【6810】マクセル株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。

マクセル株式会社は、独自のアナログコア技術を活かし、独創技術のイノベーション追求を通じて持続可能な社会になくてはならない企業をめざしています。

代表取締役 取締役社長の中村 啓次氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

マクセル株式会社を一言で言うと

独自のアナログコア技術を活かし、独創的な製品と技術で社会に貢献していく会社です。 

マクセルの沿革

マクセル株式会社 代表取締役 取締役社長 中村 啓次氏

創業の経緯

当社は、もともと日東電工の一事業としてスタートし、その後分離独立して1960年に設立されました。

創業当初は乾電池や磁気テープの開発を進め、時代のニーズに応える製品を提供してきました。

当時、小型電気機器の技術が急速に進化し、それまでコードが必要だった製品が乾電池で駆動可能になるなど、携帯性が向上したことで乾電池の需要が急増しました。

たとえば、トランジスタラジオや電気シェーバーなど、乾電池を動力源とする製品が次々と普及したことで、電池事業が拡大したほか、高品質で手軽に録音できるカセットテープが開発され、需要の高まりとともに磁気テープ事業も成長していきました。

この創業時より培われたのが、素材をより均一に「まぜる」技術や薄くより均一に「ぬる」技術、成形などの「かためる」技術という「アナログコア技術」です。

記録メディアを中心に成長

このように、当社は乾電池を基盤に事業を展開し、その後も安定した成長を遂げてきました。

そして、1980年代に入ると、カセットテープやビデオテープといった記録メディアが新たな主力事業となり、次第に乾電池を上回る規模に成長しました。

特に1980年代から1990年代にかけて、「マクセルといえばカセットテープ」というイメージが強く定着しました。

その後、記録メディアは音楽から映像へと移り変わり、ビデオテープが主流となりました。

また、当社はフロッピーディスクやCD、DVDといった

ディスク分野でも高いシェアを誇り、記録メディア市場において重要な地位を築きました。

こうして、1990年代から2000年代初頭にかけては、記録メディアの開発・製造を事業の中心に据え、成長を続けてきました。

再上場と構造改革

記録メディアを中心に成長を続けてきた当社ですが、技術革新が進むにつれ、新しい世代の製品への入れ換えが進みました。

5インチや3.5インチのフロッピーディスクは、徐々にMOディスクやハードディスクに移り変わり、2000年代後半には記録メディア事業が厳しい局面を迎えることとなりました。

当社は創業から数年後に日立製作所の傘下に入って以来、長らくグループ会社として事業を行っていましたが、2010年代に日立が経営方針を社会インフラ事業へ集中する方向へシフトしたことで、マクセルの事業はその方針に合致しなかったため、2014年に再上場し2017年には日立グループから独立しました。

独立後、当社はM&A(企業買収や合併)を積極的に進めるなど、新たな成長機会を模索してきました。

しかし、PMI(Post Merger lntegration)の進捗などが思わしくなく、すぐにシナジー効果をだせず、2018年頃から業績が伸び悩み、2019年には赤字に転落する事態となりました。

その後、2020年には構造改革を実施し、経営基盤を立て直し、現在では成長フェーズに向かって前進しています。

マクセル株式会社 統合報告書 2024 より引用

マクセルの事業概要と特徴

概要

現在、当社はエネルギー、機能性部材料、光学・システム、ライフソリューションの4セグメントで事業を展開しており、これらのセグメントがこれまで当社が長年培ってきた「アナログコア技術」の結晶です。

エネルギーセグメントでは、使い切りの一次電池や充放電して使える二次電池を中心に、BtoB・BtoC向けに製品を展開しています。

創業製品である乾電池から始まり、店頭販売中心で一般消費者にお届けするBtoC事業として成長してきた電池事業ですが、現在では自動車や医療分野向けの電池など、BtoB製品が主流になっています。

機能性部材料セグメントは、「ぬる」技術を応用したもので、産業用の粘着テープやフィルム各種を産業用途に展開しています。

製品の一例としては、半導体の製造工程で利用される高精度なテープなどです。

光学・システムセグメントでは、「かためる」技術、記録メディア事業で培った樹脂の成型技術や光学的な技術を現在の車載用レンズ等の開発に活かしています。

そして、ライフソリューションセグメントでは、BtoC向け製品を製造販売してきた技術力を活かし、顧客ブランド製品の供給(OEM)や産業用として送電工事などで使われる電設工具を展開しています。

このように4つのセグメントが、それぞれの役割を果たしながらバランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています。

マクセル株式会社 統合報告書 2024 より引用

事業における優位性

モノづくりの強み

当社は乾電池や磁気テープの製造を通じて発展してきました。

たとえば、乾電池であれば長寿命、磁気テープであれば高音質といった製品の性能差別化が求められ、技術力に磨きをかけてきました。

その鍵となるのが、「まぜる」「ぬる」「かためる」というアナログコア技術です。

乾電池では、粉体(微粒子状の材料)を均一に混ぜる技術が重要です。

一方、磁気テープでは、記録用の磁性粉(情報を記録するための粉体)をどれだけ均一にコーティングできるかが製品の性能を左右します。

また、これらのプロセスを支える設備や機械の設計にも力を入れています。

優れた材料や設備を使用することはもちろんですが、それだけでは競合他社との違いを十分に打ち出せません。

そこで、競合他社が真似できないような、製造プロセス自体に独自性のある製品をめざし開発しています。

特に「かためる」技術には、粉体を押し固めるだけでなく、金型を使った複雑な成形技術も含まれている非常に奥が深い領域です。

これらの技術をアナログコア技術という形で統合し、当社の強みとして育てています。

マクセル株式会社 中期経営計画 MEX26説明会 プレゼンテーション資料 より引用

顧客対応モデル

当社は、お客様の課題や世の中の隠れたニーズ、そして潜在的なシーズ(技術の種)を捉え、それに応じた素材開発・製品開発を通じて、新たな価値創造を実現しています。

その中でも、カスタマイズや共同開発は当社のビジネスモデルにおいて重要な役割を果たしています。

製品開発の初期段階からお客様と協力することで、当社の強みを活かした製品仕様を実現し、それが業界標準となるケースもあります。

たとえば、自動車の安全性向上をめざした製品の一例として、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)用の電池があります。

このシステムは、空気圧を自動計測し、低下時にアラームを出すことで、パンクによる事故を未然に防ぐもので、当社では、耐久性が高く寿命の長い電池をお客様と共同開発し、需要に応じた生産体制を整えています。

製品開発にかかる期間はお客様の要求や分野の難易度によりますが、自動車、医療用途、社会インフラといった安心・安全が求められる分野では、数年単位の開発期間が必要となります。

また、開発が完了しても、市場投入後すぐに量産に移行できるわけではありません。

不具合発生時のリスクを考慮し、少量出荷から市場実績を積み重ね、安全性や品質を慎重に確認しながら進めています。

このように、当社は製品開発から量産に至るまで、お客様と二人三脚で取り組みを進めています。

これらの取り組みを通じて、自動車、医療、産業用途といった付加価値の高い市場での地位を確立し、売上と収益の向上をめざしています。

マクセル株式会社 統合報告書 2024 より引用

マクセルの成長戦略

既存事業の方向性

当社は、既存事業において現在の主力製品を、より付加価値の高い用途や安心・安全に直結する分野での活用を拡大することをめざしています。

既存事業は4つのセグメントで構成されており、以下にその具体例をご紹介します。

まず、エネルギーセグメントにおける電池事業です。

当社は一次電池(使い切り型)を主力としています。

たとえば、前述のタイヤ空気圧監視システム用電池や、自動車のキーレスエントリーキーに使用されるコイン形電池(小型の銀色の丸い電池)、リモコン用電池など、多様な電子機器で広く採用されています。

最近では、医療機器用途での需要が急速に増加しています。

血糖値管理が必要な患者向けでは、24時間監視を行い、必要に応じてインスリンを投与する医療機器が求められています。

このような用途では、電池の信頼性が患者の生命に直結するため、非常に高い性能が求められます。

タイヤ空気圧監視システム用の耐熱コイン形リチウム電池は現在世界で約70%のシェアがあるので、同分野での製品開発を引き続きリードしていきます。

また、需要が拡大する医療機器用途の電池についても中計期間中に世界で約20%のシェアをめざすべく積極的な設備投資も行っています。

次に、機能性部材料の分野における粘着テープ事業です。

当社では、包装用や梱包用テープに加え、建材用途や半導体製造工程用途の高付加価値製品にも注力しています。

たとえば、建材用テープは住宅の寿命に合わせて日本では長期間の耐久性が必要とされるため、信頼性が極めて重要です。

欧米では、環境負荷を最小限に抑えた高気密住宅の普及が進んでおり、その壁や柱の隙間を密閉する専用テープの需要が増えています。

また、半導体の製造工程では、ウェハ(半導体の基板)を一時的に固定し、作業後に剥がせる特殊なテープも高い需要があります。

建材用テープはアジア、北米を中心に拡大を計画しており中計期間中に50%の売上増、半導体工程用テープはお客様の高度な要求に応える製品開発を進め、同期間中に130%の売上増をめざしています。

さらに、光学・システムセグメントでは、車載用レンズを中心に需要が拡大しています。

自動運転技術の進化に伴い、1台の車両に映像を映すフロント、サイドビュー、バックビューレンズ、周囲の車両との距離を測定するセンシング用レンズなど10個以上のレンズが搭載されていることも多く、

将来的には、センシング機能を備えたレンズの需要が増加すると予測されています。

当社はこれに対応する高機能レンズを開発中で、雨や雪の日でも確実に映像を撮影するため、レンズ表面を超音波で振動させ、雨粒を弾き飛ばし、雪を融かす技術も開発しています。

これにより、自動運転技術のさらなる発展に貢献しています。

そのほかの車載用レンズとしては、世界的に切り替えが進む、LEDヘッドランプレンズにおいても当社は高い技術力で高いシェアを獲得しています。

このように、当社はエネルギー、機能性部材料、光学・システムといった各セグメントにおいて、既存製品を産業用途、医療用途、自動車用途へと広げ、オーガニックな成長を図っています。

今後も当社の技術力を活かし、新たな価値を創出してまいります。

マクセル株式会社 中期経営計画 MEX26説明会 プレゼンテーション資料 より引用

新事業の方向性

現在、一般的に全固体電池は自動車の駆動用バッテリーが注目を集めていますが、当社では、小型の全固体電池の開発に力を注いでいます。

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、電解液を使わないため、安全性、信頼性に優れていると言われており、高い期待が寄せられています。

当社では、まず得意分野である小型の全固体電池を産業用途向けに開発し、新たな市場を開拓する方針を取っています。

この分野では、既に量産品の出荷も行っていることから、当社がリーディングポジションを確立していると自負しており、さらなる成長が期待できる領域です。

2021年からは全社的に大型開発プロジェクトを統合し、最も可能性の高い案件にリソースを集中させる体制を導入しました。

この取り組みにより、従来はエネルギーセグメント内で進められていた全固体電池の開発も、全社的な支援を受けて進められるようになりました。

このように、新事業への積極的な投資を行い、それを支える体制を整備したことで、将来的な成長を見据えた開発を加速させています。

当社は、引き続き革新的な技術を追求し、新たな価値を提供し続けてまいります。

マクセル株式会社 統合報告書 2024 より引用

営業体制の確立と経営基盤強化

当社は営業体制の強化に向けて、新規ニーズを開拓する「マーケティング・開拓人財」と、顧客の課題解決に取り組む「技術営業人財」の育成を推進しています。

モビリティ、医療用途、産業インフラなど、高い難易度の課題に挑戦するお客様に対して、従来の技術では対応できないニーズを捉え、新たな製品開発につなげていきます。

また、既存顧客との日常的なコミュニケーションから新たな用途を見つけ出すケースや、完成した製品に対して全く異なる業界からのアプローチがあるケースも増えています。

既存顧客・新規顧客の双方に開拓のチャンスが広がる中、当社は現在の顧客チャネルに依存せず、新しいニーズや市場を積極的に捉えに行く方針です。

展示会への出展などを通じてお客様の課題を直接把握し、それを解決する技術提案を一層強化していきます。

マクセル株式会社 中期経営計画 MEX26説明会 プレゼンテーション資料 より引用

また、さまざまな強みを持つグループ会社の連携を強化しながら、新たな成長機会を創出してまいります。

マクセル株式会社 中期経営計画 MEX26説明会 プレゼンテーション資料 より引用

注目していただきたいポイント

当社は、2019年に赤字になった後に、2020年には構造改革を実施しましたが、2021年から2023年にかけて実施した中期経営計画(MEX23)では、残念ながら最終年度の売上および利益目標を達成することはできませんでした。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、厳しい経営環境が続きましたが、その中でも将来の売上拡大と収益向上に向けた基盤づくりには成功し、成長フェーズに入ったと考えています。

新たな中期経営計画(MEX26)では、設備投資を含め、前回計画の約2倍となる350億円規模の投資を予定しています。

この投資は成長事業への投資を中心とした収益性をしっかりと見据えたものであり、2026年には営業利益120億円、ROE(自己資本利益率)10%という目標の達成をめざします。

また、現在割り込んでいるPBR(株価純資産倍率)1.0倍超の回復も重要な課題と捉えています。

この新たな計画を通じて、持続的な成長を実現し、企業価値の向上に努めてまいります。

ぜひ当社の中期経営計画にご注目いただき、今後の成長性に期待を寄せていただければ幸いです。

マクセル株式会社 中期経営計画 MEX26説明会 プレゼンテーション資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は、構造改革を経て中長期的な成長を見据えた戦略を着実に実施しています。

かつて、多くの方がマクセルを「カセットテープの会社」として認識されていたかもしれませんが、現在は独自の技術力を活かし、BtoB分野で新たな価値を創出し続けています。

当社の事業は、4つのセグメントを軸に、多岐にわたる事業群や製品群で構成されているため、理解には時間がかかるかもしれません。

しかし、「まぜる」「ぬる」「かためる」のアナログコア技術を活かした多様性こそが私たちの可能性を広げる競争力の源泉です。

私は、営業、技術、製造、間接部門など、現場で活躍する全ての従業員が自身のスキルを最大限に発揮できる環境を整えることが、私の最も重要な使命だと考えています。

私の役割を例えるなら、オーケストラの「指揮者」です。

一人ひとりが持つ才能を引き出し、調和の取れたパフォーマンスを実現することで、企業全体としての成長をめざしています。

これからも、当社は独創的な技術と製品で社会に貢献し続けてまいります。

全社一丸となり、より良い未来を切り拓くための挑戦を続けていきますので、今後とも温かいご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

マクセル株式会社

本社所在地:〒108-8248 東京都港区港南2-16-2 太陽生命品川ビル21階

設立:1960年9月3日

資本金:122億300万円(2024年3月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2014年3月18日上場)

証券コード:6810

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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