【9145】株式会社ビーイングホールディングス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社ビーイングホールディングスはロジスティクスの未来を探求する総合物流輸送企業グループです。

代表取締役社長の喜多 甚一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社ビーイングホールディングスを一言で言うと

「運ばない物流®」を実現する物流のプラットフォーマーです。 

ビーイングホールディングスの沿革

株式会社ビーイングホールディングス代表取締役社長 喜多 甚一氏

創業の経緯

もともと私の祖父は、石川県金沢市から少し離れた場所で、小さな運送会社を営んでいました。

当時、保有するトラックの台数は20台にも満たず、非常に小規模な事業でした。

しかし、父の代で事業が行き詰まり、会社を清算することになりました。それが、私が18歳の頃のことです。

父の事業破綻により、未成年だった私は自立を余儀なくされました。

親の保証も得られない中、近所で働き口を探していたところ、鶏肉屋さんが人手を募集しているという話を耳にし、19歳の時に自営業者としてその鶏肉屋さんの下請け販売を始めることとなりました。

最初は軽自動車に鶏肉を積み、割り当てられた地域を営業して回る形で事業をスタートしました。

やがて、事業が軌道に乗り始め、扱う商品の量が増加したため、1年後には2トントラックを購入しました。

周囲の協力も得ながら、2年間ほど鶏肉販売業を一匹狼のような形で続けていました。

その後、税金の仕組みや事業運営の基本について学び始め、次第に経営への理解が深まりました。

父から「いずれ会社にした方がいい」とアドバイスを受けたことで、20歳の時に現在の当社を設立しました。

事業の拡大

会社を設立してからの1〜2年は、トラック1台で事業を続けていました。

そんな時、取引先の鶏肉屋の社長から「隣の福井県の鶏肉屋と提携したので、トラックを2台増やして3台で福井に行ってくれないか」という依頼を受けました。

この依頼をきっかけに、人を雇いながら事業を拡大することを決意しました。

しかし、その仕事は1年後には無くなってしまい、増やした2台のトラックの借金が残る状況となり、死に物狂いで働いて返済しようと決意しました。

借金を返済するために働き口を探していたところ、金沢の中央市場が日本で最も早く動き出す市場であることを知りました。

当時、関東や東北からの荷物が金沢や富山に到着するものの、トラックは別々に運行されており、その理由として金沢で荷物を降ろした後、富山へ運ぶのが時間的に難しいという問題がありました。

この隙間を埋める形で、長距離トラックの荷物を金沢で受け取り富山に配送する下請け業務を始めることにしました。

具体的なスケジュールは非常に過酷なものでした。

朝6時ごろから鶏肉屋の仕事をこなし、夕方4時から9時まで働いた後、家に戻り、夜中12時に2トントラックで中央市場に向かいます。

そして、大型トラックから富山方面の荷物を受け取り、夜中12時から朝4〜5時にかけて富山の市場周辺に配達して回るという生活を続けました。

昼間の仕事でトラックの固定費を賄い、夜間の仕事で借金返済に充てるという生活を続けていくうちに、次第に荷物の取扱量が増え始めました。

最終的には、北陸三県の食品市場周辺の小口配送を担うようになり、2トントラックの台数も12台を抱えるまでに事業が拡大しました。

こうして、最初のビジネスモデルが確立し、会社として大きく成長していく基盤を築くことができました。

物流業界に変革を

当時、私は当社を「食肉魚介類の販売業」として認識していました。

しかし、配送業務の規模が拡大するにつれ、当社の事業が運送業に該当することが判明しました。

そこで運送業者としての認可を取得し、業界に適した会社名を検討し始めました。

物流業界を見渡すと、「〇〇運輸」「〇〇運送」「〇〇倉庫」「〇〇物流」「〇〇ロジスティクス」などの名称が溢れていますが、それぞれにどのような違いがあるのか疑問を持ちました。

本屋で調べたところ、「物流とは単なる輸送ではなく、輸送、保管、包装、荷役、流通加工、情報システムの構築という6つの機能を持つ仕組みである」という定義に出会いました。

この定義を知り、当時の物流業界が輸送以外のこれらの機能を本当に提供しているのか疑問に思いました。

同時に、当社が北陸三県の食品小口配送を軸にしながら、これら6つの機能を自社で一貫して提供できる物流会社を目指すべきだと決意しました。

その第一歩として、パソコンが普及し始める直前であったため、将来性も考慮して最も縁遠いと感じた「情報システムの構築」に取り組みました。

その後、システム開発を皮切りに、輸送、保管、包装、荷役、流通加工といった業務を順次拡大していきました。

その結果、物流の包括的な業務受託を行う、いわゆる3PL(Third Party Logistics:サード・パーティ・ロジスティクス)に近い事業モデルが出来上がりました。

こうした取り組みを通じて、食品業界で培ったノウハウと流通業界に精通した知識を活かし、本格的な提案型の3PL事業者へと事業を転換していきました。

そして、北陸三県において多くのドラッグストアと深くお付き合いさせていただき、業界全体の90%以上にわたる初期物流センターの企画、運営、立ち上げを手掛けるまでに至りました。

この実績が評価され、中部地方のドラッグストア物流センターの立ち上げ時にトラブルが発生した際に再建を依頼されました。

私たちは1週間ほどで再建を成功させ、その後も「ぜひ継続して物流センターの業務をお願いしたい」との依頼をいただき、中部地方から関東へと事業を拡大していきました。

こうした依頼が増加する中、2017年頃には取引先が大手流通業者を中心とする構成になっていました。

この状況を踏まえ、「お客様の意思決定機関に近い場所に拠点を構えるべきだ」と判断し、東京・大手町に本社機能の一部を移転しました。

この決断が、全国規模での事業展開を加速させる大きな契機となりました。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

ビーイングホールディングスの事業概要と特徴

概要

当社のビジネスは物流センターの運営やコンサルティング業務を行う物流事業が中心です。

先ほどもお話しした、物流の6つの機能である輸送、保管、包装、荷役、流通加工、情報システムを自社で一貫して手掛け、他社にはない強みを発揮しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

4つの特長

当社は、「生活物資に特化」「運ばない物流®」「見える物流」「現場力」の4つの特長を武器に、独自性のあるビジネスモデルを展開しています。

消費財を中心とした生活物資に特化しており、主要な取引先はドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーマーケットといった流通業界の企業です。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

一般的に、流通業界では卸売業者が物流施設を運営しているケースが多く、物流施設の立ち上げや運営の成否は3PL業者の能力に大きく依存しています。

そのため、パートナー選びを誤ると、機能不全に陥る物流センターが生じることもあります。

物流全体のプロセスや機能、それに伴うシステムへの深い理解が不可欠であり、これらを的確に設計することが求められます。

当社は、このような従来の物流の課題に対し、「運ばない物流®」という革新的なソリューションを提供しています。

従来の物流では、メーカー、卸売業者、小売業者ごとにセンターを所有し、センター間の輸送や入出荷作業が発生するため、非効率的なサプライチェーンとなりがちです。

それに対し、当社は消費地に近い場所にメーカー、中間流通業者、小売業者の倉庫機能を1つに集約した「SCMセンター」を構築し、物流コストと業務負担を大幅に軽減する効率的なモデルを実現しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

この「運ばない物流®」を実現するためには、機能設計のノウハウと、それを支える高度なシステムが必要です。

当社が提供する「Jobs」は、生産性管理・輸配送管理・倉庫管理・勤怠管理・バース管理・CO2排出量管理の6つの機能を有し、物流の「見える化」を実現しています。

具体的には、WMS(倉庫管理システム)が複数の物流データを1つの物流センターに紐づけ、在庫管理をカスケード式に進める仕組みを提供します。

また、TMS(輸配送管理システム)は、物流センター内のすべての活動を原価計算可能にすることで、緻密な生産管理を可能にします。

これにより、個々の作業者がどのタスクをどれだけのスピードで処理したのか、1日でどれだけの作業量をこなしたのかを確認できます。

不採算のラインや作業の滞りがどこで発生しているかも可視化されるため、物流センター全体や会社全体のパフォーマンスを最適化し、効率化への取り組みに大きく貢献しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

さらに、当社の「現場力」も大きな特長の一つです。

現場に適したデバイスを自社で開発・特注することで、工数削減や作業の省人化、安全性の向上を追求しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

このように、現場の課題に即応したソリューションを提供することで、他社にはない競争力を確立しています。

当社は、物流業界が抱える課題を自ら解決し、その解決策をソリューションやツールとして提供することで、業界内での独自性を発揮しています。

ビーイングホールディングスの成長戦略

生活物資に特化した物流への経営資源の集中投資

当社は着実にシェアを拡大しており、今後も生活物資を扱う事業者に特化して事業を展開していく方針です。

現在、お取引先の多くは全国に拠点を持つ大手企業であり、他の3PL事業者と既に取引を行っています。

このような激しい競争状況の中、当社は物流に関する相談を頂きながら毎年シェアを拡大しています。

この成長の背景には、先ほどお話しした「Jobs」の存在が大きな役割を果たしています。

当社が業務を受託する際には、「Jobs」を併せて導入し、物流業務全体の効率化と見える化を実現しています。

その利便性や機能性が評価される中で、「Jobs」を単体で利用したいという要望も増えてきました。

既存のお取引先に限りますが、「Jobs」単体での提供も行っており、柔軟に対応しながらお客様からの信頼を高めています。

「Jobs」を活用することで、さまざまな物流データを一元管理し、関係者間で共有できる仕組みを構築しています。

このデータの活用により、業務の効率化や精度の向上が可能となり、お客様から高い評価をいただいています。

今後も、「Jobs」を戦略の中核に据え、さらに多くの企業へ価値を提供することでシェアの拡大を推進していきます。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

関東から全国への展開を見据えた物流基盤の構築

当社のお客様には、北陸から関東、さらには全国へと展開している大手チェーンストアが多く含まれています。

それに対応するため、当社もエリアを順次拡大し、お客様のニーズに応えられる体制を構築しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

基本的なエリア展開の流れとして、まずはサテライト拠点として居抜き物件を探します。この物件が、既存業務を受託できる十分なキャパシティを備えていることが条件です。

そして、業務量が増加してきた段階で、さらに大きな居抜き物件を確保します。

取扱量が増加し、事業規模が拡大すると、物流センターを通過型から在庫型へと切り替えます。

この在庫型物流センターでは、小売業者の在庫を管理するための専用拠点を構築します。

さらに取扱量の増加と小売業者の店舗展開が進んだ段階で、初めてSCMセンター(サプライチェーン・マネジメントセンター)の全体的な拡張を検討します。

SCMセンターでは、一つの小売チェーンとその主力ベンダー(卸業者)の在庫を一括管理します。

卸業者の在庫は物流センター内で預かりますが、所有権は卸業者が保持するため、このSCMセンターは卸業者の仮想物流センターと小売業者の物流センターを兼ねた施設として機能します。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

SCMセンターの規模としては、最低でも要冷蔵施設で3,000坪、通常の施設では5,000坪から6,000坪程度が必要です。

一度の投資額は地域や施設規模によりますが、現在では20億〜30億円程度を見込んでおり、2年に1件のペースで新施設の構築を進めています。

このように、当社はお客様の成長に合わせた柔軟な物流インフラを提供することで、さらなる効率化と価値提供を実現しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

量の拡大と質の変革による長期成長イメージ

日本の流通構造には、「中間流通在庫が可視化されていない」という深刻な課題があります。

たとえば、メーカーが商品を製造した後、それを卸売業者が買い取る仕組みが一般的なため、メーカー側は自社製品が市場でどれだけ在庫として残っているのかを正確に把握することができません。

一方、アメリカの流通構造はこれとは大きく異なります。

アメリカでは、ディストリビューター(流通業者)が商品の所有権を持たず、メーカーから「預かり在庫」として管理する仕組みを採用しています。

この仕組みにより、メーカーは自社製品がどこでどれだけ在庫として存在しているのかをリアルタイムで把握することができます。

しかし、日本では卸売業者が商品を一時的に買い取るため、流通在庫の全体像が不透明です。

これが、日本の流通構造における根本的な課題であり、効率的な供給計画や在庫管理が困難な原因となっています。

私たちは、この課題を解決するために独自のシステム「Jobs」を開発しました。

「Jobs」を活用することで、中間流通在庫の「見える化」を実現し、物流データの蓄積・分析を通じて、より効率的かつ効果的な物流提案を可能にしています。

ここで当社が重視しているのは、「在庫データ」や「物の移動データ」等、市場在庫の個数データであり、お客様の卸値・単価等の取引データではないことから、当社の取り組みが直接卸売業のビジネスモデルと競合することはないため、複数の卸売業からデータを得ることが可能です。

今後は、「Jobs」のシステムをさらに進化させることに力を入れ、将来的には「データネットワークセンター」を構築したいと考えています。

このセンターを通じて、物流データの価値を最大限に活用し、データビジネスへと事業を転換させていくことを目指しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

ただし、この目標を達成するためには、現在の物流事業をさらに成長させ、投資余力を高める必要があります。

そのため、M&Aなどを積極的に活用しつつ、既存事業の着実な成長に注力していきます。

仕事の依頼は豊富にありますが、お客様の期待に応えるためには、提供するサービスの質を高めることが重要です。

当社は、安定的な成長を基盤としながら、新たなビジネスモデルへの変革を実現し、業界に革新をもたらすことを目指しています。

株式会社ビーイングホールディングス 2024年12月期 第3四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

当社の業績が非常に安定している点にぜひご注目ください。

規模こそまだ小さいものの、成長率と収益率の両立を実現し、着実な成長を続けています。

特に、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった指標をご覧いただければ、当社が効率的かつ持続可能な経営を行っていることを実感していただけるはずです。

私たちは「筋肉質な経営」を目指しており、無駄を徹底的に排除しながら、強固な成長基盤を構築しています。

また、日本の3PL事業者の多くは、お客様が設計した物流プロセスを実行する「受託業者」としての役割にとどまっています。

しかし、アメリカの3PL事業者は異なります。

システム提案力や構築力、そして優れたマネジメント力を兼ね備え、取引先に対してリーダーシップを発揮しながら、経営戦略に基づいたソリューションを提供しています。

私たちが目指すのは、そのような本来の3PLの役割である「お客様の経営戦略に基づく機能設計や物流計画の提供」を担い、物流の効率化と最適化を実現する会社であることです。

時折、「コンサルティングビジネスと競合するのではないか」との質問を受けることがあります。

しかし、単なる物流コンサルティングでは十分な成果を上げることは難しいと考えています。

物流の実務に深く精通し、豊富なノウハウを持ちながら、自社で必要な機能を備えていることが、持続的な成功の鍵です。

当社のビジネスモデルは非常に独自性が高く、類似の業種や企業を見つけることは難しいかもしれません。

しかし、私たちは他社との比較にとらわれることなく、独自のスタンスを貫いていきます。

この独自性こそが、当社の強みであり、競争力の源泉です。

現在の事業規模以上に成長性と収益性を兼ね備えた経営モデルを展開している点に、ぜひご注目ください。

投資家の皆様へメッセージ

現在、当社は陸運業における3PL事業者として認識されていますが、一般的な3PL企業とは一線を画す、独自性の高いビジネスモデルで事業を展開しています。

市場環境としても、物流需要の拡大が引き続き期待されている中で、当社の取り組みにご興味を持ち、ご理解を深めていただけることを心より嬉しく思います。

私たちは、他社にはないユニークなビジネスモデルと高い競争優位性を武器に、長期的な成長を目指しています。

これからも物流業界に革新をもたらし、お客様やステークホルダーの皆様とともに、新たな価値を創造していきます。

今後とも、当社の挑戦にご支援とご期待を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

株式会社ビーイングホールディングス

本社所在地:〒920-0356 石川県金沢市専光寺町レ3-18

設立:2000年4月3日(創業:1986年9月17日)

資本金:690,000,000円(2023年12月末時点)

上場市場:東証スタンダード市場(2020年12月15日上場)

証券コード:9145

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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