【5356】美濃窯業株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年6月5日に実施したIRインタビューをもとにしております。

美濃窯業株式会社の経営理念は「セラミックスを源流に、独自・多様な技術を磨き、社会の発展に貢献する。一味違う強い特徴を持つ、質の高い企業グループを目指す」です。

代表取締役社長の太田 滋俊氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

美濃窯業株式会社を一言で言うと

セラミックスを源流に、独自・多様な技術を磨き、社会の発展に貢献する会社です。 

美濃窯業の沿革

美濃窯業株式会社代表取締役社長 太田 滋俊氏

創業経緯

当社は1918年に現在の岐阜県瑞浪市で創業しました。

名古屋から車で1時間ほどの距離に位置する瑞浪市は、陶磁器の生産地として広く知られています。

創業者は岐阜県東濃地方(現・恵那市)の出身であり、当時、品川白煉瓦(現:品川リフラクトリーズ)という耐火物メーカーに勤めておりましたが、地元の資本家から東濃において新しい産業を立ち上げるよう依頼され、呼び戻されたのが創業のきっかけです。

当初は陶磁器と耐火物の製造からスタートしました。

近隣の長野県には渋沢栄一が設立に携わったとされる製糸工場もあり、当社は絹繊維を作るためのボイラー用耐火物を製造していました。

その後、高温産業向けの耐火物製品ラインアップを次々と拡充し、鉄鋼業・セメント業・ガラス業など多様な用途に対応する耐火物を供給してきました。

ニッチ分野への特化

1958年に発足した築炉部(現・プラント部)は当初はれんが、瓦、陶磁器用の各種焼成炉を製作しておりましたが、1960年代に発展途上国で耐火物、瓦や陶磁器を生産するための窯等の設備需要の高まりに合わせて、海外向けにプラントエンジニアリング事業を開始しました。

そして、1990年代以降は輸出需要の縮小と半導体産業の勃興によりファインセラミックス向けの高温ガス焼成炉へと顧客市場をシフトしながら成長していきました。

これが現在のプラント事業の源流となっており、現在では様々な熱処理炉や工業炉の設備をセラミックス、化学業界等向けに展開しています。

プラント事業は耐火物事業と同等の売上ボリュームがありますが、同業他社でも当社の設備が採用されるほど、高い技術力を持っています。

特に耐火物事業とのシナジーでは、従来の耐火物に比べて最大70%のCO2発生の削減を実現する断熱性の高い耐火物を開発することを可能とし、耐火物技術とプラント設備技術を融合させた工業炉を提供できることが当社の強みとなっています。

国内だけでなく、海外のファインセラミックスメーカーに当社の設備が導入されているなど、国内外で高い評価を得ています。

このようにプラント事業は他の耐火物メーカーと競合しない分野であるため、大きな強みとなっています。

一方、耐火物事業については、高度経済成長とともに鉄鋼業の競争が激化する中、連続鋳造法という大きな技術革新が起こり、鉄鋼資本系列に属さない独立系の当社は新技術への対応が難しくなり、鉄鋼業向け耐火物からの撤退をすることになりました。

そして市場規模はそれほど大きくないものの、一定の需要があるセメント用耐火物などのニッチな耐火物市場に事業を集中していきました。

東証スタンダード市場へ上場

1949年から名古屋証券取引所には上場していましたが、さらなる成長戦略を描く中で、企業の認知度を向上させ、取引の裾野を広げるために2024年3月に東証スタンダード市場に上場しました。

今後は名古屋だけでなく、全国の投資家の皆様に当社を知っていただく機会が増えることを期待しています。

美濃窯業株式会社 より提供

美濃窯業の事業概要と特徴

概要

当社は耐火物事業、プラント事業、建材および舗装用材事業の3つのセグメントで事業を展開しています。

売上の約8割が耐火物事業とプラント事業で、残りの約2割が建材及び舗装用材事業です。

耐火物事業ではセメント、石灰、焼却炉などの環境装置、リサイクル施設向けの耐火物を製造している他、ファインセラミックスの製造、原料加工などを行っています。

次にプラント事業では、ファインセラミックスなどの分野で、熱処理炉や工業炉、自動化設備、省人設備などの設計・製作・販売を行っている他、適切な耐火物を顧客設備に施工するためのエンジニアリングも行っています。

そして建材及び舗装用材事業では、セラミックスを活用した道路用の舗装用材などを製造・販売しています。

美濃窯業株式会社 より提供

事業における優位性

ニッチなセメント用耐火物

ニッチ市場であるセメント用耐火物に注力している点が大きな特徴です。

日本のセメント生産量は1996年の約9,800万トンをピークに、2023年度は4,000万トン強まで減少しています。

インフラの整備が進み、社会の成熟化とともにセメントの使用量は減少傾向にありますが、セメント用耐火物においては国内生産量の約4割を当社が占めており、国内トップシェアを誇っています。

日本国内で耐火物メーカーは30社ほどですが、セメント用耐火物に注力しているのは当社のほか数少なくなっています。

また国内だけでなく海外にも販売しており、セメント用耐火物に注力した独自のポジションを築いています。

美濃窯業株式会社 より提供

耐火物の製造からエンジニアリングまで

当社は設備用途に適切な耐火物の選択とその炉材設計から耐火物の製造、そして施工管理まで一貫して行うことが可能な耐火物エンジニアリング部門を持っています。

美濃窯業株式会社 より提供

高度なセラミックス技術

セラミックスは非常に硬く変形しにくく、熱の影響を受けにくいという特性を持っています。

そのため高度な熱安定性と寸法精度が求められる半導体関連製造設備に組み込まれ、近年の半導体需要に伴い拡大している分野でもあります。

美濃窯業株式会社 より提供

当社はそうしたファインセラミックスの製造工程に関わる、熱処理炉・工業炉などの供給だけでなく、工業炉内の炉材さらには被焼成物のための台板、棚板といったキルンファニチャーの製造まで一貫して対応することができます。

美濃窯業株式会社 より提供

また、当社自身もファインセラミックスを製造する技術力を高めており、当社の技術力が高く評価されつつあります。

美濃窯業株式会社 より提供

半導体製造・試験装置向けの酸化物ファインセラミックス焼成用設備もニッチマーケットですが、日本国内では独占している分野だと自負しています。

美濃窯業株式会社 より提供

また建材や舗装用材にセラミックスの活用が進んでおり、都市部を中心にカラー舗装や遮熱舗装などに当社製品が採用されています。

このように高いセラミックス関連技術を持ち、ニッチ且つ様々な領域に対応できることが当社の強みです。

美濃窯業株式会社 より提供

美濃窯業の成長戦略

サステナビリティ戦略

今後は環境・リサイクルプラント向けの耐火物の販売やエンジニアリングを強化していく他、先ほども強みの中でも少しお話ししましたが、私たちが開発した多孔質耐火物を活用した次世代省エネルギー型工業炉では、既存炉と比較して約40%〜70%のCO2排出量削減が可能になりました。

このようなカーボンニュートラルに貢献する技術・製品の開発と事業化を推進し、持続可能な成長を目指していきます。

美濃窯業株式会社 2024年3月期 決算説明資料 より引用

デジタル戦略

当社の生産現場ではロボット導入や生産管理のデジタル化を通じて、生産効率の向上とコスト削減を図っています。

特にセメント用耐火物の需要が減少する中で、ロボットの数を増やしながら、省力・省人化を実現し、量産効果を最大化させていきます。

また高度な技術や人手が必要な工程についても、ノウハウを蓄積しながら、可能な限りロボット化を進めていく方針です。

そして製造プロセス全体のデジタル化を推進し、効率的な生産体制を構築していきます。

グローバル戦略

セメント用耐火物、各種セラミックス製品やファインセラミックス用焼成設備等を海外に輸出していますが、売上比率は未だ低いのが現状です。

今後は海外比率を高めていくために、海外の技術も取り込みながら販路を拡大させていきたいと考えています。

具体的には、デンマークで150年近くセメント設備のエンジニアリングを行ってきたFLSmidth社とは20年に及び提携しており、国内セメント製造設備のメンテナンスやカーボンニュートラルに資する最新の効率化設備を日本に導入しています。

このように国内でのエンジニアリングの技術力も高めながら、海外展開を図っていきます。

美濃窯業株式会社 2024年3月期 決算説明資料 より引用

R&D戦略

当社は伝統的な耐火物やセラミックスの技術に加え、新しい社会的ニーズに応じた技術開発にも積極的に取り組んでいます。

現在、試験的に取り組んでいるのが、電気自動車(EV)の走行中に充電できる道路用の舗装材料の開発です。

道路ゼネコンに協力して当社はセラミックスを活用した特殊な舗装材を提供しています。

例えば横断歩道の手前5メートルに充電設備を地中に埋め込むことで、一時停止中に非接触で充電を行うというもので、路線バスなどで試験的に導入が進められていくと考えられます。

2025年の大阪万博の会場内でもこの技術を活用した舗装が計画されているようです。

この研究開発に関する事例はごく一部ではありますが、今後も新技術の開発や新製品の開発を積極的に行っていく方針です。

注目していただきたいポイント

当社はセラミックスに関連したニッチ分野における多角的な成長戦略や生産性の改善で、利益率は着実に上昇しており、過去10年で当期純利益は約1億円から約10億円へと増加しました。

また、配当利回りは4%強(インタビュー時点)と比較的高く、近年配当性向を高めることで、1株当たりの配当額も順調に増えています。

当社のニッチマーケットでの多角的な事業展開にご注目いただきながら、今後の成長に期待していただければと思います。

美濃窯業株式会社 2024年3月期 決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

美濃窯業という名前から、私たちを耐火物メーカーというイメージを持たれる方は多いと思います。当社のビジネスはエンジニアリングやセラミックスの技術にも強みを持ち、各事業同士でシナジーを生み出しています。

今後は耐火物事業に加え、設備事業や新しいセラミックス事業を含めた、耐火物メーカーとしての枠を超えた多角的な成長を実現していきます。

2025年3月期は現行の中期計画の最終年度にあたり、来年度にはこれを踏まえた新たな計画を発表する予定です。

当社は、耐火物、設備、セラミックスに強みを持ち、それぞれが相互に補完し合うことで安定した成長を実現しています。

1つの事業が不調でも他の事業でカバーする体制が整っているため、リスク分散が図られていることも特徴です。

ぜひ当社の事業に興味を持っていただき、ご支援いただければと思います。

美濃窯業株式会社

本社所在地:〒509-6121 岐阜県瑞浪市寺河戸町719番地

設立:1918年8月14日

資本金:8億7,700万円(2024年6月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場 (2024年3月18日上場)、名証メイン市場(1949年5月16日)

証券コード:5356

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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