【3727】株式会社アプリックス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年7月18日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社アプリックスは経営理念として「テクノロジーの力で「ワクワク」の共有と価値創造」を掲げ、幅広い分野のテクノロジーを有するモノづくりの会社として生活を豊かにするサービスの開発を行っています。

代表取締役社長の倉林 聡子氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社アプリックスを一言で言うと

システム開発力と通信サービス事業者としての強みを生かし、生活の質を高める革新的なサービスの実現を目指す会社です。  

アプリックスの沿革

株式会社アプリックス代表取締役社長 倉林 聡子氏

創業経緯

当社は1986年に創業し、2024年12月期で39年目を迎えます。

創業者は学生時代から組込みシステムの開発を手掛けており、ビジネスとして立ち上げたのが始まりです。

創業後の1996年には、国内初のJavaライセンスを取得しました。

当時の携帯電話はガラケーと呼ばれ、スマートフォンのようにインターネットに接続することはできませんでした。

そこで各社の携帯OSに当社が開発した組み込み向けJava実行環境「J-Blend」を提供し、インターネットに接続できるサービスを実現しました。

この技術は国内外の大手キャリア、携帯機器メーカーなどに採用され、全世界で累計約9億台の携帯電話に搭載されました。

これを契機に、2003年に東証マザーズ(現 東証グロース)に上場を果たしました。

上場からの事業変遷

上場までの間、J-Blendを中心とした携帯向けミドルウェアの事業を展開していましたが、2007年頃からAndroidやiPhoneといったOSを搭載したスマートフォンが台頭したため、J-Blendの重要性が低下しました。

この状況を受け、ゲームやアニメのコンテンツが紙媒体からウェブやデジタルに移行することを見越し、M&Aを行いながらエンタメ業界を支えるソフトウェア会社を目指しました。

しかし、想定したようなシナジーを得ることができず、2017年にこれらエンタメ関連の事業をすべて譲渡し、組込みを中心とするシステムの開発に再フォーカスしました。

これを第二の創業と位置づけ、新たに走り出しました。

ビジネスモデルの確立と黒字転換

2017年ごろから、組込みシステムで培ってきた知見を活かしてIoT関連のシステム開発にも注力してきました。

さらに、2019年にはIoTと親和性の高い通信サービスを展開するためにM&Aを行い、ストック収益の確保を目指しました。その後も売上と利益の安定化を図りながら、収益性の改善に努めています。

その結果、2022年12月期から2023年12月期にかけて2期連続の黒字を達成し、2015年から付いていたGC(ゴーイング・コンサーン)注記を解消しました。

現在は成長のために必要な投資を行い、今後の取り組みを進めるためのマインドチェンジの想いを込め、「テクノロジーの力でワクワクの共有と価値創造」を新たな経営方針として掲げています。

株式会社アプリックス より提供

アプリックスの事業概要と特徴

概要

当社は、ストックビジネス事業とシステム開発事業の2つのセグメントで展開しています。

株式会社アプリックス より提供

ストックビジネス事業はBtoB、BtoBtoB/C、BtoCなど顧客が多岐にわたり、継続課金モデルのサービスを提供することで非常に安定した収益基盤を構築しています。

現在、ストックビジネス事業の売上の8割以上が子会社のSMCが提供する通信サービス関連です。

SMCはMNO(移動体通信事業者)およびMVNE(仮想移動体サービス提供者)から回線を、メーカーから様々な種類の端末を、コンテンツ事業者からは多岐にわたるコンテンツを仕入れています。

当社は、MVNO(仮想移動体通信事業者)として消費者に向けて各種プランを提供するだけでなく、OEMとして他社ブランド向けの一連のバックオフィス業務も担っています。

株式会社アプリックス より提供

また、モバイルWi-Fiルーター「THE WiFi」や、AIドライブレコーダー「AORINO」といったサービスも展開中です。

株式会社アプリックス より提供

さらに、IoT(Internet of Things)関連サービスとして、水質モニタリングシステム「HARPS」やIoTデータ通信サービス「unio」を提供し、ストレージクラウドサービス「Neutrix Cloud」も展開しています。

株式会社アプリックス より提供

システム開発事業では、長年培ってきたコア技術を活用し、顧客が実現したいサービスを具現化します。

株式会社アプリックス より提供

ネスレ様やアクアクララ様を始め豊富な開発実績があり、企業の企画チームと協力してPoC(Proof of Concept)やテストデータの作成、テストサイトの構築を進め、柔軟かつスピード感のある開発を実現しています。

事業における優位性

ストックビジネス事業の強み

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

MVNO事業者として通信サービスを提供するだけでなく、他社ブランドの裏方でデータ通信サービスを提供し、契約管理や請求収納管理、代金回収、カスタマーサポートなどを包括的に提供できることがこの事業の大きな強みです。

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

さらに、通信サービス以外にも自社や他社システム・クラウドで培った知見をベースに、様々なサービスラインナップを取り揃えています。

例えば、AORINOという通信機能付きAIドライブレコーダーには、急ハンドルや急ブレーキが発生した場合にドライブレコーダーのデータをクラウド上にアップロードする機能が備わっています。

このサービスは個人向けおよび法人向けの両方に対応しておりますが、物流の2024年問題やアルコールチェッカーの義務化などの法規制が追い風となり、法人向けでさらにニーズが高まっていくと考えています。

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

システム開発事業の強み

当社のシステム開発事業における強みは、1986年の創業以来、様々な業界に提供してきた「組込み」開発力にあります。

長年培ってきた開発力を活かし、大手顧客との取引を実現しています。

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

また、組込みソフトウェアからアプリケーション、バックエンドシステム、フロントシステムまで、ワンストップで開発できる点が強みです。

多くのシステム開発会社が受託開発のみを行うことに対し、当社は企画段階から顧客と直接コミュニケーションを取り、多様なニーズにしっかりと応えています。

従業員数が約50名という規模ながら、上流工程から下流工程まで一気通貫で顧客に寄り添うビジネスです。

さらに、積極的に最新技術を取り入れ、AI技術なども活用して顧客のシステム開発に役立てています。

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

アプリックスの成長戦略

事業ビジョンの策定

当社では経営理念に基づき、当社の現状、当社が持つ強みや存在価値、当社を取り巻く事業環境の変化などを踏まえて検討した結果、自分たちがこうありたいと考える姿を目指すべき成長目標として定め、「ICTと最新テクノロジーの融合による豊かな生活体験の創出」を事業ビジョンを掲げました。

株式会社アプリックス より提供

この事業ビジョン達成にあたり、当社は社会解決型プラットフォーマーを目指したいと考えています。

社会解決型プラットフォーマーへの道筋として、まずは短期の目標として、既存リソースの最適化と情報プラットフォームを構成する新たなビジネスの構築を行います。

また、中期の目標として、特定顧客、特定業界特化型のプラットフォームを構築し、情報プラットフォーマーとしての土台を固めたいと考えています。

株式会社アプリックス より提供

これらに基づいて作成した事業ロードマップでは、我々が取り組むべき事業について「情報プラットフォーム事業」、「通信サービス事業」、「システム開発」の3つのセグメントに切り分けたうえで、各事業を推進していく内容としています。

株式会社アプリックス より提供

社会課題解決型サービスを提供するプラットフォーマーを将来の目標に据えた情報プラットフォーム事業では、クラウド型のAIドライブレコーダーであるAORINOを、特定属性の個人向けや特定業界向けにリブランディングし、データビジネスとしての最適化を実施していきます。

また、新たにリアルマーケティングや広告サービス、決済サービスなどを展開することで、特定顧客、特定業界向けの情報プラットフォームを構築したいと考えています。

情報プラットフォーム事業を構成する要素技術の一つでもある通信サービス事業では、引き続き当社グループ収益の柱として収益拡大に向けて取り組みます。

システム開発は、引き続き重点顧客向けの開発や戦略的技術案件を実施しつつ、当社が今後注力していく情報プラットフォームの構築や通信サービスの拡充において必要となるエンジニアリングの領域を担当していく予定です。

中期業績目標

2027年12月期までに事業利益10億円を目指しています。

今後はストックビジネスの新規開発やサービスの拡充、そしてM&Aで成長を加速させる方針です。

株式会社アプリックス より提供

2024年4月には株式会社H2という会社を取得し、ストック収益基盤を強化しました。

H2社は光コラボレーションサービス、つまり固定回線領域のビジネスを展開しており、既存の回線とのクロスセルや新サービスの共同プランニングを進めています。

第2四半期から決算に業績が反映され、年間を通じて見れば約2億円の利益を生み出すビジネスになるため、今後の成長に期待しています。

株式会社アプリックス 2024年2月14日 事業計画及び成長可能性に関する事項の開示 より引用

しかし、当社は通信サービス事業者になることが最終目標ではなく、独自サービスの開発も重要だと考えています。

新規事業開発を進めながら、利便性や安定性、生活の質を向上させるサービスを提供していきます。

株式会社アプリックス より提供

人的資本経営への取り組み

当社は少数精鋭ながら全員がプロ意識を持ち、高いパフォーマンスを発揮できるような会社を目指しています。

2023年には社員一人ひとりが高い意欲を持ち充実感を感じながら仕事に打ち込めるような環境作りを目指した社内プロジェクト「ワークライフ・コラボレーション・プログラム」を作り、多様な働き方を促進する組織づくりや、学習機会の提供、コミュニケーション活性化によるチームワーク強化を進めています。

株式会社アプリックス より提供

資格取得支援制度の強化や、テレワークの導入を進め、現在はフルリモートに近い体制で事業を運営しています。

こうした多様な働き方を提供したことで、2023年度および2024年度には地方在住の優秀な人材の獲得に成功し、事業基盤の強化に繋がりました。

株式会社アプリックス より提供

株主還元策

2024年5月から7月25日まで自己株式を取得し、株価の上昇を図りました。

またこれまで実施できていなかった剰余金の配当についても現在取締役会などで検討を進めております。

今後も資金状況や株価、投資戦略に応じて適宜株主還元策を積極的に実施していきたいと考えています。

株式会社アプリックス 2024年12月期 第1四半期決算補足説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

投資家の皆様が今後の成長戦略や配当性向にご関心を持っておられることは、私たちも十分に理解しています。

当社から具体的な方向性を明示できていない部分もあるかもしれません。

しかし、長年続いていた厳しい状況を改善し、この数年間で業績改善と収益基盤の構築に成功しました。

現在、私たちは成長につながる新しいフェーズに入っていると認識しています。

ストック収益で利益を確保しつつ、成長投資を進めています。

具体的には、M&Aによるビジネスの再構築や新規事業の開発を行っており、これらの取り組みが着実に成果を出しています。

今後の取り組みと成果に注目していただき、当社が目指す成長の方向性に期待していただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

これからは成長イメージを早期に具体化し、新規事業の開発やM&Aなど成長投資を行っていきます。

ぜひ、アプリックスの事業と成長戦略を知っていただき、温かく見守っていただければと思います。

投資家の皆様の期待に応える企業として、より一層努力してまいりますので応援のほどよろしくお願いいたします。

株式会社アプリックス

本社所在地:〒169-0051 東京都新宿区西早稲田二丁目20番9号 

設立:1986年2月22日

資本金:5千100万円(2024年7月アクセス時点)

上場市場:東証グロース市場(2003年12月17日上場)

証券コード:3727

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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