【4318】株式会社クイック 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月27日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社クイックは多様な人材サービスを揃え、クライアントと一緒に、社会課題や顧客が求めるニーズに対して懸命に取り組んでいます。

代表取締役会長 兼 グループCEOの和納 勉氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社クイックを一言で言うと

世のため人のために「いっしょけんめい」に取り組む会社です。 

クイックの沿革

株式会社クイック代表取締役会長 兼 グループCEO 和納 勉氏

創業の経緯

1980年9月19日、この日は私たちの会社が誕生した記念すべき日です。

正式な設立登記日は9月30日ですが、ここには特別な理由があります。

創業前、私はリクルートに勤務していました。

独立を決意した際、私を陰になり日向になり支えてくださったのが、当時リクルートで専務取締役を務めていらっしゃった池田友之さんでした。

そして実は、9月19日という創業日は池田さんの誕生日でもあります。

この特別な日を、私たちの会社にとっての「おめでたい記念日」とすることで、感謝の気持ちを込めたい、そんな思いから、この日付を創業日に選び、「クイックプランニング(旧社名)」としてスタートを切ったのです。

当時のリクルートは、大学新卒者向けの就職情報誌「リクルートブック」、女性向け転職情報誌「とらばーゆ」、中途採用向けの情報誌「ビーイング」などを展開しており、まさにこれらが全盛期を迎えていました。

こうした中、私たちは、これらのメディアに掲載する求人広告を取り扱う代理店としてスタートしました。

この事業はその後も成長を続け、現在では「リクルーティング事業」として会社の中核を成しています。

私自身、リクルートでは広告営業を担当しており、そこで培ったノウハウや経験は、そのまま私たちの事業のベースとなりました。

リクルートの代理店としての活動を中心に展開していたため、リクルートと競合関係に陥ることはありませんでした。

むしろ、リクルートから応援を受けることが多く、そのおかげで創業時から事業を円滑に進めることができたのです。

事業拡大とバブル崩壊

リクルーティング事業はシンプルな事業構造であったため、創業直後から当社は着実に成長を続けていくことができました。

私たちは求人広告を取り扱う代理店機能を担うとともに、人員の拡充に伴って、管理体制の整備やマネジメント、社員教育にも力を注ぎ、目の前の課題を一つひとつ丁寧に解決しながら前進していく中で、事業はまるで倍々ゲームのように拡大していったのです。

そして1990年、売上は約30億円にまで成長しましたが、その好調は長くは続きませんでした。

1992年、日本経済はバブル崩壊の余波に見舞われ、好景気に支えられて拡大してきた求人市場は、一転して冷え込み、私たちの事業にもその影響が押し寄せたのです。

当時、私たちの社員数はアルバイトを含めて約120名いましたが、厳しい経営環境の中、やむを得ず人員を80名にまで減らすこととなりました。

売上もまた約半分にまで落ち込んでしまい、私たちは苦しい局面に立たされます。

その時、私はこれまで築き上げてきた事業基盤の脆弱さを痛感しました。

そして、景気変動の影響を受けにくい構造を持つ必要があると考え、単一事業から脱却し、リスクを分散させるための事業ポートフォリオの転換に向けて動き始めました。

バブル崩壊という試練を乗り越える中で、痛みを伴う選択を迫られましたが、その経験が私たちの会社にとって大きな転機となったため、この苦境がなければ、次なる成長の基盤を築くことはできなかったかもしれません。

事業の多角化と上場

バブル崩壊時の苦い経験は、私たちの経営において大きな教訓となりました。

同じ過ちを繰り返さないため、新しい道を模索し、事業の多角化を進めていこうと考え、まず手がけたのが、人材紹介事業でした。

1990年代後半、景気が徐々に回復し、再びリクルーティング需要が高まり始めたタイミングで、この事業は順調に成長を遂げていきます。

さらに多角化を進める中で、私たちは国内市場にとどまらず、グローバル展開への足がかりを築こうと動き出し、その一環として、1999年にニューヨークに拠点を設立します。翌年の2000年には、現在のHRプラットフォーム事業の原点となる子会社も設立しました。

しかし、多角化や海外展開を進めるためには安定的な資金調達が欠かせません。

バブル崩壊時に金融機関への依存のリスクを痛感した私たちは、資金調達の在り方を根本から見直しました。

その結果行き着いた結論が、直接金融への切り替え、つまり上場でした。

そして、上場準備を進めた末、当社は2001年にジャスダック(JASDAQ)市場への上場を果たします。

上場により知名度が向上し、取引先からの信頼感を得られるようになったほか、優秀な人材も集まり、2003年にはM&Aを通じて出版事業にも進出するなど、事業をさらに拡大することができました。

その後、2008年にはリーマンショックという世界的な経済危機が訪れ、私たちはここでまた新たな方向性を模索します。それは新規事業として始めた、専門職分野の人材サービスです。

現在、専門職分野の人材サービスは次なる成長を実現するための当社の中核事業へと育っています。

このようにピンチをチャンスに変えながら、事業の多角化やグローバル展開、上場、そして新規事業の創出を行い、成長を実現してきました。

クイックの事業概要と特徴

概要

当社の事業は大きく分けると人材と情報の2つの領域に分けられます。

まず、人材領域では人材紹介や人材派遣、祖業のリクルーティング、海外での採用支援など幅広く行っています。

人材紹介事業では、求職者と求人企業を1人のコンサルタントが担当する一気通貫の支援体制を活かし、専門性の高い領域に絞り込んで、質の高いサービス提供を実現しています。

また、リクルーティング事業においては人材募集を行うクライアントに対し、代理店として求人情報サイトや求人情報誌等に掲載するリクルーティング広告(求人広告)の案内を行い、採用を支援しています。

また、情報領域では、石川・富山・新潟を中心に地域情報誌やWEBサイトの運営、ポスティングサービス、コンサルティングサービス等を展開している地域情報サービス事業や日本最大級のHRネットワーク「日本の人事部」を運営しているHRプラットフォーム事業などがあります。

事業における優位性

一気通貫の支援体制

当社の人材紹介事業は、求職者と求人企業を1人のコンサルタントが担当する一気通貫の支援体制により高品質なサービス提供を実現しています。

この一気通貫の支援体制の強みは、マッチング精度の高さにあります。

ただ、マッチング精度の高いサービスを提供するには、紹介する方と企業側双方のニーズを的確に把握することが必要で、中でも求職者の特性や企業側が求める人材像を深く理解することが重要です。

求職者にとっての転職は人生における重要な意思決定ですし、企業にとっての採用も非常に重要なことです。

マッチングを行う担当者の育成は大変ですが、求職者・企業双方にとっての重要な機会の間に立っている我々は、精度の高いマッチングを行う必要があると考え、一気通貫の支援体制に取り組んでいます。

一般的に、人材ビジネスでは企業側の担当者、求職者側の担当者に分かれ、マッチングする分業制が多いのですが、このやり方の場合、1人の担当が一人前になるまでに必要な知識や経験が少ないため、育成コストが安くすみ、効率的に組織化が可能です。

しかし、一方では情報の伝達ミスが起きやすくなり、結果としてマッチング率の低下や、企業に紹介した人材の定着率が下がる原因につながります。

また、人材ビジネスを行う会社では小規模で運営されているところが多いですが、事業がスケールアップすると、マネジメントが非常に難しくなり、思ったような成果が出ません。

その点、当社では独自の育成システムを通じて、スケールアップしてもマッチング精度が下がらない体制を構築しています。

さらに、マネジメントや評価の仕組みもうまく機能しており、「出る杭は伸ばす」という方針で優秀な人材を積極的に育てています。

このアプローチにより、社員のモチベーションやエンゲージメントが高く維持されています。

また、当社の人材の特徴として面白いのは教育学部出身の方など、「人を育てたい・人の役に立ちたい」と、人を支援する仕事にやりがいを感じている方が多く在籍していることです。

報酬ではなく、人を支える仕事そのものに魅力を感じているため、離職率も低く、優秀な社員として育ってくれているのだと思います。

このように、一気通貫の支援体制は簡単に実現できるものではなく、当社の強みの1つと考えています。

専門特化型人材紹介

私たちは、人材紹介事業においては後発組であり、先んじて人材紹介に取り組んでいたいわゆる大手人材紹介会社には同じことをしても太刀打ちできないということを初めから理解していました。

そのため、マーケットを絞ってサービスを展開しています。

具体的には、特定の業種や領域に特化したチームをつくり、そのマーケットにおける知識・ノウハウを習得しながらシェアを獲得し、そうした業種や領域を一つずつ増やして事業全体の規模を拡大させていくという戦略を採っています。

また、転職ニーズが旺盛な特定の分野で、ニッチトップを目指すことは、独自のポジションを確立させていくことにもつながります。

こうした戦略によって、我々は進出した特定のマーケットにおける価格決定権を持つことができ、大企業との競争にも打ち勝つことができています。

現在、若手の施工管理職の人材紹介でかなりのシェアを持っていますが、看護師や整備士、化粧品業界など、一見すると特殊な領域においても高いシェアを獲得しています。

海外展開

当社は事業の成長とともに、人材紹介や人材派遣サービスのグローバル展開も進めてきました。

日系企業で働きたい海外の人材や現地に住んでいる就労ビザを持った日本人、日系人といった日本語を話せるグローバル人材は、海外に進出している日系企業にとって、採用手段が少なく、非常に喜ばれています。

また、対象となる企業の多くは日系企業ですが、一部には現地企業や外資系企業も含まれています。

たとえば、アメリカ系企業の場合、アメリカ現地での採用支援や、日本への進出時におけるサポートを行っています。

また、国境をまたいだ採用支援の事例も少なくありません。

イギリスのEU離脱後にはイギリスで働いていたEU圏の人材がヨーロッパへ回帰しましたが、その後に開設した、当社のオランダ拠点がニーズを吸収し、大成功を収めています。

このように、国境をまたいで人材サポートを行うモデルは、派生的にさまざまな地域や業界に広がっています。

クリック課金型への移行

リクルーティング事業で取り扱う求人メディアは、従来の掲載課金型メディアからクリック課金型メディアへ移行しており、当社もしっかりとこの環境変化に対応したサービスを展開しています。

クリック課金型で特に強いのは「 Indeed PLUS(インディードプラス)」です。

これは業界内でも圧倒的な存在感を持っています。

当社はリクルートとの関係もあり、Indeed PLUSの代理店として活動していますが、全国で9社しか認定されていない「Platinum Partner」の中でもトップクラスの売上です。

Indeed PLUSは、クリック課金型の仕組みがクライアントにとって利用しやすく、また現時点では求職者の応募数も多いため、多くの企業が利用しています。

このような背景から、従来の掲載課金型メディア(求人ポータルサイト)が機能しなくなりつつあります。

求人ポータルサイトは前金制で、掲載課金型のビジネスモデルとして受け入れられていましたが、現在は成果報酬型に移行しています。

特に紙媒体の求人広告は、すでに成り立たなくなっており、リクルートにおいてもIndeed PLUSのようなデジタルプラットフォームが主力となっています。

当社はIndeed PLUSを中心に、その他のクリック課金型や成果報酬型のモデルも展開し、クライアントにとって効果の高い手法を提案し、成果を最大化するためのサポートを行っています。

私たちはこの仕組みを「クライアントエージェント」と呼び、クライアントの採用戦略の成功を目指してクライアントと伴走しています。

一般的なウェブでの検索量が多い職種であればクリック課金型のサポートを行い、ウェブ上の情報だけでは求職者が集まりづらいと感じる場合には、エージェントがサポートに入る、というようにクライアントのニーズや募集職種に応じた制度設計やサービスの組み合わせを提供するコンサルティングを行っています。

人事領域を包括的に支える「日本の人事部」

「日本の人事部」は、HR(人事)関連の情報を提供するプラットフォームとして位置づけています。

現在、人事が抱える課題は複雑化し、多岐にわたります。たとえば、採用ひとつをとっても、「リファラル採用」や、退職者を再雇用する「アルムナイ採用」など、多様化が進んでいます。

そのため、採用戦略においては人事ネットワークの重要性がこれまで以上に高まっています。

また、人事部門は、いかに従業員のエンゲージメントを高め、定着率を向上させるかについても考えなければなりません。

さらに、制度設計、教育、採用といった幅広い分野に取り組む必要があるなど、人事部門における課題は、ますます複雑になっています。

そうした中で、「どのような情報を入手すればいいのか?」「どのような成功事例があるのか?」「自社に取り入れるべきものは何か?」といった悩みを抱える人事担当者が増えています。

こうした状況を解決するために、情報交換や成功事例の共有、人事の集まりなどを行っているのが「日本の人事部」を運営する株式会社HRビジョンです。

また、「日本の人事部」では、人事労務サービスを提供する企業や多くの専門家がこのプラットフォームを活用してPR活動を行っています。

言い換えれば、人事関連の商材やサービスを紹介する場としても機能しているわけです。

その代わり、当社では広告収入や成果報酬をいただいています。

ただ、本来の目的は「人事の課題解決を支援するポータルサイトを提供すること」で、現時点(2024年12月末)では、会員数36万人を超えるメディアに成長しています。

人事関連の方向けのメディアとしてはトップクラスの会員数を誇ります。

実際、上場企業の人事部門および経営者の多くが参加しており、中堅企業の人事担当者もほぼ網羅しています。

さらに、定期的に大規模な情報交換イベントも行っており、代表的なものとしては「HRカンファレンス」というオンライン人事イベントを年に2回開催しています。

今後もさまざまな取り組みを通じて、人事全般の課題解決をサポートしていく方針です。

クイックの成長戦略

グループ成長の方向性

まずは主力の人材紹介事業において、既存の特定の領域での深化を進め、ニッチトップを追求していきます。

既存業界である看護師・IT人材・建設業界人材については市場が拡大するにつれ、当社の事業規模も拡大していくと考えています。

同時に、保有するノウハウを新たな業界に向けて横展開することで、持続的成長を実現していきます。

次にターゲットとしている分野については現在検討中のため、まだ具体的なことは申し上げられませんが、エッセンシャルワーカーの分野については着目しています。

この分野は参入障壁が低い反面、紹介手数料を払う文化がどこまで浸透しているのか不透明な部分もあります。

エッセンシャルワーカーの中でも高度なスキルが求められる領域、たとえば「手数料を払ってでも人材を確保したい」と考える企業が存在する領域は確実に存在するため、このようなニッチな市場は、今後当社がターゲットにしていく可能性が高いと考えています。

参入前には入念に業界や各企業について調査した上で、「参入すべきかどうか」を判断しています。

事前の判断が必ずしも成功につながるわけではありませんが、状況変化に応じた柔軟な経営で資本提携やM&Aなどを活用して開拓していきます。

注目していただきたいポイント

当社は「世界の人事部」を目指しています。

これからの世の中では、転職が世界規模で行われる時代になります。

日本から世界へ、世界から日本へ、さらにヨーロッパからアメリカ、アメリカからヨーロッパ、あるいは南米といったように、あらゆる可能性が広がっています。

与信やリスクを考えると、当社の主な取引先は日系企業が中心となりますが、それだけでなくアメリカ系企業やヨーロッパ系企業の採用支援や人材紹介も行っています。

これらはすべて優良な企業との取引です。

現在国内で展開している事業を世界に広げ、グローバルでも同じようなポジションを確立していくための仕組みづくりや組織づくりを進めていきます。

投資家の皆様へメッセージ

当社は非常に真面目な会社です。

誠実に、関わった人全てをハッピーにするという理念のもと、コツコツと努力を重ねてきました。

当社は派手なパフォーマンスで一時的に注目を集めるような会社ではなく、地道に、着実に努力を続け、投資家の皆さんと共に歩んできた会社です。

また、当社は配当性向にも配慮し、投資家の皆さんの利益を考えた経営を行っています。

これからも投資家の皆さんとの信頼関係を大切にし、誠実な経営を続けていくことをお約束します。

株式会社クイック

本社所在地:(大阪本社)〒530-0018 大阪府大阪市北区小松原町2-4 大阪富国生命ビル

      (東京本社)〒107-0052 東京都港区赤坂2-11-7 ATT EAST

設立:1980年9月30日

資本金:351,317千円(2024年3月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2001年10月23日上場)

証券コード:4318

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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