【202A】株式会社豆蔵デジタルホールディングス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年8月21日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社豆蔵デジタルホールディングスは生成AIやロボティクス技術における最先端技術を扱い、製造業や金融業を中心に本質的なDX化を実現しています。

代表取締役社長の中原 徹也氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社豆蔵デジタルホールディングスを一言で言うと

最新技術をつたえるソフトウェアの伝道師です。 

豆蔵デジタルホールディングスの沿革

株式会社豆蔵デジタルホールディングス代表取締役社長 中原 徹也氏

創業の経緯

1999年、システム障害が頻発していた時代に豆蔵は設立されました。

当時、システム開発の失敗は下流工程の問題とされていましたが、エンジニアでもあった創業者達はそれが上流工程に起因するものだと考えていました。

当時、システム開発の現場ではクライアントからの要望に応える受託ビジネスが一般的でした。

そのため、受託元が定義した要件の間違いに気付かないまま開発を進めてしまうことで、システム障害などのトラブルを引き起こしているのではないか、との結論に至ったのです。

そこで、当社は正しい要求をシステム構築に落とし込んでいくため、オブジェクト指向によるソフトウェア開発に着目しました。

現在、オブジェクト指向は一般的な開発手法として広く認知されていますが、当時はまだ普及していませんでした。

プログラミング言語には長い歴史があり、機械語の誕生からC言語による構造化プログラミングへと開発手法が変わっていきました。

そのような中、1980年代後半から欧州でソフトウェア危機が発生しました。

ソフトウェアの供給が追い付かず、これまでの家内工業的な職人芸に頼った開発手法を見直し、効率的に開発していく必要がありました。

そこで台頭してきたのがオブジェクト指向を体現したプログラミング言語のJavaです。

当社はこの技術を産業界に広めることで、開発効率を大幅に向上させることができると確信しました。

そして、JavaBeans(Javaの仕様の1つ)のBeansから「豆」という文字を取り、知識や技術の蔵元になりたいという思いで「豆蔵」という社名で創業しました。

技術の拡張

当初、オブジェクト指向は組込み技術に活用されました。

組込み技術とは、製品やハードウェアを制御するためのソフトウェア技術で、白物家電や携帯電話、複写機器など、製造業全般で広く使われていました。

しかし、不景気の影響で日本の製造業全体の元気がなくなり、オブジェクト指向を活用できる市場も次第に縮小していきました。

これに対して、豆蔵は新たな成長の道を模索し、エンタープライズ領域への進出を図り、大規模なシステム開発においてオブジェクト指向を活用することで事業拡大に成功しました。

そして、2013年からロボティクス分野に挑戦しました。

中国の国営企業から産業用ロボットの開発依頼を受け、日本の企業として豆蔵が選ばれたのです。

それまでソフトウェア開発の技術しか無かった私たちにとって、ハードウェア開発は挑戦的な試みでしたが、5年の歳月をかけて産業用ロボットの開発に成功しました。

現在、省力化や自動化を推進する産業用ロボットの需要が高まっていますが、IT企業としてこの分野に進出している企業は珍しく、業界内でもソフトウェアとハードウェアの両方を扱える独自のポジションを築き上げました。

事業再編と再出発

豆蔵はホールディングス体制を敷いていたものの、マーケットから見た際にその事業内容が明確でなく、時価総額が伸び悩んでいました。

いわゆるコングロマリットディスカウントと呼ばれる状態に陥っており、事業全体の価値の合計よりも低く評価されていました。

そこで2020年に企業価値向上のためにMBOを行い、株式非公開化による事業再編を進めました。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そして、豆蔵デジタルホールディングスを親会社とし、AIとロボティクスのコンサルティングを行う豆蔵、生成AIやERP事業を推進するエヌティ・ソリューションズ、モビリティ業界への自動化支援などを提供するコーワメックスの3社をまとめるホールディングス体制を構築しました。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そして、2024年6月27日に東証グロース市場に新規上場を果たすことができました。

豆蔵デジタルホールディングスの事業概要と特徴

概要

グループ連結売上の約6割を製造業が占めており、その中でも自動車産業を含めた輸送産業が大きな割合を占めています。

自動車産業を含む製造業ではDX化推進が重要視されていますが、DX化実現のためには日本特有の大きな課題が2つあります。

まず1つ目の課題は、デジタル化の足枷となっているレガシーな基幹システムです。

例えば、SAPの「2025年の崖」や、富士通のメインフレームの保守が2035年までに終了するというようにクラウド化が必須の時代になっています。

もし基幹システムのクラウド化が進まなければ、ビジネスに必要なデータの所在が不明確になり、デジタル化のスピードは著しく低下してしまいます。

2つ目の課題は、IT人材の内製化の問題です。

日本ではIT人材の約7割〜8割がIT業界に従事しており、ユーザー企業で働く人材は約2割〜3割に過ぎません。

一方で、海外ではIT人材の8割がユーザー企業に属しており、日本に存在するSIer(システムインテグレーター)というカテゴリーはありません。

この構造の違いが、日本企業における開発スピードの遅さの原因だと考えています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そのような課題を解決するために当社は、クラウドコンサルティング、AIコンサルティング、AIロボティクス・エンジニアリング、モビリティオートメーションの4つの領域に注力しています。

まず、クラウドコンサルティング事業では、IT人材の内製化推進やクラウドERPの導入支援を行い、柔軟かつ効率的な業務運用を実現しています。

具体的には企業のIT人材を育成し、基幹システムをクラウド化することで、開発スピードやアジリティを高めることが当社の役割です。

次に、AIコンサルティング事業では、生成AIの導入支援をはじめ、AI技術がもたらすメリットを広く普及させるための取り組みをしています。

特に、AI人材やDX人材の育成を通じて、企業が将来にわたって競争力を維持できるようサポートしています。

さらに、AIロボティクス・エンジニアリング事業の主なサービスは製造業向けに工場の自動化を支援することです。

AI技術とロボティクスを組み合わせたソリューションにより、生産性の向上と効率化を実現しています。

そして、モビリティオートメーション事業では、東海地区に拠点を構えるコーワメックス主導の下、CASE(Connected, Automated/Autonomous, Shared & Service, Electrification)対応、自動化支援やリアルタイムデータの可視化など、次世代モビリティの開発支援を行っています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

知識集約型の「豆蔵Way」

当社の強みは知識集約型の独自ビジネスモデルである「豆蔵Way」です。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このモデルの特徴は、ソフトウェア開発に熱い情熱を持つエンジニアたちが中心となり、顧客の課題に対して独自の視点で提案を行う点にあります。

豆蔵のエンジニアたちは、単に与えられた指示を実行するだけでなく、自らの知識と経験に基づき、より良い方法を提案しています。

例えば、顧客からの依頼で「A→B→C」の手順でロジックを組んだ提案をして欲しいと依頼されたとしても、それが顧客のためにならないのであれば、エンジニアたちはあえて「C→B→A」という新たなアプローチを提案する場合があります。

このような尖った提案は、時にはコンペでの失注を招くこともありますが、顧客がその後に失敗を経験した際、「あの時の豆蔵の提案は正しかった」として、再度依頼が舞い込むケースも少なくありません。

「豆蔵Way」の根幹には、技術やノウハウを社内に蓄積し、それをナレッジとして活用する文化があります。

当社のエンジニアたちは、日々の取り組みや学びを社内で共有し、若手エンジニアたちがそのナレッジを活用してプロジェクトを推進できる環境が整えられています。

特に生成AIとナレッジを組み合わせた取り組みにより、プロジェクトの進行に必要な情報を迅速に取得できる社内システムを構築し、効率的な開発を実現しています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また、豆蔵デベロッパーサイトという情報を自由に共有できるオープンサイトの運営を行っており、エンジニアが自ら論文を執筆しWEBサイトを使って知識や技術を広めるという取り組みをしています。

さらに、ハッカソンなどの技術交流イベントを開催し、社内外のエンジニアたちが技術的な刺激を受け合う場を提供しています。

このような単なる労働集約型のビジネスではなく、当社のエンジニアの高度な技術力を組織としてナレッジ化したものを活用するビジネスを展開することで、独自のポジションとビジネスモデルを実現しています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

スケーラビリティ

当社の主要顧客は大手企業が多く、東証プライムに上場している企業からの売上高は86%(2023年3月期)、平均取引年数は約8年と安定した顧客基盤を実現しています。

クラウドコンサルティング事業での実績が、他の事業展開において顧客の信頼を獲得する鍵となっています。

クラウドコンサルティング事業で当社が支援した際には、競合とのコンペをすることなく顧客企業に深く入り込むことが可能で、クロスセルが見込めます。

ただし、日本の組織構造の特徴でもありますが、製造業では本社と工場の統括が分かれていることが多く、実際にロボット技術の導入に関しては工場に対して泥臭い営業をする場合もあります。

現在、当社が取引している業界は製造業で約6割、金融業で約2割で残りは通信業や商社にも展開しています。

同業他社に展開していくとともに、他の業界ではIT人材の内製化が進んでいないケースが多いため、今後も当社の実績が伝播し、ビジネスが広がっていくと考えています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

人材マネジメント戦略

当社は人材育成に力を入れています。

豆蔵はエンジニアの教育から生まれた会社であるため、教育コンテンツやプログラムには自信があります。

新卒は毎年20名程度採用することができており、その他にもIT業界で最大手の企業の新人研修を担当しています。

この研修には、豆蔵の新卒社員も参加し、リアルなビジネス環境で実践的な教育を受けています。

AIコンサルティング部門に配属される新卒の多くは大学院の修士課程や博士課程の出身者で、その道で研究してきた人材が多く、即戦力として活躍しています。

さらに技術を追求するエンジニアの成長を支えるために、役職定年制を設けず、成果を上げ続ける限り、年齢に関係なく給与や評価が向上していく制度を導入しています。

近年では、自動車業界の大手メーカーで役職定年を迎えた人材が当社に加わり、その経験を活かしてロボティクス分野の推進に貢献しています。

顧客の産業用ロボットの開発には、製造業における試作から量産化などの知識や経験が不可欠です。

これにより、若手のデータサイエンス人材とメーカー出身のベテラン人材が協業し、新たな価値を創出することができます。

このように、多様なバックグラウンドを持つ人材が協力し合うことができるような体制を築き上げています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

豆蔵デジタルホールディングスの成長戦略

量的成長と質的成長

当社は量的成長と質的成長の2本柱の成長戦略を考えています。

量的成長については人材の質を重視した採用を強化し、技術力の向上、人材育成を通じて実現します。

SIer業界では大規模プロジェクトを受託し、それに対応できるように社員数を増やすことで事業を拡大しています。

しかし、そのような時代は終焉を迎えつつあり、持続可能なビジネスモデルではないため、大きなリスクがあります。

そこで当社は、単なる量的成長に依存することなく、質的成長を追求していくことが大切だと考えています。

具体的には、高付加価値化の追求とサービスミックスの変革、営業改革です。

事業再編にあたって、収益性が低い事業に対して社内のプロセスを改善し、業務の効率化を図ることで収益性を向上させました。

約3年にわたって実施した結果、営業利益率を5%近く向上させることに成功し、収益性の高いビジネスモデルへと転換しました。

また、当社は創業以来、アカデミックな分野でもある最新技術の活用を大切にしてきました。

今後も顧客と共創しながら最新技術を現場に導入できるようにサポートし、顧客への提供価値を高めることで、デジタルビジネス領域での事業規模を拡大させていきます。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そして、新規に獲得したノウハウをナレッジとして組織全体の技術力を体系的に強化することで、持続可能な成長を目指しています。

このように量的成長と質的成長のバランスを取りながら、企業価値向上を実現することが基本的な成長方針です。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

生成AIの活用

当社は生成AIの活用を積極的に推進しており、その影響が社内外に広がっています。

2022年12月、私は生成AIが特定の業務において大きな影響を及ぼすと予測し、現場にERP分野での利用を指示しました。

ERPは要件定義、設計開発、テストといった工程が標準化されているため、生成AIの台頭が脅威でもあり、チャンスでもあると考え、早期に検証する必要があると考えました。

業務効率の向上を検証し、生産性が約35%向上するという顕著な実績を上げました。

その結果を受け、生成AIの導入がERP業務の効率化に寄与するだけでなく、当社の事業全体の効率化や、既存ビジネスとの融合による新たなビジネス拡大に繋がると考え、新たなビジネスチャンスの獲得を期待しています。

具体的には、ロボティクスや自動車分野でも生成AIを活用した効率化を進めるため、2024年2月から豆蔵グループを横断する組織を発足させ、生成AIによる効率化や新たなシナジーを検証しています。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス 2024年6月27日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

まず、豆蔵デジタルホールディングスの成長は、エンジニアの成長に基づいています。

これを支える文化が「豆蔵Way」であり、エンジニアたちが技術を磨き、ナレッジを共有し合うことで、事業全体の成長が実現しています。

投資家の皆様には、この「豆蔵Way」がグループ全体の持続可能な成長の基盤であることに注目していただきたいと考えています。

また、株主還元策として70%という高い配当性向を設定しており、これには「投資家=お客様」という考えの下、投資家の期待に応えたいという強い想いがあります。

事業構造的にスケーラビリティが高く、継続性のあるビジネスであるため、資本の蓄積がしやすい体質になっています。

今後も安定した収益基盤を確保しつつ、収益の拡大と配当の増加を目指します。

投資家の皆様にとって、持続的に成長する企業として魅力的だという点に注目していただきたいです。

投資家の皆様へメッセージ

豆蔵デジタルホールディングスは、ソフトウェアの黎明期から最新技術に取り組み続け、現在ではAIやロボティクスといった先端分野にも注力しています。

創業時からアカデミックな知識を大切にしてきた、IT業界でも非常に稀有な存在です。

デジタル化が進む現代において、アカデミックな要素技術が上流工程で必ず必要となります。

このような要素技術がなければ、革新的なサービスを生み出すことはできません。

当社は他社と差別化された技術を持ち、競争優位性を発揮する唯一無二の会社として成長を続けていきます。

こうした取り組みを通じて、持続可能な成長を実現してまいりますので、ぜひ豆蔵デジタルホールディングスへの投資をご検討いただければ幸いです。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス

本社所在地:〒163-0434 東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル 34階

設立:2020年11月11日

資本金:130,714,250円(2024年8月アクセス時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年6月27日上場)

証券コード:202A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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