【5923】高田機工株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月24日に実施したIRインタビューをもとにしております。

高田機工株式会社は「高い技術」「不断の努力」「豊かな未来」の社是のもと、品質・安全・環境に配慮し、社会に満足していただくインフラ整備に貢献しています。

代表取締役社長の中村 達郎氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

高田機工株式会社を一言で言うと

ものづくりに真摯に向き合い、橋梁や鉄骨を手掛ける、技術力に裏打ちされた職人集団です。

高田機工の沿革

高田機工株式会社代表取締役社長 中村 達郎氏

創業の経緯

当社は、大正期に創業し、1932年に設立された歴史ある企業です。

創業者である石川県出身の高田三次郎は、当初「合名会社高田兄弟商会」の鉄構部門を担っていました。

この鉄構部門が独立し、1932年に「株式会社高田鉄骨橋梁製作所」として設立されます。

その後、1935年に高田兄弟商会と合併、1939年には現在の「高田機工株式会社」に社名を変更し、橋梁事業と鉄構事業を軸に事業を拡大していきました。

オイルショックからの回復と実績の積み上げ

1960年代後半から1970年代初頭にかけての高度経済成長期、日本国内では大規模な建築物や構造物の需要が急増しました。

しかし、1974年のオイルショックにより経営環境が大きく悪化しました。

この困難を乗り越えるため、他社との差別化に努め、より効率的で革新的な製作・架設技術の開発に注力し生産の集中化を図り、今日までに多くの橋梁や鉄骨の実績を築きました。

たとえば、1992年に完成した関西国際空港連絡橋は、世界最長のトラス橋として知られており、当社も建設に携わりました。

同年に建設された関西国際空港ターミナルビルでは、日本初の海上空港という特殊な条件下において、当社が製作した鉄骨も使用されています。

また、琵琶湖大橋、東京湾アクアライン、明石海峡大橋、多摩川スカイブリッジなど、数々の橋梁プロジェクトに携わると同時に、京都駅ビル、六本木ヒルズ、大阪ステーションシティ、JRゲートタワーといった大規模施設や高層ビルにも当社の鉄骨が使用されています。

新たな挑戦と変革

近年では、政府予算の関係やインフラの整備状況の変化により、新設工事の需要が減少する一方で、インフラの老朽化対策や更新需要が高まっています。

当社も時代の流れに応じ、橋梁の維持修繕・更新市場に積極的に挑戦していきます。

会社設立100周年を目前に控えた現在、当社は「基幹事業の集中と選択」および「事業変革への挑戦」を掲げ、持続可能な企業成長を目指しています。

これからも技術力と職人魂を活かし、変化する時代のニーズに応えていきます。

高田機工の事業概要と特徴

概要

高田機工株式会社は、橋梁事業と鉄構事業の2本柱を中心に事業を展開しています。

橋梁事業については新設橋梁の設計・製作・現場施工に加え、既存橋梁のメンテナンス工事を行っています。

主な顧客は国土交通省・高速道路会社・地方自治体などで、公共事業の領域に深く関与しています。

鉄構事業については超高層ビル用鉄骨や大空間構造物の設計・製作・現場施工を中心としています。

この分野では、大手建設会社(スーパーゼネコン)からの受注がほとんどを占めています。

高田機工株式会社 より提供

事業における優位性

高い技術力

当社の強みは、先端技術と職人技の融合にあります。

橋梁事業では、まず設計段階で最新技術や新しい工法を積極的に採用し、最適な設計を追求します。

その設計を基にした製作段階では、熟練した職人の高度な技術が活かされています。

特に溶接の精度や仕上がりの美しさ、工程管理には長年培ったノウハウが反映されています。

また、現場施工においても高い精度が必要で、職人技と最新技術を組み合わせた効率的かつ高品質で安全な施工を実現しています。

近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用にも注力しており、仙台市内で施工した箱堤高架橋工事が、国土交通省から「令和6年度インフラDX大賞」の優秀賞を受賞しました。

レーザースキャナ測量や4D架設シミュレーションを駆使し、高度な施工を実施し、送出し架設時にはデジタルツイン技術を導入することで、現地の施工状況と管理情報をクラウドで一元管理しました。

高田機工株式会社 より提供

これにより施工の効率化と品質向上を実現し、高い評価を受けました。

このように、当社は先端技術と熟練の技術を活かしながら、高い技術力を維持しています。

「Sグレード」認定の和歌山工場

当社の和歌山工場は、鉄骨の製作工場として国土交通大臣の最高ランク「Sグレード」の認定を受けています。

この工場は海に面しており、大型物件の搬出入に適した岸壁と広大なヤードを備えています。

また、温暖な気候に恵まれた和歌山の地域特性を活かし、関西を中心に全国規模で事業を展開しています。

この工場を拠点に、効率的かつ高品質な橋梁と鉄骨の製作を行っています。

高田機工株式会社 より提供

高田機工の成長戦略

当社を取り巻く市場環境とその対策

近年、インフラの老朽化対策や更新需要が増加しており、橋梁事業では新設工事から維持・修繕・保全へのシフトが求められています。

この変化に対応するため、2024年4月には「保全推進室」を新設しました。

来年度には「保全本部」に格上げして更に体制を強化する予定です。

一方、鉄構事業では、東京都内で進む再開発プロジェクトなど多くの案件も控えており、継続的な需要が期待される分野です。

また、当社の「生研トラス技術」は、雪の多い東北地方や北陸地方でも対応できる構造となっており、体育館の屋根施工などに採用されています。

航空機の格納庫屋根として自衛隊基地にも採用実績があり、特に防衛施設強靭化に伴う需要増加に期待しています。

2024年7月にはこの分野を推進する「空間創造部」を新設し、さらなる事業拡大を目指しています。

高田機工株式会社 2024年5月10日 「中期経営計画2024 ~Change TKD~」 より引用

Change TKD

当社は、未来の経営を担う人材の育成を目的に、若手社員の意見を積極的に取り入れています。

会社のビジョン・ミッション策定にあたり、各部署より若手社員を集めた合宿を開催し決定しました。

その成果として、「Change TKD」をスローガンに掲げる「中期経営計画2024」を策定しました。

また、以前は男性中心だった橋梁や鉄骨の現場では女性が活躍するようになりました。

非常に時代の変化を感じています。

これからは「持続的な成⾧」と「企業価値の向上」を目指し、中期経営計画2024に従って変革に挑戦してまいります。

高田機工株式会社 2024年5月10日 「中期経営計画2024 ~Change TKD~」 より引用

企業価値向上に向けて

当社の課題は、ROE(自己資本利益率)が低いことと、PBR(株価純資産倍率)が低いことだと認識しています。

高田機工株式会社 2024年5月10日 「中期経営計画2024 ~Change TKD~」 より引用

まず、ROEについては、主に公共事業が中心であるため、高い収益性を確保するのは難しい構造です。

当社は約7割が公共関連の橋梁事業で、残りの約3割が民間関連の鉄構事業となっています。

公共関連の橋梁事業については、当社が注力している新設工事の発注量が低迷している上、入札が中心となるため、受注できるかどうかで業績が大きく左右されます。

この課題を改善するため、橋梁事業では新設工事から市場の拡大が見込まれる維持修繕・保全工事へのシフトを進め、民間関連の鉄構事業において競争優位性のある生研トラスに注力することで、収益性向上を目指しています。

そしてPBRの改善については、中期経営計画2024に於いて配当政策を配当性向50%以上とするとともに下限配当50円を設定しています。また、今年9月末を基準に株式を3分割するなどの取組みを開始しました。

また、これまで十分に行えていなかったIR活動を強化し、積極的な情報開示や投資家とのコミュニケーションを深めることで株価向上を目指しています。

注目していただきたいポイント

当社は創業以来、技術志向を重視し、これまで積極的なアピールを行わずに「良いものを作れば評価される」という信念を大切にしてきました。

しかし、現在の激変する時代においては、それだけでは生き残ることが難しいと認識しています。

そこで、新たなビジネスモデルを模索し、若手社員の意見やアイデアを積極的に取り入れながら、柔軟性のある経営を目指しています。

当社の成長を支えてきたのは、高い技術力と困難な課題にも挑戦する姿勢です。

2018年に台風でタンカーが関西国際空港の連絡橋に衝突し、橋が大きく損壊する事故が発生しました。

この修繕工事に当社も携わり、非常に高い難度の中、迅速に施工を完了させています。

また、東日本大震災では、通行不能となった道路の復旧に尽力し、震災発生からわずか約1か月後の3月末には開通に漕ぎ着けました。

こうした困難な案件への挑戦と高い技術力による成果は、当社の信頼性を裏付けています。

これからも、厳しい課題に果敢に挑みながら、確実な実績を積み上げていく姿勢を大切にしてまいります。

投資家の皆様へメッセージ

当社は、1974年のオイルショックによる経営危機を教訓に、事業の多角化ではなく、橋梁と鉄構という2つの事業に集中する道を選びました。

安定した時代においては、「変化よりも安定」を重視した経営を行ってきましたが、近年の外部環境の変化により、新たな対応が求められています。

特に、コロナ禍や鋼材価格の高騰、DXの急速な進展など、これまでにない課題が押し寄せています。

このような状況に柔軟に対応し、企業価値を高めるため、2024年度からは中期経営計画を本格的に推進しています。

その象徴として掲げたスローガンが「Change TKD」です。

「変化・変革・変貌」をキーワードに、持続的な成長と企業価値向上を目指し、従来の枠にとらわれない新しい挑戦を続けてまいります。

これからも、柔軟で前向きな姿勢を持ち、時代の変化に対応した経営を推進することで、投資家の皆様からの信頼に応え続けてまいります。

どうぞ今後とも当社へのご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

高田機工株式会社

本社所在地:〒556-0011 大阪府大阪市浪速区難波中2丁目10番70号 パークスタワー6階

設立:1932年3月1日(創業:大正期)

資本金:5,178,712,000円(2024年12月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1962年6月1日上場)

証券コード:5923

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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