※本コラムは2024年11月26日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社ソディックは、数値制御(NC)放電加工機メーカーの先駆者であり、1976年の創業以来、放電加工制御の研究、NC装置開発などにより加工精度を飛躍的に向上させ、世界中のものづくりに貢献している企業です。
代表取締役の古川 健一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社ソディックを一言で言うと
お客様の解決困難な課題に対して真摯に向き合って、自社の技術で解決し、世界のお客様の”世界最高峰1“のものづくりのお手伝いに貢献し、お客様との信頼関係を築くトータル・マニュファクチャリング・ソリューション・カンパニーです。
お客様のものづくりに貢献するため、常に社是である「創造」「実行」「苦労・克服」を実践することで、放電加工機だけでなく高精度なハイスピードマシニングセンター、独自技術のVライン方式を活かした射出成形機、さらに製麺装置を中心とした自動食品機械などの製造販売を行ってまいりました。
さらに、それらの製品の重要な基幹部品である高速高性能NC装置、リニアモーターおよびその制御装置などを自社技術で生産しており、他社に例を見ないほど高い内製化率を実現しています。
ソディックの沿革
創業の経緯
もともとは金型を加工する放電加工機の開発がきっかけで、創業者であり私の父である古川利彦が1976年に当社を設立しました。
当初の放電加工機は旧ソ連の技術がベースになっていましたが、それを国産化するために国内電機メーカーなどが研究を始め、昭和30年代(1955年〜)に工作機械メーカーのJAPAX社が設立されました。
JAPAX社で研究開発部門に勤めていた古川利彦は、世界初となる 「電極無消耗2トランジスタ電源」の開発に成功しました。
またその後、加工物の側面を寸法通りに高精度で加工できる「ローラン加工方法3」を開発し、これは金型加工の世界を大きく変える技術となり広く普及していきました。
その後、オイルショックの影響でJAPAX社が国内製造をやめ、開発に特化する方針を打ち出したため、古川利彦含む創業メンバーがJAPAX社よりスピンアウトして当社を設立するに至ったのです。
その後、世界初のNC放電加工機を開発し、この製品は今でも続く当社の競争力の源泉となっています。
海外への展開
当社の海外展開の背景には、ニクソンショック以降の円高進行がありました。
当時、競合他社は大規模な工場を持ち、資金力も豊富でした。
そのような状況下で大手競合会社と競争していくためには、国内生産拡大ではなく海外での生産が有効と考え、海外生産のリスクを取ることを決断し、1988年に当社初の海外生産拠点となるSodick Thailandをタイ国に設立し、海外生産をスタートしました。
タイは政治的にも安定しており、国民性も日本人との親和性が高く、真面目であったため順調に稼働し、2000年代に入る頃にはタイ工場が当社の工作機械の主力工場となりました。
また、1991年からの中国への進出は当社にとって更に大きな転機でした。
JAPAX社時代からの中国での人的ネットワークを活用し、優れた合弁先を見つけるなど、中国の来るべき需要拡大に備えることができました。
1994年から2006年の間には中国の蘇州や廈門に工場を設け、地産地消で中国市場のニーズに合わせた放電加工機の製造販売を行い中国市場でのプレゼンスを高めることに成功し、中国で圧倒的なシェアを獲得しました。
安定した事業ポートフォリオの構築
2008年のリーマンショック以前は分社化を進め、スピード感のある連邦経営を実践してきましたが、個社重視の部分最適が進みすぎ、事業規模は拡大した反面、収益性は低下していました。
そのような状況下でリーマンショックが起き、これを機に大幅な経営方針の見直しを行い、連邦経営型から本社主導の全体最適を目指す中央集権型の経営スタイルへと切り替えを図りました。
また、この過程で幾つかの子会社を整理しました。
さらに、当社の主力である工作機械事業や産業機械事業は設備投資動向と密接に連動しているため、数年周期で業績変動が生じる課題がありました。
変動の波は大きく、ピーク時の3割程度にまで受注が落ち込むこともありました。
当社の景気変動リスクを緩和するために、2007年に食品機械会社の買収により食品機械事業へ参入し、食品機械事業を当社の事業ポートフォリオに加えました。
工作機械で培った技術や品質管理のノウハウは、食品機械でも活かすことができ、シナジーがあると考えたのです。
実際、食品機械事業への参入後にリーマンショックが発生した際には、工作機械事業が打撃を受けましたが、食品機械事業の落ち込みは軽度で済んだため全社売上の一部を支え、全社業績のボラティリティを抑えることができました。
現在、製麺機とパックご飯製造装置(無菌包装米飯製造装置)が食品機械事業の柱となっています。
以前は、国内市場が中心でしたが、現在、中国、韓国、インド等アジアを中心とした海外展開を拡大させています。
また、新たに惣菜、製菓等の装置領域も拡大し、今後、総合食品機械メーカーへと進化を遂げていきたいと思っています。
構造改革を開始
1990年代以降、中国では、「世界の工場」として、金型生産も中国への集中が進み、1994年に中国蘇州、2006年に厦門に工場を設立し、中国の旺盛な生産需要に対応し、売上拡大につなげてきました。
当社の中国での地産地消を前提としたビジネスモデルは、円高の為替影響を回避でき、奏功しました。
しかし、2010年代後半辺りから米中貿易摩擦、コロナ禍、不動産不況等が発生し、中国での金型生産含めた鉱工業生産の低迷、経済成長鈍化の傾向が表れてきました。
更に、2022年頃から急速に円安が進行し、海外輸出で円安メリットを享受する日系工作機械メーカーとの現地での価格競争が激化し、当社の業績に影響が出てきました。
このように外部環境が大幅に変化したことを踏まえ、従来の円高や中国での地産地消を前提とした当社のビジネスモデルを転換させる必要性を認識し、中国での生産能力の適正化に着手し、中国蘇州工場の生産を大幅に縮小し、厦門工場に集約することでコストの最適化を図りました。
今後、蘇州工場は、中国の主に華北や華東地域のお客様向けのサービス、自動化提案を軸としたテックセンターとして活用していく方針です。
グローバル生産体制の見直しで、国内工場(石川県加賀市)の生産を強化し、為替動向によってグローバルに日本、中国、タイ工場間でフレキシブルに生産量を調整し、為替メリットを享受できる体制を目指しています。
また、2023年から機能別組織から事業別組織へと変更するなどの組織上の構造改革にも着手しました。
従前の中長期経営計画を取り下げ、2024年2月には新中期経営計画を発表し、ビジネスモデルの変革、収益構造及び経営体制の抜本的改革を含めた構造改革推進を提唱しました。
四半期ごとの営業利益は2023年2Q以降赤字が続きましたが、構造改革を進め、海外工場の生産の集約化を進め、生産効率を上げた結果、売上総利益率が上昇し、2024年2Qより営業利益は黒字に転換しました。
ソディックの事業概要と特徴
概要
当社は4つのセグメントで事業を展開しています。
まず、工作機械事業では放電加工機、マシニングセンタ、金属3Dプリンタ、レーザー加工機などの開発・製造・販売を行っています。
自動車、IT、スマートフォン、電気・電子部品、航空宇宙、医療機器業界などの主に精密な金型を製造する際に使用されています。
次に、産業機械事業では射出成形機を展開しており、成形品は光コネクタ、電子部品、レンズ等であり、自動車、半導体、医療機器など成長分野の精密部品、製品として活用されています。
そして、食品機械事業では製麺機や無菌包装米飯製造装置など、600機種以上の製品ラインアップがあります。
製麺機については、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売される調理麺、生麺、冷凍麺の製造、外食チェーン店でご使用いただいています。
最後に、その他事業ですが、精密コネクタ等の受託生産を行う金型成形事業とリニアモータやセラミックス製品、LED照明等の販売を行う要素技術事業などを取り扱っております。
事業における優位性
優れた研究開発力、高い内製化率
当社は製造に関わるプロセスの多くを内製化し、部品やユニット単位から自社で製造することで高性能な製品開発を実現しています。
また、早くからグローバルな視点に立ち、各地域の特性を見据え、製品の性能や品質にこだわった研究開発をしています。
たとえば内製化している分野の一例として、NC装置、電源、リニアモータ、大型セラミックスの製造などがあります。
1990年代には1mあたり1μm真直度のセラミックス部品を製造できるようになりました。
これらの部品は当社の製品に採用されるだけでなく、半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ製造装置向けなどにも外販しています。
このような当社の優れた研究開発力は競争力の源泉となっています。
グローバル展開(3極体制での開発推進)
当社グループでは、本社/技術研修センター(横浜)を中心に据え、本社で放電加工機、マシニングセンタ、射出成形機の基礎技術となる精密機械技術の開発、Sodick America Corporation(米国カリフォルニア州)でモーションコントローラーの開発、Shanghai Sodick Software Co., Ltd.(中国上海)にてソフトウェア開発をグローバルで分担し、研究開発を推進しています。
日本の各事業部の研究開発部門との協力の下、世界3極体制により最新のNC制御装置の研究開発を行っています。
また、グローバルで6か所の生産拠点、16か所の販売・サービス拠点を設け、各地域の市場動向を的確に捉え、お客様の需要に迅速に対応できる体制を整えています。
トータル・マニュファクチャリング・ソリューションの推進
当社は、設計から成形までを一貫して対応できる体制を持つことで、お客様が抱える解決困難な課題に対し、トータル・マニュファクチャリング・ソリューションの提供を推進しています。
例えば、成形品で不良品が発生したとします。
このような場合、金型に問題があるのか、成形機の条件に原因があるのかを特定するのは難しく、金型と成形機の両方に問題があるケースも少なくありません。
そのため、どちらか一方のみに対処するだけでは根本的な解決には至らないことがあります。
一方、当社では、金型の設計・製造から成形機による部品製造に至るビジネス・チェーンを有しておりますので、すべての工程をふまえた対応策の検討、解決策の提案が可能です。
この一貫体制により、原因究明から課題解決までをスムーズに進めることができ、お客様に最適なソリューションを提供できます。
このため、当社には「こんなことできないか」「こんな機械をつくれないか」といった要望が多くのお客様から寄せられます。
このようなお客様との継続的なトータル・ソリューションを介した繋がりが、昨年9月に発表したリニアモータ駆動 フェムト秒レーザ加工機の開発などにも繋がっています。
ソディックの成長戦略
新興国および新製品分野への取り組み強化
当社は構造改革の基本方針として、「中国依存からの脱却」「選択と集中」「生産・販売体制の再構築」「バランスシートの改善」の4つの柱を掲げています。
中国における生産の最適化への取組については既に述べましたが、かつては工作機械事業の4割以上、現在は3割程度を中国で占めています。
一時的な需要回復は見られるものの、米中間の緊張が続く昨今の状況下、当社の売上構成における中国依存度の高さが投資家の方に一定の不安要素を与える可能性を認識しています。
中国は依然として金型産業の最大市場であり、一定の需要とお客様がいらっしゃる中で、脱中国依存とは欧米地域でのシェアーアップを進め結果的に中国依存度を低減することを意図しています。
また、中国に替わる成長地域の候補としてメキシコやインドへの事業展開を進めています。
特にインドでは、近々テックセンターを立ち上げる予定であり、建設予定地の確保も完了しています。
インド市場は現在、成長が緩やかですが、将来的には毎年10〜20%の急激な成長が見込まれており、戦略的な拠点として注力していきます。
また、2023年にはメキシコに現地法人を設立し、中南米市場での事業拡大を進めています。
一方で、日本および欧米地域では、従来の金型産業に加えて、航空宇宙、エネルギー、医療機器、半導体といった成長市場にも注力し、これらの産業のニーズに合致した製品群の研究開発を推進することで高付加価値商品を生み出し、更なる収益性の向上を目指しています。
このように、中国依存の比率を減らしつつ、インドやメキシコをはじめとする新興市場での成長を図り、日本および欧米市場で高付加価値商品分野へのシフトを進めることで、当社の売上構成の転換を計画的に図っていきます。
加えて、戦略投資に関しては、中期経営計画で示したキャッシュ・アロケーション計画に則り成長分野への資本配分を積極的に実施していきます。
2024年4月にPrima Additive 社(イタリア金属3Dプリンタ製造企業)と資本業務提携を開始しました。
その他、事業基盤の強化、成長分野での事業機会獲得のため、複数の戦略投資機会を継続的に検討しています。
注目していただきたいポイント
当社は、まさに「縁の下の力持ち」のような存在で、工作機械という比較的目立たない業種にいながらも、実際には、半導体、IT,スマホ、航空宇宙部品、医療機器といった現在の最先端の産業分野、商品を製造する様々な世界のトップ企業に当社製品や技術が採用され、製造現場で活用されています。
この点で、『世界のモノづくり』を支える存在だと自負しています。
お客様との長年の信頼感を支えているのが、当社の高い技術力とグローバルな展開力です。
2023年は14期ぶりに赤字となりましたが、2024年は黒字転換を実現しました。
今後も構造改革を着実に進め、次なる成長ステージに向けて挑戦を続けてまいります。
ぜひ、今後の当社の成長にご期待ください。
投資家の皆様へメッセージ
現在、PBRが1倍を下回る状況ではありますが、これを改善するための具体的な対策を着実に進めています。
ただし、その成果が目に見える形で表れるまでには、一定の時間が必要です。
2024年に策定した3カ年の中期経営計画を着実に実行し、目標を達成することで、数字として成果を示し、皆様からの信頼を取り戻せると信じています。
当社は、お客様のニーズやご要望に真摯に向き合い、最先端のものづくりを追求しています。
また、「創造」「実行」「苦労・克服」という社名の由来に込められた精神を大切にしながら、お客様と共に成長し、Win-Winの関係を築いていくことを目指しています。
投資家の皆様には、当社の取り組みをご理解いただき、温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
株式会社ソディック
本社所在地:〒224-8522 神奈川県横浜市都筑区仲町台3-12-1
設立:1976年8月3日(創業:1971年2月)
資本金:246億18百万円(2024年12月アクセス時点)
上場市場:東証プライム市場(1986年2月19日上場)
証券コード:6143