※本コラムは2024年12月6日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社アスアは物流業界が直面する大変革期に、人とデジタルの力を活用して課題を解決し、「明日の未来を開く」会社です。
代表取締役社長の間地 寛氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社アスアを一言で言うと
「明日の未来を開く」会社です。
アスアの沿革
創業の経緯
当社は、1994年に私が創業し、当初はガス漏れ警報器の取り付け業務を主な事業としてスタートしました。
その後、電話回線を接続し、24時間体制で管理を行う「ステーション24」というサービスの提供を開始したことで、電話工事の仕事にも携わるようになりました。
当時、NTTの改革が進み、新しい電話事業者が次々と誕生するなど、通信業界は大きな変革期を迎えていました。
こうした時代の潮流とともに、当社はガス漏れ警報器の取り付け業務から通信関連業務へとシフトし、これが創業当初の第一幕と言える時期でした。
物流業界との出会いと物流コンサルティング事業への転換
通信事業を着実に拡大していた当社でしたが、当時の営業スタイルは、現行の電話料金を確認し、「新しい回線に変更すれば料金が安くなります」と提案する飛び込み営業が中心でした。
そのような中、運送会社が多く集まる地域で営業を行う機会がありました。
運送会社の方々からは、「通信費の削減も助かるが、それ以上に燃料費の高騰に悩んでいる」という声を数多くいただきました。
そこで、当社は燃料費削減に役立つ商品を探し始めました。
名古屋の研究所と協力し、特許技術を活用して燃費向上を実現するセラミックス製品を開発しました。
この製品を燃料タンクに入れることで燃費が改善するという画期的なものでした。
最初のお客様はトヨタ自動車の某工場で、大きな効果が確認され、結果として、この製品は他の工場や運送会社にも広がり、最終的には約5,000台の車両に導入されました。
具体的には、燃費が平均15%改善されるという結果が出ており、例えば長距離運行で月間燃料費が約40万円かかる場合、15%削減により約6万円の節約が可能でした。
運送会社が100台の車両を保有している場合、月に約600万円、年間で約7,200万円の経費削減が期待できたのです。この製品は月額5,000円のレンタル形式で提供していたため、事業は急速に拡大しました。
ところが、あるメーカーからエビデンスの提示を求められ、試験を行った結果、このセラミックスには実際には効果がないことが判明しました。
そのため、全商品を回収する事態となり、お客様に多大なご迷惑をおかけする結果となりました。
では、なぜ1,000台以上の車両で燃費が改善したのかという疑問が残りました。
その理由は、ドライバーの皆様が燃費改善日記を記録し、それを当社が見やすい形でフィードバックしていたことが関係していました。
さらに、「セラミックスが入っているのだから燃費が良くなる」という意識が生まれ、空ぶかしを控えたり燃費に悪影響を与える運転を避けるようになったことが大きな要因でした。
この経験から、燃費の「可視化」と定期的な「コミュニケーション」がドライバーの意識を変え、結果として燃費改善に繋がることを学びました。
当社はこの知見をもとに燃費評価の仕組みを確立し、それをビジネスモデルとして特許を取得しました。
この経験が、現在の物流コンサルティング事業へと繋がっています。
外部からの高い評価とCRMイノベーション事業への展開
当社は、物流業界における安全対策を支援するアウトソーシング業務を受託しており、これまでに培ったノウハウは外部から非常に高い評価を受けています。
たとえば、早稲田大学との共同研究では、「燃費が向上すると事故が減る」という内容の論文を作成し、燃費の良い運転と事故の少ない運転に強い相関があることを明らかにしました。
この研究成果を基に、自動車技術会で発表した論文「エコドライブ活動による燃費向上と事故低減」は大きな反響を呼び、その後、国土交通省、経済産業省、環境省のプロジェクトに参画する機会を得ました。
また、トラック協会の事業を受託するなど、運送会社向けコンサルティング事業の展開が加速しました。
さらに、この論文は国内外で高く評価され、ニューヨークの国連本部で開催されたエコドライブカンファレンスにて発表することになりました。
この国連での発表をきっかけにトヨタ自動車からの依頼を受け、同社が提供するコネクティッドカーデータを活用し、ドライバーの行動変容を促す取り組みが始まり、現在もこの取り組みに力を入れています。
こうした活動を通じて、当社は現在「CRMイノベーション事業」にも展開を広げ、物流業界を超えたさまざまな業界において新たな価値を提供しています。
「2024年問題」と上場
私たちが2024年に上場した背景には、物流業界が抱える「2024年問題」が深く関係しています。
「2024年問題」とは、労働時間に制限が設けられることで運送業務に必要な労働力が減少し、物流が滞ってしまうという業界全体が直面している問題です。
この問題は2024年にすべて解決するものではなく、むしろ2024年をきっかけに物流業界が大変革していく、という大きな節目となっています。
こうした大変革期において、運送会社の皆さまに対する認知度を高め、より多くの運送事業者に貢献できる存在になりたいという目標を達成するためにも、節目であるこの年に上場を目指しました。
もう一つの目的は、当社が展開するコンサルティング事業における優秀な人材の採用です。
近年、人材の確保がますます厳しくなっていることを私たちは実感していますが、上場を通じて当社の信頼性や魅力を高め、優秀な人材を採用しやすい環境を整えたいと考えています。
アスアの事業概要と特徴
概要
物流・通信・IoTの総合コンサルティング企業として、物流コンサルティング事業・CRMイノベーション事業・通信ネットワークソリューション事業の3つのセグメントで展開しています。
物流コンサルティング事業では、実際に現場に訪問して行う「現場のコンサルテーション」、いわゆる安全対策のアウトソーシングを実施する部隊が中核を担っています。
この取り組みを当社では「TRYESサポート」と呼んでおり、これがメイン事業です。
そして、そこから派生した形で、コンサルティングで使用している教材をオンライン上でダウンロードして使用できる「TRYESレポート」というサービスも展開しています。
また、CRMイノベーション事業は企業のCRMツールやコネクティッド製品の運用で蓄積されるデータを活用し、CRMシステムを通じて顧客との関係性維持や行動の習慣化を支援しています。
主なお客様は自動車ディーラーや保険会社などで、さまざまなサポートを行っています。
最後に祖業である通信ネットワークソリューションでは、愛知県のお客様を中心にビジネスフォンやネットワーク機器を提供しています。
事業における優位性
安全対策研修の特徴と「TRYESサポート」の取り組み
安全対策研修といえば、多くの講師が「安全に運転しましょう」と話す一般的な研修スタイルを思い浮かべるかもしれません。
しかし、そうした形式では、ドライバーの皆さんが本気で取り組む意欲を持つことは難しいのが現実です。
そこで当社が提供する「TRYESサポート」では、小集団ミーティング形式を採用しています。
この形式では、1回30分程度のミーティングを5〜7名ほどの少人数で、複数回に分けて実施します。
大人数を対象にした研修では、話が流されがちですが、この少人数かつ短時間で密度の濃いミーティング形式により、内容がしっかりと伝わり、深い議論が可能になります。
さらに、このミーティングでは私たちからの一方的な講義ではなく、ドライバーの方々の悩みや困りごとを徹底的にヒアリングすることを重視しています。
ドライバーの皆さんにはさまざまな課題がありますが、それを共有し改善策を見つけるプロセスを通じて、初めて私たちの提案に耳を傾けてもらえるようになります。
このように、ドライバーの皆さんとのコミュニケーションを徹底し、安全対策やエコドライブ、燃費の良い運転を実践する仲間を少しずつ増やしていくのが当社のミーティングの特徴です。
こうした取り組みは非常に手間がかかり、骨の折れる仕事ですが、大きなやりがいも感じられる業務です。
また、ドライバーの勤務時間が24時間体制になることも多いため、こうした方々に対応できる体制も整えています。
ただし、特に慣れないうちはコンサルタントにとって負担の大きい業務でもあります。
一部のドライバーには、「話を聞いてくれない」「座ってもらえない」「途中で帰ってしまう」といったケースもありますが、私たちが真剣に向き合えば、多くの方が理解を深め、積極的に取り組んでくれるようになります。
こうした現場経験を基に、当社ではコンサルタントを育成するための教育プログラムを長年かけて構築してきました。
このプログラムにより、適性のあるメンバーであれば半年程度で独り立ちできるようになります。
解約率の低さと「TRYESサポート」と「TRYESレポート」の循環モデル
当社が提供するコンサルティング事業「TRYESサポート」は、利用企業(業者)の解約率が非常に低いことが特徴です。
ただし、車両が50台程度の規模の場合、年間で約300万円の費用がかかるため、一部の企業では「自社で管理者を育成しよう」という選択をするケースもありますが、管理者一人分の人件費を考えるとリーズナブルな設定になっています
また、「TRYESサポート」の目標は、当初は毎月訪問してサポートを行い、徐々に訪問回数を減らし、最終的には訪問なしでも企業内でサポート体制が定着していくというもので、各企業が独り立ちできるサポートを行っています。
ただし、教育用の教材が無ければ内製化は実現できないため、当社では「TRYESレポート」という教材サービスを提供しています。
この教材は、企業が独自で運用を進めるためのサポートツールとして活用され、内製化を目指す企業にとって非常に効果的な教材となっています。
一方、自社での運用を始めた企業では、管理者の離職率が高く、運用が難しくなることがあります。
この場合、「またサポートに来てほしい」という依頼をいただくことも多く、再び「TRYESサポート」を提供する形になります。
このようにして、一度繋がりができたお客様とは「TRYESサポート」と「TRYESレポート」が循環する仕組みを通じて、長期的にサポートできる体制を構築しています。
このモデルによって、解約率は非常に低く、安定した長期取引が実現しています。
また、「TRYESレポート」は月額1万円程度の費用でオンラインにて提供しており、訪問が不要な分、非常に高い利益率を誇ります。
この教材をフロントエンドとして提供し、さらに高度な教育を希望するお客様には「TRYESサポート」を提案し、現場での研修を行うという仕組みで新規顧客を増やしています。
この仕組みにより、コスト効率と顧客満足度を両立しつつ、企業の安全対策や運営体制の改善に長期的な貢献を果たしています。
CRMイノベーション事業の特徴と強み
当社のCRMイノベーション事業は、トヨタ自動車のコネクティッドカー(つながるクルマ)から生まれたコネクティッドデータの解析からスタートしました。
コネクティッドデータをもとに、運転の癖を分析し、どの点を改善すればより良い運転や燃費向上につながるかをサポートメッセージとして配信する仕組みを開発しています。
さらに、現在では、あいおいニッセイ同和損保が提供する「つながる自動車保険」のサービスにも関わっています。
この保険は、通常の保険と異なり、事故がなかった場合の年間割引に加え、運転スコアに応じて翌月の保険料が変動する仕組みです。
顧客には運転スコアを上げるための具体的なフィードバックが提供されます。
たとえば、「あなたの場合はこの点を改善するとスコアが上がり、燃費が良くなります」といったアドバイスを通じて、顧客の運転改善をサポートしています。
この仕組みは、自分では気づきにくい運転の特徴を可視化し、顧客のエンゲージメント向上に大きく寄与しています。
また、燃費管理の分野では、当社が運営する「ReCoo(レクー)」という燃費管理サイトを通じて、効率的な燃費データの収集と管理を支援しています。
さらに、ディーラーが直面する人手不足の課題解決に向けて、「AI整備見積りシステム」なども提供しており、各企業の業務効率化に貢献しています。
このように、業界特有の課題を解決するため、当社では独自のシステムを多数開発・提供しています。
アスアの成長戦略
2024年問題への対処
現在、物流業界では「2024年問題」が大きなテーマとなっていますが、この問題が、なぜ私たちのサービスにとって追い風となっているのかご説明いたします。
先ほどもお話ししましたが2024年問題に伴い、運送会社は人手不足、つまりドライバー不足に悩んでおり、その解決には時間短縮を目指した効率化が必要です。
具体的には、荷主への効率的な配送提案、値上げ交渉、配送ルートの変更など、さまざまな対策を講じる必要があります。
しかし、このような状況では、安全対策は優先順位の低いものとして見なされ、重要性が認識されていても後回しにされる傾向があります。
安全対策は即座に効果が現れるものではないため、短期的な課題に押されてしまうのです。
そこで、当社が長年にわたって培ってきた専門知識やノウハウが重要な役割を果たすと考えています。
TRYESサポートの更なる拡大
当初、当社のお客様は車両100台以下の中小企業が中心でしたが、現在では100台以上を保有する中堅物流会社からの契約も増加しており、問い合わせも順調に拡大しています。
かつては「安全対策を外部に委託するのは運送会社の魂を売るようなものだ」という考えを持つ経営者も少なくありませんでした。
しかし、近年ではその意識が変わりつつあり、外部の専門家による支援の有用性が広く認識されるようになっています。
こうした背景を踏まえ、当社では大手物流企業への営業展開を強化しています。
大手企業と契約することで、その傘下にある協力会社へのサービス導入が一気に拡大するため、効率的な事業展開が可能です。
こうした大手企業との契約を通じて、サービスの導入をさらに加速させていきたいと考えています。
運送業界全体における安全対策の取り組みは、地域ごとの特性が大きく異なるわけではなく、大手企業であっても営業所ごとに抱える課題は、50台程度の車両を持つ中小企業とほぼ共通しています。
多くの大手企業では、教育体制が整備されているものの、すべての拠点に優秀な管理者を配置することは難しく、一部の拠点で問題が発生することがあります。
このような場合、当社は特に困っている拠点を重点的にサポートする形で契約を進めています。
拠点ごとの契約を行うことで、無理のない事業展開が可能となり、着実に契約数を増やしています。
現在、当社は1,300社以上の顧客を有していますが、将来的にはこの数を2万社にまで拡大することを目標としています。
TRYESレポートの普及拡大
当社の営業戦略では、エリアごとに戦略的な営業活動を展開し、契約数が増加してきたタイミングで、既存のお客様から同業他社をご紹介いただく手法を取り入れています。
運送業界は企業間の横のつながりが非常に強い業界であり、このような紹介営業は極めて有効な手法です。
当社と運送会社との契約は、まず「TRYESレポート」から始まるケースが圧倒的に多いです。
たとえ「TRYESサポート」をご契約いただく場合でも、基本的にはTRYESレポートとのセット契約が主流となっています。
そのため、TRYESレポートは当社のフロントエンドサービスとして位置づけています。
現在、TRYESレポートは月に約20件前後の新規契約を獲得しており、そのうち一部のお客様がTRYESサポートとのセット契約へと進むケースもあります。
TRYESレポートは手軽に導入できる点が評価されており、これを活用して新規顧客開拓を積極的に進めることが可能です。
今後も、TRYESレポートを軸にしながら、新規顧客へのアプローチを強化し、多くの運送会社に安全対策や効率化の重要性を広めていきたいと考えています。
CRMイノベーション事業のモビリティ領域での更なる拡大
2024年問題を受けて改定された「物流二法」の一環として、「流通業務の統合化及び効率化に関する法律」(通称「物効法」)が制定されました。
この法律では、「荷物が運べないなら積載率を向上させましょう」という目標が掲げられています。
現在、国内の平均積載率は約39%とされ、大半のスペースが無駄になっているため、この積載率を44%まで向上させることが目標とされています。
これにより、2024年問題で定められた年間労働時間960時間の制限があっても、効率的な物流が可能になるはずです。
しかし、積載率を把握することは現在の技術では困難です。
たとえば、食品のように規定サイズのダンボールに収められた荷物であれば、縦横高さを計算して積み上げることで積載率を効率的に計測がしやすいですが、自動車部品の場合、タイヤ、バッテリー、ドラム缶、バンパー、トランスミッションなど形状やサイズが異なる多様な品目を扱うため、同じ方法で積載率を計測できません。
こうした課題を解決するために、当社では伝票データと車両データを組み合わせ、積載率を可視化する仕組みを開発しました。
このシステムにより、積載率を正確に把握できるようになり、感覚や目視に頼ることなく効率化を実現できるため、今後の業界全体のホットな話題になると期待しています。
現在、この仕組みはPoCを経て成功を収めており、さらなる普及拡大の段階にあります。
注目していただきたいポイント
当社は、「粘り強く、危機に強い会社」だと自負しています。
先ほど触れたセラミックス製品の失敗からのコンサルティング事業への事業転換もその一例ですが、現在展開している「TRYESレポート」もまた、危機を機に生まれたサービスです。
当社のコンサルティング事業は従来、現場に赴き、ドライバーの方々と膝を突き合わせたミーティングを主軸としていたため、コロナ禍においては「現場に来ないでほしい」と言われることが増えてしまい、売上は激減しました。
その中で、私たちは自社の強みを再考し、20年以上にわたる活動で蓄積してきた1,000以上の教育教材の存在に改めて気づきました。
これらの教材にアップデートをかけ、ウェブ上で展開可能なサービスとして形にしたのが「TRYESレポート」です。
試行錯誤の連続でしたが、徐々に手応えを感じており、現在では当社の成長を支える柱となっています。
危機の中で培ったこの力を基に、今後もお客様に貢献し続ける会社として認識していただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
私たちのサービスは急激に成長するような事業ではありませんが、着実に伸びています。
そして、顧客解約率が非常に低い、いわばストック型のビジネスです。
短期的には目立った成長が見えにくいかもしれませんが、長期的には安定した収益を積み上げていくことができます。
ぜひ私たちのサービスをしっかりとご理解いただき、長い目線で応援していただけると嬉しいです。
株式会社アスア
本社所在地:〒453-0804 愛知県名古屋市中村区黄金通一丁目11番地
設立:1994年7月15日
資本金:180,760千円(2024年9月末時点)
上場市場:東証グロース市場、名証ネクスト市場(2024年9月26日上場)
証券コード:246A