※本コラムは2024年6月11日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社イントラストは家賃債務保証を皮切りに、医療や介護、養育費といった分野へもノウハウを展開し、個人の保証を支えています。
代表取締役社長 執行役員の桑原 豊氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社イントラストを一言で言うと
個人の信用力を保証し社会インフラを支える「総合保証サービス会社」です。
イントラストの沿革
創業の経緯
私は大学卒業後、外資系の損害保険会社でキャリアをスタートさせ、米国系とヨーロッパ系の二社で営業の経験を積みました。
その後、41歳の時に独立し、1999年に保険関係のコンサルティング会社を設立しました。
そして、2004年ごろから注目されていた家賃債務保証に目をつけ、保険会社で培ったリスクコントロールのノウハウとマネジメント経験を活かし、2006年に当社を設立しました。
当時の主要株主には投資銀行や再保険会社が含まれており、上場を前提にスタートしました。
大手顧客の獲得と資本注入
2007年10月から大和ハウスグループの大和リビングと業務提携を開始し、大和リビング専用商品「D-Support」の販売を開始しました。
当社の「家賃をきちんとお支払いいただける方に入居いただくため、審査基準を厳しくし、滞納リスクを抑える」という考えに共感いただき、今日までお取引いただいています。
しかし、どんなに審査基準を厳しくしても一定数滞納は発生します。家賃債務保証は滞納リスクが高く、多額の資金が必要であり、回収行為が肝となるビジネスです。
そのため、2008年のリーマンショックもあり、主要株主は当社売却を決定しました。
その結果、2010年2月にプレステージ・インターナショナルの子会社となりました。
当時、家賃回収のノウハウが不足しており、多くの滞納者を抱えていましたが、同社からの資金援助と弁護士との提携により、不良債権を一掃し、経営を立て直すことができました。
その後、無事にV字回復を果たし、2016年には東証マザーズ市場(現 東証グロース市場)に上場し、現在に至るまで着実に事業を伸ばし続けています。
そして、家賃債務保証のみならず、医療費用保証、介護費用保証、養育費保証や保証業務をサポートする周辺領域にまで事業を拡大させています。
イントラストの事業概要と特徴
概要
リスクを引き受ける保証事業とニーズに応えるソリューション事業を展開しています。
保証事業においては、BtoB向けには家賃債務保証を中心に医療費用保証、介護費用保証、BtoC向けには養育費保証を提供しています。
ソリューション事業では保証業務に関わる周辺の支援サービスを提供しています。
現在の売上の大半は家賃債務保証によるものですが、総合保証サービス会社として事業ポートフォリオを拡大させています。
事業における優位性
成長力の源泉:地縁・親族保証から機関保証へ
現在、居住用レジデンスの約90%が企業の家賃保証を利用している状況です。
以前は、親や兄弟、友人に保証を頼むことが一般的でしたが、今ではほとんどが企業が実施する審査を経て保証契約を締結する機関保証が導入されています。
残りの10%は、経済的に余裕がある方や、親族に頼る方々です。
基本的に無保証での入居はないため、何かしらの保証が入居の条件となっています。
また、2020年4月1日より民法が改正され、家主側では保証の極度額設定が必要になったことで、個人の連帯保証人に対する事務の手間が増える、極度額を超えた部分については回収が困難、などの課題があります。
また、利用者側については親族や友人に極度額を示すと「そんな額は払えない」と断られてしまうこともあり、保証人の確保がより難しくなっている状況です。
そのため、家主や入居者双方にとってメリットである機関保証の普及は迅速に進んでいます。
この社会の変化は、個人の信用力を企業が保証するサービスを持つ保証会社にとって追い風となっています。
家賃債務保証における収益構造
ビジネスモデルにおいて、収益構造の鍵は滞納率を一定の水準に抑えることです。
滞納が全くない状態では保証のニーズはなくなってしまいますが、過度の滞納は収益を圧迫します。
そこで、当社では独自の厳格な審査基準を設け、適切に滞納率をコントロールしています。
創業当初、業界では家賃保証会社は数社ありましたが、多くの会社は空室率を下げるために幅広く入居者を受け入れる方針をとっていました。
しかし、私は保険会社での引き受けの経験から、リスクには「グッドリスクとバッドリスク」があることを痛感していました。
そのため、同じ保証料を受け取るのであればリスクの低い入居者を選ぶべきだと考えました。
僭越ながら、大和リビングとの取引開始時には「弊社は審査は厳しいが、良い入居者のみを受け入れる」とお話しましたが、この考えに共感していただきお取引が始まっています。
この戦略は大手管理会社に受け入れられ、約300社との取引があります。
当社の売上規模は市場の約2%と業界の7位・8位程度ですが、滞納率や回収率についてはトップクラスです。
大手管理会社との強固な関係を構築できていることも、収益を生み出すためのポイントです。
このように、大手との取引と厳格な審査基準の下でリスクを抑えながら、専門性を持ったスタッフによる回収で安定的な利益を生み出しています。
医療分野の市場成長
現在、全国に20ベッド以上の病院が約8,300施設存在し、一定の割合で治療費の滞納が発生しています。
米国では、治療前に支払い能力を確認する場合が多いですが、日本では緊急治療が優先され、支払いが後回しになることがほとんどです。
結果として、一部の患者は治療費を払えず、病院に未収金が残留する問題が発生しています。
また、ほとんどの病院は治療費の回収インフラやノウハウを持っていません。
看護師や医者が回収業務を行うことはしないので、事務職員が行うことになります。
しかし、回収業務は彼らの本来の業務ではないため、なかなか回収することはできません。
こうして積みあがった未収金は病院の損失となり、経営を圧迫しています。
例えば公立病院では財務体質が悪化し、私立病院でも回収力不足が課題となっています。
そこで、当社は未収金問題を解決するために当社の専門的なスタッフの下、医療費用の未収金保証サービスを提供しています。
病院から一定額の保証料を預かり、未収金をゼロにすることで、病院のバランスシートを健全化し、行政指導の回避やスタッフの業務効率化に貢献しています。
例えば1000万円の未収金が発生した場合、当社は750万円の保証料を病院からいただきます。
当社の回収力により、500万円を回収できるので、250万円の利益が出ます。
病院側は750万円の支払いで未収金をゼロにでき、患者さんは連帯保証人を必要としません。
この「三方良し」のビジネスモデルを展開し、全国約8,300の病院のうち、144施設が当社のサービスを導入しています(2024年6月末時点)。
この医療費用保証事業は今後も市場が拡大していく成長分野だと考え、当社の競争力の源泉の1つだと考えています。
イントラストの成長戦略
賃貸不動産分野の成長戦略
まず、家賃債務保証に関しては約300社の優良な入居者を有するクライアントを中心に、同様のアプローチで事業を伸ばしていきます。
特に、大手ハウスメーカー系の大和ハウスグループは年間売上が5兆円規模で、賃貸住宅事業部門の大和リビングは売上の1/10以上を占めています。
大和リビングは全国に約65万室の賃貸物件を保有する、全国有数の不動産管理会社です。
そして、住友不動産、パナソニック ホームズ、ピタットハウスのスターツ、野村不動産などの大手企業とも取引があります。
また、地域No.1の不動産管理会社なども取引があり、優良なクライアント企業が多数あります。
この取引基盤を活かして、ソリューションサービスを提供しながら、一つ一つの管理会社と厚い関係を築き、リスクを適切にコントロールしながら事業を拡大させていきます。
医療分野の成長戦略
医療分野はブルーオーシャン市場であり、当社がパイオニアです。
現在は、損保ジャパンと東京海上日動と提携して病院の開拓を行っています。
損保会社にはほとんどの医師が加入している医師賠償保険という商品があり、損保ジャパンが市場の約70%以上、東京海上日動が約25%、その他の保険会社が約5%を占めています。
つまり、当社は損保ジャパン・東京海上日動を通じて、約95%の医師マーケットにアプローチすることが可能です。
私自身も損保会社出身であるため、損保会社のニーズやマーケットを理解し、効果的な提案を行っています。
当社と損保会社との関係性ですが、利害が一致しているため協業が可能です。
例えば、病院の未収金が1000万円発生した場合、当社は500万円を回収し、残りの500万円に保険をかけます。
最終的に当社は保険会社から保険金を受け取るため、当社は保険料を支払い、保険会社の売上になります。
つまり、病院が保証商品を導入することで損保会社の売上にも繋がっています。
このようなシナジーが当社と損保会社にはあるため、当社の保証商品のマーケットを戦略的に拡大させることができています。
介護分野の成長戦略
介護分野では、老人ホームや介護施設向けに保証商品を提供しています。
これは保険会社の商品に付帯させる形で提案しており、非常に評判が良い商品です。
現在では、入居時にほぼ全ての利用者が保証を利用しており、医療に比べて滞納は少ないものの、市場は非常に大きいと考えています。
民法改正による社会の変化が追い風となり、サービス導入が増えています。
こちらも損保会社などと協業を行いながらアプローチを進めてまいります。
新規事業と投資
新規事業として様々な事業を展開していますが、養育費保証が育ってきています。
数年前から取り組んできましたが、収益化に繋がらず難しい領域でした。
しかし、近年は地域貢献の観点などから地方自治体による支援も始まっており、それに合わせて、自治体や大手損害保険会社と連携して事業を行っています。
離婚後に十分な養育費を受け取れていない方々を支援するという、社会的な側面での貢献もしています。
まだ具体的な数字は公表できませんが、非常に有望な市場です。
また、成長を支える事業基盤への投資と、ベンチャー投資・M&Aを行っていきます。
M&Aに関しては、同業他社とのシナジーを重視し、「儲かりそうだから」という理由ではなく、戦略的なシナジーを見極めながら積極的に検討しています。
全ての可能性を排除せず、M&A仲介業者等から紹介を受けた案件は慎重に評価し、トータル的な判断を下す方針です。
注目していただきたいポイント
当社は2016年の上場以来、継続して増収増益を達成してきました。
特に2024年3月期は約30%の増収を達成しましたが、あまり株価が上昇していない状況です。
そこで、第3次中期経営計画を策定し、2025年3月期の売上を約100億円とし、3年後には1.5倍の150億円に増やす目標を掲げています。
配当性向もこれまでの30%から2025年3月期は40%に引き上げることを検討しており、計画の最終年である2027年3月期には60%を目指す方針です。
我々のビジネスモデルは、安定的なストックとフローの両立を図りながら、社会貢献性の高い分野に展開していく形式です。
しかし、売上の大半が家賃債務保証事業なので、不動産業界のPER(株価収益率)に引っ張られて評価が低くなっている状況です。
ただし、一般的な家賃保証会社と異なり、誰でも保証を引き受けるわけではなく、厳しい審査を通過した入居者のみを対象としています。
業界内でも営業利益率は高く、取引先も大手企業が中心という特徴があります。
今後は安定した家賃債務保証事業における強みを活かしながら、事業ポートフォリオを多角化させていきます。
安定事業と成長事業の両輪で成長していき、積極的な株主還元も行っていきますので、今後の事業展開にご注目いただき、期待していただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
当社が最も大切にしているもののひとつにあるのが株主の皆様です。
株主還元を最優先に考えながら、事業を支えるクライアントファーストの姿勢を貫いています。
そのような中で当社の大口取引先である大手企業との取引において、法令遵守は最重要事項です。
どんな状況でも妥協せず、コンプライアンス遵守を徹底しています。
また、事業の安定化を図る観点からもレバレッジの使用については慎重な姿勢を保っています。
金利の上昇に影響されないよう、借入金はゼロを維持し、健全な財務内容を確保しています。
今後の成長と安定性に期待していただき、引き続きご支援いただけることを心より願っております。
株式会社イントラスト
本社所在地:〒102-0083 東京都千代田区麹町1-4 半蔵門ファーストビル2F
設立:2006年3月9日
資本金:10億45百万円(2024年6月アクセス時点)
上場市場:東証スタンダード市場(2016年12月7日上場)
証券コード:7191