【9959】アシードホールディングス株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年5月30日に実施したIRインタビューをもとにしております。

アシードホールディングス株式会社は独立系オペレーターとして自動販売機(以下、自販機)の運営・管理や、飲料製造事業として大手企業のOEM(Original Equipment Manufacturing / 委託先ブランドの製品を製造すること)・ODM(Original Design Manufacturing / 委託先の製品の企画・提案から製造までを行うこと) や自社ブランド商品の製造・販売を主とした事業を行う会社です。

代表取締役社長の河本 大輔氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

アシードホールディングス株式会社を一言で言うと

消費者起点の発想をビジネスで実現し、「未来に向けて種をまく」会社です。  

アシードホールディングスの沿革

アシードホールディングス株式会社代表取締役社長 河本 大輔氏

創業の経緯

当社は私の父が1972年に創業しました。

初期はオフィスコーヒーの提供からスタートし、オフィス・工場やパチンコ店等に紙コップ自販機の導入を行っていました。

そして市場の変化に合わせて、缶・ペットボトル自販機の導入も行い、1993年には店頭公開を果たしました。

飲料製造事業に進出

私は1996年に入社し、1999年に北関東ペプシコーラボトリングのM&A案件を担当しました。

当時、アシードの売上規模は120億円程度でしたが、北関東ペプシコーラボトリングも同程度の売上でした。

そのためM&A後には売上が倍増し、新たに埼玉・群馬・栃木・茨城に拠点を獲得し、関東に進出することができました。

また当時、サントリー社がペプシのマスターフランチャイズ権を取得したことで、それまではコカ・コーラの一強だった国内市場でのシェアも広がっていきました。

そして北関東ペプシコーラボトリングが保有していた宇都宮のボトリング工場も取得したことが飲料製造事業への進出のきっかけとなりました。

2011年には広島県東広島市でアシードブランドの商品を委託製造していた宝積飲料を買収し、宇都宮に続き2カ所目のボトリング工場となりました。

この2工場の取得が飲料製造事業の成長の基盤になっています。

酒類への進出と海外展開

国内では2000年に日本酒を製造する地元広島の企業のM&Aを行い、事業としては成功しませんでしたが、このアルコール商品の製造経験がのちの缶チューハイ事業の立ち上げに役立ちました。

また国内だけでなく海外進出への挑戦も続けてきました。

日本の人口減少とマーケットの縮小を危惧していた当社は、成長余地のあるベトナムに進出しており、ハロンビールを中心とした事業展開が徐々に伸びています。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

アシードホールディングスの事業概要と特徴

概要

まず自販機運営リテイル事業では、企業や商業施設・学校などに設置した飲料や食品の自販機への商品補充や売上金回収などを行っています。

次に飲料製造事業では、お茶やジュースなどの清涼飲料水、チューハイなどの低アルコール飲料の製造を行っています。

近年は健康茶や緑茶など茶葉の生産や加工・販売を行う会社をグループ化しています。

また不動産運用事業では自社物件の開発や運用、その他事業では保管や流通加工などの物流業務を行っています。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

事業における優位性

独立系オペレーター

当社は国内でも数少ない自販機の独立系オペレーターです。

一般的に自販機オペレーターといえば、コカ・コーラやサントリー、アサヒ飲料といった飲料メーカーが自社商品を販売するために自販機を運営している飲料メーカー系オペレーターの存在があります。

一方、当社はそのような飲料メーカー系オペレーターとは異なり、メーカー商品にとらわれず、多様な商品を取り扱うことができます。

そのため設置場所(ロケーション)のニーズに柔軟に対応できることが大きな強みです。

例えば、お客様から「この場所には自販機が多すぎる」、「電気代が無駄」、「〇〇の商品を多く入れて欲しい」との意見があれば、適切な台数や商品ラインナップを提案しています。

このような柔軟性が当社の強みで、自販機を店舗と捉えマーケットインの発想で自販機を運営しています。

また、独立系オペレーターとして国内で上場している企業は当社しかありません。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

大手OEM・ODMの受託と自社ブランドの開発

飲料製造事業では、栃木の宇都宮飲料工場と広島の東広島飲料工場を活用して、NBメーカーのOEMや大手小売企業のODM受託、さらに自社ブランド商品の開発を行っています。

スーパー・コンビニに陳列されているソフトドリンク・RTD(低アルコール飲料)のPB(プライベートブランド)商品も多く製造しており、商品名は公開できませんが、手に取っている商品の裏には当社がいるなんてこともあるかもしれません。

また、商品開発力が当社の強みで、受託先の企業と協力し、商品企画・デザインから味の開発まで一緒に取り組んで、高品質なPB商品を提供しています。

またOEM・ODMだけでなく、自社ブランドの商品も製造しています。

例えば、OEMではNBメーカーさんの内製化などの方針が変わると、一気に仕事がなくなってしまうというリスクがあります。

当社では、ODMの受託や自社ブランドを展開することで、ビジネスリスクの分散を図り、OEMへの100%依存を避けています。

アシードホールディングスの成長戦略

ブランド創造企業への挑戦

実は自販機運営リテイル事業において、自販機にセットするためのお茶やコーヒーの製造は数十年前から行ってきました。

しかし、自社商品をスーパーやドラッグストアなどの小売店で陳列していただくためには、商品企画の段階からコンセプトを練る必要があります。

そこで約5年前からチューハイの「ASTER」という自社ブランドを立ち上げました。

ASTERはストレート果汁を使った高付加価値のチューハイで、各地域の国産果汁にこだわって、外国産果実は使用しないというコンセプトで展開しています。

ストレート果汁は扱いが難しく、果実によっては国産果汁の数量も限られているデメリットもありますが、濃縮果汁に比べて果実の風味が落ちないため、味にこだわった商品開発をしています。

現在では約6種類のラインナップにまで増え、約5,000店舗の小売店舗に採用されています

毎年少しずつ販売拡大を続け、一部のコンビニエンスストアでも取り扱われるようになりました。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

また「SU:RESH」という健康意識が高い方向けの黒酢の炭酸飲料や、「家バル」「大人のCRAFT 無糖サワー」を新発売しました。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

さらに古くから取り組んでいる「ためして寒天」などのアルコール以外の商品も、コンビニやスーパーでの採用を目指して開発しています。

最近では素材と製法にこだわった「深蒸し茶」を開発しました。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

こうした高付加価値の商品を通じてブランド創造企業としてのポジションを確立し、販路を拡大していきたいと考えています。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

既存事業の成長

自販機運営リテイル事業

自販機運営リテイル事業に関しては、独立系オペレーターが国内に200社以上存在しますが、上場企業はなく全国に展開している当社規模の会社はありません。

自販機運営リテイル事業では直近も含めて各地の独立系オペレーターをM&Aしたり、営業権の譲受を行ってきました。

自販機台数が過多のため業界の再編が進み、その影響で飲料メーカー系のオペレーターも統合が進んでいます。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

当社は全国に40ヶ所以上の営業所を展開し、青森から沖縄までの広範なネットワークを持っています。

そのため地方の会社を買収しても飛び地になることがないため買収が容易です。

今後も業界再編のリーダーシップを取っていくことができると考えています。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

飲料製造事業

志和飲料工場の缶飲料製造設備の更新を行い、2023年2月から稼働しています。

従来の250ml缶に加え、190ml缶・350ml缶・500ml缶の充填も可能となり、製造能力が大幅に向上しました。

また、これまで通りODMの営業を強化し、大手小売業のPB商品の受託を加速させていきます。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

その他事業

その他事業においては、清涼飲料水の製造から出荷、そして物流センターへの配送までの一連の物流プロセスを効率化するため、2021年に物流の専門会社であるロジックイノベーションをM&Aしました。

現在、東日本の製造拠点である宇都宮飲料工場の物流業務を委託しており、今後は西日本の志和飲料工場の物流業務も委託していく予定です。

さらに栃木のアシードロジスティクスセンターや岡山のセンターの運営も効率化しています。

例えば自社商品のみでは閑散期に倉庫が空いてしまうため、他社の保管事業も受託し、物流全体の効率化を図っています。

2024年問題で物流業界が厳しい状況にある中、私たちも対応を進めています。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

新規事業創出やシナジー創出のためのM&Aの推進

2022年8月に健康茶を製造する河村農園のM&Aを皮切りに、茶葉加工事業へ進出しています。

2023年4月には茶葉粉砕・焙煎・ブレンドを行う静岡ローストシステム、1,000種類以上の茶葉をオンライン販売するマルサン萩間茶をM&Aしました。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

また、海外事業にも積極的に投資しており、ベトナムのハロンビールをベトナム国内のみならずASEAN諸国へ販売しながら、チューハイのテスト販売も行っています。

これらに限らず、今後も当社と事業シナジーを見込める企業への出資やM&Aを行いながら成長機会を獲得していきます。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

注目していただきたいポイント

自販機業界では全国規模の独立系オペレーターとして当社ほどの規模を持つ企業はほとんど残っていません。

そのため業界内での存在価値は非常に高いと自負しています。

今後も競争力をさらに強化し、積極的にM&Aを進めていく予定です。

また飲料製造事業においてはOEMやODMで強みを発揮してきましたが、今後は自社ブランドの展開も強化して「アシードブランド」を広めていきたいと考えています。

今後、皆様のお近くのスーパーやコンビニの棚で当社の商品が並んでいくと思いますので、新商品の発売に注目していただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

2024年3月期は増配をさせていただきました。

また株主優待を見直し、自社ブランド商品を手に取ったことがない株主様にもその魅力を知っていただくため、優待のラインナップに自社ブランド商品を追加しました。

アシードホールディングス株式会社 2024年5月23日開催 2024年3月期会社近況報告会資料 より引用

2024年3月末の株主様を対象に、株数に応じた優待がございます。

ぜひ当社を応援していただくと共に、アシードブランドをお試しいただければと思います。

アシードホールディングス株式会社

本社所在地:〒720-0043 広島県福山市船町7番23号

設立:1972年11月20日

資本金:7億9,847万円(2024年6月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1993年12月7日上場)

証券コード:9959

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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