【5252】日本ナレッジ株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年3月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。

日本ナレッジ株式会社は第三者の立場でソフトウェアの品質向上を支援し、ソフトウェアテストのDX(テストの自動化)を推進する会社です。

代表取締役社長の藤井 洋一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

日本ナレッジ株式会社を一言で言うと

ソフトウェアテストを自動化させるテストオートメーションカンパニーを目指す会社です。

日本ナレッジの沿革

日本ナレッジ株式会社代表取締役社長 藤井 洋一氏

創業の経緯

もともと私は金融機関出身で、独立をする中で公認会計士や税理士を目指していました。

その中で当時、ミロク情報サービスの前身であるミロク経理がコンピューターの販売代理店を募集しておりました。

当時はまだ計算する上では電卓・そろばんが主流でしたが、これからの時代はコンピューターだと確信し中小企業向けの市場が成長していくと考え、1985年10月に代理店として日本スペースソフトを設立しました。

もちろんミロクのソフトは非常に優れていましたが、販売管理や業務系システムのカスタマイズができなかったため、お客様のニーズに合うように新しいシステムを開発・販売していました。

テスト・検証事業への進出と上場

2000年にCSK(現在はSCSK)が情報系で日本で初めて上場し、その後2001年にソフトウェアのテスト事業部門からベリサーブという会社が独立しました。

そこで当社もインスピレーションを受け、2001年にソフトウェアテスト・検証事業を始めました。

最初は”テスト業務が独立したビジネスとして成立するのか”と懐疑的な意見も多くありましたが、ベリサーブが設立後3年足らずで上場し(現在は上場廃止)、成長性のある分野として注目されていきました。

その後、2017年には業界に先駆けてソフトウェアテストの自動化を推進し、テスト自動化支援サービスのNKC.JAMを始めました。

そして当社は2023年3月に上場を果たし、開発事業と検証事業の両輪で成長し続けております。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

日本ナレッジの事業概要と特徴

概要

当社の事業は二つのセグメントに分けられ、検証事業が売上の6割、開発事業が4割を占めています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

まず検証事業ではソフトウェアの開発工程における不具合を確かめるための品質計画の立案、テストの分析設計、テストの実行といった一連のプロセスやコンサルティングを提供しています。

特にソフトウェアの品質テストにおいては、これまで蓄積してきた長年のノウハウを活用し、ERPシステムが得意な領域です。

従来のテスト工程では手動テストが多く非効率的でしたが、独自に開発したシステムで自動化して効率化しています。

そして開発事業では他社に比べてリスクの低いERP(基幹業務システム)導入のカスタマイズをする受託開発がほとんどです。

一般的にERPをゼロから開発する時のリスクは高く、初期の要件定義が失敗すると大きな痛手になってしまうというリスクがあります。

一方で、既存のERPをカスタマイズする場合には要件が大きくズレることは少なく、致命的なトラブルが起きにくいため、低いリスクの下で開発を進めることができます。

また、我々は開発業務を請け負うことで、客先に常駐することなくプロジェクトを運営し、失敗のリスクをさらに低減しています。

このようなERPのカスタマイズに関しては開発ライセンス契約の社数も限られ、参入障壁が高いというのも特徴です。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

事業における優位性

大手顧客基盤

我々の顧客の多くは大手企業で、当社の競争力の源泉となっています。

開発事業においては、大塚商会が提供しているERPの「SMILEシリーズ」の開発、NECのクラウド型ERPの「EXPLANNER」、国産のSAPと呼ばれる「GRANDIT」等の導入カスタマイズの受託開発を行っています。

さらに上場企業や資本金10億円以上の企業が取引先の半数以上を占めており、安定した顧客基盤を築いています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

高度なエンジニア人材

当社では非常に高度な開発能力を持った技術者が検証のプロジェクトを担当しています。

一般的に他のテスト会社は単にテストを行うことが目的で、プログラミング知識の乏しい人も多く雇用しています。

そのため当社に比べて検証の自動化についてのノウハウは乏しく、検証事業を行う上での効率化という点では当社が優位性を持っております。

このように当社には自動化に必要なプログラミング知識を持つエンジニア人材が多く、単なるテスト実行のスクリプトを作ることに止まらず、実際に開発プロセスに深く関与できることが強みです。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

開発技術力を活用したテスト自動化

沿革の中でも手動という言葉を出しましたが、2000年代の始めまでのソフトウェアテストでは、バグの有無を実際に人が操作して確かめる作業が主流でした。

例えば新しいゲームが発売されると、ユーザーが一晩中プレイしてバグを探すようなもので、開発コストの約3分の1がテストに費やされ、金融システムの場合はその費用の半分をテストが占めている状況でした。

また開発者自身がテストを行う方法では、自分のミスを見逃してしまうため推奨されておらず、第三者によるテストが求められます。

そこで我々はテストを自動化する技術に力を入れて研究・開発を行ってきました。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

例えば、Excelでテストパターンを作成し、AIを活用して自動生成するなどの方法を開発し、検証業界におけるテスト自動化の技術はトップクラスだと自負しています。

また、テストの自動化に関わる特許取得や外部への情報発信にも積極的に取り組んでいます。

そして国際規格に準拠したソフトウェア品質の「見える化」を進めており、これは金融業界でのシステムの品質証明に貢献するために有効なアプローチです。

さらに、ISO規格の策定を含む国際標準化活動とテスト産業の活性化にも注力し、当社の研究・開発技術力を各種テストに活用しています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

日本ナレッジの成長戦略

人材戦略

当社では「採用戦略が今後の成長の最重要施策」と位置づけています。

この戦略は「三本柱」に基づいており、IT戦略の根幹である高度IT人材の獲得と教育が要です。

具体的には、全国に拠点と人事機能を拡大し、地方に隠れた高度な人材を発掘する独自の採用戦略を展開しています。

そしてリモートワークを活用して全国どこにいても大規模プロジェクトに参加できるといった魅力的な環境を整えております。

また教育面においてはIVECやJSTQBなどの資格教育に加え、ビデオ学習やOJTを中心に「NKC-Knowledge」という独自の教育プログラムを用いて、充実した教育体制を確立しています。

そして働き方の多様性を推進し、パートタイム労働者を含む柔軟な勤務体系を導入しており、各種専門学校や大学と提携して、学生のアルバイトを活用することで新卒採用に繋げる一貫したスキームを構築しています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

人材獲得・高度育成戦略

上場によって調達した資金については、人材確保に積極的に投資していく方針です。

2024年3月期〜2026年3月期には新卒・中途採用で約230名の人材を確保し、先ほどの人材戦略を活かして高度なIT人材を育てながら戦力となるエンジニアを増やしていきます。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

2025年3月期には80名の採用を計画しており、2024年4月の新卒入社は43人でした。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

積極的なM&A施策

我々は既存事業とシナジーの高い企業のM&Aを積極的に行っていく方針です。

特に重視しているのは、既に協力関係にあるパートナー会社との更なる連携です。

小規模の事業者が多いですが、事業継承や事業拡大を視野に入れて更なる成長のために、ホールディングス体制を取りながら協業していくのが理想です。

現時点でお話しすることができる案件はございませんが、業績の拡大に貢献するような企業を引き続き選定していきたいと考えています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

テスト自動化の領域拡大

当社は顧客数・顧客単価・稼働人員・継続率の四つのKPIの向上に注力し、テスト自動化の領域拡大を行っていきます。

まず、大手顧客への更なる深堀やERP開発事業者への新規開拓など、これまでの信頼とノウハウを駆使して顧客数を伸ばしていきます。

また、テスト自動化や工数の削減を行いコスト削減と効率化を行うことで顧客単価を引き上げていきます。

そして採用力を強化し、そこで確保した人材を育てながら稼働できるエンジニアを増員することで生産性の向上を図ります。

そしてテスト自動化と保守品質を向上させ、顧客の継続率を高めていきます。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

ソフトウエア品質テスト領域の拡大

現在のソフトウェアテストは主に機能適合性を中心に行われています。

当社は、これまでの製品品質テストからテスト領域を拡大することによって事業の成長を図っていきます。

足元では2024年3月に筑波大学と「経営的視点も含めたAIに関連したソフトウェア研究」の探索と創出に関する共同研究契約を締結しました。

今後は産学連携を強化しながら、AIを活用した新しいソフトウェア品質テストの創出に向けた取り組みに注力していきたいと考えています。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

業務系システムのテストにおいて最も重要な点は、「利用者が目的を達成できるかどうか」です。

当社では一般的な機能テストに加えて、利用者の視点を重視した広範なテスト領域を自動化を活用することで網羅しています。

この自動化プロセスには、プログラム開発の経験が必須です。今後は開発事業部との協働により、シナジー効果を生み出し、さらなる領域拡大を目指していきます。

また当社は長年の開発経験と業務知識を活かし、ERPシステムにおいて強みを持っています。特に、当社が得意とする業種領域は大企業などが顧客のエンタープライズ系です。

投資家の皆様には業界において品質の高い自動テストとERPシステムに強い当社が独自的なポジションを確立しているということに注目していただければと思います。

日本ナレッジ株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社の事業は安定した顧客基盤のもと着実に伸びています。

今後はさらに採用を拡大し人材の育成に注力していくことで、事業の成長を後押ししていきます。

そのため、来期から再来期にかけては、50名から100名単位での新規採用を計画しており、売上は増加する一方で、収益性には一時的に影響が出ると見込んでいます。

投資家の皆様には、数年間は当社が今後の成長のために優秀な人材の確保する期間とご理解いただき、長期的な視点でご支援いただけると嬉しいです。

日本ナレッジ株式会社

本社所在地:〒111-0042 東京都台東区寿3-19-5 JSビル 9階

設立:1985年10月22日

資本金:2億1,710万円(2024年3月アクセス時点)

上場市場:東証グロース市場(2023年3月23日上場)

証券コード:5252

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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