※本コラムは2024年5月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社イードはニュースを中心とした21ジャンル81メディア・サービスで360°ビジネスを展開しています。
IT、自動車、教育、映画、ゲーム、アニメ、マネー、セキュリティなど、ビジネス、実用、趣味と幅広い展開を行っています。
代表取締役の宮川 洋氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社イードを一言で言うと
「We are the user experience company」という企業理念を掲げています。
顧客体験を大事にするという意味ですが、同時に社員が自分の好きな領域を、目一杯楽しんで事業に取り組んでほしいという意味も込められています。
イードの沿革
創業経緯
2000年4月に私が創業した会社です。
それまでは1980年代から1990年代にかけて活躍していたIT関連企業のアスキーに勤め、出版部門でメディア事業・インターネット関連事業に携わっていました。
いつか自分で出版社を立ち上げたいと考えていた私は、1999年の終わりにアスキーを退職し、当時東証マザーズ1号上場となる、上場直前のインターネット総合研究所に参画しました。
そこで社内ベンチャーとして当社を設立し、2011年に実質的なMBOを果たしました。
インターネット事業の受け皿に
当初インターネット黎明期、メディア事業をビジネスモデルとして成立させるのは非常に難しい状況でした。
そして2000年代前半にはインターネットバブルが弾け、インターネット関連メディアの事業継続が難しくなり、多くの企業がメディアを閉鎖したり、事業を手放すことになりました。
一方で当社は当時IT関連メディアを運営し、専門ニッチ領域に特化した運営を行い、小規模ながらもマネタイズに成功していました。
そのような中で、古巣のアスキーより事業を引き継いでくれないかという提案があり、2002年に自動車メディア(現在のレスポンス)をM&Aしました。
出版業界では出版社が倒産しても雑誌事業が他の会社に渡り、編集者やコンテンツがあればメディアは継続できます。
創業時から複数のメディアを持ち、この出版社のような存在を目指していた私は自社の編集者を活用して、例え自社サイトではなくともメディアを運営・成長させることができると考えておりました。
その後、様々なインターネットメディアを事業承継やM&Aで取り込みながら、メディアを多角化させていきました。
結果として多くのサイト運営によってバックオフィス系のノウハウや、サイト成長のためのノウハウの共通化ができるということに気づきました。
このようにメディアを増やしていき、2023年12月末時点では21ジャンル81のメディア関連事業にまで拡大させました。
イードの事業概要と特徴
概要
当社の事業はクリエイタープラットフォーム(以下CP)事業とクリエイターソリューション(以下CS)事業の2セグメントに分かれています。
CP事業ではネット広告、出版ビジネス、メディア・システム、データ・コンテンツ提供等、様々なマネタイズの方法があります。
また、CS事業ではECを中心としたITシステム提供やマーケティング・リサーチ事業等を展開しています。
事業における優位性
360°ビジネス
当社のグループ連邦経営による360°ビジネスが特徴です。
これはメディア広告を中核にしたB2Bビジネスから、B2Cビジネスまで360度に広げていくビジネスモデルです。
長年にわたりメディアの運営やコンテンツ提供を行い、広告枠の販売が主要な収益源でしたが、広告は年々形を変えており、従来のリアルからデジタル・インターネット広告へと移行してきました。
そこで私たちは情報発信業として、運営する専門サイトの周辺領域を取り込みながら、1つ1つのサイトをより緻密に収益化しています。
具体的には、イベントやオンラインセミナー等を開催したり、サイト構築のノウハウを活かして、顧客企業のEC構築支援を行ったりしています。
M&A実現力
これまで数多くのM&Aを行ってきました。
これには強固な財務基盤を持つとともにメディア事業のM&Aを長年続けてきたため、M&A仲介業者はもちろんですが、直接メディアの運営会社から声を掛けていただくこともあります。
当社には年間200件以上、営業日数に近い件数のソーシングを行っております。
また外部のM&A仲介業者からも毎日のように連絡が来ます。
2010年頃まではメディアの運営会社を仲介する業者はほとんど存在しませんでしたが、最近は仲介業者のビジネスが隆盛になっているためか、そのルートで入ってくる情報量も非常に多いです。
基本的に様々なジャンルを増やすためには1から作る必要がありますが、ある程度コンテンツとして出来上がっているメディアを買収することで、早期にジャンル数を増やしながら持続的な成長を実現しています。
メディア育成力
当社運営メディアには基本的なフォーマットが存在します。
例えば、出版物の文庫や新書が共通の形であるように、情報発信にも共通のフォーマットがあり、当社が長年メディアを運営してきたノウハウが活かされています。
これを共通プラットフォーム化したシステムを当社はイード・コンテンツ・マーケティング・プラットフォーム(iid-CMP)と呼んでいます。
このiid-CMPに組み込むことで、新規加入したメディアを成長させ、早期収益化に繋げています。
当社はニッチで多様なジャンルを取り扱い、1つのジャンルに特化したメディアを運営する一般的な企業とは一線を画しています。
またジャンルが小さくても360°ビジネスを活用することで収益化でき、それぞれの成長機会を見極め、全体収益を向上させています。
このように多様なジャンルの戦略で独自のポジションを確立していますが、特に自動車領域および教育領域では国内No.1のニュースサイトを保有・運営しております。
イードの成長戦略
AIメディアカンパニーへ
当社は売上を上げるために AIを活用するのではなく、いかに生産性を上げることができるのかについて常に考えています。
例えば、編集者が記事の見出しを考える場合、従来は3分で3個しか考えられなかったものが、AIを使うと1分で100個ほど生成できる、というようにAIが編集者をサポートする仕組みとして活用し、生産性が最も高くなる工程にフォーカスして取り入れていきます。
最終的には1人1人が制作するコンテンツクオリティを引き上げ、ある程度の実力でも高クオリティのコンテンツ作成ができるようなシステムを作り上げていきたいと考えています。
M&Aによる持続的な成長
先ほど、ソーシングは年間営業日数分(200件以上)あるとお話ししました。
7割がM&仲介業者、残りの3割は運営事業者自身からの直接のご依頼です。
当社は安定したキャッシュフローを持っているため、事業再生のような観点でメディアを引き受けることも可能です。
一般的な企業では研究開発費が発生しますが、当社におけるM&Aによるメディア買収・育成は、この研究開発費的な意味合いも加味しております。
メディア事業は、始めるよりも辞める方が多いのが現状です。
残存者利益を得るためにも、M&Aしたメディアを、ジャンルを超えて適用できるiid-CMPを活用して育成しながら、早期マネタイズ化を続けていきます。
注目していただきたいポイント
当社が提供しているメディアのジャンルは一般的ではなく目立たないかもしれません。
しかし、ニッチなジャンルを取り込むことで多くのビジネスチャンスや成長機会を創出していることに注目していただきたいです。
例えば、2012年にアニメのサイトを買収しました。
2024年現在、アニメ領域は非常に盛り上がりを見せており、当時の判断が今の成功に繋がっています。
今ではアニメ・映画・ゲームの垣根はなくなりつつありますが、約10年前から当社はエンタメの総合メディアとしてサイトを運営してきました。
具体例を挙げると、当社はアニメ業界のカンファレンスをビジネスマン向けに開催したり、逆にゲーム業界のカンファレンスをアニメ関係者向けに提供したりしています。
このように当社は常に市場の先を見据え、まだ注目されていないニッチな領域に着目しています。
今後も、将来性のある小さなジャンルに対して積極的な投資を行い、成長機会に変えていきます。
投資家の皆様へメッセージ
当社は株主還元に関して、非常に力を入れております。
グロース企業では珍しいことかもしれませんが、DOE(連結株主資本配当率)を採用し、2024年6月期は1.5%、2025年6月期は2.0%を見込んでいます。
当社はM&Aを積極的に行う一方、バランスシートの健全性を保つことにも注力しています。
M&Aの関係上、バランスシートにレバレッジをかけることも可能ですが、しっかりとした財務基盤を維持しながら株主還元を強化していく方針です。
これからも投資家の皆様に信頼される企業であり続け、努力を惜しまず、戦略的に事業を展開してまいります。
引き続きご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
本社所在地:〒164-0012 東京都中野区本町一丁目32番2号
設立:2000年4月28日
資本金:50,000千円(2023年6月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2015年3月24日上場)
証券コード:6038