【1789】株式会社ETSホールディングス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年6月19日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社ETSホールディングスは歴史ある電気工事専門会社として、電気・電力のインフラ整備に貢献しています。

代表取締役社長の加藤 慎章氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社ETSホールディングスを一言で言うと

『この街に明かりを灯すのは私達』

100年の伝統から100年の未来を創る会社です。 

ETSホールディングスの沿革

株式会社ETSホールディングス代表取締役社長 加藤 慎章氏

創業の経緯

当社は大正11年に創業し、現在102年目を迎えています。

元々は「山加商会」という名称で、東京八重洲口前の旧大阪商船ビルにおいて、電灯電力設備ならびに送配電工事業者として設立されました。

創業当初の1923年には、北陸送電株式会社の常願寺送電線の66kv鉄塔架線工事など、7件のプロジェクトを受注し、総額267,400円の売上を上げました。

その後、1936年には朝鮮電力株式会社からの初仕事で朝鮮半島の送電網を構築し、1940年にはパラオ諸島にて無線塔の再建設を行うなど海外にも事業を進出させました。

公共事業の拡大と株式上場

1954年には東京電力から湯宿-信濃川線の送電線工事を受注しました。

そして、1961年にはベトナム内戦中にも関わらず、約二年にわたりベトナムで729基の鉄塔を建設し、230kvの送電線を完成させました。

また、1963年には黒部ダムの電気工事を完工させるなど、数々の大規模プロジェクトを成功させてきました。

その後、1988年には国内初の百万ボルトの送電工事を受注し、1995年2月には株式上場を果たしました。

このように公共事業を中心に拡大し、株式上場によって名実ともに社会インフラを支える企業として成長を続けてきました。

ホールディングス化

2017年12月に社名を株式会社ETSホールディングスに変更し、単一事業にとらわれず幅広い分野で事業を展開する企業への転換を目指しました。

実は、この社名変更はホールディングス化に向けた第一段階に過ぎません。

これには、2021年から2022年にかけて同業他社4社をグループ化し、事業会社兼持株会社の形態となり、マネジメントが複雑化していたという背景があります。

そこで、私が4社の代表を兼任するよりも、ホールディングス化して各子会社にマネジメント体制を敷いた方が経営上メリットがあると考えました。

そこで、2024年10月1日より、ETSホールディングスの上に新たにETSグループを設立し、テクニカル上場を行う予定としました。

その純粋持株会社の下で現在展開している3セグメントを明確に分けて管理し、それぞれの事業を成長させていきたいと考えています。

株式会社ETSホールディングス2024年9月期第2四半期 決算補足説明資料 より引用

ETSホールディングスの事業概要と特徴

概要

当社の事業は大きく三つのセグメントに分かれています。

売上の50%以上を占めるのは電力事業です。

主なお客様は電力会社です。

特に東北電力ネットワークさんとの取引が最も多く、その他にも東京電力さん、中部電力さん、関西電力さん、四国電力さん、中国電力さんとのお取引があります。

送電工事を元請けできるTier1の企業として、北海道と九州を除いたほぼ全国規模で工事を展開しています。

残りの売上は設備事業と建物管理事業が同じ割合くらいで占めています。

設備事業では発電所内の変電設備の工事や、諸施設へのLEDの導入などを行っています。

中でも、再生エネルギーの発電所などを開発するデベロッパーさんや官公庁とのお取引をしています。

そして、建物管理事業はグループ会社二社の売上が寄与しています。

首都圏でマンション管理業務を行う会社と、大阪でオフィスビルなどの消毒液や空調をメンテナンスする会社の二社です。

他事業とのシナジーは僅かですが、利益率が高く将来的にも安定した収益を期待できるセグメントとなっています。

株式会社ETSホールディングス2024年9月期第2四半期 決算補足説明資料 より引用

事業における優位性

大規模プロジェクトへの参画

数年前から、東北電力さんと協業して国家プロジェクトに参画しています。

国が進める送電網強化プロジェクトの一環として、東日本大震災後の計画停電の問題に対応するための送電工事が東北地方で行われています。

そこで、基幹送電線という150メートルほどの鉄塔を建設する大規模なプロジェクトを受注し、東日本の電力の大動脈とも言えるインフラ建設を任されています。

このような大規模で責任のあるプロジェクトに参画するためには、長年積み上げてきた実績が必要です。

例えば、電力会社からの仕事を受注する場合、入札方式が一般的ですが、重要なプロジェクトにおいては価格だけでなく総合評価方式が採用されています。

評価基準としては100点満点中、価格が50点、その他が50点という配分ですが、その他の評価項目には、これまでの品質管理やコスト削減の貢献度など、一朝一夕では充足できない基準が含まれています。

そのような厳しい基準のなかでも、2023年に当社は東北電力さんの取引業者の中で最も高い評価を獲得しています。

当社の100年以上にわたる実績と技術力が、大規模プロジェクトの受注に繋がっており、お取引先から評価されていることは大きな強みだと考えています。

株式会社ETSホールディングス2024年9月期第2四半期 決算補足説明資料 より引用

高い技術力と専門人材

電力事業は、送電工事の現場で働く”ラインマン”と呼ばれる方々が支えています。

ラインマンは鉄塔建設や、鉄塔間に電線を張る架線工事の設計・施工・保守・点検などを担います。

非常に危険な場所での作業かつ、地形の把握や木材の伐採など、長年の経験とノウハウが必要です。

このような技術力のあるラインマンを確保していることは当社の競争力に繋がっていると考えています。

また、設備事業では高電圧を扱う専門人材が必要です。

当社は単なる太陽光パネルの設置業者ではありません。

電力会社と交渉が必要な太陽光発電や風力発電の変電設備等の設置を生業としています。

まず、変電設備の設置には難易度の高い高電圧の制御が必要で、特別高圧を扱える技術力が求められます。

また、感電のリスクも伴うため非常に危険な仕事です。

さらに、万が一でも停電が発生すると電力会社にとっては大問題となるため、大手企業でも敬遠されてしまう業務です。

そして、許可や契約のための書類も大量で、その作成には専門的なノウハウが求められます。

そのため、大手ゼネコンから我々に依頼が寄せられることが多いのも事実です。

このように、高い技術力と専門性を持った人材を有していることが、当社の優位性だと考えています。

ラインマンの作業風景
株式会社ETSホールディングス より提供

ETSホールディングスの成長戦略

送電網強化プロジェクトの安定受注

向こう10年程度は東北エリアの送電網強化プロジェクトからの安定受注が続くと予測しています。

経済産業省の資料によれば、6兆円から7兆円の予算のうち、約半分が北海道-東北-東京間の送電網に充てられています。

その中でも、我々がターゲットとしているエリアでの総予算は約2,000億円です。

今後も東北エリアを中心に送電網の増強が本格化していくため、新規受注は続きます。

また、このプロジェクトが終了したとしても、鉄塔や送電設備の保守・メンテナンス業務が引き続き発生し、安定した収益が期待できます。

既に東京電力から案件もいただいているため、足元で受注いただいている東北電力からの案件をしっかりと遂行していきます。

送電線強化プロジェクトの状況
株式会社ETSホールディングス より提供

事業ポートフォリオの多様化

2024年10月1日に、純粋持株会社体制への移行を予定しており、事業ポートフォリオの多様化を進めます。

電力事業は大型案件の受注など、年によって受注額が異なるため、売上の変動が大きいことが特徴です。

一方で、建物管理事業は、大規模ビルのメンテナンスを担当しているため安定的なストックビジネスとなっています。

例えば、阪急ビル、阪神ビル、近鉄ビル、リーガロイヤルホテルなどの空調や消毒液の補充、定期点検を行っています。

一度契約すると基本的には毎年更新され、長期間にわたって解約されないケースがほとんどです。

グループ全体の事業基盤の安定化を図る上でも、建物管理事業を強化していくためのM&Aも検討しています。

今後は新たなホールディングス体制の下、事業拡大に努めて参ります。

体制変更後のグループ図
株式会社ETSホールディングス より提供

株主還元方法の変更

株主の皆様を公平に扱うための施策として、株主優待を廃止し、配当を増やしました。

2023年9月期中に2円の増配を行い、2023年9月期の発表のタイミングで株主優待廃止と1円の増配を実施しました。

実質的には3円の増配となりましたが、お伝えするタイミングがズレてしまったこともあり、株主の皆様には誤解を招く表現となってしまいました。

今後は積極的なIR活動や広報活動を通じて、透明性の高い情報をお届けしていきます。

注目していただきたいポイント

当社は電力・エネルギー業界において、そのインフラを支えるための重要な役割を果たしています。

しかし、送電という分野自体のマーケットはそこまで大きくなく、再生可能エネルギーや脱炭素といったテーマの中では見過ごされがちな事業です。

足元では国家プロジェクトへの参画など、非常に大規模な案件にも携わらせていただいています。

将来的にも案件は増えていくことが予想され、案件規模に耐えうる人材の獲得や省力化・DX化など、当社の改善の余地はまだまだあります。

一般的に建設業界のDX化は遅れていると言われていますが、その中でも我々の業界は特に遅れていると感じています。

当社も導入できるところから徐々にDX化を進め、事業拡大を目指していきます。

今後の我々の取り組みや成長に、ぜひ注目していただきたいと思います。

投資家の皆様へメッセージ

まず、当社の社会性・公共性の高い事業に興味を持っていただくとともに、成長戦略とそのための取り組みを正しく評価していただければ幸いです。

長期的な視点で見ていただき、我々と共に歩んでいただけることを願っています。

ぜひご興味を持った方、もっと知りたい方は当社までご連絡いただければと存じます。

株式会社ETSホールディングス

本社所在地:〒171-0022 東京都豊島区南池袋1-10-13

設立:1935年12月12日

資本金:9億8,966万円(2024年6月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1995年2月17日上場)

証券コード:1789

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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