【264A】株式会社Schoo 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月9日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社Schooはすべての人が学び続けられる社会をつくり、「世の中から卒業をなくす」会社です。

代表取締役社長CEOの森 健志郎氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社Schooを一言で言うと

「世の中から卒業をなくす」会社です。 

Schooの沿革

株式会社Schoo代表取締役社長CEO 森 健志郎氏

創業の経緯

当社は2011年に設立されましたが、その原点は私自身の過去の経験に遡ります。

前職でリクルートに勤務していた際、入社2年目の終わり頃にeラーニングを活用した動画研修サービスに触れる機会がありました。

しかし、その研修内容は正直なところ十分に魅力的とは言えず、大きな改善の余地があると感じたのを覚えています。

その経験をきっかけに、動画やインターネットを活用したビジネスの可能性について日々考える中、社会人がより質の高い動画を通じて学び続けられるサービスを提供したいとの思いが強まり、「株式会社Schoo」を設立するに至りました。

法人サービスへ展開

設立当初は、現在の消費者向けオンライン学習サービス「schoo for Personal」の原型となるサービスをリリースし、個人向け事業としてスタートしました。

利用いただいている中で、コンテンツやサービス自体の質が高いと評価され、「会社全体で使いたい」といった法人からの要望を多くいただくようになりました。

そこで法人向けプランとして2015年に本格的に展開したことで、売上を大きく伸ばすことができました。

コロナ禍と人的資本投資の高まり

当社の大きな転機となったのは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言です。

それまでは、企業研修をはじめとする教育分野では対面形式による講義などが主流でした。

しかし、コロナ禍により、オンラインでの学びや教育が必須となり、オンラインの研修サービスへの需要が急激に拡大しました。

オンラインでのミーティングや研修が世の中の当たり前になったことで、当社のサービスが一気に浸透し、さらなる飛躍につながりました。

そして、近年「人的資本経営」や「人材投資」への対応ニーズが高まっており、政府も国策として人材分野へ力を入れ始めました。

最近では「リスキリング」という言葉も注目されており、助成金や補助金が用意される中、国全体で教育投資を推進する動きが加速しています。

この流れを受けて、企業が人材教育をより真剣に捉えるようになり、当社サービスの需要がさらに高まっています。

2024年9月時点では法人契約数は2,491社を突破し、年々当社サービスの導入が広がっています。

株式会社Schoo 2024年10月22日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

Schooの事業概要と特徴

概要

当社は、社会人教育市場の多様な変化に柔軟かつ包括的に対応できるビジネスポートフォリオを展開しています。

個人向けサービスで培った「受講者視点での学習体験」を法人向けに応用し、革新的な学習ソリューションを提供し、独自の成長モデルを構築しています。

現在展開している事業は、「Schoo for Business」(法人向けサービス)、「Schoo for Personal」(個人向けサービス)、「Schoo Swing」(高等教育機関・社会人教育事業者向けサービス)の3つです。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

特に「Schoo for Business」は、当社の売上の約9割を占めるリカーリング収益を生み出しており、契約社数の着実な増加により、安定した収益基盤を構築しています。

当社のサービスは、業種や業態を問わず多様な企業にご利用いただいています。

規模面では、大企業、スタートアップ、地域の中小企業まで幅広い層に導入されており、業種面では、IT系企業から日本を代表する大企業まで多岐にわたります。

当初はIT系中小企業を中心にオンライン教育が浸透していましたが、最近では日経225に名を連ねる大企業からの需要が顕著に増加しており、市場全体でのオンライン教育の活用が加速しています。

「Schoo for Business」が活用されているのは、法人の人材育成において大きく分けて2つのシーンがあります。

1つ目が義務的な研修です。

コンプライアンスやビジネスマナーといった、従業員が必須で受講する研修を網羅しつつ、多様な業界ニーズに対応したコンテンツを揃えており、企業の研修負担を軽減しています。

2つ目が自発的な学習の支援です。

福利厚生の一環として提供されるケースが多く、社員のリスキリングや自己研鑽の機会を創出しています。

また、リスキリングを推進することで、社員の成長を支援し、企業全体の競争力を高めるサポートを行っています。

そして、「Schoo for Business」の最大の特徴は、あらゆる人材育成ニーズに対応するオールインワンサービスである点です。

義務研修と自発的学習のいずれか一方に特化するサービスが一般的な中、当社は両者に対応可能な豊富なコンテンツを提供しています。

その結果、義務的な研修を中心に導入される企業も、自発的な学習の支援を目的とした企業も、総合的な教育プラットフォームとして「Schoo for Business」を選択しています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

事業における優位性

コンテンツの質と幅広さ

私たちは、13年以上にわたり社会人教育市場に特化し、自社スタジオで1本1本丁寧にコンテンツを制作してきました。

現在、ビジネススキルやデジタルスキルを中心に、8,500本以上の動画コンテンツを保有しています。

当社のコンテンツは、金融リテラシーの基礎から大学と共同開発した高度な教養講座まで、多岐にわたります。

それぞれの分野の第一線で活躍する専門家を国内外から招き、講義を担当していただくことで、質の高いコンテンツに仕上がっています。

そして、私たちの強みはデータを活用した継続的な改善プロセスです。

視聴データを詳細に分析し、どのコンテンツが最後まで視聴されるのか、どこで離脱が起きやすいのかを把握し、その結果を基にPDCAサイクルを回すことで、受講者にとって価値ある体験を提供できるよう、日々改善を重ねています。

また、当社では動画制作の全プロセスを内製化しています。

企画・編集を担当するプロフェッショナルなスタッフが多数在籍しており、内容の精査から撮影ディレクションまでを一貫して行っています。

この体制により、迅速かつ柔軟に高品質なコンテンツを生み出すことが可能です。

さらに、「社会人が動画で学ぶとはどういうことか」を深く研究し、そのノウハウを独自に蓄積してきました。

これにより、受講者の視点に立った構成や内容づくりが実現し、視聴者の満足度と学びの効果を高めることに成功しています。

私たちは、こうした徹底した取り組みと強固な体制を通じて、社会人教育の未来を支える質の高い動画コンテンツを提供し続けています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

プロダクト開発力

私たちは、個人向けサービスの運営で培った経験を活かし、アジャイル開発やA/Bテストを通じて、使いにくいUI(User Interface:ユーザーインターフェース)や機能を継続的に改善してきました。

この過程で得たノウハウを法人向けサービスにも応用することで、UIやUX(User eXperience:ユーザーエクスペリエンス)の面では他の研修サービスと一線を画しています。

従来のeラーニングや企業研修では、経営者や人事部が「学ばせたい」「与えたい」と考える内容を中心に設計されることが一般的でした。

しかし、当社は従業員目線を徹底的に重視し、彼らが楽しみながら最後まで学び続けられるサービスを追求しています。

たとえば、「今月のExcelテクニック」という基本的なビジネススキルを習得するためのコンテンツにおいても、単にExcelのスキルを網羅的に教えるのではなく、従業員同士がコミュニケーションを取りながら、楽しく学習を進められるようなクリエイティブなアプローチを採用しています。

この工夫により、学びが単なる作業ではなく、主体的な体験へと変わります。

このようなアプローチは、従来の経営者や人事部目線では到達しにくい部分です。

当社は個人向けサービスで培った豊富な知見を最大限に活用し、法人向けにも最適化した独自の方法論を提供しています。

これにより、他社では実現が難しい主体的な学習体験を提供できると自負しています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

カスタマーサクセス

一般的なSaaS企業では、導入支援に重点を置くケースが多い中、当社はそれに加えて「いかにコンテンツを活用し、従業員が学び続けられるか」を徹底的に重視しています。

たとえば、コンテンツの選定やカリキュラムの作成、さらには勉強会の開催まで、企業の人事担当者と密接に連携しながら、学びの伴走支援を提供しています。

このような取り組みを通じて、「この世の中から卒業をなくす(=すべての人が学び続ける社会を実現する)」というミッションの実現を目指しています。

また、多くのスタートアップ企業は、収益を上げるためにピボット(事業転換)を行い、最適なビジネスモデルを模索することが多いと言われています。

しかし、当社は創業以来このミッションに忠実に取り組み続けてきました。

たとえ時間やコストがかかる伴走支援であっても、その価値を信じ、ミッションに情熱を注ぎ続けているからこそ実現可能な取り組みです。

その結果、2024年9月時点でのNet Revenue Churn Rateは0.53%という極めて低い数値を達成しました。

これにより、長期的にご契約いただく企業が多く、利用者も着実に増加しています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

Schooの成長戦略

契約社数の拡大

「Schoo for Business」の契約社数は2,491社を超え、すでに幅広い企業に導入いただいています。

しかし、当社はさらなる契約社数の拡大を目指し、より多くの企業にサービスの価値を届けたいと考えています。

当社のサービスは、人的資本投資や組織開発に課題を抱える企業にとって非常に適しており、その価値を理解していただければ、スムーズな導入が期待できます。

しかし現在、人的資本経営や人材投資、組織開発における戦略が十分に整備されていない企業が多いという課題があります。

近年、「キャリアオーナーシップを持った教育環境を整えるべきだ」や「人手不足に対応するためにリスキリングに本腰を入れるべきだ」という認識を持つ経営者層は増えています。

しかし、多くの企業が具体的な実行方法や、投資家向け資料での人的資本の表現方法について、まだ模索中であるのが現状です。

そこで当社は、「Schoo for Business」の提供だけに留まらず、企業と共に戦略を構築するコンサルティングや、必要に応じたオーダーメイドの研修プログラムを提供するオプションサービスを展開しています。

このような支援を通じて、経営戦略における人的資本領域を強力にサポートしています。

さらに、この過程で得た企業のニーズをプロダクトや新サービスに反映させることで、成長の好循環を確立しようと考えています。

まだ取引のない大企業も多数存在します。

当社のサービスが提供する価値を感じていただくことで、新規導入をさらに拡大し、多くの企業の課題解決に貢献していきたいと考えています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

ARPAの継続的な向上

当社のプロダクトはその特性上、部門単位での導入から始まり、徐々に全社規模へと展開されるケースが一般的です。

最初は特定の部署や新卒社員研修、あるいは部門長向け研修といった特定の用途に絞って導入されることが多く、特に大型企業における導入が増加しています。

今後、既に導入いただいている企業の社員利用をさらに拡大し、全社規模での利用に移行していただくことが、成長戦略上の重要な課題となっています。

たとえば、旭化成様では、導入当初は新卒社員や一部子会社向けに数百IDで利用を開始しましたが、カスタマーサクセスチームの支援により現在では約2万人規模での全社導入へと拡大しています。

この成功を支えたのが、当社カスタマーサクセスチームによるきめ細かなサポートです。

具体的には、従業員を対象とした勉強会の開催や、社員同士が学び合うコミュニティの構築を推進し、学習環境を整備しました。

その結果、高い満足度とエンゲージメントスコアを達成し、全社規模での導入へと繋がりました。

このような成功事例を活用しながら、既存顧客の利用範囲を拡大し、短中期的なARPA(Average Revenue Per Account:1顧客当たりの平均売上金額)の向上を目指しています。

さらに、企業の成長を支えるための全社的な学びの促進を通じて、当社プロダクトの価値をより一層高めていきたいと考えています。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

中長期的な構想

当社は国内社会人教育市場においてNo.1を目指しています。

この領域では、現在特定の企業が突出している状況ではなく、特定の分野に特化した企業が点在しているのが現状です。

たとえば、「MBAならこの会社」「英語ならこの会社」「資格取得ならこの会社」というように、それぞれ専門分野に特化している傾向があります。

その理由として、社会人教育の大きな特徴である「学びたい内容やジャンルが人によって大きく異なる」ことが挙げられます。

義務教育で学ぶ国語や数学、理科といった科目が比較的限定されているのに対し、社会人になると価値観やキャリア観が多様化し、それに伴って学びたい内容も多岐にわたります。

特に雇用の流動化が進む現在、一人ひとりのニーズに応えるためには幅広いコンテンツを揃える必要があります。

このように難易度の高い業界環境の中で、当社は内製による幅広いコンテンツ制作を続けてきました。

その結果、「オールインワンサービス」としてのポジションを確立し、ブランド力を高めてきました。

今後は、「Schoo(スクー)」というプラットフォーム上に他の教育事業者のコンテンツを集約し、「ここに来れば、学びたいことがすべて揃っている」という唯一無二のポジションを構築していきます。

これにより、「社会人教育といえばSchoo」という認知を広げ、市場シェアのさらなる拡大を目指します。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

投資家の皆様にとって、「マクロなマーケット環境がどう変化していくか」という視点は非常に重要です。

私たちは、社会人教育の市場がリスキリングや人材への投資を国策として推進する流れの中で、今まさに盛り上がりを見せていると考えています。

さらに注目すべきは、HR(Human Resources:ヒューマンリソース)領域全体の投資の流れが、採用から教育へとシフトしている点です。

これまで多くの企業は、人材紹介や派遣に多額の費用をかけることで優秀な人材を確保し、事業成長を支えてきました。

しかし、日本の少子高齢化という揺るぎないトレンドにより、外部から必要な人材を採用することがますます困難になっています。

特に、デジタル人材や地方企業が必要とする人材の確保には大きな課題が残されています。

このような状況下で、企業は採用だけに依存するのではなく、自社の従業員に対する教育投資に力を入れる必要があります。

デジタル人材や優秀な人材を自社で育成し、長期的に定着させるための人材戦略が求められているのです。

また、キャリアオーナーシップを持つ社員が働き続けたいと思えるような、学習を福利厚生の一環とする環境整備も重要な課題となっています。

結果として、これまで採用費に割り当てられていた予算の一部が、従業員の育成や定着を目的とした教育投資に移行する流れが顕著になっています。

このトレンドは、HR市場全体から社会人教育市場への資金流入を促進する要因となっています。

現在、日本の社会人教育市場は約2兆円規模と言われていますが、HRマーケット全体から教育市場へのシフトが進むことで、さらなる成長が見込まれます。

こうした大局的な視点から見れば、社会人教育市場のポテンシャルがいかに大きいかをご理解いただけるのではないでしょうか。

株式会社Schoo 2024年9月期 決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は「この世の中から卒業をなくす」というミッションを掲げ、すべての人が学び続けられる社会の実現を目指しています。

このミッションのもと、社会人教育市場において独自のポジションを確立し、高いプレゼンスを発揮してきました。

社会人教育市場は、リスキリングや人材投資を国策として推進する動きの中で、今後ますます注目される分野です。

また、HR領域全体のトレンドが「採用から教育へ」とシフトしていることから、さらなる市場拡大が期待されています。

ぜひ、社会人教育市場の成長性とHR領域への拡大可能性にご注目いただき、当社の成長を共に支えていただければ幸いです。

これからも私たちは、社会の変化に応じて柔軟かつ革新的な取り組みを通じて、学び続けられる社会の実現に向けて挑戦し続けます。

株式会社Schoo

本社所在地:〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町2-7 エクセルビル 4階

設立:2011年10月3日

資本金:6億7560万4900円(2025年1月時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年10月22日上場)

証券コード:264A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

目次