【6089】株式会社ウィルグループ 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月7日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社ウィルグループは単なる人材派遣会社ではなく、人と企業、そして社会全体の可能性を最大限に引き出し、新たな価値を創造する「Chance-Making Company(チャンスメイキングカンパニー)」です。

代表取締役社長の角 裕一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社ウィルグループを一言で言うと

「Chance-Making Company(チャンスメイキングカンパニー)」です。 

ウィルグループの沿革

株式会社ウィルグループ代表取締役社長 角 裕一氏

創業の経緯

当社の創業は1997年に遡ります。

1997年1月、テレマーケティング事業を展開する株式会社セントメディアが設立され、同年8月には引越しやイベント会場の設営など軽作業の短期請負を主業務とする株式会社ビッグエイドが設立されました。

その後、2000年2月にテレマーケティング業と業務請負業の相乗効果を目指し、セントメディアがビッグエイドを吸収合併し、ファクトリーアウトソーシング事業を開始しました。

同年7月にセントメディアは株式会社セント・スタッフを設立し、人材派遣業に参入しました。

人材ビジネスへの転換

しかし、テレマーケティング事業は不採算が多く、合併後の経営環境は急速に悪化しました。

2002年2月、一般労働者派遣事業の許可を取得し、コールセンターアウトソーシング事業を開始しましたが、ネットバブル崩壊の影響で経済状況が急激に悪化し、赤字が続きました。

2003年には事業を縮小し不採算だったテレマーケティング事業を清算、以降は人材派遣業に経営資源を集中させました。

2005年4月にはセントメディアが人材紹介業を分社化し、株式会社グローリアスを設立、翌年4月にセントメディアとグローリアスが共同株式移転を行い、純粋持株会社として株式会社ウィルホールディングス(現ウィルグループ)が設立されました。

リーマンショックと「ハイブリット派遣」

2008年のリーマンショックにより、主に展開していた製造業派遣や事務職派遣の需要が減少したため業績は大幅に悪化し、当社の正社員を現場に派遣せざる得ない状況となりました。

当社正社員と派遣スタッフが互いに助け合いながら、経済危機を乗り越えるべく一致団結して現場の仕事に没頭したことで、互いの距離が縮まり、「ハイブリット派遣」という新しいスタイルが定着することとなりました。

この手法は、派遣スタッフと共に「フィールドサポーター」と呼ばれる当社の正社員が現場に常駐し、クライアントと派遣スタッフの双方をサポートするユニット派遣モデルです。

これにより、頼れるパートナーとしてクライアントニーズに迅速な対応を提供しつつ、現場でのスタッフマネジメントを担う体制を確立しました。

リーマンショックの影響で製造業派遣の需要が減少する中でも、比較的影響が少なかった食品製造派遣への集中や「ハイブリッド派遣」を通じたフィールドマネジメント型営業を展開することで、事業機会を創出することができました。

この危機的状況を乗り越える中で、新たなビジネスモデルを確立したことは、当社が飛躍的な成長をしていくための大きな転換点となりました。

M&Aによる海外進出

リーマンショックを乗り越え、2011年頃から国内市場は安定を取り戻しつつありました。

しかし、少子高齢化の進行により日本の労働人口の減少は深刻であり、今後の持続的な成長のためにも、海外市場に打ってでる必要があるという経営判断をしました。

海外での事業展開地域は主にオーストラリアとシンガポールです。

トップラインの拡大を目的とし、M&Aで言語や文化が異なる企業をグループに迎え入れました。

いずれも人材サービス領域を展開しており、顧客基盤や取り扱う職種において独自の強みを持つ企業です。

このような、多様なバックグラウンドを持つ企業との協働を通じて、新たな価値の創出と成長を実現してきました。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

ウィルグループの事業概要と特徴

概要

当社グループは、特定のカテゴリーに特化した人材派遣サービス、人材紹介サービス、業務請負サービス、日本で働く外国人の雇用支援サービスを展開しています。

職種は接客販売、営業、コールセンターオペレーター、事務職、工場作業員、介護従事者、建設技術者、ITエンジニアなど、多岐にわたり、エッセンシャルワーカーを中心に網羅しています。

また、日本国内に留まらず、オーストラリアやシンガポールにおいても、主にホワイトカラー層を対象とした人材サービスを展開しています。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

事業における優位性

安定的なポートフォリオ

当社の事業ポートフォリオは、安定的かつ持続的な成長を目指してバランス良く構築されています。

国内と海外の売上比率は6:4であり、多様な領域にわたる事業展開により、外部環境の変化に柔軟に対応できるポートフォリオとなっています。

たとえば、リーマンショックの際、不景気の煽りを受け、製造業における人材派遣事業は非常に厳しい局面を迎えました。

一方で、当時はiPhoneなどスマートフォンが日本市場に参入しており、サービス業におけるセールス人材の需要が急増していました。

そのような中、当社は接客販売などセールスサポートの人材派遣サービス領域も展開していたため、事業全体の成長を止めることなくリーマンショックを乗り越えることができました。

このように、特定の事業領域に依存せず、複数の領域に対応できる事業ポートフォリオが当社の強みです。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

成果追求・人材育成力・定着率向上

当社は事業ごとの専門性を追求した組織体制を構築しています。

セールスアウトソーシング領域では、セールス業務に特化してPDCAサイクルを回し、効率的なノウハウを蓄積しています。

同様に、コールセンターアウトソーシング、ファクトリーアウトソーシング、介護ビジネス支援、建設技術者の各領域も、それぞれ業界に特化した専門的なサービスを提供しています。

さらに、セールスやコールセンター、ファクトリー領域では、当社の正社員を管理者として現場に派遣する「ハイブリッド派遣」を導入しており、派遣スタッフの教育や雇用管理を徹底し、職場への早期定着を実現しています。

この体制により、定着率向上や現場での高い評価が得られ、クライアントとの安定的な取引が続いています。

たとえば、ある百貨店の販売フロアでは、「ウィルグループが管理するブースだけお客様が多い」と評価され、口コミや紹介を通じて新たなクライアントを獲得するなど、他社との差別化に成功しています。

現場理解と「ハイブリッド派遣」

「ハイブリッド派遣」の成功は、経営陣やマネジメント層を含む社員全員が現場の重要性を理解している点にあります。

私も入社1年目の時には現場から経験を積んでおりますが、当社には現場で経験を積む文化が根付いており、派遣スタッフが感じる派遣先での不安事や労働環境の課題を体感することで、現場への理解を深めています。

現場社員である「フィールドサポーター」は最前線でクライアントと密接に関わり、現場をしっかりと理解している支店長や管理者が適宜サポートを行います。

現在の取締役や事業部長も現場経験を経ており、現場目線を重視した経営が「ハイブリッド派遣」を支える基盤となっています。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

ウィルグループの成長戦略

国内Working事業の再成長

当社がこれまで成長の軸としてきたのは、人材派遣(有期派遣)事業や業務請負事業です。

今後は正社員派遣と外国人雇用支援の2つの領域に注力していきたいと考えています。

その背景には、売上総利益率、定着率、市場成長性の3つの観点があります。

まず、売上総利益率ですが、これまでの人材派遣(有期派遣)事業では、粗利率が14〜17%程度でした。

一方、正社員派遣では21〜28%程度、外国人雇用支援では90%以上という非常に高い粗利率が見込まれています。

定着率については、有期派遣における定着率は「低〜中」レベルであり、求人倍率の上昇に伴う採用コストの増加が課題となっています。

定着率が低い場合、採用コストの回収が難しくなるため、定着率の高い正社員派遣を優先的に拡大していく必要があります。

そして市場成長性に関しては、正社員派遣と外国人雇用支援はいずれも市場の成長が見込まれており、今後の事業展開の重要な柱になると考えています。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

ただ、どちらの領域も競争が激しいレッドオーシャンです。

しかし、当社は既存の人材派遣事業で築き上げた大手クライアントとの信頼関係や高度なオペレーションノウハウを活用することで他社との差別化を図り、競争優位性を確立できると考えています。

たとえば、人材紹介(転職支援)事業は収益性が高く市場も拡大していますが、人材派遣事業とは運営方法が異なりシナジーが生みにくい領域である一方、外国人雇用支援は人材派遣事業とオペレーションが共通しているため、既存の体制を活用しながら効率的に事業を拡大できる点が大きな魅力です。

また、正社員派遣については、特に建設技術者領域においてM&Aを活用し事業参入をしましたが、

元々人材派遣事業に携わっていた社員を建設技術者領域に異動させることで、既存のスキルを転用し、さらなる成長を実現しています。

その結果、2024年3月期の建設技術者領域の売上は、前年同期比130%という高い成長率を達成しています。

今後も当社がこれまでに培ってきたノウハウや資産を活用し、グループ全体の収益性や利益率を向上させていきます。

このような取り組みを通じて、国内Working事業の再成長を実現し、安定的かつ持続可能な成長基盤を築いていきます。

海外Working事業の安定した成長

海外Working事業の成長において、M&Aは不可欠な戦略だと考えています。

日本国内の人材サービス企業の中で、海外M&Aを積極的に実施している企業は限られていますが、案件数やトップラインの伸び等の総合的な観点から、当社はその中でもトップ5クラスに入ると自負しています。

当社はこれまでに、多くのM&A案件を通じて収益性やシナジー効果を見極める的確な判断力を培い、数々のPMI(Post Merger Integration:経営統合)の経験により、買収後の統合プロセスを円滑に進めるための知見と実績を積み上げてきました。

今後も海外市場での成長を加速させるために、積極的にM&Aをの機会を模索していきます。

注目していただきたいポイント

今後の成長において、特に注目していただきたいのが 正社員派遣 の領域です。

現在は投資領域の段階にあるものの、全体の売上総利益の構成比で見ると、この3年間で順調に拡大しており、粗利率の改善にも寄与しています。

株式会社ウィルグループ 2025年3月期第2四半期 会社説明資料 より引用

正社員派遣事業は、経験者と未経験者の両方を対象としていますが、当社では特に未経験者に特化した戦略を展開しています。

現在、労働市場において経験者の供給が限られ、需給ギャップが拡大している状況の中、当社は未経験者を育成することで業界全体の成長にも貢献したいと考えています。

そのためにも、充実した研修プログラムや資格取得の支援を積極的に行っています。

例えば、建設技術者領域においては、プロフェッショナルな講師陣を揃え、入社から2ヶ月間にわたり研修を実施しています。

未経験者が自信を持って業務ができるように、学んだことが自信に繋がるよう丁寧なサポートを行い、研修終了時には認定ライセンスを発行しています。

そして、資格取得支援制度などを通して、入社後1〜2年以内に複数の資格を取得できるよう、全面的なサポートをしています。

また、現場での実務経験を通じて、学びながら成長を実感できる環境を整えており、「Employee Journey(入社から退職までの経験や体験)」を提供しています。

正社員派遣領域は、まだまだ成長途上ではありますが、当社ではこの領域に大きな成長余地があると確信しています。ぜひ、当社の正社員派遣事業の今後の発展にご注目ください。

投資家の皆様へメッセージ

人材サービス業界、特に人材派遣事業は、テクノロジーが進歩する現代において古典的で変化の乏しい産業と見られがちです。

しかし、私はこの業界こそ大きなチャンスがあると確信しています。

テクノロジーの進化に伴い、社会の仕事の内容や職種は急速に変化しています。

一方で、人々のキャリア形成がその変化のスピードに追いつくことは容易ではありません。

この ギャップ を埋めることこそ、人材サービス業界が果たすべき重要な役割だと考えています。

近年、リスキリングが注目されていますが、プレイヤーやインフラ、さらには企業側の対応能力は、依然として不足している状況です。

私たちウィルグループは、このギャップを埋めるトップランナーとして、日本社会が抱える課題解決に挑戦していきます。

当社の今後の取り組みに関心を寄せていただき、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。

株式会社ウィルグループ

本社所在地:〒164-0012 東京都中野区本町一丁目32番2号ハーモニータワー27階

設立:2006年4月3日

資本金:21億円(2024年3月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2013年12月19日上場)

証券コード:6089

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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