※本コラムは2024年4月19日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社クロス・マーケティンググループはマーケティングリサーチによる生活者理解を起点に、顧客のマーケティングに関わる様々な課題の解決を支援する、総合マーケティングソリューション企業です。
代表取締役社長兼CEOの五十嵐 幹氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社クロス・マーケティンググループを一言で言うと
総合マーケティングソリューションを提供する”マーケティングDXパートナー”です。
クロス・マーケティンググループの沿革
創業の経緯
私は学生の時から起業したいと考えていて、大学卒業後は日本アジア投資に入社しました。
当時はインターネットの黎明期で、多くのインターネットに関連する企業への投資を担当しながら、その後、役員としてもネット系の会社の事業運営に携わりました。
ちょうどITバブルが到来し、その流れで様々なBtoCメディアが立ち上がっていったのですが、なかなか収益化が難しく、ITバブル崩壊を機に多くのネット系企業が撤退や縮小を余儀なくされました。
そんな中、BtoC向けのマーケティング支援の会社を作ろうと考え、ネットリサーチ会社として2003年4月に創業しました。
BtoCメディアの会員を活かせるネットリサーチというニッチなサービスに着目したことで軌道に乗り、事業は着実に成長していきました。
上場と事業多角化
当社は創業時からマーケティング支援を主軸に展開していきたいと考え、ネットリサーチだけで事業を行おうとは思っていませんでした。
しかし時流が良く、幸いにもネットリサーチ専業で成長し、2008年10月28日に東証マザーズ市場(現 東証グロース市場)に上場しました。
当時、リーマンショック直後で日経平均が過去最低を記録したため、非常に厳しい状況での上場となりました。
これが大きな転換点で、事業を多角化するきっかけとなり、2009年5月に株式会社リサーチアンドサーベイを子会社化し、オフラインリサーチ事業も始めました。
ホールディングス化とM&Aによる事業拡大
2013年6月にクロス・マーケティンググループとしてホールディングス化し、海外進出も始めました。
また、ホールディングス化したことでグループ間のシナジーを生み出しやすくなり、積極的にM&Aによる事業領域の拡大や事業の子会社化を進めていきました。
そして2021年7月にはデジタルマーケティング事業・データマーケティング事業・インサイト事業の3領域に事業セグメントを変更し、成長市場へ参入していきました。
現在は、顧客にとってのマーケティングDXパートナーとなるべく、マーケティングに関連する事業領域の深化や多角化を図っています。
クロス・マーケティンググループの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスモデルは、基本的にBtoBのマーケティング支援です。
具体的には、マーケティングの全工程にわたってサポートしております。
データマーケティング事業では、主にオンラインでのデータ収集を通じ、商品開発から販売促進までの一連のマーケティングプロセスを支援しています。
インサイト事業は、データマーケティングを通じて収集した情報を深堀して分析し、どうしたらよいか戦略的なレポートを提供するいわゆるマーケティングコンサルの仕事です。
デジタルマーケティング事業では、データに基づいた顧客のマーケティング戦略の実行を支援しています。
例えば具体的には、戦略に基づきWebサイトやアプリを実際に開発運用したり、効果的な販促プロモーションや広告配信を行います。
この一連の流れを通じて、顧客の課題に対してデータと理解に基づいた総合マーケティングソリューションを展開しています。
事業における優位性
資産・インフラ
まず我々のパネル会員(市場調査における回答者)は2023年12月時点で1,128万人のネットワークと2,500項目の詳細なプロフィールを有しています。
この1,128万人というのは重複したユーザーを調整したユニーク数であり、提携先の約30社から仕入れたデータを当社で統合させて活用しています。
また、データアナリティクスの技術を持つ人材は業界内では約3,000人ほどの就労人口しかいませんが、当社では300人以上抱えており広範な業界に対して専門的な分析が可能です。
またSES事業の人的基盤として、エンジニア数も100名を超えております。
またそのように豊富なパネル会員と社内人材を持っていることで、業界にとらわれることなく事業を展開しており、この資産とインフラは非常に強みだと考えています。
パネル活用
一般的なネットビジネスでは、最初に多大な資金を投じて会員を集め、その会員数に基づいて広告収入を得るビジネスモデルですが、我々は異なります。
顧客が求める露出量に応じて、必要な会員数を当社のネットワークから確保し、広告主に対しては実需に基づいた価格設定でサービスを提供しています。
メディア側としては当社には顧客データのみを販売し、アンケート作成や広告配信など工数のかかる業務がないため非常に好まれています。
実際、2019年から現在にかけて、パネル会員数は倍増しており、当社が提供するシステムの高い信頼性と運用のスムーズさが背景にあります。
また、中堅クラスのメディアとも取引がしやすくなっており、以前は30万人〜50万人規模で取引していたのが、現在では会員数が300万人規模の会員を保有するメディアと組むことが可能です。
このパネルを、顧客のニーズに即したプロモーションの場にしたり、リサーチを行ったりして当社の3事業それぞれに活用しています。
顧客基盤
当社は年間6,700社超の幅広い業種にわたる顧客基盤を有しています。
トップ顧客はやはり各業種を代表するナショナルクライアントではありますが、そうした巨大企業様だけでなく、中堅から小さなお客様までを広くカバーしています。
そのため特定の顧客に依存することなく、市場の影響も受けにくいのがポイントです。
また、先ほどお話ししたように当社の持つパネルは約30社の提携先から仕入れており、自社メディアではないため、顧客同士のカニバリゼーションを起こさないこともメリットです。
クロス・マーケティンググループの成長戦略
市場環境とポジショニング
我々と同様にリサーチ分野で活動している大企業は他にもあります。
ただこの分野は利益率が高く安定しているので、、利益を犠牲にするような新しい大きな投資やビジネスモデルの大胆な変更には慎重のようです。
対照的に当社は創業者の私が主導して柔軟性を活かしながら、リサーチ事業で生み出されるキャッシュを積極的に新規事業に投資し続け、総合マーケティング企業としてのポジションを築き上げてきました。
リサーチ以外の事業の売上高規模が進行期では100億円超になろうとしています。
今後もこの独自的なポジションの下、既存事業の強化と新規事業の開拓を行っていきます。
M&Aでの領域開発
成長戦略としては、市場の隙間を埋めるためにM&Aを活用しています。
特にマーケティング支援領域内でのデジタルマーケティング・データマーケティング・インサイトなどは技術の変化とともに手法が変わっていくため、新規事業開拓と既存事業深化の両方を行っています。
M&Aの際は、何らかの課題がある企業が売りに出されており低価で買収を行うことが多いのですが、当社としては、その課題を解決できれば十分なシナジーが見込めると考えて意思決定を行います。事業再生ファンドのようですよね。
また小さな成長企業にはよくあることですが、たとえばコーポレート部門の管理や内部統制機能が不十分な場合は当社から人材を派遣し改善を図りつつ、その会社の強みを活かしながら新たなシナジーを生み出していきます。
M&Aした先のPMIで意識しているのは、急速な事業転換や体制変更は避け、買収した企業の良さを維持しながら丁寧に統合することです。
これまでに30社を超えるM&Aを行いましたが、その中で売却した会社はわずか数えるほどしかありません。今後も事業領域の拡大のためにM&Aを行い、グループの着実な成長に繋げたいと考えています。
人材領域へ進出
新たな事業領域の拡大の次のステップとしては、デジタルマーケティング人材の領域に注力する計画です。
デジタルマーケティングの業界では、手法が日々進化しており、昨日まで有効だった戦略が今日では陳腐化してしまうということがしばしばあります。
例えば、SEO対策を主軸とする企業や、YouTubeを利用した企業など、技術の変化により市場から消えていく例があります。
このような変動の大きい市場に対して、安定した資産でもある”人”に着目したビジネスモデルを強化していくことが、我々の新たな方針です。
足元では子会社のオルタナエクスにおいて、エンジニアやデジタルマーケティング運用のデザイナー等を派遣する事業を拡大していきます。
また、デジタルマーケティングに関わるフリーランスのプロフェッショナル人材を企業に派遣するサービスも開始し、”ちょっと先の未来”の事業創造を支援する会社へ領域を拡大していく方針です。
注目していただきたいポイント
当社のパネル会員の”質”の高さに注目していただきたいです。
当社のリサーチ事業の大きな強みは、詳細な顧客データと広範にアクセス可能なネットワークにあります。
一般的に、多くのリサーチ会社ではほとんどが似たようなメディアからデータを仕入れているため、企業間での差別化が難しいという現状があります。
しかし、当社は1,128万人ものパネル会員と2,500項目に及ぶ詳細なデータを有しており、これにより非常に精密な市場調査が可能です。
また、Cookie規制の強化は、当社のビジネスモデルにとって追い風となっています。
当社はCookieに依存しない独自のデータネットワークを構築しており、ユーザーのプライバシーを尊重しつつ、精度の高いターゲットマーケティングが可能です。
このように現在のCookie規制によってデジタルマーケティングが難しい環境下でも、効果的な広告展開が行えるというのは大きなメリットだと知っていただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
当社のビジネスは季節性に左右されるため、第1四半期(7-9月)と第4四半期(4-6月)の売上及び利益が小さくなります。
これは主に、取引先における商戦や年度末の予算消化などによるものであり、第2四半期(10-12月)と第3四半期(1-3月)が当社の商戦期となります。
今期は第1四半期の収益が軟調で株価が大きく下落しましたが、商戦期の第2、第3四半期業績が年間の業績を左右します。現在のところ商戦期の業績は順調です。
そのような点を考慮すると、PER10倍程度となっている当社の株価は割安だと考えています。
また、中期計画の最終年度として来期25/6期には売上高300億円、営業利益30億円を目指すとすでに公表している通り、当社は着実に業績を伸ばしていきますので、今後の成長ポテンシャルに注目していただきながらご支援いただけると幸いです。
株式会社クロス・マーケティンググループ
本社所在地:〒163-1424 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー24F
設立:2013年6月3日
資本金:6.5億円(2023年6月末時点)
上場市場:東証プライム市場(2013年6月3日上場)
証券コード:3675