【6558】クックビズ株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年3月7日に実施したIRインタビューをもとにしております。

クックビズ株式会社は「食」は「人」をミッションに掲げ、飲食業界に特化した求人プラットフォームや人材支援サービスを提供しています。

代表取締役社長の藪ノ 賢次氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

クックビズ株式会社を一言で言うと

「Empower the Food People」を体現する会社です。 

クックビズの沿革

クックビズ株式会社代表取締役社長 藪ノ 賢次氏

創業の経緯

私は大学を卒業してから、いろいろな事業に携わる中で2005年頃には起業という道を選びました。

そして、たまたまお付き合いしていたクライアントが調理系の専門学校を運営されていて、その関係でこの業界の課題に気づくきっかけをいただきました。

調理系の専門学校に入学する学生の中には、実は現場のことをほとんど知らないまま入学を決めている方が意外と多かったのです。

もちろん専門学校は充実した調理実習や座学を提供していますし、調理に関する多くの技術や知識を習得できます。

ただ、実際に卒業して飲食店などの現場に飛び込んだとき、学校でのイメージと現実のギャップに戸惑い、早い段階で辞めてしまうというケースが少なくありませんでした。

そこで私は、「学生のうちにリアルな現場の経験を積めるような仕組みをつくれないだろうか」と考えました。

今では「インターンシップ」という言葉が一般的になりましたが、当時はまだその考え方は一般的ではありませんでした。

しかし、学生の段階から現場経験を通して就業イメージを具体的に持つことができれば、学校での学びにもさらに集中できるのではないかと思い、その専門学校と一緒にインターンシップ制度を立ち上げることになりました。

最初はアルバイト紹介という形から始まりましたが、それが現在のクックビズの事業へとつながっています。

クックビズのスタート

当初のクックビズは専門学校の学生向けに、飲食店のアルバイトを紹介するサービスとしてスタートしました。

ところが、創業した直後の2008年、予想もしていなかったリーマンショックが起こりました。

アルバイトは景気に大きく左右されるため、飲食店が売上の落ち込みに直面すると、真っ先に人件費削減の対象となります。

実際、この時も多くのお店がアルバイトを削減し始めました。

そんな苦しい状況の中、取引先の飲食店から、「アルバイトではなく、正社員を紹介してもらえませんか?」という相談をいただいたのです。

正直なところ、当時の私は飲食業界についてそれほど詳しくなく、「飲食店の働き手は、オーナーとアルバイトぐらいだろう」と思い込んでいました。

しかし詳しく話を聞いてみると、飲食店には調理人やサービススタッフ、店長など、多くの正社員が活躍していることを知り、驚きました。

また調べてみると、飲食業界に特化した正社員の人材紹介サービスはほとんど存在していませんでした。

市場としては「未開拓」であり、競合が少ないブルーオーシャンであることに気づいたのです。

これは「特化型人材サービス」として大きなチャンスになるのではないかと感じました。

そこで私は「これはもう正社員紹介にピボットしよう」と思い切って方向転換を決めました。

こうして誕生したのが、飲食業界専門の求人情報サイト「cook+biz(2019年2月にcookbizとしてリブランディング)」です。

また私自身が大阪出身ということもあり、「食」に対して強い思い入れがありました。

私見ですが、特に大阪では「好きだから飲食の仕事を続けている」「商売の楽しさを大切にしている」といった、飲食業を楽しむような文化や雰囲気があると思っております。

こうした背景もあり、「大阪発で飲食業界に特化した人材サービスをつくることには、大きな可能性と面白さがある」と強く感じ、本格的に事業を立ち上げる決意を固めました。

東京オフィス開設と資金調達

2012年12月、私たちは渋谷区に東京オフィスを開設しました。

そして2014年9月、ジャフコからエクイティ(株式)による資金調達を実施することに成功しました。

それまでは自己資金のみで経営を続けていましたが、正直なところ資金的にはかなり苦しい状況でした。

当時の私はまだ20代だったので、資金力もそれほどなく、1年に1人、よくて半年に1人程度しか社員を増やせないほどギリギリの運営でした。

加えてリーマンショックの影響で、銀行からの融資も容易に受けられませんでしたし、特に大阪という地方都市では、当時はベンチャー企業へのエクイティ資金がほとんど流れてきませんでした。

そんな中で偶然、「ベンチャーキャピタル(VC)」という存在を知り、必死で情報を集めていくうちに、ジャフコが国内最大級のベンチャーキャピタルであることを知りました。

「ダメ元でも、とにかくまずジャフコに会いに行ってみよう」と決めて、最初の交渉先としてアプローチをしました。

実は当時、ジャフコが外食業界に投資を行っていたため、サービス業に対する理解やノウハウも一定程度持っており、ジャフコとの交渉は、予想以上にスムーズに進みました。

「飲食業界に特化した正社員向けの人材サービスは、まだほとんど競合がいない」という私たちの視点に共感していただき、結果的に出資が決まりました。

この資金調達は私にとって本当に大きな自信に繋がりました。

第三者から資金を提供していただけるということは、それだけ自分たちの事業が評価され、可能性を認められたということだからです。

当時の大阪はベンチャー企業にとって決してやりやすい環境ではありませんでした。

だからこそ私は「どうせやるなら、大阪から上場企業を目指そう」と決意を新たにし、経営体制を強化し、上場準備を進めました。

そして2017年11月、ついに上場を実現することができました。

コロナショックと事業の多角化

私たちにとってコロナ禍は、まさに事業を根底から揺さぶる大きな危機となりました。

飲食業界に特化して事業を展開していたため、コロナの影響は甚大で、売上はピーク時の約3分の1にまで落ち込みました。

2020年から2021年にかけての2年間で累計約10億円の赤字を計上し、「これからどうすればいいのか」と、本当に真剣に考えざるを得ない状況に追い込まれました。

ただ、そもそも私たちは創業当初から、飲食業に関わる人々に寄り添い、エンパワーしていくことを軸に事業を展開してきました。

それはまだビジョンという言葉にはなっていなかったものの、クックビズという会社の根底に常に流れていた想いです。

コロナ禍で飲食業界がかつてない打撃を受ける中で、現場で懸命に働き続ける人たちの姿を見て、その想いは一層強くなりました。

「本当にこの業界を支えると決めたのなら、ここで諦めるわけにはいかない」と心に決め、踏みとどまるために事業の多角化にも挑戦しました。

結果的にコロナを契機に新しい領域へ踏み出すことができ、私たちの事業の可能性が広がりました。

そしてその経験を通じて、「Empower the Food People(飲食業に関わる人々をエンパワーメントする)」という言葉が、私たちの姿勢と未来を明確に示すものとして、2024年12月、正式にビジョンとして言語化されました。

また、この経験は、私自身に経営者としての覚悟を改めて問いかけるきっかけにもなりました。

「本気でこのミッションやビジョンを実現したいのか?」という厳しい問いを突きつけられ、自分の姿勢を見つめ直すことができたと思っています。

大きな危機を乗り越える中で、会社も、私自身も、より強く成長することができました。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

クックビズの事業概要と特徴

概要

私たちは「食産業における人材不足を解消する」ことを目標に掲げ、飲食業界に特化した多彩なサービスをワンストップで提供しています。

まず主軸となるHR事業では、飲食業界専門の求人情報サイト「cookbiz」を運営しています。

さらに飲食業界に特化した人材紹介サービス、求人広告やスカウトサービス、飲食店向けの人材育成研修など、人材に関するサービスを幅広く展開しています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また、最近力を入れているのがDX事業です。

飲食業界は慢性的な人手不足に悩まされていますが、テクノロジーやデータを駆使し、飲食現場の効率化や省人化を支援するサービスを提供しています。

たとえば、アルバイトのシフト管理や勤怠、給与計算をクラウド上で簡単に行える「CAST」というSaaSプロダクトを開発し、飲食店の業務改善に貢献することを目指しています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

さらに投資事業にも積極的に取り組んでいます。

高い付加価値を持ちながらも、後継者不足や経営難で課題を抱えている企業を支援し、再生させる取り組みを行っています。

M&Aや資本参加を通じてグループ化を進めており、その中には、ホタテやホッケ、サバなどの水産加工を手掛ける「きゅういち株式会社」など、独自の強みを持つ食関連企業が加わっています。

こうした多角的な事業展開を通じて、飲食業界の「人」の課題に正面から向き合い、業界全体をエンパワーメントしていくことが、私たちクックビズならではの強みであり、これからの使命だと考えています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

飲食業界に特化したサービス展開

当社が手掛けている飲食業界に特化したサービス群は非常に参入障壁の高い分野であると私は認識しています。

特に、業界特有の慣習や現場理解、人材との継続的な関係構築が求められる点において、一般的な人材サービスとは一線を画すると考えています。

一般的な総合型求人媒体では、飲食業は「サービス・小売業」という広いカテゴリに分類されることが多く、ドラッグストアやスーパーなどと並んで掲載されるケースもあります。

一方、飲食業界で働く方々は、「私はカフェで働きたい」「まずはホテルで基礎を身につけて、その後は地元のレストランで経験を積みたい」といったように、自身のキャリアに対して明確なビジョンを持っている方が多くいらっしゃいます。

そうした背景を踏まえ、私たちは、飲食業界のさまざまな業態や職種を丁寧に分類し、求職者一人ひとりの志向や希望に寄り添ったマッチングを大切にしています。

「クックビズ」をご利用いただいている方のうち、約半数は調理スタッフ、もう半数が接客スタッフや店長などのフロント業務に携わる方々です。

さらに調理スタッフの中にも、「個人店で自分の腕を試したい」「勢いのある成長企業でキャリアアップを目指したい」「大手企業で安定した働き方を実現したい」など、多様なご希望があります。

私たちは、こうした幅広く多彩なニーズに対して、きめ細かな対応と最適な選択肢のご提案を行うことで、求職者の皆さまの前向きなキャリア形成をサポートしています。

年収500万円以下の層においても、ここまで個別の要望に丁寧に向き合い、選択肢を提示できるサービスはまだ多くはありません。

だからこそ、私たちは「飲食業界で働くことに誇りを持つ人たちのキャリアに寄り添える存在」でありたいと考えています。

そのため、飲食業界向けの転職や人材紹介サービスにおいては、クックビズが一定の独占的なポジションを築いていると考えています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

最近では「ノンデスクワーカー」と呼ばれる、オフィス外で働く方向けのサービスも増えてきていますが、そのアプローチは大手が展開するような一般的な人材紹介業に近く、当社が提供しているきめ細かい特化型サービスとは明確に異なります。

実際、「クックビズ」には常時3,000社以上の求人情報が掲載されており、多様な選択肢を提供できるのも大きな特徴です。

いわゆる「ロングテール型のマッチング」を実現している点が、私たちの他社とは異なる強みになっています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

飲食業界専門のアドバイザー

また、当社には「こんな悩み、エージェントに言っても理解してもらえないのでは…」と不安を感じている求職者に対して、「実はこんな求人がありますよ」と、自信を持って提案できる求人が数多くあります。

求職者自身が知らなかった求人と出会えるのも、私たちの大きな特徴の一つです。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

飲食業界で働く方は、先輩や同僚など身近な人の影響で転職を決める傾向が強く、転職の情報源がどうしても限られてしまいます。

身近な店舗やよく知る店の範囲内で転職先を決めることが多いのです。

ただ、転職を2〜3回経験していくと、「もっと自分の可能性を広げたい」と考える方が増えてきます。

しかし、飲食業界専門の転職エージェントは少なく、結果としてフリーペーパーや大手求人サイトなど、アルバイト情報を中心に転職活動を進めざるを得ないのが現状です。

その場合、福利厚生やキャリアパスなどの詳細情報が不足しており、どうしてもミスマッチが起こりやすくなります。

その点、当社では福利厚生や待遇、キャリアパス、出店計画、客単価、さらには店舗の強みや弱みといった情報までしっかり提供し、「次にどこで働くのか」を求職者自身が納得して選べる環境を作っています。

飲食業界に特化したプロとして信頼される情報を集め続け、それを求職者に届けることが、私たちクックビズの存在意義だと考えています。

当社のアドバイザーは、数千件の求人情報が登録されている独自のマッチングシステムを活用し、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)と連動しながら、最適なマッチングを実現しています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

飲食業界の人事部を目指して

当社が現在力を入れて拡販しているサービスに、飲食業界向けの「採用総合パッケージ」というものがあります。

これは、飲食業界における人材採用に関して、お客様が抱えるあらゆる困りごとを総合的に支援・解決するワンストップ型のサービスです。

このパッケージでは、人材紹介をはじめ、求人広告、スカウト、採用代行、教育研修、採用ブランディングなど、当社の多様なサービスを自由に組み合わせることが可能で、人員不足や組織課題を包括的に解決できるよう支援しています。

イメージとしては企業の「社外人事部」のような役割です。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また、この採用パッケージを導入していただいている企業については、アドバイザーが求職者に対し、「この企業は採用枠も多く条件も良いですよ」とピンポイントでおすすめしています。

そのように深く企業と関わることで、「クックビズが推薦する人材なら、ほぼ確実に採用して問題ない」という信頼関係を築いています。

完全な外部委託とまではいきませんが、そうした体制に近い支援の仕組みを確立しています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

クックビズの成長戦略

「採用総合パッケージライト」の拡販

飲食業界では最近、本部のスリム化を目指す動きが加速しています。

結局、飲食業の現場では店舗で働くスタッフが最も重要であり、本部機能はなるべく効率化して最小限にしたいというニーズが高まっているためです。

そこで私たちは、「採用業務を丸ごと当社にアウトソーシングしませんか?」という提案を行っています。

ただし、いきなり本格的な「採用総合パッケージ」を導入するにはハードルが高いという企業もいらっしゃいますので、まずは導入しやすい「採用総合パッケージライト」を提案しています。

実際にライト版を導入した企業には、まず10名ほど人材を紹介し、「これは便利で効果的だ」と実感していただいた後、本格的な「採用総合パッケージ」への移行を促しています。

一般的に人材紹介業というビジネスは参入障壁が低いと言われますが、私たちは約20年間にわたり飲食業界一筋で実績と信頼を積み重ねてきました。

だからこそ、「採用業務はクックビズに任せておけば安心だ」と信頼いただき、丸ごとの採用業務のアウトソースを依頼されるようになっています。

この期待に応えるためにも、まずは「採用総合パッケージライト」の拡販を進め、企業が抱える採用課題に広さと深さの両面から寄り添っていきたいと考えています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

クックビズ合同説明会の開催

また、マーケティング施策として合同説明会の開催も始めました。

これまでは主にウェブマーケティングを中心としてきましたが、最近は「そもそもウェブで求人を探さない層」が一定数いることに改めて気づきました。

特にコロナ禍が落ち着いてからは、対面のイベントが再び活発化しています。

その流れを受け、2024年11月には東京で初めて合同説明会を開催しましたが、非常に手応えを感じました。

企業の採用担当者と求職者が直接対面できる場として、お互いにとって非常に貴重な機会になったと思います。

普段、求人メディアやスカウトサービスの運営チームはインターネット上のやり取りが中心で、実際の求職者と顔を合わせる機会が少ないのですが、合同説明会では何百人もの求職者が目の前のブースに来場してくれる光景を目の当たりにしました。

そのためチームメンバーは「自分たちの仕事が実際に世の中の役に立っている」という実感を得られたようで、チームビルディングという観点からも非常に良い取り組みになったと考えています。

さらに、参加した企業の担当者からも「もっと早く開催してほしかった」という声もありました。

当社の業界での集客力や紹介実績は認知されている一方で、「なぜリアルなイベントをやらないのか?」という意見も多く、需要がまだまだあることを実感しました。

今回の成功を機に、今後はさらに積極的に合同説明会を全国で展開していく方針です。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

DXに関する取り組みについて

DXに関する取り組みも積極的に進めています。

飲食業界におけるDXの究極のイメージは、ヒューマノイド型ロボットが生身の人間のように店舗内で動き回るような世界だと思います。

ただ、現実的にはそれが実現するのはかなり先の未来だと思います。

一方で、最近登場した生成AIのように、対話型インターフェースが非常に進化してきました。

特に、ITリテラシーがそれほど高くない方々でも、パソコンの前に座らずともAIと自然な対話を通じて業務が進められるような仕組みが求められており、今後DX化はさらに加速すると感じています。

その中でも当社が特に力を入れているのは、バックオフィス業務のDX化です。

飲食業界は離職率が高いため、採用管理や雇用保険など煩雑な手続きが多く、まだまだ自動化やDX化の余地が大きく残っています。

フロント業務のDX支援サービスはリクルートやタイミーのような資金力豊富な大手が参入し激戦となっていますが、バックオフィス業務は依然としてブルーオーシャンの領域です。

私たちは「CAST」を活用した雇用管理を皮切りに、採用管理や給与計算、雇用保険手続きなど、今後さらに広くバックオフィス業務の自動化に本格的に取り組んでいく予定です。

「きゅういち」について

私たちは現在、投資事業の一環として食品加工会社「きゅういち」の事業再生に取り組んでいます。

北海道道南エリアの噴火湾で漁業権を持つ企業とのご縁があり、民事再生のスポンサーとして「きゅういち」を子会社化しました。

「きゅういち」はサプライチェーンの川上に位置し、海のすぐそばに食品加工工場を持っています。

そのため、水産物を収穫後すぐに洗浄・選別し、鮮度を落とすことなく冷凍加工できるという強みがあります。

たとえばホタテの場合、鮮度の高い状態で冷凍できれば適切な方法で解凍することで生食が可能です。

これにより、ホタテの保存期間が最大2年間に延び、相場の動きに合わせた柔軟な販売戦略を取ることが可能になりました。

高い鮮度を保ったまま流通できることから、商品としての付加価値も高まり、輸出や販路拡大において大きな武器になっています。

またホタテは日本の水産物輸出で魚種別1位の人気を誇り、輸出需要も非常に高い商品です。

従来は商社に卸したり、国内の水産加工会社と直接取引したりするなど、BtoB取引が主流でしたが、私たちが参入したことで、ECサイトやふるさと納税を通じて一般消費者向けのBtoC販売もスタートさせました。

その結果、業績も徐々に伸びてきています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ロールアップによる成長

飲食業界には「食のバリューチェーン」という考え方があり、川上(原料・生産)、川中(加工・流通)、川下(外食・小売)という三つの領域に分けられます。

このバリューチェーンは一般的に「スマイルカーブ」と呼ばれ、利益率が高く、付加価値が生みやすいのは川上と川下の領域だと言われています。

当社はもともと川下に近い外食業界向けのサービスを提供していましたが、コロナ禍によって外食産業が大きな打撃を受けたことを契機に、新たな成長領域として川上の食品加工分野へ参入しました。

「きゅういち」を通じて川上の水産加工業務に取り組むなかで、この2年間、工場経営に関する様々なノウハウを蓄積してきました。

地方の中小企業が倒産する最大の原因は、営業力やマーケティング力が弱いために取引先が限定され、売上が安定しないことにあります。

私たちのグループに入ることで取引先を拡大し、売上の依存度を分散することができれば、企業の安定化につながると考えています。

現在は、他の水産加工会社をM&Aで統合(ロールアップ)していく構想を持っており、「きゅういち」で培った洗浄・選別・冷凍加工のノウハウを活かしつつ、一次加工・二次加工を行う企業も積極的に買収し、さらに事業領域を広げていく計画です。

今年からは本格的に人員も配置し、さらなる事業拡大を進めていきます。

注目していただきたいポイント

当社が持つ飲食業界の人材データベースは、飲食業にとどまらず、地方創生やリゾート開発といった幅広い分野でも大きな可能性があると感じています。

日本の最大の強みの一つはやはり「食」ですし、それを支える「食領域の人材」の価値はこれからますます高まるでしょう。

現在の飲食業界は決して給与が高いとは言えませんが、それでもなお、この業界で長く働き続けている人たちの価値は、今後指数関数的に上昇していくと思っています。

そして、飲食業界の人材データを国内でもっとも豊富に保有しているのが、私たちクックビズなのです。

今後、海外への展開を視野に入れたとき、「日本人の優秀なシェフが欲しい」と海外の企業が考えた際に、「クックビズならほぼすべての人材を網羅している」と認識されれば、海外からのスカウト需要が生まれることも十分に考えられます。

私たちが目指しているのは、登録していただいた方々に対して多彩なキャリアの可能性を提示できる環境をつくることです。

パートナー企業との連携を強化し、「クックビズに登録すると、魅力的な求人が国内外問わず届く」と実感していただける状況を築きたいと考えています。

そのような環境が整えば、「飲食業界で働くことも決して悪くないな」と感じる人が増え、現状は給与が低くても、将来的には待遇面での改善が進む可能性がある職種だということを伝えていけるはずです。

実際に、欧米の先進国ではブルーカラー職の給与がホワイトカラーを超える傾向が生まれつつあります。

この流れが日本にも波及してくれば、日本が誇る「食」の業界に人が集まり、業界全体の価値もさらに高まるはずだと考えています。

一方、最近の業績が伸び悩んでいる要因の一つは、「ノンデスクワーカー」向けのビジネスの台頭です。

このモデルは、ブルーカラーやエッセンシャルワーカーを中心とした業界に対して、未経験人材の就業機会を広く提供するもので、私たちの業界特化型モデルとはまた違った魅力があります。

当初は非常に画期的な競合サービスが登場したと思いましたが、よく考えてみると、彼らが未経験者を各業界に供給することによって、数年後には飲食業界を含め、それらの業界に「経験者」が大量に生まれることになります。

つまり、長期的な視点で見れば、潜在的なユーザーを育ててくれているとも言えるわけです。

したがって、私たちが今後しっかりと差別化を進めて優位性を確立できれば、むしろ2〜3年後にはこの流れを追い風に変えられる可能性があります。

また、投資事業についても触れましたが、これからは「連邦経営」と呼ばれるような企業群の形を目指したいと考えています。

「食」の分野というのは、原材料調達から消費者への提供まで非常に広範囲にわたります。

クックビズがホタテを取り扱うことになるとは、以前は私たち自身も想像していなかったかもしれませんが、今では「食」を軸にしたさまざまな可能性に目を向けながら、新たな取り組みを少しずつ進めています。

繰り返しにはなりますが、日本の強みは間違いなく「食」だと確信しています。

ですから今後も、「食」を軸にして相乗効果を生み出すような事業や、緩やかにつながりを持つ事業を連邦的に展開できる企業になっていきたいと考えています。

M&Aを通じて、下記にお示ししている図において、毎年少しずつ事業の色合いが「グレー」から「濃い紺」に徐々に変化していくような、そういう着実で力強い成長を遂げていきたいと思っています。

クックビズ株式会社 2025年2月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

投資家の皆様へメッセージ

2027年に、私たちクックビズは上場から10年という一つの節目を迎えます。

これからの約3年間を、私たちにとって非常に濃密で意味のある時間にしていきたいと考えています。

もちろん、グロース市場における「上場10年後に時価総額40億円以上」という維持基準については、現状とのギャップを真摯に受け止めています。

しかし私たちは、目先の数字にとらわれるのではなく、その先にある本質的な成長と価値創出を追求していきます。

上場10周年を迎える2027年、クックビズが「成長し続ける企業」であることを、実績で証明したいと考えています。

その実現に向けて、これからも果敢に挑戦を続けてまいります。

引き続き、皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

クックビズ株式会社

本社所在地:〒530-0012 大阪府大阪市北区芝田2丁目7番18号 LUCID SQUARE UMEDA 8階

設立:2007年12月10日

資本金:7億6200万円(2024年11月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2017年11月28日上場)

証券コード:6558

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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