※本コラムは2024年10月3日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社Liberawareは「誰もが安全な社会を作る」をミッションに、独自に開発した世界最小級の点検⽤ドローンやデータ編集・解析技術を通して新たな価値を提供し、国家主導プロジェクトなどに参画しています。
代表取締役の閔 弘圭氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社Liberawareを一言で言うと
独自に開発した世界最小級の点検⽤ドローンやデータ編集・解析技術でこれからのインフラを支える国策に沿った会社です。
Liberawareの沿革
創業の経緯
創業のきっかけは、私が千葉大学でドローンの研究を行っていたことにまで遡ります。
当時、私はドローンを活用して原発の内部調査を行うプロジェクトに参加しておりました。
しかし、大学の研究者として関わっている限り、私たちが開発する技術は、どうしても試作段階で終わってしまい、実際に製品化するにまで至りませんでした。
この経験を通じて、「自分の手でドローンを製品化し、実際の現場で役立てたい」と考え、当社を立ち上げました。
過酷な環境への対応
創業当初、私たちは小型ドローンを開発し、主に住宅メーカーと協力して床下や天井裏などの狭い空間での点検作業を効率化するビジネスに取り組んでいました。
そのような中、あるドローンの展示会で日本製鉄さんと出会い、製鉄所で使用できるドローンが求められているというお話をいただきました。
製鉄所は非常に高温で、粉塵が多く飛び交い、従来のドローンではそのような過酷な環境での使用は不可能でした。
特に鉄粉がモーターに入り込むことでドローンが故障するリスクが高く、従来の技術では対応できない大きな課題がありました。
そこで私たちは、技術力を高める良いチャンスだと考え、防塵モーターの開発に取り組み、本格的な産業用ドローンの開発に成功しました。
その後も製鉄所のような厳しい環境下で使える技術を開発することで、他の産業分野でも私たちのドローンが役立つ可能性が広がりました。
現在ではJR東日本グループやKDDIグループと共同で行う国家プロジェクトにも参画しており、当社の高いドローン開発技術やソフトウェアの技術が認められております。
2024年7月に上場
当社は2024年7月に東証グロース市場に上場しましたが、これは私たちにとって一つの通過点に過ぎません。
VCからの出資を受け、経営基盤を強化しながら準備を進めてきましたのでいつでも上場できる状況ではありました。
ただ、日本の市場においてドローンへの関心が海外に比べて低く、その価値は十分に認知されていないように感じています。
そこで当社がドローンを代表する企業としてリードしていくためにも上場し、社会インフラを支えていく企業として認知されるように成長していきたいと考えています。
Liberawareの事業概要と特徴
概要
ドローンの開発・製造に加え、データ取得、解析、インフラ点検サービスを包括的に提供しています。
単一製品でもある点検ドローン「IBIS(アイビス)」は当社の中核であり、技術力の結晶です。
過酷な環境でも使用可能で、防塵・防熱性能に優れ、製鉄所や発電所などでも高い評価を受けています。
さらに、取得したデータの解析を重視し、自社開発のソフトウェアを用いてインフラ設備の状態を顧客のニーズに合わせた形で提供することが可能です。
後ほど詳しくご説明いたしますが、当社は、ハード・ソフトの両面で強みを持っていることが業界内でも独自性の高い企業として認知されています。
事業における優位性
ハードウェア技術
多くのドローンメーカーは、複数の機種を開発し、様々な環境に対応できるように開発していますが、当社の場合は汎用的に利用できるドローン「IBIS」を開発しました。
「IBIS」はGPSが届かないような屋内でも飛行可能で、産業用としては世界最小クラスの機体です。
そのため、一般的に点検が困難であると考えられるような領域を点検・調査することができ、過酷な環境下においても飛行できる技術力が詰まっています。
たとえば、日本製鉄との協業においては、製鉄所内での粉塵や高温に耐えられる特殊な防塵モーターの開発を行い、特許も取得しました。
また、狭い屋内空間で安定した飛行を維持するために、ドローンが壁に接近した際の気流を制御する技術が搭載されています。
通常のドローンは、壁に近づくと掃除機のように壁に吸い付いてしまいますが、「IBIS」であれば狭い屋内空間でも安定した飛行が可能です。
また、暗所でも機体制御できるように高精度な画像を撮影できるカメラが搭載されており、人間が通常目視で確認できないような場所でも、詳細な映像を取得することが可能です。
このように高度な技術が搭載されたドローンは産業界では当社の「IBIS」だけであり、他社との差別化する上での強みとなっています。
ソフトウェア技術
私たちはドローンを開発するだけではなく、ソフトウェアの開発も手がけています。
当社が提供している主なソフトウェアはBIM(Building Information Modeling)です。
BIMは一般的に図面のある建物に対してBIM化することで3次元データを提供しています。
一方、当社は建物の設計図がない場合でも、ドローンによって取得されたデータをもとに三次元モデルを構築することが可能です。
通常、古い建物では設計図が残っていないことが多く、その場合、点検やリニューアル工事の際に多くの手間とコストがかかります。
しかし、私たちの技術を使えば、ドローンによるデータ取得を基に、効率的かつ安価にBIM化することが可能で、顧客にとっては大幅な工数削減・コスト削減に繋がります。
このようなソフトウェアの提供も当社の強みを語る上で重要なポイントだと考えています。
大⼿企業との厚い取引関係の構築
ハード・ソフトの強みを活かし、大手企業との厚い取引関係を構築しているため、屋内点検へのドローン利用No.1を実現しています。
2024年7月期末時点で、累計顧客企業数は270社を超えています。
これまでも産業界を中心に、実証実験を含めニーズや課題に応じて、ドローンやサービスに対して改良を重ねてきました。
直近ではJR東日本グループとの合弁会社であるCalTa社を通じて、ドローンによる鉄道施設の点検効率化やデジタル化を推進しています。
このように、大手企業との厚い関係は当社の事業を支える強固な基盤です。
Liberawareの成長戦略
成長戦略のロードマップ
当社の成長戦略は、短期・中期・長期にわたる明確なビジョンを持って進めています。
まず短期的には、既存のサービスの適用範囲を広げることが最重要課題です。
そして、サービスの改良や新サービス提供による付加価値の向上を目指し、事業を拡大させていきます。
中長期的には、次世代の技術を搭載した「IBIS」や国家プロジェクトとして進めている鉄道環境特化型ドローンのローンチによる新たな成長エンジンの獲得を目指しています。
また、屋内ドローン操縦の自動化もポイントです。
現在、当社ドローンは人が動かしていますが、将来的に自動化を目指しています。
私たちが行う自動化は、宇宙ロケットのように難易度が高いものではありません。
なぜなら、私たちが対象としている環境は「既知環境」だからです。
つまり、何度もドローンが飛行している環境であれば、そのデータを活用して自動飛行が可能になります。
この自動化は、施設や設備の点検作業の効率化を飛躍的に高め、人的コストの削減にも寄与します。
今後、このような技術革新を起こしていくことで、ドローンの適用範囲はさらに広がり、私たちが目指す非線形な成長を達成できると考えています。
コアプロダクトの進化
新たなサービス提供としては、既存のノウハウを活用して他業界への展開を進めていく方針です。
現状、鉄道業界や製鉄業界、電力業界において、駅の天井裏や製鉄所の炉内、ボイラーなどの点検を担っています。
そのノウハウを活かし、自治体が運営する公共施設のごみ焼却炉や上下水道施設の汚泥焼却炉などの点検に横展開を進めていますが、まだまだ屋内ドローンが有効な施設や設備は多く存在すると考えています。
例えば、自治体と協力している例として、現在、北九州市における桟橋の下部にあるコンクリート構造物の点検を「IBIS」が担っています。
従来、潜水士が行っていたこの作業は、非常に危険でコストもかかる上、潜水士の数も減少しているため、人手不足に直面していました。
ドローン点検は安全かつ効率的に点検作業を進めることが可能であるため、桟橋におけるドローン点検のマニュアルが国土交通省に採用され、全国的に横展開が期待できるソリューションとなっています。
鉄道特化型ソリューションの展開で非線形成長を実現
私たちは、国家プロジェクトにJR東日本グループやKDDIグループとともに参画しており、鉄道業界の点検における課題をドローンで解決する取り組みを進めています。
既にプロジェクトは4年後の商用化を目指してスタートしており、52億円規模の大型プロジェクトとして動いています。
従来の鉄道施設の点検作業は、非常に労働集約的なものであり、従来は多くの人手と時間が必要でした。
特に、線路や架線の点検では、専用の作業車両を使用して点検を行うため、コストも非常に高額になります。
また、少子高齢化が進む中で、鉄道点検のような高度なスキルを持つ作業員が不足しており、この問題は今後さらに深刻化することが予想されています。
このような状況に対して、このプロジェクトでは、線路や架線、さらには鉄道施設全般の点検を、従来の人力に頼らず、ドローンによって自動化する仕組みを開発中です。
具体的には、鉄道の線路脇に「ドローンポート」を設置し、24時間体制でドローンが監視業務を行います。
線路上を走行する列車の運行を妨げることなく、リアルタイムでの点検作業が可能です。
これにより、点検作業を行うために鉄道の運行を止める必要がなくなり、鉄道会社にとっては大きなコスト削減と運行効率の向上が期待できます。
このソリューションを日本全国にある線路に導入することができれば、当社の提供するドローンが活躍し、今後の成長エンジンとして大きな役割を果たすと考えています。
メイド・イン・ジャパンの海外展開
私たちは、2024年11月に韓国子会社を設立することを決めました。
韓国を皮切りに、まずは東アジア市場への本格的な進出を開始します。
韓国市場は、日本と同様にインフラの老朽化が進んでおり、点検に対する考え方も近しいものがあるため、受け入れられやすい市場だと認識しています。
また、韓国では、インフラの事故が発生した場合、経営者が法的責任を負うことがあり、特に建物やインフラ設備の安全性に対する意識が非常に高まっています。
私たちは、2年前から韓国でのPoC(Proof of Concept)を進めておりますが、既に多くの企業から興味を持たれています。
また、東南アジアにはヨーロッパやアメリカの企業が進出しており、大型の工場やインフラ施設が多く存在します。
これらの施設でも、私たちの技術が大いに活用される可能性があり、ドローンによる点検ソリューションの導入余地があると考えています。
日本市場における実績を積み上げながら、海外市場では「メイド・イン・ジャパン」としての信頼性を武器に成長を目指しています。
注目していただきたいポイント
当社がターゲットとしている領域がかなり特殊だということに注目していただきたいです。
原発や災害現場、産業界における点検などインフラと呼ばれる領域です。
そして、ソリューションの提供も一般的なドローンメーカーとは異なります。
ハードウェアであるドローンの機体そのものの開発・製造を手掛けるとともに、サービスに付加価値を生み出すためのソフトウェアの開発やデータ分析に至るまで包括的にアプローチし、まさにDXを推進しています。
そして、今後の当社への期待としては国家プロジェクトへの参画は大きなビジネスチャンスとなります。
数値的には、同業他社のように大きく赤字を計上して投資するというスタイルではなく、既に黒字が見えてきています。
ドローン事業が儲からないというイメージを払拭すべく、ドローン業界をリードしていく企業として、確かな業績をお見せしていきたいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
投資家の皆様には、私たちの成長ポテンシャルと、社会的意義のある事業に対するご支援をお願いしたいと考えています。
私たちがこれから注力していくインフラ業界には、国内に限らず、世界中で同様の課題があります。
当社はそのインフラを支えるビジネスに取り組んでいること、そして当社の成長が日本の安全を守り、将来を守ると考えています。
今後とも我々の活動にご注目いただき、応援していただければと存じます。
株式会社Liberaware
本社所在地:〒260-0013 千葉県千葉市中央区中央3-3-1 フジモト第⼀⽣命ビル6階
設立:2016年8⽉22⽇
資本金:20億円※資本剰余金含む(2024年7月31日時点)
上場市場:東証グロース市場(2024年7月29日上場)
証券コード:218A