【184A】株式会社学びエイド 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年10月1日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社学びエイドはこれまで培ってきた”教育的知見”を活かし、要点を絞った5分程度の映像授業である「マイクロ講義」を制作・配信する会社です。

学習塾や教育関連事業者を中心に多様なコンテンツを提供し、「教えたい」と「教わりたい」を紡いでいます。

代表取締役社長の廣政 愁一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社学びエイドを一言で言うと

「教えたい」と「教わりたい」をていねいに紡ぐ会社です。

学びエイドの沿革

株式会社学びエイド代表取締役社長 廣政 愁一氏

創業の経緯

元々、私は東進ハイスクールの予備校講師をしていました。

東進ハイスクールの提供するサービスは、人を惹きつける映像授業が特徴的です。

90分の映像授業は1コマあたり数千円という単価で、YouTubeと同様の仕組みで、どれだけ再生されるかが肝となるビジネスです。

そのため予備校や講師達は、映像授業をどうすれば多く受講してもらえるかを常に考えて授業の構成を考えています。

つまり、1本だけ見れば全てが分かってしまう映像授業は、自分たちの首を絞めることになってしまいます。

そのため、25分で完結するような内容に対して、科目や授業に興味を惹きつけるような工夫を凝らしたテイストを加えることで、90分の授業に仕上げているのです。

もちろん、魅力的な授業が生まれ、生徒が勉強を好きになるきっかけづくりとしては素晴らしいことですが、”効率的な学習”という面で生徒の期待に応えることはできません。

そこで私は、無駄を省き効率性を重視した映像授業ができないか考え、”電子辞書の映像授業版”を作りたいという想いから、当社のビジネスを考えました。

マイクロ講義の制作に注力

当社の設立は2015年です。

当時は、スマホなどのウェアラブル端末で映像を視聴することが一般的になり始め、YouTubeが急速に成長していた時期です。

私は、もしスマホで動画を見るのであれば、短い動画が喜ばれるだろうと予測し、3分〜5分の映像授業を作ることに決めました。

90分の映像授業では”飽き”が来ないようにするために講師が様々なパフォーマンスを行います。

しかし、”飽き”が来る理由には時間が関係しています。

そこで、映像授業の時間は3分〜5分に、最低限の情報にするために講師の顔が見えないアニメーションに、そして要点に絞った「マイクロ講義」を考案しました。

つまり、無駄を最大限省いたのです。

この発想は業界内では浸透しておらず、短くても20分や15分というものがほとんどでした。

しかし、2019年にはGIGAスクール構想として、個別最適化された教育並びにデジタルに対応した教育が求められるようになりました。

現在、「マイクロ講義」は、生徒別に合わせた個別のカリキュラムを組むことができるため、非常に効果的なソリューションとして注目されています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また、エンドユーザーである生徒達(Z世代)のニーズは、動画分野におけるタイムパフォーマンスを重視する傾向にあり、見事に当初想定していた予想が的中しました。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

この「マイクロ講義」の制作に注力したことが当社のスケールのきっかけとなり、他社との差別化を図る上で、大きな強みとなっています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

着実な事業拡大

EdTechの市場規模は2024年には3,000億円に達すると算出されており、成長市場です。

そのため、EdTech市場には様々なベンチャー企業があり、VC等から集めた資金調達を基盤に大規模な拡大戦略を取ります。

しかし、教育業界において画期的なサービスが浸透し、成功を収めているケースは非常に稀です

それは最初からサービスを大手学習塾に導入する戦略で進めているからです。

大手学習塾は全国規模で展開していても、フランチャイズ経営で運営が雇われ社長に任されていることが多く、いくら画期的な管理システムを本部が契約しても、現場がシステムを活用するかどうかまで管理することはできません。

そのため結果的には業務改革まで行われず、学習塾の本部側では効果が出なかったという結論に至り、最終的には取引終了、と失敗に終わってしまいます。

大手学習塾の市場で失敗した場合、中規模・小規模の学習塾にサービス展開することはできません。

EdTechの事業を成功させるためには、学習塾の業界特徴を理解し、根気よく付き合っていく必要があります。

そこで、当社の場合は小規模の学習塾から導入を始め、徐々に取引規模を大きくしていく戦略で着実な成長を実現しました。

当初は、私が直接営業に赴き、「このような映像授業を提供していますが、浸透するまでには時間がかかります。効果的に活用するためには相当な訓練が必要なので、2〜3年かけてゆっくりと使い込む必要がありますよ。」という形で、各学習塾に丁寧に説明し、しっかりと理解が得られた後に導入しています。

そして、個人経営の小規模な学習塾などへの実績を積み上げていく中、大手学習塾からもお声がけいただきました。

しかし、大手学習塾は初年度から大規模な導入依頼が来るため、その要望に対しては「最初から全国2,000校舎に導入することはできません。初年度は10校舎にしましょう。おそらくそのうちの2校舎くらいしか成果を上げることはできないはずです。次年度は残りの8校舎を分析した上で、20校舎、30校舎と増やしていきましょう。」という営業をしていきました。

結果的に、本部からは過度な期待がかからず、徐々に成果を上げることができたので、中堅、大手の学習塾にまでサービスが広がりました。

このようにして着実な事業基盤を築きながら、安定的なビジネスモデルで事業成長を実現し、2024年5月には上場を果たしました。

学びエイドの事業概要と特徴

概要

当社は鉄人講師・登録講師のネットワークを活かし、「マイクロ講義」の制作・配信をしています。

主要サービスは、学習塾を対象とした「学びエイドマスター」「学びエイドマスターforSchool」と教育関連事業者を対象とした「学びエイド forEnterprise」です。

この3つの主要サービスが売上の大半を占めています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

まず、「学びエイドマスター」についてご説明します。

個人〜中規模学習塾を対象にしたサービス「学びエイドマスター」と、フランチャイズ展開や傘下に学習塾を持つ中〜大手規模学習塾を対象にしたサービス「学びエイドマスターforSchool」の2軸で展開しています。

どの業界においても共通する課題ですが、現在、学習塾において人手不足が加速しています。

特に地方ではアルバイトをする大学生の数も減少しており、理系科目や専門科目に対して指導できる人材の不足が課題です。

また、少子高齢化により学習塾の生徒の数も減少しているため、生徒の対象を小中学生から高校生にまで拡大するニーズが発生しています。

というのも、一般的な予備校は高校生の生徒を獲得する際、門の前でチラシを配ったり、学校へ営業したり、かなりのマーケティングコストがかかっています。

しかし、小中学生を対象としている学習塾においては、教えていた生徒をそのまま高校生コースへ入学させることもできるため、コストをかなり抑えながら生徒を獲得することができます。

このような状況から、学習塾において、新たなビジネスチャンスを獲得するためにも、高校生に指導できる環境の整備が求められています。

そこで活躍するのが「学びエイドマスター」です。

映像授業を活用することにより、高校生への指導も可能となる上、人員不足にも対応しながらデジタルでの管理を活用することができます。

実際、小中学生を対象としてきた学習塾において幅広く導入されており、スクールIE、明光義塾、ナビ個別といった大手学習塾では全校舎で当社のサービスが使われています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

次にご説明するのは「学びエイド forEnterprise」です。

こちらは教育関連事業者、つまり参考書などの書籍を出版している企業に対して、その内容を映像授業化して提供するというものです。

現在は教育出版業界を中心に展開しており、今後も教育業界にとどまることなく幅広い展開が考えられます。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

豊富な鉄人講師・登録講師ネットワークが生み出す個別最適化への対応

当社のサービスの裏側では、100名を超える鉄人講師のネットワークが支えています。

この繋がりは、私が予備校講師としての経験を持っていることに加え、当社設立以前に「学校内予備校」として、放課後の高校校舎を借りてその学校の生徒に勉強を教える会社を運営していたことが大きな基盤となっています。

学校内予備校では、地代や集客費用などを最小限まで抑えることができたため、優秀な講師の獲得にコストの大半を充てることが可能でした。

そのような中で、一流の予備校講師を全国各地から集めることができ、そのリレーションが今でも続いています。

現在、講師陣には学びエイドマスター等の売上の一定率を講師全員で分配する条件で契約しています。

納入本数によって、その分配方法は異なりますが現在は100名ほどの講師陣がおりますので、100万円の売上があった場合は5万円を100名で分け合うというイメージです。

予備校業界では、少子高齢化の影響で浪人生の数が減少しており、それに伴い昼間に行われる授業数も減少傾向にあります。

結果として、日中の時間帯に予備校講師の手が空いている状況が生じています。

その空いた時間を当社のコンテンツ制作に有効活用していただいています。

現在、GIGAスクール構想でも示されているように、個別最適化された教育が求められており、多様なコンテンツの必要性が高まっています。

こうしたコンテンツ制作に対して、当社の「鉄人講師」が携わり、依頼企業の細やかなニーズに応じた教育コンテンツの制作・提供を実現しています。

そのコンテンツ制作には、当社の鉄人講師が携わっており、依頼企業の細やかなニーズに答えた教育コンテンツの制作・提供を実現しています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

映像授業の制作実績

2023年9月時点では、マイクロ講義の映像授業の制作実績は70,000本を超えました。

当社では営業から企画、コンテンツ制作や管理に至るまで全ての業務を内製化しており、効率的な経営を実現しています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

教育分野に特化した映像制作による専門性と安心感の提供

教育分野における映像制作は一般的な映像制作と異なり、”教育的知見”が必要です。

おそらく誰しもが、”間違えてしまった問題の解説を読んでも理解できなかった”という経験をしたことがあると思います。

解説を読んでも理解できない原因の1つに、解説者が問題を解く側の視点や難しさを十分に理解していないことが挙げられます。

問題を解いて正解しているときは解説を読まないことが多いと思いますが、同様に解説者側が簡単だと思った問題に対しては説明が適当な場合が多々あります。

しかし、簡単だと感じている問題でも、適当な説明では理解できないことがありますし、難しい問題であれば、解説を読んでも全くピンとこないこともあります。

どんな問題でも、解説者が「わからない人の気持ち」に寄り添って、丁寧に説明することが大切で、それが”教育的知見”の1つです。

これは動画を作るときも同じで、ただ情報を伝えるだけではなく、視聴者が「なぜそれをしなければならないのか」をしっかりと理解できるように作ることが重要です。

例えば、ゴミの分別を促す動画を作るのであれば、「分別しないと困る」と具体的に問題を伝えることで、視聴者の心に響くように工夫する必要があります。

行動変容を促すためには、ただ見せるだけではなく、視聴者に深い理解を促す工夫が必要です。

これこそが”教育的知見”です。

このような”教育的知見”を持ち合わせた映像制作会社は業界内でも当社以外にはおらず、ユニークなポジションを築き上げています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

学びエイドの成長戦略

各サービスにおける対象領域の拡大

先ほどもお話ししましたが、今後の戦略としては時代の変化とともに学習塾や教育関連事業者のニーズは変わっていくため、当社も変化していく必要があります。

これまでは中高生を対象としたコンテンツ制作に注力していましたが、その対象領域をさらに広げ小学生におけるコンテンツ制作を行っていきたいと考えています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

学習塾のニーズに対応した新機能の提供による契約教室単価の向上

当社サービスを提供している学習塾から抱えている課題を吸い上げており、その課題解決につながるサービスを提供しながら教室単価の向上を進めています。

具体的には、2023年11月から「総合型選抜対策 添削道場」、2024年1月から「テツヨビ」をリリースしました。

例えば、小論文や志望理由書の添削については、ただ理解できれば良いというものではなく、しっかりとアウトプットしたものを見てもらう必要があります。

そのため添削道場では、小論文対策などに特化した専門家が対応しています。

生徒は小論文が完成したら、写真を撮って送り、そのデータから先生が原稿をもとにした授業を行います。

例えば、「この部分はもっと簡潔に書いた方が良い」や「ここは少し抽象的すぎる」といった具体的な指摘を、その原稿に直接書き込みながら進めます。

また、授業の音声も録音し、その内容を返却するので、授業内容がそのまま返ってくるというプレミアム感があります。

この一連の流れは10〜15分程度で完了するため、安価かつスピーディーに質の高い授業を提供できる点が強みです。

このように、これまで学習塾で対応できなかった領域を当社がカバーすることでLTVを高めながら、教室単価の向上を実現しています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

業務提携・上場による資金調達を通じた体制強化と対応範囲の拡大

当社は共同印刷と資本業務提携しており、印刷物に対して「映像化」という形で付加価値を提供することで、新たな収益機会を生み出しています。

そもそも、本というのは何かを誰かに伝えたいという意図があるため、情報を伝える手段として、本そのものが映像授業へと変換される可能性が高いのです。

例えば、税金の仕組みや納税方法などは一般的には紙で説明されていますが、映像で示したほうが直感的に理解しやすいと思います。

また、ヨガやウェイトリフティングといった身体的な活動に関しても、文字や図解よりも映像の方が圧倒的に分かりやすいはずです。

そこで、私たちはこれまで印刷物を提供してきたお客様に対し、紙の出版物に加えて映像授業を併用する提案を行っています。

学習塾など教育業界は少子化によるマーケットの縮小が懸念されていますが、その影響とは対照的に印刷物全般を含む他分野には大きなマーケットが広がっています。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

先ほどから何度も申し上げていますが、”教育的知見”を有する映像授業を制作している企業は全国津々浦々を探しても当社しかありません。

これまで70,000本を超える制作実績を誇り、小中高生だけでなく、社会人まで対象とした全年齢に対して、”わかりやすく教える”ということにこだわってきました。

そして、当社の企業理念は「Be a player.」、「楽しむ人になりましょう」という意味を込めています。

当社の社員は皆前向きです。

これは提供するサービスにも繋がっており、「学ぶこと」、「教えること」に対しての意欲が強い会社です。

ぜひ、当社の企業理念や事業内容に興味を持っていただき、期待していただければと存じます。

株式会社学びエイド 2024年5月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

投資家の皆様へメッセージ

実際、世界の株価を牽引しているのは、理系分野を基盤とする企業であるため、理系人材を増やすことは、今後の日本の経済を支えるためにも重要な取り組みです。

日本では理系人材が不足していますが、その原因の1つは、高校1年生の段階で多くの生徒が数学Iにつまずいてしまうことにあります。

中学生の時に数学が得意だった生徒も、高校に進学してから難しさを感じ、そこで気を抜いてしまうために理解が追いつかなくなり、苦手科目となってしまうのです。

一方で、高校1年生の段階でしっかりと数学教育が行われれば、理系分野に進む人材が増えるため、少子化や人口減少が進んでも、日本の理系人材の底力が高まります。

その鍵を握るのは民間の教育機関、つまり高校1年生の段階でしっかりと数学を教えられる学習塾の存在です。

長期的な視点で理系人材を育成するためには、当社のような教育企業がその役割を担う必要があります。

理系人材の育成が、結果として日本の株価や日経平均株価の上昇にもつながるとも考えています。

10年後には少しずつその影響が現れると期待しており、投資家の皆様にも長期的な視野で当社に注目していただければと思います。

株式会社学びエイド

本社所在地:〒113-0033 東京都文京区本郷6-17-9 本郷綱ビル4階

設立:2015年5月11日

資本金:200,438,500円(2024年5月28日時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年5月28日上場)

証券コード:184A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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