【153A】株式会社カウリス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年10月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社カウリスは誰もが安心してインターネットを利用できる環境を提供し、電気、ガス、水道、通信に次ぐ“第5の社会インフラ”となることを目指しています。

代表取締役の島津 敦好氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社カウリスを一言で言うと

金融犯罪にリアルタイムで先手を打ち、犯罪を封じ込めていく会社です。 

カウリスの沿革

株式会社カウリス代表取締役 島津 敦好氏

創業の経緯

私は以前、Capy社にて不正ログイン防止のソリューション提供に従事していました。

その中で、インターネットバンキングにおける口座開設やログイン時にどのような行動を取っているかを端末の特性から追跡するビジネスが市場として大きな可能性があるのではないかと考え、2015年に独立して当社を立ち上げました。

創業当初は、サイバーセキュリティの中でも主にIDとパスワードの不正利用がされていないかを確認するサービスを提供していました。

マネーローンダリング対策への高まり

2018年頃から、金融機関において「不正に取得された銀行口座が犯罪グループに使われていないかを確認したい」というニーズが高まり、売上の大半が金融機関向けにシフトしました。

また、2019年には、国際連合の下部組織であるFATF(Financial Action Task Forceの頭文字をとってFATF。以下「FATF」という。日本語では金融活動作業部会)が日本に対してマネーローンダリング対策の審査に入りました。

FATFは世界39か国のメンバーで構成され、各国でマネーローンダリング防止の取り組みが整備されているか、その実効性があるかを評価し、不備がある場合には”マネーローンダリングしやすい国”として是正勧告を行う機関です。

この審査が2019年に予定されていることがきっかけで、日本国内でもマネーローンダリング防止の機運が高まり、当社の引き合いが強くなりました。

2021年にFATFの審査は終了しましたが、結果として日本は”不十分”との評価を受けてしまい、現在、政府や金融庁は犯罪グループに銀行口座を悪用されないように対策を強化する方針を打ち出しています。

さらに、FATFの評価は世界中で公開されており、日本は残念ながら厳しい評価を受けました。厳しい評価が、今後も続くようですと、外資系企業を含む金融業への参入が減退し、将来的には業界の空洞化が進むリスクもありえるのでは、と考えております。

そして、資金洗浄はオンライン化しており、国境を越えて行われるため、この問題は日本政府だけでなく国際的にも非常に危機感を持って注目されている状況です。

今年(2024年)のニュースでも話題となった「リバトングループ」の事件では、昨年の1年間で約700億円もの不正に取得された資金が犯罪に利用されていることが判明しました。

また、昨年の各種詐欺による被害総額は、1630億円を突破してしまったため、首相官邸は2024年6月18日に「国民を詐欺から守るための総合対策(案)(概要)」を発表しました。

金融庁もこれに続き、8月23日に銀行に対し、「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について(要請) 」を発表しました。

これは、個人口座のみならず、法人口座も転売、貸し出しをされることにより、資金洗浄の温床になっていることに注意喚起を促すものであり、その土俵が非対面取引になっているため、そこへのモニタリングを全ての預金取扱金融機関に求めるものであります。

こうした背景から、マネーローンダリング対策が金融業界全体のインフラとして重要視されており、不正アクセス検知サービスを提供している当社の存在が非常に注目されています。

上場の経緯

当社は2017年に外部資本を受け入れました。

金融犯罪の進化に対応する投資を行い、そのスピードを損なわないためにも、大企業への事業売却は選択しませんでした。

また、上場には財務の透明性が求められるため、社会的な信用力が増し、金融機関からの信頼も得やすいというメリットがあります。

当社の事業は日本国民の資産を守り、犯罪利用を防止するものですから、政府との親和性も高く、官民連携をスムーズに行うには上場が必要であると判断しました。

そして、2024年3月に東証グロース市場へ上場を果たし、誰もが安心してインターネットを利用できる環境を提供すること、電気、ガス、水道、通信に次ぐ“第5の社会インフラ”となることを目指し、企業価値の向上に努めています。

カウリスの事業概要と特徴

概要

当社は不正検知サービスである「Fraud Alert」を通じて、不正利用者情報を共有するプラットフォームを提供しています。

現在、銀行、証券会社、クレジットカード事業者、暗号資産交換業者、貸金業者などの金融機関に広く利用されています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

250を超える独自のパラメータからモニタリングを行い、金融庁の定める「疑わしい取引」を多数検知し、月間約5億件に及ぶログインや申込・口座開設のモニタリングを行い、ユーザーの全アクセスログを保存しています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

また、過去に不正利用に使われた端末情報のデータベースを有しており、不正利用に使われた端末情報や悪意のあるアクセスを、Fraud Alertユーザー企業間で共有することが可能です。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

一般的に当社のようにセキュリティサービスを提供する企業は、クライアント(例えば銀行など)からの委託契約でデータを取り扱い、そのデータを元に不正検知やマネーローンダリング対策を行っています。

そのため、委託先が異なる企業間で情報を共有するのは契約違反と見なされ、情報漏洩のリスクも生じます。

一方、当社は悪質な口座情報をデータベースに集約し、各企業が相互に参照できるようにプラットフォームによる検知サービスを提供しています。

このノウハウを新サービスである「CLUE」や「電力サービス」で活かしています。

「CLUE」は一般社団法人キャッシュレス推進協議会が構築した不正利用関連情報確認データベースで、その裏側では当社のシステムが活用されています。

ある決済事業者で発覚した不正利用に関する情報を「CLUE」に登録することで、他の決済事業者は同様の情報を含むアカウントの有無を確認することが可能です。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

また、「電力サービス」では電力会社の持つ電力契約情報と金融機関の持つ口座情報を突合させ、不正な口座開設や既存口座の悪用を防止することが可能です。

現在、日本では電力会社、ガス会社、水道会社がすべての世帯の個人情報を保有しています。

そして、マイナンバーカードの普及率は8割程度に留まっており、個人情報を利用する際にはエンドユーザーの同意を毎回取得する必要があり、利便性が低いと感じられている状況です。

そこで、2017年から2018年頃から当局に対し「電力会社が持つ個人情報を犯罪抑止に役立てることができないか」という話を進め、住んでいない住所で犯罪者が銀行口座を開設しようとするケースなどもあったため、このシステムの実現に至りました。

また、既存の銀行口座でも電話番号やメールアドレスが古くなり、本人確認が難しいケースに対し、銀行が葉書を送付して確認する取り組みをしていますが、これには年に数百億円ものコストがかかっています。

このため、金融機関が当社に対して名前・住所・電話番号などを照合し、「この住所は空き家である・別の人が住んでいる」といったスクリーニングを行い、不要な葉書送付を削減するなど、本人確認の効率化に貢献しています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

高い専門性と参入障壁の高さ

当社のビジネスは、銀行などの各社が”カウリスに情報を第三者提供する”という形で成り立っています。

個人情報の第三者提供は法律的に問題はないのか、と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。

そこで、個人情報保護委員会に確認したところ、「法令に基づく場合」または、「国民の生命財産保護が目的であれば、エンドユーザーの同意なく第三者提供できる」との規定があります。

弊社サービスが、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)を管理する警察庁に確認したところ、弊社サービスは犯罪収益移転防止法に該当するとの判断が示されたため、「法令に基づく場合」により、第三者提供が認められました。

このビジネスモデルの実現には、法的な論点を整理し、公的な確認を得るためのプロセスが不可欠です。

上場から半年が経ちますが、当社と同じモデルで事業を展開している企業はいまだ見当たらず、業界におけるパイオニアとして大きなアドバンテージがあると考えています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

国内では当社が先行事例となっておりますが、サイバーセキュリティやマネーローンダリング対策の市場では、主に米国、ロシア、中国、イスラエルなどの外資系企業が中心です。

サイバーセキュリティと異なり、マネーローンダリングは各国それぞれの金融庁の規制に依存するところが大きいものです。

そのため、外資系企業が日本の規制にローカライズを行い、参入するのはハードルがかなり高いものであると言えます。

また、そうしたサービスを販売しているシステムインテグレータは、主戦場となるオンプレミス型でサービスを提供しようとします。

しかし、オンプレミスではシステム上、取引先間での情報共有ができないため、当社のようにクラウドサービスとして提供できず、データ量も少ないため、当社のように高品質なサービス提供は実現できません。

このように、競合環境の中でもユニークなポジションで事業を拡大することができています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

3つの競合優位性

当社はメガバンク等の金融機関のリーディングカンパニーから顧客を開拓し、マーケットシェアを拡大しています。

現在、20社ある取引先の中でメガバンク、りそな銀行さまをはじめ、大手ネット銀行、ネット証券にまで広がっています。

当社のビジネスのポイントは、不正利用者情報を、他社に先駆けて、早く集めていくことにあります。

一般的には地方銀行などからサービスを拡大していくことがほとんどですが、サービスを拡大するためにはデータを多く持つメガバンクやネット銀行が重要な顧客層になると考えています。

最終的には、こうしたインフルエンサー企業となる先行顧客の紹介で、他のネット銀行・証券、地方銀行・証券に徐々に広げていく予定です。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

また、サービス提供社数が増えることで、データが豊富になるため、「Fraud Alert」のアルゴリズムの精度が上がりやすく、結果として検知精度も高まります。

これにより顧客からの紹介が増え、このようなサイクルを通じて参入障壁が高くなると考えています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

さらに、当社のような第三者提供ビジネスは、政府から適法とのお墨付きを得る必要があり、当局との連携が取れている点も強みです。

「グレーゾーン解消制度」や「規制のサンドボックス制度」といった仕組みを活用しながら、ビジネスができるような環境の整備に積極的に取り組んでいます。

実際、これらの対応は私が担当していますが、オーナー企業・スタートアップ企業ならではのスピード感も大切です。

例えば、新規事業として始めている「電力サービス」では事業開発やファイナンスの知識も必要です。

一般に、上記の制度を活用する際、経営層、ビジネスサイド、開発サイド、法務担当など様々な部署が一体となって進める必要がありますが、当社では私が中心となり、顧問弁護士の協力を得ながら、小さいチームで事業を進めていることがスピード感を持って、法的論点整理できております。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

カウリスの成長戦略

既存顧客のモニタリング範囲の拡大とARPU向上

足元の成長戦略の基本は、「Fraud Alert」のモニタリングの対象範囲を広げることです。

具体的には、すべての銀行口座やインターネットバンキング、モバイルアプリのモニタリングを担うことで、犯罪を防止していきたいと考えています。

現在、インターネットバンキングのログインページを経由して犯罪が行われるケースが多く、特に銀行口座の転売やフィッシングによる不正送金が頻発しています。

まずはログインページの監視から始め、口座確認や送金ページといった他のタッチポイントに対してモニタリング範囲を拡大していきます。

2024年8月から、口座開設、ログイン、送金を含む6つの視点でモニタリングを導入していただいた企業もあり、今後このような企業が増えていけば、ARPU向上も期待できます。

現在、銀行における取引先は122社中20社と、マーケットシェアは約18%です。

また、2027年には再びFATFの審査が予定されており、金融庁からも対応強化の要請が出されています。

今後さらにマーケットが拡大し、多くの銀行が当社のサービスを利用するようになると見込んでいます。

こうして銀行業界での地位を確立できれば、銀行、証券会社、クレジットカード事業者、暗号資産交換業者、貸金業者など他の業界にも広がりやすくなります。

つまり、銀行業界を抑え、証券会社やクレジットカード会社など下流のインダストリーにも進出していくことが中長期的な戦略となっています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

官民一体となったマネロン対策

当社サービスの導入を検討する際に企業の窓口となるのは、コンプライアンス統括部や金融犯罪対策本部と呼ばれるようなマネーローダリング対策を専門としている部署です。

また、当社のサービスはインターネットバンキング、つまり非対面チャネルのモニタリングが主なため、IT部門・システム開発部門も関わってきます。

そして、モニタリングで「疑わしい取引」が発見された場合には、本人確認が必要になるためリテール部門やコールセンター部門が関わり、「疑わしい取引」が発生すると警察に報告しなければならないため、経営企画室内にある金融庁担当の部門も対応に加わるケースがほとんどです。

こうした経緯から、当社のサービスは横断的に導入が進むため、契約の難易度が高くリードタイムも長くなる傾向にあります。

しかし、一度運用が始まれば、継続的に活用されるケースが多く、解約が難しい状況が作られやすくなっています。

こうしたビジネスフローを踏んでいるため、大企業に営業する際には当社がどれだけ専門性を持って取り組んでいるのかを示す必要があります。

そうした観点からも、官民連携を強固にし、法令対応やその対策についてアップデートしながらサービス開発や拡大戦略を進めています。

特にマネーローンダリングに関するガイドラインは毎年改訂があるため、金融機関への説明を当社が担うことで、その後のマーケティング活動に活用しています。

ガイドラインの意味を正しくご理解いただくことで、各企業に予算化も進めてもらえるようになり、サービス導入に繋がっています。

株式会社カウリス 2024年12月期 第2四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

現在、日本人の金融資産から年間約1,600億円が盗まれ、犯罪者は買い取った複数の銀行口座を使い、資金洗浄を行っています。

欧米では、この資金洗浄マーケットがGDPの2〜5%ほどに成長している状況です。

もし日本の500兆円規模のGDPに当てはめると、10〜25兆円にもなるため、いわば”資金洗浄”という一つの産業が形成されてしまっています。

さらに、テクノロジーが進化し、ChatGPTのようなツールが登場したことで、たとえばロシアや中国の犯罪者が流暢な日本語でフィッシングメールを作成できるようになり、金融犯罪の手口がますます巧妙になっています。

ただ、こうした技術進化に伴う金融犯罪の増加に対し、政府が対策を講じるまでにはどうしても時間差が生じます。

私たちとしては、このタイムラグを最小化し、犯罪者の情報をリアルタイムで提供しながら被害を防ぐ取り組みを強化していく必要があると感じています。

将来的には、金融機関のシステムで防ぐだけでなく、官民連携で国民教育のプログラムにもサイバーセキュリティを組み込み、攻撃から守るための啓発活動を進めることが求められるとも考えています。

現在、日本は世界中から攻撃対象にされ、さまざまな手口で資産が奪われ、資金洗浄に利用されている状況です。

このループを断ち切るために、あらゆるサービスを開発し、政府と連携して一つひとつの手口を潰していくことが私たちの使命だと考えています。

当社と政府がさらに密に連携することで、二次被害や三次被害を抑制し、一度発生した犯罪も同じ手口で再発しないように、リアルタイムで先手を打ち、犯罪の手口を封じ込めていく、そんな企業を目指していますので、ぜひ当社の事業成長にご注目いただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

当社は一つの株式会社として成長を目指すと同時に、電力会社や官民連携、さらにはお客様同士の情報共有によって日本国民の安全な生活に貢献することにコミットしています。

そのため、BtoCビジネスのように短期的に急成長するわけではなく、じわじわと浸透していく事業形態ではありますが、将来的に、電気、ガス、水道、通信に次ぐ“第5の社会インフラ”となることを目指しているため、長い目でお付き合いいただければ幸いです。

当社が存在することで、世の中の安全が一層守られ、犯罪を未然に防ぐ社会を実現していきます。

こうした当社の社会的価値に共感していただき、株主としてご支援いただけると嬉しいです。

株式会社カウリス

本社所在地:〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル4F FINOLAB

設立:2015年12月4日

資本金:3億4,325万9千円(2024年10月アクセス時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年3月28日上場)

証券コード:153A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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