【3660】株式会社アイスタイル 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月23日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社アイスタイルは美容系総合ポータルサイト「@cosme」(アットコスメ)を展開し、「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションに掲げ、生活者とブランドの架け橋となっています。

代表取締役社長兼COOの遠藤 宗氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社アイスタイルを一言で言うと

「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションに掲げ、生活者とブランドの架け橋となる企業です。

アイスタイルの沿革

株式会社アイスタイル代表取締役社長兼COO 遠藤 宗氏

創業の経緯

当社は1999年7月に創業しました。きっかけは、共同創業者であり現取締役の山田メユミが化粧品メーカーに勤めていた際の経験でした。

山田は、当時のメルマガ配信サービスを活用し、「この化粧品、どうでしたか?」という内容を発信し、ユーザーからの反応を集めていました。

その反応が非常に熱量の高いもので、それを見た同じく創業者で現代表取締役会長CEOの吉松が「このユーザーの声をビジネスに生かせるのではないか」と考えたことが、当社設立の原点となりました。

また、化粧品業界では広告宣伝費が売上に占める割合が非常に高く、従来のTVCMなどのマスマーケティングに依存する現状がありました。

そこで、消費者の声を集めてブランドに提供することで、新しいマーケティングの形を作ることを目指し、1999年12月にインターネットのコスメ情報ポータルサイト「@cosme」が立ち上げられました。

@cosmeの認知拡大

当初の収益源はメディアへの広告出稿を中心とする広告ビジネスが中心でした。

化粧品ブランドに広告出稿を募り、メディアを運営していました。

しかし、@cosmeに掲載されるクチコミはユーザー目線のものであり、必ずしも製品に好意的な意見ばかりではありません。

そのため、「自社製品の悪口が書かれるかもしれない」という理由で、広告出稿を拒否されることもありました。

しかし、大手ブランドの一社が@cosmeの理念に共感し、広告出稿を決定したことで、その後他のブランドも続き、徐々に認知が拡大していきました。

この出来事が、@cosmeの信頼性を高め、事業が拡大していく転機となりました。

化粧品専門ECサイト「cosme.com」の立ち上げ

2002年、Amazonの台頭に触発され、「化粧品もインターネットで売買される時代が来る」との考えから、ECサイト「cosme.com」(現@cosme SHOPPING)を立ち上げました。

しかし、当時は化粧品をネットで販売することへの否定的な風潮が強く、ブランドの協力も得られず、売上は伸び悩みました。

それでも、@cosmeに集まるクチコミデータを基軸に、小売事業への展開を模索しました。

このデータ活用の考え方が、その後のビジネス展開につながっています。

化粧品専門店「@cosme STORE」の拡大

クチコミデータを基に、当社はリアル店舗の可能性に着目し、大手の卸会社やドラッグストアチェーンと提携し、店舗で@cosmeの情報を活用する試みを始めました。

しかし、ドラッグストアには低価格帯の商品が多く、百貨店ブランドや専門店向け商品と接点を作ることができませんでした。

そこで、百貨店や専門店と連携する必要性を感じ、2007年に新宿で「@cosme STORE」の第1号店をオープンしました。

この店舗では、@cosmeのクチコミデータを活用したリアル店舗運営を実験し、ユーザーの動向をリアルタイムで把握することが可能となりました。

このリテール分野への取り組みが、現在のビジネスモデルの基盤となっています。

ビューティープラットフォーム構想

2015年、当社は「ビューティープラットフォーム構想」を打ち出しました。

メディア(@cosme)、EC(@cosme SHOPPING)、リアル店舗(@cosme STORE)の各サービスを統合し、ユーザーがシームレスに行き来できる環境を構築しました。

この構想により、ユーザーが購入前の情報収集から購入後のクチコミ投稿まで、一貫した体験を得られるようになりました。

この取り組みは、当時では直接的な売上向上に直結しなかったものの、現在のビジネスモデルの核となる重要なステップでした。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

大型旗艦店「@cosme TOKYO」のオープン

2020年、体験型フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンしました。

この店舗では、広告ビジネスやECとの連携、新しい購買体験の提案を行うことを目的としています。

しかし、その直後に始まったコロナ禍の影響を受け、店舗運営は厳しい状況に直面しました。

それでも、ネットで商品をチェックしながら店舗で試すという新しい購買体験が浸透し、@cosme TOKYOは当社の市場でのポジションを一段と強化する転機となりました。

今後は、購入後のフォローアップ施策(使い方動画の提供など)を強化し、ユーザー体験をさらに向上させることを目指しています。

そして、現在はビューティープラットフォーム構想で描いていたビジネスモデルをさらに発展させ、リテールとBtoBの両方で成長していくためのさまざまな取り組みを進めています。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

アイスタイルの事業概要と特徴

概要

当社の事業は、マーケティング支援セグメント(BtoB) と リテールセグメント(BtoC) 、グローバルセグメント、その他セグメントの4つに分かれています。

まず1つ目がマーケティング支援セグメントです。

主に化粧品メーカーやブランドを対象に、マーケティングを支援しています。

現在、@cosmeにはほぼすべての化粧品ブランドが登録されており、当社のプラットフォームを活用して、ブランドがどのような広告展開を行うか、@cosme TOKYOでの店頭プロモーションやポップアップイベントをどう実施するかなど、ブランドとともに企画・運営を行っています。

2つ目がリテールセグメントです。

@cosme TOKYOや@cosme STOREなど国内のリアル店舗、および@cosme SHOPPINGを通じたEC事業を中心とする小売事業を展開しています。

これらのプラットフォームを通じて、ユーザーに新しい購買体験を提供しています。

3つ目のグローバルセグメントでは@cosmeのプラットフォームやノウハウを基盤に、海外ユーザーやブランドとの接点を広げています。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

事業における優位性

@cosmeの独自のポジショニング

@cosmeの最大の強みは、「公平公正に運営されているメディア」であることです。

この透明性と信頼性により、ユーザーから「@cosmeのランキングは信頼できる」「クチコミが正確で信頼できる」と高い評価をいただいています。

これが、@cosmeが多くのユーザーに支持され、結果としてメーカーも「このユーザー層にリーチしたい」と考える国内最大級のサイトへと成長した理由です。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

公平性を保つために、当社ではステルスマーケティングへの対策を徹底しています。

24時間365日のシステム監視を行うだけでなく、@cosmeのユーザーによる通報システムも導入しています。

長年にわたり、こうした手間を惜しまず運営してきたことが、@cosmeの高い信頼性を支える基盤となっています。

さらに、@cosmeのランキングやベストコスメアワードは、ブランドからの広告費に直接左右されることは一切ありません。

実際、プロモーションを行っていないブランドが年間1位を獲得する例も少なくありません。

これは、純粋にクチコミによる評価がそのブランドや商品の成長につながっている証です。

他のクチコミサイトでは、広告費を払うことでランキングを操作できる場合もありますが、@cosmeではそのような仕組みを一切採用せず、すべてをユーザーの声に基づいて運営しています。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

こうした徹底した姿勢こそが「@cosmeらしさ」であり、ユーザーとブランドの双方から信頼される理由だと考えています。

ブランドマーケティングを中心としたマーケティング支援

当社では、@cosmeのニュートラルな立場を活かし、各化粧品ブランドのイメージを高めるためのマーケティング支援を行っています。

たとえば、大手ECサイトでは「そのサイトで売るための広告」を展開していますが、当社が提供する支援はそれとは異なります。

@cosme STOREや@cosme TOKYO、@cosme SHOPPINGといった自社の店舗やECサイトで売ることだけを目的とするのではなく、@cosme全体をプラットフォームとしてブランドの魅力を伝えることを重視しています。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

@cosmeを訪れたユーザーが、百貨店で商品を購入するのか、ドラッグストアやバラエティショップといった他のチャネルで購入するのかは関係ありません。

私たちはたまたまECや店舗を運営しているにすぎず、@cosmeのニュートラルな立場は創業以来変わることがありません。

当社が最も重要視しているのは、「@cosmeを通じてブランドを深く理解してもらい、その結果、ユーザーがそのブランドの商品を購入したいと思うこと」です。

もちろん、当社のECや店舗で購入いただけるのは嬉しいことですが、それ以上に、「ブランドの魅力を正確に伝えること」に重きを置いています。

この姿勢が、当社のマーケティング支援における最大の特徴です。

株式会社アイスタイル 2024年9月 会社紹介資料 より引用

アイスタイルの成長戦略

@cosmeのデータ活用とBtoBビジネスへの展望

現行のサービスと新たな取り組み

当社では現在、@cosmeが持つ膨大なデータベースや外部情報を整理し、統合データ基盤を構築する取り組みを進めています。

これにより、広告以外のマーケティング予算を獲得し、データのマネタイズを強化していく計画です。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

@cosmeのプラットフォームでは、一つの商品に数千件のクチコミが集まることも珍しくありません。

この膨大なクチコミを活用することで、マーケティング支援の一環として、商品の評価を新しいユーザーにリーチさせる支援が可能となります。

ただし、こうした膨大なクチコミの分析には、これまで多大な手間がかかっていました。

当社ではすでにSaaS型のサービス「ブランドオフィシャル」を通じて、ユーザーのブランドへのエンゲージメントを可視化する「ユーザーエンゲージメントランク」を提供しています。

この仕組みは、ブランドごとに「商品を購入した」「商品を見ただけ」「サンプルを試した」といったエンゲージメントの強さをランク付けし、可視化するものです。

このサービスは約6年前から運用され、ブランド側がユーザーの行動をより深く理解するための重要なツールとして活用されています。

今後は、このサービスをさらに進化させ、生成AIを活用した次世代クチコミ分析ツールのプロトタイプを開発しています。

この次世代ツールでは、商品のクチコミを解析し、ユーザーがその商品をどのように評価しているかを簡単に把握できるだけでなく、他社商品との比較も可能になります。

また、@cosmeが蓄積してきたデータを活用し、ユーザーがどのような情報を見て購入に至ったのか、競合商品との比較やブランドスイッチの動向なども明確に把握できるようになります。

これらのデータをブランド側に提供することで、経営戦略やマーケティング施策の策定に役立てられると考えています。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

外部提携による事業強化

2024年2月には、ブティック型のコンサルティング会社である株式会社NODEと協業し、ブランド支援事業の強化に着手しました。

同時期には、SNSマーケティングやインフルエンサーマーケティングを得意とするトレンダーズ株式会社(証券コード:6069)との資本業務提携も実施しました。

これにより、データ基盤のさらなる強化と新しいマーケティング手法の導入を目指しています。

外部との提携を積極的に進めることで、当社のデータ基盤を拡張・強化し、より多様なマーケティング支援を可能にしていきます。

今後は、クチコミ分析ツールの本格的な開発と、データを活用したBtoB向けコンサルティングビジネスに注力していきます。

この取り組みにより、既存事業の可能性をさらに広げ、当社のプラットフォームがブランドにとって欠かせない存在となると考えています。

BEAUTY市場の新規領域への進出

@cosmeには毎月約1,800万人のユーザーが訪れており、会員数は1,000万人を超えています。

当社がターゲットとするBEAUTY市場(TAM:獲得可能な最大市場規模)は、化粧品だけでなく、サプリメント・健康食品、美容医療、フェムケアといった成長性の高い分野も含まれます。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

これまで当社は、メディア、店舗、ECといったチャネルを通じて化粧品に特化したサービスを提供してきました。

しかし、今後は@cosme会員に新たな価値を提案するため、化粧品以外の領域にも挑戦していきます。

現在、化粧品業界では「インナービューティー」や「健康」というテーマが注目されています。一方で、当社はこれらの分野に関するデータをほとんど持っていません。

今回の取り組みにより、新たなデータを収集し、それを化粧品データと結びつけることで、新しい市場の可能性を探っていきたいと考えています。

たとえば、「どのような化粧品を使っているユーザーが、どのようなサプリメントに興味を持つのか」といった相関関係を見出し、より包括的なデータ基盤を構築します。

こうしたデータの蓄積により、ユーザーに最適な商品やサービスを提案できる仕組みを整えていきます。

その第一弾が@cosme発サプリメントの開発です。

過去にもプロダクトの製造に挑戦したことはありましたが、「何を目的とするのか」が明確ではなかったため、途中で断念してしまいました。

しかし今回は、リテール事業を持つ当社の強みを活かしながら、全く新しい観点での展開を目指しています。

一見するとプライベートブランド(PB)商品の開発のように見えますが、実際には利益を追求するのではなく、@cosmeというプラットフォーム上で新しいサービスを展開することを目的としています。

今回の施策は、「単なるPB商品の開発」ではなく、「@cosmeに新しいカテゴリーを追加するための第一歩」として位置づけています。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

注目していただきたいポイント

今後は、BtoBのデータビジネスの成長に力を入れていきます。

現在、当社の売上の約70%はリテールビジネスが占めており、その中でもリアル店舗の割合が大きい状況となっています。

しかし、リテールセグメントの利益率は、日本国内で事業を行う上で、大幅な改善は難しい状況です。

そのため、当社全体の利益率を向上させるには、利益率の高いBtoBビジネスの強化が重要だと考えています。

ただし、データを活用したコンサルティングやクチコミ分析といったBtoBビジネスは、リテール事業があってこそ価値を持つものです。

例えば、メディア運営だけでは「何を見たか」というデータは把握できますが、それ以上の情報は得られません。

しかし、リテール事業を通じて、「何を見て、何を購入し、その後どのような行動を取ったのか」といった一連のユーザーデータを取得することが可能です。

さらに、競合商品との比較も行えるため、ブランドにとって非常に有益な情報を提供できます。

当社では、こうしたBtoCビジネスのデータ基盤を強化し、それをもとにBtoBビジネスを成長させ、両輪での成長を目指しています。

この取り組みにより、利益率をさらに向上させ、業界内での存在感を一層高めていきます。

ぜひ@cosmeでのデータ基盤を活用したBtoBビジネスの成長にご注目いただければ幸いです。

株式会社アイスタイル 2024年6月期通期決算及び中期事業方針について より引用

投資家の皆様へメッセージ

アイスタイルの社員は、生活者中心の市場を創造し、生活者とブランドとの「良い出会い」を生み出すために、日々全力で取り組んでいます。

私たちは、長年にわたり培ってきた信頼と信用を武器に、化粧品分野において日本最大級のデータベースを保有している企業であると考えています。

このデータ基盤を最大限に活用し、これまでにない新しいビジネスモデルを構築し、さらなる成長を目指していきます。

ぜひ、私たちのこれからの歩みにご期待ください。

株式会社アイスタイル

本社所在地:〒107-6034 東京都港区赤坂一丁目12番32号 アーク森ビル34F

設立:1999年7月27日

資本金:57億1,900万円(2024年6月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2012年3月8日上場)

証券コード:3660

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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