※本コラムは2024年10月16日に実施したIRインタビューをもとにしております。
神戸天然物化学株式会社は有機合成化学技術やバイオ技術に強みを持ち、幅広い産業分野において、顧客の研究開発および量産ステージに合わせた様々なソリューションを提供しています。
代表取締役社長の真岡 宅哉氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
神戸天然物化学株式会社を一言で言うと
夢や希望のあるサイエンスを楽しむ「プロの科学者集団」です。
神戸天然物化学の沿革
創業の経緯
当社は1985年、広瀬を含む有機合成の専門知識を有する3名の化学者によって創業されました。
創業メンバーは、神戸を本社とし、長年培った天然物合成や化学分野での知見を活かし、「神戸天然物化学」という社名で事業をスタートさせました。
創業当初は、化学会社や製薬会社を訪問し、「雑用でもいいので、何かお手伝いできることはありませんか?」と、積極的に訪問・提案を行うところから始めたそうです。
その中で、ある企業から「当社の研究開発、特に化学合成分野のサポートをお願いできないか」との依頼を受けたことがきっかけとなり、現在に至るまで続く研究開発型の受託企業としてのビジネスモデルが確立されました。
出雲工場とBRCの開設
創業から16年が経過した2001年、当社は島根県出雲市に出雲工場を設立しました。
それまで生産拠点は兵庫県に限定していましたが、BCP(事業継続計画)の観点から他県での工場設置を検討する中で、有機合成による量産可能な大規模な工場が立地されていなかった島根県からの熱意あるオファーを受け、出雲工場の開設を決定しました。
出雲工場の設立により、当社は研究開発のみならず、有機合成の量産体制を強化し、研究・開発・量産といった多様な顧客ニーズに対応できるようになりました。
また、新卒および中途での有機合成を専門とする化学者の新規採用や出雲市の消防署から危険物訓練の依頼を受けたりするなど、地域全体に大きな影響を与えるプロジェクトとなりました。
さらに、2005年には神戸市にKNCバイオリサーチセンターを設立し、有機合成化学技術に加えてバイオ技術を活用した分野にも進出しました。これにより、研究開発分野の幅を広げ、より多様な顧客ニーズに応える体制を整えました。
リーマンショックと上場
事業は順調に推移していましたが、2008年に発生したリーマンショックの影響で、顧客が新規投資を控え、一時的に研究開発の受託が停止しました。
しかし、その時点で出雲第二工場の開設が進行しており、第一工場では医薬品の原薬および中間体、第二工場では機能性材料、具体的には半導体向けのフォトレジストやディスプレイ向け材料の量産体制に向けての準備を進めている段階でした。
リーマンショックでは量産能力が不十分であったため、売上は3割も落ち込みましたが社内組織の再編、コスト削減などの事業改革を行い、この危機を乗り越えました。
その後、さらなる事業拡大のために上場を目指し、社内では上場プロジェクトが立ち上がり、当時営業本部長であった私もプロジェクトメンバーとして上場準備について奔走してきました。
また当社は、研究開発型の受託ビジネスの成長を常に考えていたことから東証マザーズ市場(現 東証グロース市場)での上場を選択しました。
そして着実に業績を伸ばし、2018年に上場を果たしました。
神戸天然物化学の事業概要と特徴
概要
当社は有機合成化学技術とバイオ技術を活用し、電子材料や医薬品の研究開発および量産の幅広い範囲で顧客の支援を行う「ものづくり」企業です。
有機合成とは、「A+B=C」のように異なる有機物を組み合わせて新しい有機物を生み出す技術です。
バイオ技術は、遺伝子組み換え微生物の培養・精製によって、たんぱく質、酵素、ペプチド、生理活性物質などを生産するなど利用されております。
近年では日本政府もバイオものづくり分野に多額の投資を行っており、この分野は高い成長性が期待され注目されています。
一般的に、化学メーカーや製薬メーカーの研究開発の課題には「ハイリスク・ハイリターンを避けたい」「自社の強みに集中投資したい」「資本効率を改善したい」などがあります。
例えば、顧客は自社で大型の専用設備や工場従業員などを保有することを避け、外部に委託する分業化の傾向が強くなっています。
そのような分業化は顧客の固定費を削減し変動費化することで投資効率を改善させ、固定資産を圧縮することで資本効率も改善することを狙っており、外注委託のニーズが高まっています。
また私たちは研究開発から量産ステージまで、一貫したサポート戦略(ステージアップグロースモデル)をとっております。
この研究開発から量産までを一貫して対応できる体制により、顧客との長期的な関係構築に繋がっています。
さらに当社の提供する価値は顧客から高く評価されており、主要な取引先には国内大手企業をはじめ、化学メーカー、製薬メーカー、繊維メーカー、ベンチャー企業、さらにはアカデミアなど多岐にわたる業種が含まれ、さまざまな顧客の課題解決に貢献しています。
事業における優位性
ステージアップグロースモデル
「ステージアップグロースモデル」という形で、顧客の研究開発の各ステージに合わせたビジネスを展開しています。
このユニークなビジネスモデルによる一貫したサポート体制により、顧客の細やかなニーズに臨機応変に対応しています。
また、このようなビジネスモデルは業界内でも少なく、当社のように上場している企業ではないことから、業界内でも独自のポジションを築いています。
3つの事業領域
当社の事業は機能材料分野、医薬分野、バイオ分野の3つの主要領域で展開しています。
まず、機能材料分野では、半導体製造プロセスに必要なフォトレジストやディスプレイ用の特殊な材料の製造を行うことが可能です。
医薬分野では、医薬品の研究開発や臨床試験に必要な原薬や中間体や上市品の製造を受託しており、これまでに多数の製薬会社に対して新薬の上市を支援してきました。
また、バイオ技術では微生物等を利用した高分子材料の生産技術を活かし、バイオものづくりの基礎研究から量産までをサポートしています。
このように、機材から医薬まで多様な分野に展開することで、ある分野が低迷しても他分野でカバーできるような体制を築くとともに、各事業が極めて成長性の高い市場であることが当社の優位性に繋がっています。
顧客との関係性強化
当社では、顧客との長期的な関係性を重視しています。
特に、大手製薬企業や化学メーカー、電子材料メーカー等を中心に多様な顧客との取引があります。
私たちは顧客ニーズに基づいたサポートを続けてきたことで、10年を超える取引関係は全社売上の8割以上となっています。
近年では、1社あたりの売上規模も大きくなっており、国内トップ規模の化学・医薬品メーカーとの取引が大半を占める状況です。
このように、顧客との信頼に基づく関係性を築くことで、安定的な受注を確保しています。
研究開発
国家プロジェクトへの参画やアカデミアや企業との共同研究、そして独自の研究開発というように積極的に研究開発にも投資しています。
そして、製造業の神髄である研究開発は当社にとって原点でもあり、長期的な成長において重要な役割を果たしています。
最近では、アカデミアと共同で開発した抗がん剤の臨床試験を進めるなど、アカデミアと企業の知見を融合させたプロジェクトが多数進行中です。
このように研究開発において、アカデミアの先生方や国の機関と協力しながら進めており、多くの特許を取得することにも成功しています。
また、当社は将来的に製薬会社や化学会社とのライセンス契約を通じて収益を上げることが期待できますが、単なる受託会社ではなく新たな価値を創造する夢のある仕事ができる会社として魅力的だと考えています。
創業者の広瀬が掲げた企業理念の中で「科学技術を基礎とする」と明確に定められているように、当社には科学への熱意があるメンバーが集まっています。
「研究に強い、開発力のある神戸さんだから」と、新規の案件を多くいただけるように、社員の一人一人が専門性を高めながら、研究開発に取り組んでいます。
神戸天然物化学の成長戦略
設備投資
当社は成長戦略の一環として、継続的かつ計画的な設備投資を行い、各分野での競争力強化を図っています。
出雲工場(第二工場)の設備投資はその一例で、特に半導体製造に欠かせないフォトレジスト材料の生産力強化を図っています。
具体的には2,000L〜5,000Lの大型反応釜を新設し、大量生産が可能な体制を整えています。
この新しい設備は高い純度と品質を確保し、量産化のニーズに応えられるようになっており、製造過程における金属含有量の厳格な管理など、業界基準を上回る品質管理を実現しています。
現在の顧客は国内が中心となっており、これは機能材料分野におけるものですが、今後は台湾など海外企業からの受託も視野に入れています。
また、BRCにおいて新原薬製造棟(D棟)の立ち上げも進行中であり、これはすでに特定の顧客からの依頼に基づいたものであるため、2026年1月の稼働後は早期に売上増加に繋がるものと期待しています。
さらに、医薬分野ではmRNAワクチンの登場に見られるような新しいモダリティ(治療法)の研究への投資など、将来の市場ニーズを見据えた設備投資も検討しています。
このように当社が成長を続けるためには、設備投資は欠かせないものであると考えているため、今後も計画的に相当の資金を投じていく予定です。
人的投資
市場環境的にも多くの企業が優秀な人材の確保に”しのぎ”を削っていますが、我々もその影響を少なからず受けています。
そのような中で、当社は全国規模での採用活動を展開しており、近年では北海道から沖縄に至るまで幅広い地域での採用活動に取り組んでいます。
2024年度は14名の新入社員を迎えました。今年はさらに採用活動の強化を図るため、当社の認知度向上を目的に、島根県の出雲市駅や出雲ドームに看板広告を出すなどしております。
また、地元の島根大学との提携も強化しており、学生に向けて積極的に情報提供を行うことで、若手人材の採用強化と地域密着型の人材戦略を進めています。
併せて、社員への投資も積極的で、さらなる活躍の場を求めて、社員が自己研鑽できるような体制を整えています。
注目していただきたいポイント
当社が「プロの科学者集団」として、科学技術を通じて社会に貢献することを理念として成長している点にご注目ください。
例えば、医薬品の開発においては、患者様の病気を支える仕事に携わり、低分子から中分子、バイオ技術を活用した高分子まで、幅広くサポートを行っています。
また、機能材料分野では、私たちの日々の生活において必要不可欠な半導体やディスプレイといった分野で重要な役割を果たしています。
そして、バイオ分野ではこれから国を挙げて取り組もうとしているバイオものづくりに貢献する研究開発や量産能力を持っています。
そして、このように幅広い業界に対しての価値を創造し提供を可能としているのは、タイムリーな設備投資の実行だと考えています。
当社は成長のための投資は惜しみません。
また、株主配当に対しても、DOE(自己資本利益率)2.0%を目安に、安定的な株主還元に努めています。
当期は前期よりも3円増配の年間33円を計画しています。
このように、成長のための投資を積極的に行いながら、当社を支えてくださる株主様へも還元している企業であるとご認識いただければと存じます。
投資家の皆様へメッセージ
当社はBtoB事業を展開しているため、一般の皆様の目に触れる機会は少ないかもしれませんが、社会を支える技術を提供し、世の中に貢献する「なくてはならない企業」であることに責任と誇りを持っています。
これからも投資家の皆様からのご意見も頂戴しながら、ともに成長していきたいと考えています。
ぜひ温かく見守っていただきながら、ご支援いただけると幸いです。
神戸天然物化学株式会社
本社所在地:〒650-0047 神戸市中央区港島南町7-1-19
設立:1985年1月22日
資本金:1,995,106,630円(2024年10月アクセス時点)
上場市場:東証グロース市場(2018年3月15日上場)
証券コード:6568