※本コラムは2024年10月30日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社はてなは創業以来、当社は日本のUGC(User Generated Content)サービスの提供者としてあり続け、インターネットでのサービス開発・運用・運営を得意とする技術の会社です。
代表取締役社長の栗栖 義臣氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社はてなを一言で言うと
インターネットでのサービス開発・運用・運営を得意とする技術の会社です。
はてなの沿革
創業の経緯
当社は、2001年7月に現取締役である近藤が創業しました。
この年は、インターネットが広く普及し始めた時期でもあります。
近藤は、父親が検索エンジンをうまく活用できず、求めている情報にたどり着けない様子を見て、インターネットに不慣れな人でも簡単に情報を得られる方法が必要だと感じました。
そこで、質問やアンケートを通じて疑問や悩みを解決できるQ&Aサイト「人力検索はてな」を考案したのです。
これが当社設立のきっかけとなりました。
個人向け事業の収益化
当社が個人向けに提供していた「人力検索はてな」や「はてなダイアリー(現 はてなブログ)」は、その有用性の高さから徐々に閲覧数が増加していきました。
ただ、収益化の仕組みが整っておらず、ビジネスとしては成立しない状況が続きました。
そのため、創業当初は他社のシステム開発や運用の受託事業も行っていました。
そのような中、2003年末にGoogleがネットワーク広告サービス「Google AdSense」の提供を開始しました。
このサービスは、JavaScriptコードをページに貼るだけで、その内容に応じた最適な広告が表示されるという、当時としては画期的な仕組みでした。
当社もこのサービスを導入し、個人向けサービスの閲覧数が多かったことから、広告収益を得られるようになりました。
これを機に、創業当初から続けていた受託開発事業から、自社サービスの運用に集中する方針へと転換しました。
その結果、個人向け事業をさらに伸ばすことができ、2011年からは「はてなブログ」のβ版を開始するに至りました。
法人向けサービスへ拡大
「はてなブログ」や「はてなブックマーク」を中核に個人向けサービスを提供し、挑戦を続けてきましたが、収益化という意味では大きく成長を続けることができずにいました。
また、会社としての成長や上場を視野に入れていたこともあり、収益をしっかりと確保できる法人向けサービスを推進することが必要だと考え、2012年から法人向けサービスに注力していきました。
2012年には、任天堂様の「Miiverse(ミーバース)」の開発に協力し、2014年には法人向けのオウンドメディアCMSである「はてなブログMedia」、サーバー監視サービス「Mackerel(マカレル)」をリリースしました。
また、集英社様が運営するマンガ投稿サービス「少年ジャンプルーキー(現 ジャンプルーキー!)」をリリースするなど、法人向けのサービス開発に積極的に取り組みました。
その後も、当社が開発したマンガビューワ「GigaViewer for Web(ギガビューワ)」を出版業界に提供し、出版社のDX支援を推進するなど、インターネットサービスの開発や運用のノウハウを活かし、個人・法人向けにさまざまなサービスを提供しています。
はてなの事業概要と特徴
概要
当社は個人・法人向けに対して、多様な収益化手段を持っています。
主に「コンテンツプラットフォームサービス」「コンテンツマーケティングサービス」「テクノロジーソリューションサービス」の3つのカテゴリに分けて事業を展開しています。
まず、コンテンツプラットフォームサービスは、いわゆる個人向けのサービスで、「はてなブログ」や「はてなブックマーク」が代表的なサービスです。
自社運営のプラットフォーム上に広告を掲載し、広告収益を得るビジネスモデルです。
また、「はてなブログ」では個人向けの有料プラン「はてなブログPro」での課金収入も得ています。
次に、コンテンツマーケティングサービスでは、オウンドメディアを中心とした企業のコンテンツマーケティングを支援しています。
具体的には、法人向けオウンドメディアCMS「はてなブログMedia」を提供したり、メディアの戦略設計からコンテンツ制作までの包括的な支援にも取り組んでいます。
さらに、コンテンツが広く読まれるように、「はてなブックマーク」を活用した集客支援である、ネイティブ広告の販売も行っています。
システム利用料、戦略設計・コンテンツ制作費、「はてなブックマーク」での広告収入が、このサービスの収益源です。
最後に、テクノロジーソリューションサービスでは、自社サービスの開発・運用で培った技術を活かして、他社のインターネットサービスの開発・運用支援を行っています。
出版社向けのDX支援には勢いがあり、自社開発のマンガビューワ「GigaViewer」を提供し、マンガサイトの構築・運用をサポートしています。
また、任天堂様のゲームタイトル「スプラトゥーン3」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」のゲーム関連サービスの開発にも協力しています。
こうしたサービスの開発・運用費に加え、マンガサイトやアプリ上での広告の販売と運用、マンガ作品のレンタルや購入に伴うレベニューシェアも当社の収益源です。
また、2014年にリリースした「Mackerel」は、当社が培ってきたサーバー運用のノウハウをサービス化したもので、SaaSで提供しています。
事業における優位性
3サービス間のシナジーを今後の成長分野で積極活用
当社は、創業当初から個人向けサービスを開発し続け、直接エンドユーザーにさまざまなサービスを提供してきました。
そのため、インターネットサービスの開発や運用に関する豊富なノウハウを持っています。
そして、プログラミングのできるエンジニアだけでなく、使いやすいデザインを手掛けるデザイナー、ユーザーが快適にサービスを利用できる環境を整えるプランナーやディレクターが在籍しており、それぞれが高いスキルを持つチームを形成しています。
このような当社の強みは法人向けサービスの開発・提供に活かされており、単に「サービスを作って納品してください」といった要望に留まらず、運用面も含めて共にプロジェクトを進めていきたいと考える企業様との取引につながっています。
この横断的にサービス間でシナジーを創出できることが当社の強みだと考えています。
各事業における強み
コンテンツマーケティングサービスでは、「CMS」「制作」「拡散」の3要素全てに対応しているため、お客様のニーズに対してワンストップでソリューションを提供することが可能です。
これは他社との差別化をする上で、大きな強みとなっています。
そして、テクノロジーソリューションサービスでは自社プロダクトの「Mackerel」が手軽にサーバー監視を導入できるサービスとして広く利用されています。
「Mackerel」はサーバー監視部門だけでなく、開発チーム全体が一体となって利用できるような設計になっています。
つまり、サーバー監視専用の専門的なツールではなく、開発チーム全員が同じ画面でサーバーの状況を確認し、サービスの成長を見守ることができるサービスです。
これはもともと当社が自社で実践してきた運用スタイルを基にしたもので、分かりやすい操作性やコンセプトが高く評価されています。
また、出版業界における受託サービスを提供していることも当社の強みです。
たとえば、「GigaViewer for web」を開発した背景には、マンガが”どのように拡散されていくのか”に着目したことにあります。
SNSで面白いマンガが広まる際にはリンクが共有され、そのリンクからユーザーがアクセスして読まれることで、さらにその輪が広がっていきます。
もちろん当社がウェブ上のサービス開発に強い会社であったことも関係していますが、こうした情報の拡散力を活かせるウェブのマンガビューワの開発から始めたことがきっかけです。
そして、読者の「快適さ」を追求し、顧客企業に「導入しやすい」と感じていただけるようなサービスに仕上げています。
出版業界大手の集英社様やKADOKAWA様といったお客様からの受託案件を多く引き受けており、当社の技術力の高さや豊富なノウハウが評価されています。
はてなの成長戦略
出版社DX支援への注力
現在、「GigaViewer for web」としてウェブ向けに提供していたマンガビューワのサービスをアプリ版のマンガビューワ「GigaViewer for Apps」として提供を始めています。
当社のチームにはマンガ業界やマンガ閲覧に関する知識が豊富に蓄積されており、これを活かしたアプリ開発・運用を進めています。
収益面では、開発費と運用費に加え、レベニューシェアも行っているため、アプリ版のユーザー数が増えれば増えるほど、当社の収益も上がっていきます。
また、マンガの冒頭や最後に広告を表示することで収益を得る仕組みも取り入れており、安定したビジネスモデルとなっています。
現時点での導入事例はまだ2例のみですが、日本国内の大手マンガアプリである「ジャンプ+」で導入いただいていることから、今後も出版業界内で拡大していくことができると考えています。
新サービスのグロースとMackerelプロダクト転換推進
AIを活用した発話分析ソリューションサービス「toitta(トイッタ)」は、2024年7月26日にβ版公開し、同年10月10日に正式リリースをいたしました。
この新サービスのターゲット層はデザインリサーチやマーケティングリサーチなどを行っている方々です。
具体的には、ユーザーインタビューを通じて、新製品の開発や既存製品の改良に必要な情報を収集している企業が該当します。
従来はインタビュー内容を人力でまとめ、「このインタビューで、この人がこういう発言をしていた」といった情報を分類する作業に多くの手間がかかっていました。
当社自身も新規サービスを開発する際、さまざまなインタビューを実施し、それをまとめる作業に多くの手間とコストがかかっていたため、「この部分を効率化するサービスがあれば良いのでは」と感じたのがきっかけです。
「toitta」を使うと、インタビュー動画をアップロードするだけで、誰が何を話したかが自動で文字起こしされ、発言内容がタイムスタンプごとに分類・グルーピングされるため、その後の分析の工数を大幅に削減することができるようになります。
このサービスはマーケティングチームや新規事業を考える企業でのニーズが高いと考えており、成長が期待できるプロダクトです。
また、「Mackerel」はこれまでのサーバー監視サービスから、OpenTelemetry(オープンテレメトリー)に準拠したサービスへと転換を図ります。
OpenTelemetryは今後の業界標準として定着していく規格であるため、情報を他のサービスと連携するAPI連携が容易になります。
また、OpenTelemetryの規格でサービスを利用しているユーザーにとっても導入しやすいツールになるため、さらなる成長を期待しています。
技術開発投資によるサービスの進化
既存のサービスをさらに便利にするために生成AIを導入しています。
「toitta」も生成AIを活用したサービスですし、2024年7月から「はてなブログMedia」でも、記事制作のアイデア出しや構成作り、本文作成の部分で生成AIを利用できるようになりました。
このように、生成AIを活用した新サービスの開発だけでなく、既存サービスに対して生成AIを掛け合わせることでサービス品質の向上を目指し、利用者の満足度を高める取り組みを進めていきます。
注目していただきたいポイント
当初は「はてなブログ」や「はてなブックマーク」といった個人向けのサービスを多く扱ってきたため、BtoCの企業だとご認識していただいている方も多いと思います。
しかし、現在では法人向けにも高い評価をいただいているサービスも増えてきました。
個人向けのサービスで培ったノウハウや開発力、技術力を活かし、法人向けにも質の高いサービスを提供することで安定した収益を上げています。
また、当社のお客様は各分野で革新的なサービスに挑戦している企業ばかりで、KADOKAWA様のWeb小説サイト「カクヨム」や、集英社様の「ジャンプルーキー!」「少年ジャンプ+」などがその代表的なサービスです。
こうした新たな挑戦に当社がパートナーとして選んでいただけているのは、当社の技術力やサービス品質が評価されているからだと感じています。
当社が個人向けのみならず、法人向けにもしっかりと価値あるサービスを提供し、安定した収益を確保していることにご注目ください。
投資家の皆様へメッセージ
当社の売上や利益の規模はまだそれほど大きくありませんが、これから拡大していく成長市場で事業に取り組んでいます。
特にIT領域での生成AIやWeb3など新しい技術を中心として、世の中に大きな変化が起きています。
そうした中で、当社は安定した収益基盤を築きつつ、新たな分野にも積極的に挑戦していく企業です。
この挑戦が、将来の大きな成長につながると確信しておりますので、ぜひともご支援をいただけると幸いです。
株式会社はてな
本社所在地:〒107-0062 東京都港区南青山6-5-55 青山サンライトビル3F
設立:2001年7月19日
資本金:249,567千円(2024年10月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2016年2月24日上場)
証券コード:3930