【9621】株式会社建設技術研究所 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年3月4日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社建設技術研究所は建設コンサルタントのリーディングカンパニーとして、国内外で成長を続けています。

代表取締役社長執行役員の西村 達也氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社建設技術研究所を一言で言うと

最新技術や新事業にチャレンジし、技術と人を大切にする「誠実で真面目な」会社です。

建設技術研究所の沿革

株式会社建設技術研究所代表取締役社長執行役員 西村 達也氏

創業の経緯

当社は1945年に、日本で最初の建設コンサルタント「財団法人建設技術研究所」として設立されました。

当時、日本は戦後復興の真っただ中にあり、社会資本の整備が急務でした。

そのなかで、私たちは電力の安定供給を支えるダム建設をはじめ、さまざまなインフラ整備に関わる調査や計画設計を手がけてきました。

その後、時代の変化とともに事業の幅を広げ、1964年には「株式会社建設技術研究所」として新たなスタートを切りました。

高度経済成長期に入り、社会基盤の整備が加速するなかで、私たちの役割もますます重要になっていきました。

河川、道路、橋梁、都市開発といった多岐にわたる分野で技術力を発揮し、日本の発展を支えてきたという自負があります。

グローバルインフラソリューショングループへ

当社は80年以上の歴史の中で、特に河川分野に注力し、その専門性を高めてきました。

その結果、現在では業界トップの河川専門の建設コンサルタントとしての地位を確立しています。

河川の治水や利水といった領域で培った技術と経験は、社会の安全と持続可能な発展に大きく貢献してきました。

しかし、私たちの挑戦は河川分野にとどまることなく、道路分野にも進出し、着実に事業を拡大してきました。

現在では、事業規模としては道路分野が河川分野を上回るほどに成長しており、業界内でも2〜3番手に位置するまでになっています。

この成長の背景には、社会のインフラ整備に対するニーズの高まりと、それに応える当社の技術力があると考えています。

さらに、下水道や砂防、情報環境、防災といった分野にも積極的に取り組み、総合的な建設コンサルタントとしての役割を強化しています。

特に近年では、発注者側の人材不足が大きな課題となっており、その解決策のひとつとしてコンストラクション・マネジメント(CM)業務などの支援にも力を入れています。

これにより、プロジェクト全体の最適化を図り、効率的なインフラ整備を実現することを目指しています。

また、当社は単独での成長にとどまらず、M&A(企業買収・合併)を積極的に活用しながら事業の拡大を進めてきました。

国内では、地圏総合コンサルタント、日本都市技術、日総建、環境総合リサーチ、広建コンサルタンツなどをグループに迎え、それぞれの専門性を活かした総合力を高めています。

海外展開にも注力しており、2017年にはイギリスの「Waterman Group Plc(以下、Waterman)」をM&Aしました。

これにより、グローバルな事業基盤を確立し、世界的なインフラ整備を支援する企業としての成長を加速させています。

現在、当社グループは「グローバルインフラソリューショングループ」として、国内外を問わず、社会のインフラを支える重要な役割を果たしています。

人材の確保とグローバル展開

当社の事業が大きくスケールする契機となったのは、二つの重要な経営判断があったからだと考えています。

まず一つ目は、人材の採用です。

当社は公共事業を中心に自治体からの受注が多く、国の公共事業予算の影響を大きく受けます。

2000年頃から公共事業費が減少し、それに伴い新卒採用も難しくなりました。

当時、多くの企業が採用を抑制するなかで、当社の経営陣は「将来的に人材の確保と育成が重要になる」と判断し、2007年頃から積極的に採用を進めました。

公共事業費の減少で受注が厳しい状況にあったにもかかわらず、人材投資を継続した結果、もっとも業績が悪い時でも営業利益率3%程度を維持することができました。

この決断の成果が見えてきたのは、10年後、20年後のことです。

人材の年齢構成が改善され、同業他社と比較しても安定した組織基盤を築くことができました。

技術者の育成には時間がかかるため、短期的な利益を追うのではなく、長期的な視点で人材戦略を進めたことが、当社の持続的な成長につながっているのだと確信しています。

もう一つのポイントは、グローバル展開です。

当社グループにはもともと、発展途上国のインフラ整備を手掛ける「建設技研インターナショナル」がありました。

しかし、それだけではグローバル市場での成長には限界がありました。

そこで2017年、イギリスの「Waterman」をM&Aし、一気にグローバル化を加速させました。

Watermanは、発展途上国ではなく先進国において建設コンサルタント業務を行っており、特に構造設計や設備設計を中心とした民間案件を多く手掛けています。

近年では公共事業の受注も増え、当社との連携を深めながら成長を続けています。

たとえば、当社から取締役を派遣したり、技術者を送り込み、当社の技術を現地に展開するなど、共同で事業を推進しています。

こうした取り組みにより、当社のグローバル化は大きく前進しました。

この「人材採用の戦略的な決断」と「グローバル展開の加速」が、当社の成長を支える大きなターニングポイントとなりました。

これからも長期的な視点を持ち、持続可能な成長を目指してまいります。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

建設技術研究所の事業概要と特徴

概要

当社のビジネスモデルについてお話しする前に、まず建設コンサルタントの役割についてご説明させていただきます。

私たちが暮らす社会に不可欠なインフラ整備は、主に国や地方自治体(発注者)、建設コンサルタント(設計・調査)、建設会社(施工)の三者が連携して進めています。

国内では、設計と施工を分離して発注する「設計・施工分離の原則」が基本となっており、戦後の高度成長期に建設省(現 国土交通省)が「原則として設計業務を行う者に施工は行わせない」と明確に規定しました。

この仕組みにより、設計業務は当社のような建設コンサルタントが担い、施工はゼネコンやメーカーが担当するという棲み分けが確立されています。

もっとも、近年ではデザインビルド方式やECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式といった、ゼネコンとコンサルタントが協力して業務を進める発注方式も見られます。

しかし、基本的には設計と施工は独立しており、当社は計画・設計・調査業務を専門に手がけています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

当社の主な業務は、国土交通省や都道府県、市町村といった公的機関からの発注が中心となっています。

公共事業の受注を安定的に確保しながら、持続的に利益を生み出しているのが当社の強みです。

事業の構成としては、国内と海外の二本柱で展開しています。

まず、国内建設コンサルティング事業は、当社の売上の約7割を占める主要な事業です。この領域では、四つの専門分野に分かれてインフラ整備を支えています。

流域・国土事業部門では、河川や水資源管理、防災対策を担当しています。

特に水害対策や河川環境の保全など、社会の安全と持続可能な発展に直結する業務を担っています。

交通・都市事業部門では、道路や橋梁、鉄道、都市計画など、移動とまちづくりに関わるプロジェクトを推進しています。

人々の暮らしや経済活動を支える重要な分野です。

環境・社会事業部門では、環境保全や持続可能な開発、エネルギーの有効活用などに取り組んでいます。

脱炭素社会に向けた動きが加速するなかで、当社の役割もますます大きくなっています。

建設マネジメント事業部門では、コンストラクション・マネジメントやプロジェクト全体の管理を行い、発注者の業務をサポートしています。

近年、発注者側の人材不足が課題となるなかで、この分野へのニーズは拡大しています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

次に、海外建設コンサルティング事業は、売上の約3割を占める事業です。

グローバルなインフラ整備の需要が高まるなかで、当社グループは建設技研インターナショナルとWatermanを中心に、世界各国でプロジェクトを推進しています。

建設技研インターナショナルは、主に発展途上国のインフラ整備を担当し、河川や道路、上下水道などの設計や技術支援を行っています。

国際協力機関との連携も強く、各国の成長に貢献しています。

Watermanは、先進国の建設コンサルティングを担い、特に民間向けの構造設計・設備設計に強みを持っています。

近年では、公共事業の受注も増えており、当社との連携を深めながら事業を拡大しています。

このように、当社は国内外を問わず、幅広い分野で建設コンサルティングを展開し、社会の発展に貢献しています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

事業における優位性

高い技術力と研究開発力

当社の強みの一つは、技術提案型(プロポーザル型)案件と総合評価方式の案件が、全体の約6割を占めていることです。

これらの案件では、単に価格の安さだけでなく、技術提案の質が受注の成否を左右します。

そのため、高い技術力がなければ競争に勝ち残ることはできません。

当社は長年にわたり技術力の向上に努めており、必要に応じて研究開発投資を積極的に行い、新技術の導入にも力を入れてきました。

その結果、発注者である国土交通省をはじめとする公的機関から高く評価され、当社の競争力の源泉となっています。

特に、2007年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」によって、価格だけでなく成果物の品質を確保することが法律で義務付けられました。

この法律の施行以降、発注機関は技術力をより重視するようになり、競争環境が大きく変化しました。

技術競争が活発になる中で、当社のような高い技術力を持つ企業がより強みを発揮できる環境が整ってきたのです。

また、当社には研究開発組織である「国土文化研究所」があり、先端技術の社会実装や人材育成に取り組んでいます。

この研究所では、AI(人工知能)や三次元設計など、最新技術の活用を専門的に研究する部署を設け、専任の技術者が研究開発を進めています。

しかし、当社の研究開発は、こうした専門部署だけで完結するものではありません。

日常の業務を行いながら、並行して業務に活用できる新しい技術を学び、実用化を目指す形でも進めています。

これにより、現場の技術者が実際に活用しやすい形で新技術を取り入れることが可能になります。

こうした取り組みを支えるために、研究開発予算も十分に確保しており、「専門部署による最先端技術の研究」と「現場の生産性向上を目的とした技術開発」の二つのアプローチを軸に、技術革新を進めています。

これにより、当社は市場において確かな競争力を持ち続けることができるのです。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

優秀な技術者を育てる

当社の高い技術力の背景には、優秀な技術者の存在があります。

新技術の開発と並行して、技術者のスキル向上にも力を入れているのはそのためです。

技術力を維持・向上させるためには、単に新しい技術を導入するだけでは不十分であり、それを使いこなせる人材を育成することが不可欠だと考えています。

当社の人材育成の方針は、大きく分けて二つの軸で進めています。

まず、新入社員向けの育成についてお話しします。

土木の分野では、「三力(構造力学・水理学・土質力学)」の知識が基礎となります。

かつてはこれらの科目が必修であり、単位を取得しなければ卒業できませんでした。

しかし、近年では大学のカリキュラムが変わり、「土木工学科」という名称が少なくなり、「地球環境学科」や「環境工学科」といった学科に変わってきています。

そのため、「三力」をすべて履修せずに卒業する学生も増えてきました。

一方、当社ではこれらの基礎知識は業務を行う上で不可欠であり、成果物の品質確保にも直結すると考えています。

そこで、新入社員を対象に「三力」の研修を実施し、基礎をしっかり身につけてもらうようにしています。

この研修は、すでに理解している人にとっては復習の機会となり、十分に学んでこなかった人にとっては、一からしっかり学び直せる場となります。

こうした取り組みにより、若いうちから土木の基礎を確立し、技術者としての土台を築くことを大切にしています。

さらに、入社後のキャリアステップに応じた研修も重要視しています。

社員は入社時に「F2」という等級からスタートし、その後「F3」「F4」と昇進していきます。

この等級ごとに必要な知識やスキルを明確に定め、それに基づいた研修を実施しています。

一定の能力が身についた段階で次の等級へ昇格できる仕組みとなっており、計画的な人材育成を進めています。

さらに、この「等級制度」と連動した人事評価制度も導入しており、社員の成長をしっかりと支援する仕組みを整えています。

専門性の高さ

加えて、当社では「社会人大学院制度」も導入しています。

この制度は、比較的若いうちに技術資格を取得し、さらに大学で研究を深めたいという意欲のある社員を支援するものです。

具体的には、会社が社会人大学院の入学金や授業料を全額負担し、社員が学位を取得できるようにサポートしています。

この制度を活用することで、社員は最新の研究成果を学び、それを業務に生かすことが可能になります。

そのため、当社の技術者は、基本的に専門性の高いエキスパートが多く、それぞれの分野で深い知識と経験を積んでいます。

河川なら河川、道路なら道路といった具合に、それぞれの領域で専門性を極め、最前線で活躍できる技術者が多く在籍しています。

単に特定分野の技術を極めるだけではなく、業界をリードできる技術者を育成することを目指し、大学の先生との連携や学会での発表など、社外との交流を積極的に行い、技術を高める機会を提供しています。

「河川分野なら○○さんがいる」と業界内で認知されるような人材を育てたいと考えています。

プロポーザル型においても、「この人が担当するなら勝てない」と他社に思われるほどの、業界の第一線で活躍できる技術者を輩出していきたいという強い思いがあります。

また、各分野の専門家の中から、さらにワンランク、ツーランク上のレベルへと成長できる人材を育てることも重要だと考えています。

高度な専門知識を持つ技術者が増えれば、組織全体の技術力も向上し、結果として会社の競争力がさらに高まることにつながります。

そのためには、単に知識を習得するだけでなく、実際のプロジェクトで活躍しながら経験を積み、技術者としての視野を広げることが不可欠です。

当社は、こうした環境を整え、業界を牽引する技術者を生み出すことを使命のひとつと考えています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

建設技術研究所の成長戦略

「事業ポートフォリオの変革」

当社は「中期経営計画2027」の中で、「事業ポートフォリオの変革」と「成長基盤の強化」という二つの柱を掲げました。

これにより、持続可能な成長を実現し、社会に貢献する企業としての価値をさらに高めていくことを目指しています。

国内市場環境について

まず、国内のインフラ環境について、当社の認識をご説明します。

現在、日本のインフラは依然として整備が十分に進んでいない状況にあります。

特に河川分野では、気候変動の影響による水害の頻発が大きな課題となっており、これに対する対策の強化が求められています。

また、都市インフラやエネルギー分野においても、多くの課題が残されています。

たとえば、都市部では老朽化した道路や橋梁の補修・更新が急務となっており、エネルギー分野では再生可能エネルギーの導入促進が喫緊の課題となっています。

このように、国内インフラ市場は引き続き大きな需要が見込まれる分野であり、当社としても積極的に対応していく考えです。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

コア領域の深化

こうした状況を踏まえ、当社がどのように事業ポートフォリオの変革を進めるのか、スライドをご用意させていただきました。

まず、当社のコア領域として、「国内建設コンサルタント事業」を引き続き強化していきます。

この分野は当社が特に強みを持ち、収益性が高い事業領域であるため、M&Aや人材確保を通じてさらなる競争力向上を図る予定です。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

国内市場においては、国土交通省を主要な発注元としながら、さらなる受注拡大を目指していきます。

加えて、都道府県や市区町村の案件を増やすことで、より地域に根ざしたインフラ支援を強化していきます。

また、民間市場にも積極的に参入し、新たな需要の開拓を進めています。

具体的には、公団や財団法人の案件、NEXCOや防衛省関連の業務などにも注力し、事業の多角化を推進しています。

特に、近年の防衛予算の拡大に伴い、防衛関連のインフラ整備に関する案件も増えており、当社としても新たな受注獲得に向けた取り組みを進めています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

成長分野の加速

当社が重点を置く成長分野については、それぞれの分野で積極的に事業を拡大し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

エネルギー分野の展開については、近年、再生可能エネルギーの普及が進む中で、当社もこの分野に積極的に取り組んでいます。

特に、洋上風力発電や陸上風力発電に関する環境アセスメント業務は、すでに多くの案件を手がけており、今後もこの分野を拡大していく方針です。

持続可能なエネルギー開発を支援しながら、環境負荷の低減にも貢献していきます。

また、ベンチャー企業への投資として、インフォメティクス社の株式を一部取得し、業務提携を結びました。

同社と共同でAIを活用したエネルギーマネジメントシステムの開発を進めており、複数のエリアで実証実験を行っています。

この取り組みを通じて、より効率的なエネルギー利用の実現を目指します。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

そして、情報提供サービスの強化を進めていきます。

現在、当社は河川関連のコンサルティング分野で業界トップの実績を持っています。

その強みを生かし、自治体や国土交通省向けの情報提供サービスを強化していきます。

特に、洪水予測システムや水害リスク予測システム、災害時の防災行動支援システムの開発・提供を進めており、すでに自治体向けの導入が進んでいます。

たとえば、群馬県全域で導入されている「リスクマ」という予測システムでは、リアルタイムのリスク情報を提供し、危険地域の特定を可能にしています。

今後は、こうしたシステムの全国展開を視野に入れ、防災対策の高度化に貢献していきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

また、CM/PMの分野でも、当社は着実に実績を積み重ねています。

大阪万博会場の駐車場CM業務や、万博関連の交通インフラ整備として淀川左岸線の施工管理業務を受託しており、国際イベントにおけるインフラ整備に貢献しています。

さらに、NEXCOの施工管理業務や、国の事業管理業務の受注も増加しており、今後のさらなる拡大を見据えて技術者の確保を進めているところです。

CM/PM分野はますます需要が高まると見込んでおり、当社としてもこの分野の事業拡大に注力していきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

新規事業の探索

当社は、未来のインフラ課題に対応するための新規事業開発にも積極的に取り組んでいます。

現在、環境DNA分析、地層処分技術の開発、ウォーターマネジメント、自治体向けインフラ管理システムなど、社会の変化に対応した新たな領域を検討しています。

近年、自治体の人員不足が深刻化しており、インフラの包括的な管理が求められています。その一例として、八潮市で発生した地盤陥没事故では、下水管の漏水が原因とされています。

このようなインフラ老朽化によるリスクを未然に防ぐためには、継続的な監視と管理が不可欠です。

そこで当社は、監視・管理システムを提供するなどして、自治体の業務を支援する包括民間委託事業を推進していきます。

さらに、自動運転技術やモビリティ関連事業にも注目しています。

都市部では、MaaS(Mobility as a Service)の導入が進み、交通インフラのあり方が大きく変わりつつあります。

当社としても、交通インフラの計画・設計のノウハウを活かし、次世代モビリティの普及を支援していきたいと考えています。

また、都市再開発プロジェクトにも積極的に関与し、インフラ整備の視点から持続可能な街づくりを支えていきます。

これからの社会に求められる都市機能を考え、最適なインフラ整備を提案していくことが重要だと考えています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

海外展開の強化

そして、海外事業については、ウォーターマンおよび建設系インターナショナル事業の拡大に加え、新規拠点としてマレーシアやオーストラリアでの展開を進めます。

政府開発援助(ODA)関連の予算があり、国際協力機構(JICA)からの発注案件はアジアだけでなく、アフリカや中南米にも広がっています。

ただ、ODAの対象国が減少しているため、JICAからの発注は今後減少傾向にあります。

たとえば、インドネシアはすでにODAの対象国から外れています。

しかし、同国では水害などの問題が依然として深刻であり、引き続き対応が必要です。

こうした地域では、現地政府やアジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)などが発注する案件を獲得することが重要になります。

また、フィリピンはまだODAの対象国ですが、ADBなどの国際機関から発注される案件も増えています。

当社はフィリピンでの受注実績が業界トップであり、今後も積極的に展開していきます。

このように、ODAを通じて関与してきた地域での実績を活かし、新たな形で市場に参入していくことができれば、事業拡大余地はまだまだあると考えています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

成長基盤の再構築

当社は、持続的な成長を実現するために、「人的資本投資の強化」「DXによる生産性向上」「サステナビリティチャレンジ」「ガバナンスの強化」「資本コストと株価を意識した経営」の五つの領域に注力し、成長基盤の再構築を進めています。

人的資本投資の強化

人的資本への投資は成長基盤を構築する上で必要不可欠な投資です。

技術者をいかに確保し、成長させるかが、当社の競争力を左右します。

当社は、多様な人材の活性化を促進するD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進するため、新たにDE&I推進計画2030を策定し、より開かれた組織づくりを進めています。

また、従業員エンゲージメントの向上にも力を入れています。

毎年、従業員エンゲージメントスコアを集計し、2024年にはBBB評価を獲得しました。

今後はこれをAランクに引き上げることを目標に、職場環境の改善やキャリア形成支援を強化していきます。

さらに、2027年までに従業員数を4,300人まで増やす計画を掲げています。

質の高い技術者を確保し、次世代のインフラ整備を担う人材を育成することで、当社の技術力をさらに向上させていきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

DXによる生産性向上

業務の効率化と生産性の向上を実現するために、AIやデジタル技術の活用を積極的に進めています。

2027年までに生産性を10%向上させることを目標に、業務プロセスの最適化を進めています。

この取り組みの一環として、管理技術者の確保が不可欠です。

そのため、管理技術者の数を毎年5%ずつ増加させる計画を立て、業務の精度向上を図っています。

また、年間80件の表彰制度を実施し、業務上のミスや重大事故の防止に努めています。

こうした取り組みにより、事故ゼロ・ミスゼロを目指しながら、高品質なサービスの提供を継続していきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

サステナビリティへの取り組み

当社はすでに「CTIグループ・サステナブルチャレンジ推進計画」を公表しており、その一環としてカーボンニュートラルの実現を目指しています。

具体的には、2030年までに自社および直接的なエネルギー使用によるCO₂排出をゼロにすることを掲げています。

また、2027年までに売上高あたりの温室効果ガス排出量を2021年比で45%削減する計画を進めています。

これにより、環境負荷の低減と企業価値の向上を両立させていきます。

さらに、地域社会への貢献として、当社のコンサルティング業務を通じて安全で快適な社会の構築を支援していきます。

特に、気候変動対策や災害対応に関する業務を強化し、2027年までにこれらの事業の売上高を280億円以上にすることを目標としています。

サステナビリティの取り組みとして、2023年1月にCTIアセンドという会社を創立しました。

この会社は、東日本大震災後に除染された福島県相馬市の農地においてトウモロコシを栽培し、収穫したトウモロコシでウィスキーを醸造・販売する会社です。

トウモロコシの栽培には、肥料として下水道汚泥を使用し、醸造所は廃校になった小学校を活用しています。

当社が下水道で培った技術を活用し、東日本大震災で被害を受けた自治体の復興を支援するサステナブルな会社であり、ウィスキー販売は2026年夏ごろを予定しています。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

ガバナンスの強化

成長を持続するためには、ガバナンスの強化が不可欠です。

特に、不正事案の発生を防ぐためのリスク管理やコンプライアンス意識の徹底に注力し、内部統制プロセスを強化しています。

投資家の皆様に信頼いただけるよう、透明性の高い経営を実践し、企業価値のさらなる向上を目指します。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

資本コストと株価を意識した経営

資本市場において、当社の持続的な成長を評価していただくためには、資本コストと株価を意識した経営が欠かせません。

現在、当社のROE(自己資本利益率)は11%近くと健全な水準を維持していますが、一方でPBR(株価純資産倍率)は1.0倍程度にとどまっています。

本来であれば、PBRはより高く評価されるべきですが、その要因として、

1.将来の成長期待が不十分であること

2.資本配分の透明性が不足していること

3.企業の認知度が十分に浸透していないこと

といった課題が考えられます。

この状況を改善するために、当社は成長戦略や投資計画を積極的に外部へ発信し、投資家の皆様に当社の魅力をしっかりと伝えていく方針です。

また、株主還元策として、配当性向を30%、DOE(株主資本配当率)を3%とする計画を立てています。

万が一、M&Aなどの成長投資が計画通りに進まなかった場合には、追加の株主還元も実施する予定です。

資本効率の向上を図ることで、株主の皆様にとっても魅力的な経営を実現していきます。

さらに、人的資本への投資や非財務情報の開示強化を進め、ROEとPBRの向上を目指します。

特に、サステナビリティへの取り組みや、DX推進、技術開発などの無形資産への投資を強化することで、企業価値の向上に努めていきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

投資計画の概要

現在、当社の現預金は155億円あり、今後3年間でキャッシュフローと政策保有株式の売却を通じて345億円を確保する予定です。

この資金をどのように活用するかについても、具体的な計画を立てています。

まず、運転資金として155億円、配当30%(約65億円)を計上し、残る250億円程度を成長投資に活用する方針です。

成長投資の内訳として、内部投資に100億円、人材投資に30億円、研究開発に30億円、DX推進に30億円といった形で、重点分野に投資していきます。

また、外部投資には150億円を計画しており、銀行借入なども活用しながらM&Aを推進していきます。

特に、エネルギー分野や建設マネジメント分野、DX関連企業などとのシナジーを見込める投資を積極的に進める考えです。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

M&Aの方針について

当社がM&Aを進めるにあたって、「コア領域」「成長分野」「地域コンサルタント」「海外事業」の四つの軸を掲げています。

それぞれの分野で技術力の補完や市場拡大を図りながら、持続的な成長を実現していきます。

コア領域のM&A戦略

コア領域とは、現在当社がすでに取り組んでいる分野の中で、技術者の数が比較的少ないものの、今後の市場成長が期待される領域を指します。

具体的には、上下水道や都市電気機械設備などが該当します。

これらの分野は、今後さらに需要が拡大すると予測される一方で、当社内における技術者の数が限られているため、M&Aによって専門性の高いコンサルタント会社をグループに迎え入れ、技術力を補完しながら事業拡大を図る方針です。

成長分野のM&A戦略

成長分野としては、生産性向上や業界の発展に必要な領域を対象とし、特にエネルギー、情報共有システム、CM/PM、地域コンサルタントといった分野に注力しています。

なかでも、IT関連技術の強化は急務と考えています。

建設業界においても、情報共有システムやエネルギー支援、施工管理におけるデジタル技術の活用がますます重要になってきています。

これまで、当社では情報システム関連の業務を外部の協力会社に委託してきましたが、今後はM&Aを通じてシステム会社をグループ内に取り込み、ノウハウや技術を蓄積することで、より高度な技術開発を可能にする計画です。

地域コンサルタント企業のM&A戦略

もう一つの重要な成長分野が、地域コンサルタント会社のM&Aです。

現在、地方の建設コンサルタント会社は、人材不足や高齢化、後継者不在といった課題を抱えています。

さらに、公共事業費の将来的な変動や、新技術への適応が求められる中で、倒産リスクが高まっている状況です。

たとえば、能登半島地震のように大規模な災害が発生した場合、復興事業を進めるには地元のゼネコンや建設コンサルタントが中心にならざるを得ません。

しかし、地方の建設コンサルタント会社が衰退してしまえば、地域の復興やインフラ整備が滞る可能性があります。

こうした課題に対し、当社は単なる傍観者ではなく、M&Aを通じて地域の建設コンサルタント会社を支援し、事業を継承しながら地域インフラの維持・発展に貢献するという方針を取っています。

その一例として、最近M&Aを行った広島県の「広建コンサルタンツ」があります。

広島県は比較的閉鎖的な市場であり、県外のコンサルタント会社が参入しにくい発注方式を採用しています。

そのため、こうした地域では、すでに地元で事業を展開している企業をグループ化することで、スムーズに市場へ参入し、地域に根ざした事業展開が可能です。

今後も、こうした地域密着型のコンサルタント会社をM&Aし、地域インフラの維持と発展に貢献していきたいと考えています。

M&Aの進め方と慎重な選定

ただし、M&Aには莫大な資金が必要となるため、すべての企業を対象にできるわけではありません。

むやみに買収を進めるのではなく、慎重に企業を選定し、成長の可能性がある「良い会社」に対してM&Aを進める方針です。

当社は、M&Aを単なる企業拡大の手段ではなく、技術力の強化や地域社会への貢献といった視点を持ちながら進めていくことを重視しています。

そのため、対象企業の専門性や市場価値だけでなく、企業文化の相性やシナジー効果も十分に考慮しながら、長期的な成長につながるM&Aを実施していきます。

株式会社建設技術研究所 第62期(2024年)決算報告/中長期ビジョン2030見直し及び中期経営計画2027 より引用

注目していただきたいポイント

当社の強みの一つは、国からの発注案件が全体の約半分を占めていることです。

国のプロジェクトは安定した予算のもとで発注されるため、継続的に受注できる可能性が高く、収益性も高いという特徴があります。

そのため、当社はこの分野で確固たる地位を築いており、今後も強化していきたいと考えています。

また、当社では技術者の育成や資格取得の支援も積極的に行っています。

たとえば、国家資格である技術士の取得率は業界トップです。

特に、修士課程を修了した人材も多数おり、入社3〜4年後の20代後半で取得する社員も多くいます。

この資格は、管理技術者の要件となるため、取得することでキャリアアップにつながります。

「技術士を取得→管理技術者として活躍→良い成果を出す→次の案件で有利に」という好循環が生まれているのも、当社の強みの一つだと考えています。

長年の実績があるからこそ、「この会社で技術者として成長したい」と中途入社してくることが多く、人材不足の中でも当社の技術力の高さに魅力を感じて安定して人材を確保しています。

投資家の皆様へメッセージ

当社は、総合評価方式の案件が全体の6割を占めており、業界でも特に技術力の高い企業です。

技術力が高いことは、収益性の高い案件を受注できる要因となり、生産性向上にもつながっています。

これが安定した利益率を維持できている理由です。

その結果、当社は赤字に陥ることなく、堅実な経営を続けてきました。

今後も、技術力をさらに高めるための研究開発に注力し、新たな分野にも積極的に挑戦していきます。

特に、これまであまり手がけてこなかったエネルギー事業や情報提供サービスなどは、今後の成長が期待される分野です。

また、M&Aやベンチャー企業への投資を積極的に行い、国内外での事業展開を加速させていきます。

国内だけでなく海外市場にも積極的に進出し、さらなる成長を目指していきます。

投資家の皆様にも、当社の技術力と成長性にぜひご期待いただきたいと思います。

株式会社建設技術研究所

本社所在地:〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー

設立:1963年4月1日

資本金:3,025,000,000円(2023年12月末時点)

上場市場:東証プライム市場(1994年6月16日上場)

証券コード:9621

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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