※本コラムは2024年10月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。
日東精工株式会社は京都府綾部市という人口3万人の小さな町に拠点を置きながら世界中でビジネスを展開しています。
扱う製品は、極小ねじから大型の組立装置、計測検査分析装置、医療用機器までと幅広く、どれも日常生活に欠かせない製品ばかりです。
代表取締役社長 兼 COOの荒賀 誠氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
日東精工株式会社を一言で言うと
「Think Global, Act Local」の考え方で、日常生活に欠かせない製品を提供する会社です。
日東精工の沿革
創業の経緯
当社は京都府綾部市に本社を構え、昭和13年(1938年)に創業しました。
綾部市は京都市内から北へ1時間ほどの場所にあり、日本海側に近い地域です。
もともと養蚕業で栄えた町で、グンゼ株式会社もこの綾部市で事業を開始しています。
当時、養蚕業には多くの女性が従事していましたが、男性の働く場が少なかったため、地元の有志7人が「地域に工業を興し、男性の雇用を創出しよう」と会社を設立したのが始まりです。
創業当初は、地域の産業を支えるために、さまざまな製品の下請け業務からスタートし、水温計やレントゲンタイマーを製造し、その後、十字穴付きねじの製造を開始しました。
このねじ製造はねじ頭部の十字穴成型用工具(パンチ)の製作依頼を受けたことがきっかけで、ねじ用パンチの製造、ねじの製造へと事業を転換していきました。
この歴史が、ねじ製造における製造設備の自社一貫生産体制を支える技術力の源泉となっています。
高度経済成長期と事業成長
高度経済成長期と重なり、家電メーカーの成長と共に当社も事業を拡大していきました。
関西には大手家電メーカーが複数あり、こうした企業を中心に全国で当社のねじが使われていました。
最盛期には、カセットテープやビデオテープに使われるねじの大半が日東精工製でした。
その後、昭和40年代(1965年〜)に入り、ねじを手動ではなく自動で締めるための「ねじ締め機」を開発しました。
ねじを製造し、それを締めるねじ締め機まで一貫して生産しているのは世界広しといえども当社のみです。
当社のねじを使っていただいている現場を理解しているからこそ、ねじに合わせた機械の提案ができますし、生産ラインを熟知しているからこそ設備導入の提案もできます。
このような体制を整えたことで、お客様との関係性も深まり、現在まで続く長いお取引を実現できているのだと思います。
メディカル事業への参入
2020年4月より、メディカル新規事業部を発足し、2021年には「医療用生体内溶解性高純度マグネシウム」を発表しました。
当社のねじ関連製品は、これまで自動車や家電製品など工業用途として多く使われてきましたが、新たな業界に参入し企業価値を高めていこうと考えています。
具体的には、骨を固定する医療用素材としてマグネシウムを使った製品を開発し、現在は製品化に向けて準備を進めています。(後述)
このように、これまでの金属加工技術を応用し、医療分野にも挑戦しています。
日東精工の事業概要と特徴
概要
1つ目の事業が、ファスナー事業です。
「ファスナー」というと衣服などに取り付けられているチャックをイメージされるかもしれませんが、それとは異なります。
「ファスナー」は「締結するもの」を意味し、ねじに限らず、モノとモノをつなぐ部品全般を指します。
長年蓄積してきたノウハウをもとに、お客様のニーズに応えるオーダーメイド品を製造しています。
2つ目の事業は産機事業です。
ねじ締め機や自動組立装置などの「産業機械」を扱っています。
工場の製品組立における工程の多くを当社製品でカバーしており、完全オーダーメイドの大型組立ラインも提供しています。
近年では、URロボット社をはじめとした協働ロボットメーカーとの協業による専用ねじ締めツール、安川電機との協業による多関節ねじ締めロボットも販売しています。
豊富な製品群でねじ締めを総合的にサポートし、工場の人手不足解消に貢献しています。
3つ目の事業は制御事業です。
主に計測検査分析装置を扱っており、工場の「はかる」を総合的にサポートしています。
まず、液体の流量を計る流量計では、容積流量計、タービン流量計など、液体の種類や用途に対応が可能な幅広い機種を展開しています。
また、分析機器は、物質中の成分を分析できる装置や、その前工程となる試料の取り出し、蒸留等に使用する装置です。
近年ではエネルギー分野でのニーズやPFAS規制による企業の環境対応ニーズも高まっているため、当社も力を入れています。
4つ目の事業はメディカル新規事業です。
既に特許を取得している「医療用生体内溶解性高純度マグネシウム」の製品化に向けた取り組みを進めています。
事業における優位性
工業用ねじに特化した技術力
当社は基本的にオーダーメイドで製品を受注しており、ホームセンターにあるような市販のねじや部品は扱っていません。
お客様のニーズに合わせたオリジナル製品を開発し、特許を取得した独自の部品を提供しています。
また、安価なJIS規格品はほとんど生産しておらず、付加価値の高いオリジナル製品に軸足を置き、国内特許だけでも200件近く所有しています。
中でも注目されているのが異種金属接合技術「AKROSE」で、異なる金属材料、たとえば鉄とステンレス、銅とアルミなどを組み合わせて原子レベルで接合させた部品を製造する技術を有しています。
この技術は特に自動車業界、特にEVやハイブリッド車で多く使われるバッテリーの端子に活用されています。
こうした新技術を活かし、BtoBの企業として設計・開発段階から深く関わりながら、オーダーメイドでお客様のニーズに合わせた製品を提供しています。
また、ねじが小さくなるほど技術的には難しくなるため、このような点でもねじに特化した当社の技術力が光っています。
家電、雑貨、ゲーム機、精密機器(眼鏡、時計、パソコン、携帯電話など)に使用される小型ねじは、サイズ(呼び径)としては約0.6mmから20mm程度です。
シャープペンシルの芯が0.5mmですので、それとほぼ同じ太さの極小ねじから20mmくらいまでのボルト類を製造し、精密さが求められる分野において高い技術力を持っています。
事業間シナジーの創出
当社はねじを自社で製造するだけではなく、ねじを製造する機械そのものも開発できる点が大きな強みです。
他社から機械を購入して部品を作るのではなく、製造機械自体も自社で開発するため、お客様のニーズに応える独自性の高い部品づくりに繋がっています。
また、産機事業においては、ねじを締める作業を省人化・自動化するための高精度なドライバの開発も進めており、当社のねじを組み込んだ製品の組立工程を効率化できるよう支援しています。
このように、事業ごとにシームレスな連携ができていることが当社の強みだと考えています。
グローバル展開
当社は国内と海外の両方に生産拠点を持ちながら、地産地消のスタイルを展開しています。
台湾、中国、マレーシア、タイ、インドネシアといった各国に拠点がありますが、過去、日系企業が現地生産に切り替える際に、「日本と同等の部品供給を現地で行えるようにしたい」というニーズに応えるために進出してきました。
日系企業の進出に合わせた拠点展開により、当社の海外における事業基盤も固まっており、高品質な生産体制と運営力により、今後の成長戦略において重要な役割を果たしています。
日東精工の成長戦略
Mission G-second
2023年よりスタートした3ヶ年の中期経営計画「Mission G-second」では、4つの戦略テーマを掲げています。
具体的には、①拡大が見込める市場、②当社の売上高比率が低い市場、③高付加価値製品の拡販の視点を軸に、自動車のCASE関連事業、海外向け(特に非日系企業向け)販売、環境関連事業などに重点を置き、事業を展開しています。
自動車業界の変革
当社は日本の自動車メーカーのティア1のサプライヤーと取引していますが、自動車業界自体が変革期に入っているため、従来の自動車メーカーとの取引だけでなく、CASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric:コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)分野で新たに台頭している企業にも対応していきたいと考えています。
当社はこれまでエンジンやトランスミッション向けの部品はあまり手がけてきませんでした。
しかし、多くの家電メーカーが自動車業界へ参入し、当社の部品もその参入に伴って多くの分野で使用されています。
特に、モーターやバッテリーなど、これまで自動車に使用されなかった部品が求められているため、こうした新しい顧客層をターゲットにしていきます。
今後、自動車業界の部品メーカーにおけるティア1・ティア2は大きく変わると考えており、この変革を追い風にして事業展開していきたいと考えています。
メディカル事業
医療用生体内溶解性高純度マグネシウムは、2021年に当社が産学官の共同研究により発表した世界初の技術です。
従来の骨折治療では、金属製のインプラントを用いて骨の接合手術をし、接合後にインプラントの抜去のために2回目の手術を行う必要があります。
一方、マグネシウムは人間の身体にも含まれる元素であり、本マグネシウム材料をインプラントとして用いると、体内で緩やかに溶解し2回目の抜去手術が不要*になるという革新的な技術です。(*施術の種類によって異なる場合があります。)
2023年6月に国内特許、2024年7月に米国特許を取得し、現在は製品化に向けた取り組みを進めています。
海外展開
2024年にインドの部品メーカーの買収を発表しました。
チャイナリスクの回避に加え、インドは人口、GDPとも世界のトップに迫る国であり、当社の主要販売業界である自動車業界においても今後の四輪市場の拡大、EV市場の拡大を見込んでいます。
また、チャイナリスクの観点では、ベトナムに調達拠点を設け、中国で調達していたものをベトナムに切り替えるなどの対応をしています。
本M&Aによるインド展開を足掛かりに、海外での経験やノウハウをさらに深めていくとともに、将来的には中東〜アフリカへの展開を見据えています。
カーボン・ニュートラル社会の実現に向けた取り組み
当社の持つ防爆・プラント装置製作技術および大量生産可能な体制と、イーセップ社の持つシリカ分離膜技術を掛け合わせた共同開発により、有機溶剤リサイクル事業の事業化を進めています。
本事業ではCO2排出量に占める割合が高い化学産業の蒸留工程に着目しました。
リサイクル効率がよく機能性も高いシリカ膜による有機溶剤リサイクル装置の開発・販売に加え、装置に組み込む消耗品の分離膜管を製造・販売する事業です。
このような環境関連製品は、今後の成長ドライバーとなると期待しており、事業化への取り組みを進めています。
注目していただきたいポイント
当社が長年にわたりお客様のニーズを捉え、モノづくりに真摯に向き合ってきた姿勢にご注目ください。
ねじだけ、ねじ締め機だけを作っている会社は数多くありますが、そのどちらも作っている会社は当社だけです。
また、それに加えて計測検査分析装置も製造しており、工場のお困りごとに幅広く対応することができます。
そして、創業当初から地方創生や人的資本経営に取り組んできました。
当社は創業から80年の間、本社を移転せず、綾部市に根付いて事業を展開してきました。
例えば、主に地元出身の学生を対象とする制度として、大学生に月5万円、さらに留学する場合は月10万円を支給し、当社に入社いただいた場合には返済不要な奨学金制度を設けています。
また、製造現場では地元の高卒生を主に採用し、入社後に学び直したいという意欲のある社員には、給与を支給しつつ近畿職業能力開発大学校京都校への進学を支援する制度も設けています。
さらに、地域の他企業にも技術教育の機会を提供するため、50年以上前から夜間学校である「綾部工業研修所」の運営を支援し、機械科や電気科のコースを設置しています。
普通科出身者が機械や電気の基礎を学べるよう、当社の社員も講師を務め、図面の読み方や電気配線の基礎などを教えています。
このように、地域全体のモノづくり力の向上を目指し、地域の活性化に貢献することで当社の企業価値向上に繋げていきたいと考えています。
ぜひ当社のモノづくりへの想いや、地域貢献、地方創生などの取り組みを知っていただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
当社が扱う製品は、極小ねじから大型の組立装置、計測検査分析装置と幅広く、どれも日常生活に欠かせないものばかりです。
近年は医療分野にも参入しており、長い歴史を持つ企業でありながら、挑戦を続けています。
しかしBtoB企業であるため、一般の方に当社の活動を知っていただく機会は少ないかもしれません。
当社は創業以来、ここ綾部の地で地域の発展と雇用創出を目指し、地域創生とグローバル展開を両立させながら成長してきました。
当社のグローバルに展開する技術力と地域貢献の考え方に期待していただき、ご支援いただけると嬉しいです。
日東精工株式会社
本社所在地:〒623-0054 京都府綾部市井倉町梅ヶ畑20
設立:1938年2月25日
資本金:3,522百万円(2023年12月31日時点)
上場市場:東証プライム市場(1968年2月1日上場)
証券コード:5957