展開し、より多くの企業と学生をつなぐプラットフォームを提供しています。

メディア総研の事業概要と特徴
概要
当社は、「学生イベント事業」の単一セグメントで事業を展開していましたが、昨年5月に法人顧客のWebページ・広報戦略支援を展開する株式会社アドウィルを子会社化し、今期より「キャリア支援事業」と「WEBコンテンツサービス事業」の2区分に変更しています。
キャリア支援事業では、全国各地で高専生を対象とした合同企業説明会を開催しています。また、学校からの依頼を受けて学内合同企業説明会を運営することもあります。
さらに、理工系の大学生を対象とした就職イベントも手がけています。
たとえば、理工系業界研究セミナーや理工系女子学生向けのキャリア交流会など、多様な形での支援を行っています。
他にも、「高専プラス」という高専生向けの就職・進学情報提供サイトを運営しており、企業から掲載料をいただいています。
また、WEBメディア「月刊高専」を通じて高専に関する情報を発信し、高専生の就職・進学に関する有益な情報を提供しています。
また、大学別就活手帳の制作や企業の会社案内の制作なども手掛けています。
もう一つの事業領域であるWebコンテンツサービス事業では、企業や大学などのWeb制作やマーケティングなど、幅広く事業を展開しています。

事業における優位性
高専生の就活事情
高専生の就職は、文系大学生のように「ナビサイト(求人情報サイト)に登録し、企業へ応募する」といった流れとは大きく異なります。
現在においても、先生が企業に学生を推薦し、学生が内定を得るという流れが中心となっています。
そのため、高専生の就職活動においては、学校の先生の影響が非常に大きいのです。
また、高専は単位の取得が厳しいこともあり、全国で毎年約1万1,000人が入学するものの、卒業できるのは約1万人と、1割程度が途中で脱落するほどの厳しさがあります。
そのこともあり、高専には学力水準が高く、優秀な学生が多く在籍しています。
しかし、卒業後の進路に関しては、求人倍率が20倍以上であることと、学校推薦を主とした構造があり、文系の大学生のように学生が主体的に就職活動を行うケースは少なかったのです。
また、高専の先生は、一般的な高校の先生とは異なり、多くが博士課程を修了し、研究経験を積んできた専門家です。
学生からの信頼も非常に厚く、進学や就職の判断においても先生の意見が強く影響を与える傾向があります。

圧倒的な市場シェアと競争優位性
沿革でもご紹介した通り、当社は他社に先駆けて多くの企業と高専生をつなぐプラットフォームを提供し、業界内で確固たる地位を築いてきました。
私たちは高専に関連した事業をスタートさせたときから、全国の多くの高専をサポートする取り組みを進めてきました。
高専の教員は、専門性の高い教育や研究に取り組むと同時に、寮の管理や部活動の指導など、授業外の役割も担っている場合が多くあります
私たちは、そういった先生方の業務負担軽減に少しでもお役に立てればと、さまざまなサービスを提供しています。
たとえば、学内専用求人・進学情報サイトである「学内進路支援サイト」や、就職・進学情報サイト「高専プラス」の運営、「高専生のための編入学・進学セミナー」の開催等を通じて、学校側が学生に必要な情報を円滑に届けられる仕組みを提供しています。
また、各高専で開催される「学内企業説明会」についても、当社のイベント運営ノウハウを活かしてサポートしています。
2024年からは、理工系分野を専攻する学生を奨学支援する「公益財団法人日本高専・大学支援財団」の運営をサポートするなど、支援の幅をさらに広げています。
この公益財団は、給付型奨学金を提供する公益財団法人の一つであり、理工系分野を専攻する大学生や高専生に対する奨学支援をおこなっています。
当社はこれまで就職支援が中心でしたが、学生への資金面での支援を拡充することで、より多くの学生のキャリア形成を支えられるようになります。
また、この奨学金制度を全国の高専に広めることで、「より多くの学生が経済的な不安なく学業に専念できるようになれば」と考えています。
同財団の支援は社会貢献活動を目的としたものですが、結果として当社のプレゼンスを高め、事業においても好影響を生み出しています。

メディア総研の成長戦略
今後の高専生の就活と事業の成長性
当社は全国規模で高専生の就職活動を支援し、その結果、高専市場において確固たる地位を確立しています。
他社の参入もありますが、現状、市場の大半を維持することができています。
そのため、同業他社の新規参入のハードルは非常に高いと考えています。
ただ、「もう高専市場にはやることがないのでは?」と思われることもありますが、実際にはまだまだ成長の余地があります。
現在、高専生の進路としては、約60%が就職、約40%が大学などへの進学を選択しています。
しかし、この進学する約40%の学生に対しては、まだ十分なビジネス展開ができていません。
そこで、当社にとって大きなアドバンテージとなるのが、高専者のネットワークです。
WEBメディア「月刊高専」などで培った高専教員とのネットワークを活用することで、高専生の進学支援やキャリア形成に新たなビジネスチャンスを生み出せると考えています。
生成AIの活用による新たな可能性
現在、当社は十分な資金を確保しており、今後の成長に向けた戦略的な投資を検討しています。
その一つとして、生成AIを活用した就職支援サービス展開を考えています。
最近では、AI技術を用いて「あなたに合った企業」を自動的にマッチングするサービスが登場しています。
当社でも、AIと対面型イベントを組み合わせることで、より精度の高いマッチングを実現する仕組みを構築しようとしています。
従来の合同企業説明会は、対面でのやり取りが中心でしたが、AIを活用することで、事前に最適な企業候補を提示し、より効率的な就職活動を実現できるのではと考えています。
高専発スタートアップを創出するために
「高専起業家サミット」の開催
日本国内における大きな課題の一つが、アントレプレナー(起業家)育成の遅れです。
特に、技術を持つ理工系人材の起業機会を増やすことは、日本の産業競争力を強化する上でも重要だと考えています。
その一環として高専機構と共同開催しているのが、「高専起業家サミット」です。
すでに第1回・第2回を開催し、第1回は手探りの状態でしたが、第2回(2025年2月24・25日実施)はより具体的な支援へと発展しました。
この取り組みには、ホンダをはじめとする複数の企業から協賛をいただいており、幅広い企業から高い関心が寄せられています。
今後も、高専発のスタートアップを支援する企業をさらに開拓し、エコシステムを拡充していく方針です。
イントラプレナーの支援
従来の高専のスタートアップは、学生が起業し、独立したビジネスを立ち上げるという形が主流でした。
しかし、高専生の場合、技術的なスキルは非常に高いものの、経営やマーケティングの経験が大学生に比べ不足しているため、卒業後すぐに起業するのはハードルが高いという課題があります。
そこで、今後は「イントラプレナー(企業内起業家)」が主流になっていくのではないかと考えています。
イントラプレナーは、企業側がスタートアップの支援を行う代わりに、高専生の入社を促すといった形などで、新規事業の立ち上げを支援する仕組みです。
これにより、高専生は企業の中で安定した環境のもと、新規事業にチャレンジすることができる一方で、企業側も優秀な理工系人材を確保しながら、成長戦略の一環としてスタートアップ支援を行えるというメリットがあります。
特に、技術系のスタートアップは、最初から大きな資金調達が必要になるケースが多いため、企業内で試行錯誤しながら事業化を進める方が現実的です。
この形を活用することで、より多くの高専生がスタートアップに挑戦しやすくなると考えています。
高専発のスタートアップ創出と地域活性化
現在の高専発スタートアップは、社会の根本を変えるような大規模なイノベーションではなく、身近な課題を解決する技術にフォーカスしている傾向があります。
たとえば、「第2回高専起業家サミット」で発表されたプロジェクトでは、新時代の口腔ケアや、持続可能な生態系サービス提供などが挙げられます。
これらは、高専生の技術力を生かしながら、実際に社会で活用できるビジネスモデルを構築することに重点を置いているのが特徴です。
高専発のスタートアップ支援は、これまであまり注目されてこなかった分野ですが、「イントラプレナー」という新たな形を取り入れることで、より実現可能性の高い起業モデルが構築できると考えています。
さらに、ベンチャー企業に投資をおこなっているFUNDINNOとの連携によって、スタートアップのスケールアップや資金調達の課題を解決し、成長を加速させることが可能になります。
今後も、企業・金融機関・自治体と連携しながら、高専生が持つ技術力を活かした起業を支援し、日本の産業構造に新たな価値を生み出していくことを目指していきます。
当社の取り組みが、高専生の未来だけでなく、日本全体のイノベーション創出にどのような影響を与えていくのか、引き続き注目していただきたいと考えています。

注目していただきたいポイント
現在、高専や大学と連携し、国策産業の支援を行う国家プロジェクトが進行しています。
たとえば、半導体産業や防衛装備品の分野では、政府が大規模な予算を投入し、産業の競争力強化を目指しています。
特に防衛装備品に関しては、政府支出が増加しており、技術者不足が深刻な課題となっています。
もちろん、三菱重工や三菱電機といった大手企業が日本の防衛産業を主導していますが、その下請け企業や関連企業には十分な人材が確保されていません。
同じように、半導体産業でも技術者不足が深刻化しています。
こうした状況の中で、高専は大学と連携しながら、半導体技術者の育成などに関わる取り組みを加速させています。
高専は実践的な技術教育に強みを持つため、こうした分野で即戦力となる人材を輩出することが可能です。
こうした流れを受けて、当社は「高専生・理工系学生のための半導体/防衛産業 仕事研究セミナー」を開催しました。
このセミナーでは、防衛産業や半導体産業における最新の技術やキャリアの可能性について学ぶ機会を提供しています。
大学生も参加可能で、2025年3月6日に、熊本県の「グランメッセ熊本」で初開催いたしました。
全国から約700名の学生(高専生および大学生)が参加し、北海道から沖縄まで幅広い地域の学生が集まりました。
熊本という地方での開催であるにもかかわらず、学生の関心が非常に高いという点が特徴です。
高専生は、サバイバル系ゲームの趣味を持つ学生も多く、加えて防衛関連技術や半導体技術といった「国策産業」分野への関心が高まっていることを実感しています。
半導体関連のセミナー自体はこれまでもありましたが、高専生と大学生が一緒に参加する「国策産業」に焦点を当てたセミナーを開催するのは非常に珍しい試みです。
こうした取り組みが広がれば、学生の進路選択の幅も広がるだけでなく、企業側にとっても新たな採用チャネルを確保する機会になります。
今後は、より多くの企業が参加しやすい東京、大阪、名古屋などの都市部での開催も検討しています。
また、今回のセミナーに関しても、多くの高専の先生方が非常に前向きに協力してくださっています。
高専卒業後に大学へ編入した学生からの関心も高まっており、今後の展開次第では、より多くの企業や参加者を巻き込む形での発展が期待できます。
また、すでに多くの企業から「採用につながる場として活用したい」という声をいただいており、十分に収益化が可能な事業として展開できると考えています。

投資家の皆様へメッセージ
高専卒業生は、毎年約10,000人しかおらず、そのうち約4,000人は高専専攻科や大学に進学するため、就職市場には約6,000人しかいないという希少な存在です。
理工系人材の需要が高まる中で、私たちはこの高専市場において大きなシェアを占めており、高専生のキャリア支援において圧倒的なポジションを築いています。
大学の新卒市場は規模が大きいものの、競争が激しく、ステークホルダーも多いため、一企業が市場を独占することは難しいのが現状です。
しかし、高専市場に関しては、私たちが他社に先んじて全国的なネットワークとノウハウを構築しており、参入障壁は高いと考えています。
今後は、「転職支援(高専卒業後のキャリアアップ支援)」「スタートアップ支援(高専生の起業支援)」「国策産業への技術者輩出支援」といった新たな領域にも積極的に展開していきます。
最終的には、「高専に関することなら、すべて私たちに相談すれば解決できる」という状態を作り、「高専専門のリクルート/スタートアップ支援企業」としての地位を確立することが目標です。
日本の技術力を支える高専市場のさらなる発展に向けて、ぜひご支援いただければと思います。
メディア総研株式会社
本社所在地:〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2丁目8番1号 肥後天神宝ビル 6F
設立:1993年3月9日
資本金:249百万円(2024年7月末時点)
上場市場:東証グロース市場、福証Q-Board(2021年9月2日上場)
証券コード:9242
- 高専生=高等専門学校生のこと。中学卒業後、5年間の一貫教育を行う高等教育機関。 ↩︎